原作に関わらなかったけど悲惨なことになった(胸糞注意) 作:kaitolian
3年ぶりぐらいの死者蘇生
6時半、多くの家庭が賑やかになり始める頃
それは八神家も当てはまり、キッチンで会話を交えながら2つの人影が朝食の準備をしている。
「これであとは温めるだけや」
「こちらもあとは盛り付けるだけです」
「いやー、ほんとシャマルが手伝ってくれると助かるわ」
「ふふっ。 どんどん手伝いますよ、はやてちゃん」
2人が会話をしているうちに朝の鍛錬を終えたシグナムがリビングに戻ってくる。
「おはよー、シグナム。
もうすぐ朝ごはんやで」
「おはようございます、主はやて」
シグナムはそのまま手慣れた様にソファーに座り朝食が完成するまでの間に新聞を読み始める。
「……っ!」
突然読んでいた新聞を置き、テレビの電源を入れる。
『続いてのニュースです。
先日、約1年前に行方不明になっていた少女が廃墟にて発見されました。
発見当時少女は負傷しており、最寄りの病院に搬送され、治療を受けたとのことです。
詳細は不明ですが、現時点で命に別状はない様です。
また――――容疑者と――――容疑者の二名は共に依然として行方は掴めておらず未だ捜索中です。
少女は現在も入院中であり、――――――――――――』
テレビの電源が付き、朝のニュースが流れる。
シグナムは腕を組みながら何も言わずに無表情で画面を見つめる。
ニュースにひと段落がついた所で立ち上がり振り返りながらはやてに声をかける。
「主はやて、最近は物騒ですので出歩く時は気を付けて下さい。」
「心配せんでも大丈夫や。今まで1人だった時も何もあらへんかったよ。」
怖い夢を見た子供を母が安心させる様にほほ笑みを浮かべながら優しく言う。
「今なら絶対に何も起こらん」
決してシグナムの言葉を軽んじた訳では無かった。
『ヴォルケンリッターの皆がいるから皆が守ってくれるからそんな心配していない』
ヴォルケンリッターを信頼していることを暗に言ったつもりであった。
だが口に出した訳ではない。
本来の落ち着いたシグナムならばそのことを理解することは不可能ではなく、理解できなかったとしてもその表情から軽んじていないことは分かったはずだ。
だがシグナムの内心は平常とはかけ離れていた。
「主っ!!!」
怒鳴り声が響き渡る。
それは召喚されて以来今まで見せてこなかった本物の怒り
はやてにはシグナムの怒りの理由は全く分からなかった。
勿論自身のシグナムへの返答が原因であることは理解できるがそれが怒りに繋がる過程が理解出来なかった。
しかし、その怒りが本物であることと自身がその原因であることだけは明確に理解できた。
そして何よりも怒鳴り声とは裏腹に、泣きそうな表情をしていて、その原因は間違いなく自分であろうから
「ごめんなぁ、シグナム」
それはこちらを気遣う思いが込められたはやての謝罪だった。
「……っ!!」
シグナムが心配してくれていることは理解できた。
しかしどこかおかしな気がした。
いつもなら
「主はやては我らが守護騎士の誇りに掛けて必ずお守りします。ですので何も気にせずに安心してください」
などに準じることを自信を持って言うだろう。
だが今日は違っていた。
普段の余裕を持った自信は無く、むしろ切迫したような雰囲気が漂っていた。
まるで『なにか』に恐れている様に
「心配してくれてありがとな、シグナム。
でもどうしたんやぁ、シグナム?」
「………………心配無用です、主はやて。」
そんな主の問いかけに、
何もかもを話したくなる甘く優しく包み込む問いかけに、
シグナムのことを真に思っている問いかけだからこそ、
シグナムは何も言えずにただ黙ることしかできなかった。
そして悲しくてつらくて苦しい表情を浮かべるシグナムに、はやてはそれ以上聞くことが出来なかった。
「よう分からんけど、話したくなったらいつでも話してくれてかまへんからな。
なんたって私はマスターやからな」
「………少し……外に出ます」
絞り出す様に微かな声が漏れる。
顔を見られないようにして外に出る
ひどい事を考える己を見られたくはないから
主はやてはきっと心配してくださるから
だから戻ってくるまでにはいつも通りの己になるために
そう思えば思うほど考えてしまう
あのことが思考をよぎる
ちらつく
あの時に見た姿が
重なる
あの娘と主が
安堵する
当事者があの小娘であって主でなくて
そんな風に考える自分がとてもとても醜く見えた
♦ ♦♦♦
正午、海鳴大学病院では各病室に食事が配られる。
食事を配られた人々は昼食を食べ、食事を必要としない点滴のみの人々は病室で安静にしているか又はロビーのテレビを鑑賞中であろう。
