[燻る弱気な想い、焼き尽くして]
8/22
「……………」
心の気だるさが私を襲う。それは、どしゃ降りの雨が降っているからだ。学校の玄関の縁で立ち尽くしている。もともと雨は好きじゃないし、傘も持っていないから憂鬱だ。
「ほら」
「え?」
しかし、私の頭上には傘がすっと現れ、背後から「ほら」と聞き覚えのある低音ボイスが聞こえてきた。そう、前ちゃんだ。
「どうした、そんな憂鬱そうな顔して」
「私が雨嫌いっていうの知ってるでしょ?それに、傘持ってないし。というか、なんでここにいるの?」
「んー?まぁ、ちょっとな。傘持っていないか。なら、これ使えばいいじゃねーか」
「えっ」
そう言うと、前ちゃんは傘をこちらに差し出す。見たところ、前ちゃんは差し出された傘以外に傘持っていないようだ。
「いや、前ちゃんそれ以外に傘持ってないじゃん。自分はどうすんの」
「僕はいい。早くけぇれ」
この人、こんな優しかったっけ?優しくされるのは別にどうということはないが、どうも前ちゃんに優しくされると調子狂う。
「だったら、こうしよ」
私は、傘を取り、一般的に言う相合傘の状態を私と前ちゃんでつくる。
「こ、これかよ」
「ん?嫌だった?」
「…………別に」
前ちゃんは戸惑ったような口ぶりだったが、渋々納得したような感じだった。そんな嫌なの……ま、こんな雨の日だし、誰もいないでしょ。
「じゃ、行こっか」
「お、おう」
※
「ねぇ、今日はなんで私に優しいの?」
「ん?いや、 別にそんなつもりは無いが?」
「あ、そう。だったらなんでさっき……」
「……………」
私は傘の中で前ちゃんの方に顔を向けていろいろ問いかけをしていたが、彼が目を逸らして話しているのはこうも近いため、ハッキリと分かった。さらに、問いかけに対してハッキリと返してこなかった。いつもだったら、ビシッと返してくれるのに。
「ねぇ、やっぱり嘘でしょう?『そんなつもりない』 なんて」
「…………どうして、そう思う」
「前ちゃん、いつも話すときはしっかり目を見て、ビシッと返してくれるでしょ。でも今はそれがない。やっぱ、何か隠してるんじゃないの?」
「………ふぅ」
私は割と真面目にいろいろ聞いたのだが、なぜか、前ちゃんは一安心したかのように一息ついて、私の肩に両手を置いて、私の目と合わせる。
「な、なに?」
「もう言ってもいいかな。本当の気持ち」
「え、え?」
ガチトーンで何言ってんだこの人。と思いたいが、こんなに前ちゃんと近いとドキドキしてしまう。本当の気持ち?いったい何だろう。
「僕は、お前が好きだ」
「へ?何言ってるの?そんなのもう…」
「あぁ確かに。だが、そういう意味じゃない」
「何?ハッキリ言ってよ」
「僕は、ある1人の人間として、お前が好きだった。だが、変わった。1人の人間としてじゃない、1人の女性として、お前が好きなんだ」
「………」
絶対にこんな人から聞けないであろうと思っていた言葉。というか、考えもしなかったな。少し前まで、『この野郎、ブチ◯す』とか思ってたのにな。まさか、ここまで気持ちが変化するなんてな。
「そっか」
「…………流石に、引いたか?」
「引く?何のことでしょう?」
「へ?」
「いやー。最初っから私を女として見てたと思ってたから、ちょっとばかし驚いたけど、まぁ、自分的には『好き』って再宣告された気分かな。それだけ」
「お前…………!!!」
「きゃ?!」
いきなり抱擁され、驚いて傘を放してしまった。今日は雨が降っているため、8月の割に涼しいが、それを忘れさせるほど前ちゃんの包みこむような体温が感じられる。そして、私も抱擁する。
「雨、冷たいね」
「そろそろ、やめるか」
私たちは抱擁を解き、傘を拾って、再び相合傘の状態を作った。
「うち、寄ってくか?」
「……うん」
何とも言えない空気感だが、多分、次のドアを開けたのだろうと思う。
[暗部、光にメスを入れる]
「雨宮さん、例の2人ですが……」
「あぁ、どうした」
「こんなものが撮れました。これなら作れないでしょうか?」
「ふむ………確かに作れるだろう。では早速作業に取り掛かろう」
「では、自分は記事のほうを……」
「いや、記事はまだだ。記事は失うものが増えたらだ」
「なるほど」
一歩一歩は小さなものだが、確実に2人を貶める大きな闇が忍び寄っている。その大きな闇が襲いかかってきたとき、2人はどのような道を歩むことになるのだろうか………
リア充は羨ましいんだけどやはり憎い。
次回、6,ありがちなバカップルを演じてみた