つまり今この時間帯は人々はそれぞれの定位置にいて、無人の廊下では空白の空間が生まれる。
「はぁ……… はぁ………」
廊下に広がる空白の中、1人の少女が若干息を乱しながら廊下を歩く。
その少女は幼さが含まれる成長途中の可愛らしい顔立ちをしており、腰まで伸びた黒髪が毛先に行くほど乱れ広がり、病院服は右肩から先が中身を感じさせることなくゆらめいている。
だがそんな中で真っ先に目に付くのがその瞳だ。
何も映していない漆黒の瞳
ただそこに在るだけで意思というものが希薄な瞳
見続けてしまえばこちらが飲み込まれると錯覚してしまう様な瞳
病院という場所柄を考えて似たような雰囲気を持つ人物が何人かいるとしてもなお不気味である。少女の事情を知る者だとしても少女への同情からか無力な己への自己嫌悪からかはたまた別の理由からか理由は様々だが、目を合わせたいとは決して思わないだろう。
結果として少女の傍に寄り添う者はいても、少女を見据えて対面する者は誰もいない
今が昼食時だからだろうか、誰もいない廊下を1人で歩く。
ここに運ばれて3週間、目覚めてから2週間が経った。
つまり約一週間もの間ずっと寝ていたらしい。
そんなに長く眠っていたことは意外だったが今までの扱われ方を鑑みると妥当と言えば妥当であるらしい。
そんな状態をかえりみてなのだろうか、未だリハビリは始まっていない。
リハビリと言うには大げさかもしれないが少なくとも体を動かすことの必要性は日々の中でひしひしと感じている。
何故なら階段の上り下りで息が上がる程体力は無く、何もない所で転ぶことがある程右腕の欠けたこの体に馴れていない。
体はすべての基礎となる資本であるというのに
だがその心配とは裏腹にリハビリらしきものは全くない。
トイレに行こうとすればお母さんに付き添われ、病室から出ようとすればお父さんに止められ、最近食べられるようになった食事はお母さんに食べさせられる。
先生によるとしばらくはゆっくりしろとのことらしい。
便利と言えば便利だが恥ずかしさに舌がもつれ、多く汗をかき、非常に疲れる。
だが医者が言うからにはそれが適切なのだろう。
それに期間はまだまだあるのだから無理に焦る必要もないだろう
そんなオレがなぜ1人で出歩いているかと言うと先生に1日1回正午辺りに外に出たほうがいいと言われたからだ。
リハビリをすることは禁止しているのに外に出ろとは不思議だが、医者にそう言われたなら出るほかはない。
医者が言うからには何かしら理由があるのだろう。
もしかしたらこの移動が今のオレに対する適度な運動なのかもしれない。
何であれ医者の言う通りにすることが回復の一番の近道であるだろうから指示には従うことがいいだろう。
そういう訳で今は中庭らしき所にいる
病室で決意したあの日から毎日してきた様に今日も繰り返す。
目をつぶり思考を巡らす。
最初に考える、いや確認すべきことを確認する。
我が娘の、父親
そのとりまき
奴等2人
――――ッ
感情が無軌道に暴れまわる
気道が細く呼吸が薄くなる
心臓がうるさく鳴り響く
感情が内部で飽和し外側へ噴出される、その直前に思考を完全に停止する。
今この時における感情の外への放出はマイナスでしかないから
感情というものは言葉にした途端に陳腐で薄く軽いものになり果ててしまうから
感情というものは言葉にした途端に指向性がそれ一つに定まってしまうから
感情というものは言葉にした途端に感情の動性が時間と共に薄れてしまうから
その感情を薄める代わりに言葉は感情を身に刻み付ける。
それではダメだ。
そんなことでは意味も無ければ価値も無い。
そんなざまでは極論、やらなくていい。
寧ろやらない方が身のためだ。
復讐とは自身の意思と感情がしっかりと付随して初めて意味のある行動なのだから。
だからと言って半ば反射に含まれ意志や感情が付随しにくい衝動的な復讐を否定する訳ではない。
衝動的になるということはそれだけその感情が大きいということを表れなのだから。
仮に衝動性が全く無ければ、おそらく復讐は永遠に実行に移せないことは勿論計画を立てない可能性すらある。
だが衝動だけで完結してしまう復讐がダメなのだ。
己自身の生きた感情を復讐相手にぶつけない行為など復讐とは言えなく、復讐とは相手に関する自身の感情すべてを今までの代償と共に叩き付ける事ことなのだから。
ならば完成度が低くなる感情の放出は極力避けるべきである。
だから今やるべきことはそんなことではない。
今すべきはその感情を抱き、温め、育て続けること。
「……ふう」
ならば次の思考は自ずと決まる。
如何にしてあの2人を葬り去るか、だ。
そのために自身の
まず、片腕であること。
問題の右腕は肩より僅かに腕の残りが付いているだけだ。
その『僅か』により日常生活を送る際の細かな点が大きく変わるそうなのだが、復讐を行う上では右腕全般を欠損したと見るべきだろう。
次に成長の限界の低下。
初めの頃は食事を与えられても大体は横槍を入れられてまともに食べられず、途中からはそもそもまともな食事自体をほとんど与えられなかった。加えて言うならば最後の時期は睡眠を十分には取れなかった。
そのことを踏まえると成長に悪影響は少なからず出るだろうし、どんなによく見積もっても奴等と正面切って戦闘出来る体格にはならないだろう。
これら2つの点から次のことを明確に判断できる。
奴等に復讐する際、自身の肉体を使うような事は極力避けるべきであるということだ。
そうしていつも通りの結論に至る。
やはり銃を使うべきである。
勿論他にも手段はあるのだがどれも銃に比べれば大きく劣る。
例を挙げると化学物質(化学反応)による殺害か自動車による轢き殺しの2つ。
これらは一見有用性があり実現も簡単に出来る。しかし、これらは今回の場合においてはどちらも不適である。この2つに限ったことではないが、狙った相手のみに実行するには対象の行動をしっかりと把握しなければならなく必ず準備が必要である。それに比べて銃ならば常に持ち歩き即座に実行に移すことができる。奴等は十年後に来るだろうことは今までの行動から見て確実であろうが、当たり前のことであるが正確な日時や場所はこちらは分からない。
そう、いつどこからどうやって来るかわからないのだ。
「………………ふう」
…………今日の思考を終える。
あの日から様々な視点で毎日考えてきた。
入手のしやすさ、実行に移す際の難易度、計画の漏れにくさ、突発的な出来事に対する修正による柔軟性又は続行できる強硬性、自身が持てるであろう長所、自身が背負うだろう短所、その他様々な観点から最適な手段を考えているがどの観点からも1番もしくは2番にほとんど位置する方法は銃である。
やはり使うなら銃が最適のようだ。
いくら今日の天気が良いと言っても秋の季節で病院服1枚は冷えたようだ。
体が冷え、僅かに震え始めたので大人しく病室に戻ることにする。
「………戻るか」
ベンチから立ち上がる。
そうして思考を終了すると、自身に視線を向ける人達に気が付いた。
♦ ♦♦♦
はやてとシグナムの2人が病院への道のりを歩く。
「ふふっ、ありがとなシャマル」
はやては小声でシャマルの朝の提案を感謝する。
朝の言い合いの後、シャマルは戻ってきたシグナムに午後からの診察の付き添いをするように言ったのだ。
おそらくは早期の関係修復を思ってのことだろう。
実際に病院へ行くまでに2人は今は朝の気まずい雰囲気を完全に払拭しておりいつも通りの調子を取り戻したのでシャマルの狙いは見事に的中したと言える。
そうしていつもの様に何気ない会話をしていた時だった。
「あっ」
シグナムが何かに気が付いた様に声を上げて急に止まる。
それにより車椅子も停止する。
「どうしたんやぁ、シグナム?」
周囲を確認するも、別段立ち止まる様なことなど無い。
今が昼時だからか人はほとんどいない。広い中庭にはまばらに2、3人いる程度であり、その人達も思い思いに過ごしているだけで何もおかしい所はない。
「い、いえ。問題ありません、主はやて」
普段の落ち着いた様子とは異なる余りにも慌てて取り繕った口調に不思議に思う。
その原因を探るべく、シグナムの視線の先を見る。
「…………」
一つの人影が目に映った。
それは1人の少女であった。
灰色を連想する、迷子の様な、風に吹かれれば何処かに行ってしまいそうな、そんな儚い印象の少女であった。
少女はベンチに腰掛け、空を眺めている。
「………戻るか」
自分達が向ける視線に気が付いたのか、ゆっくりとこちらへ振り向き無表情でこちらを嘗め回す様に見る。
そんな同情の視線には慣れ切っていて、しかしそんな視線とはどこかが違うような
しばらくこちらを見つめた後一息を吐き、表情を僅かに緩ませて問いかける。
「…………なに?」
何か用があるのか
そう問われてもはやては答えようがなく、しかしここで返答をせずに無視するほど冷たくもない。
「えっと…………こ、こんにちは?」
顔色を変えずに少女は短く小さく応答する
「………こんにちは」
この出会いを以て動き出す
どうやって
どのように
いい方向か
悪い方向か
それ以外の何処へか
何かが動くのか
誰も知らないけれど
確実に動き出す
今はまだゆっくりと動き出す