遊一はバイクを教師専用の駐車場に置き、自分を待っていてたのは小柄な新米の先生”
浜中先生は遊一に校内の施設の説明を軽くしながら、職員室を目指していた。その際、チラチラと遊一の顔を見ていた。
さすがに、何度もチラ見されていれば、遊一も気付き、何かを用事なのか?という気持ちで尋ねた。
「何か用ですか、浜中先生?」
「いいい、え⁉なんでも、なんでもないでありんすよ⁈」
「は、はぁ……」
慌てる浜中先生に苦笑いしながら、遊一は彼女の後ろを歩きやがら、三週間前のことを思い出した……。
今から、三週間前。
その日、遊一はいつものように自宅のガレージで、バイクである事ができるように、改造をしていた。最近、親友である十代が、バイクを運転しながら、デュエルがしたい!と言ってきたので、それは面白そうだと持っているバイクの一つをデュエルができるように改造しているが、中々うまくいかなった。
「つか、運転しながら、デュエルすんのは危ねぇじゃないのか?」
今更な疑問が頭を過ったが、今更である、気付かなかったことにした。
そんなことを考えていると、ガレージ内に携帯の着信音が鳴り響いた。着信音からするに、恩師クロノスからの電話だった。
バイクの改造も若干手詰まりになっていたので、ちょうどいいなと思い、ガレージの手洗い場近くにある携帯をあまり触らないように開き、指先で着信ボタンを押した。
「お久しぶりです、クロノス先生」
『久しぶりナノーネ、ショニョール小波』
まずは挨拶をする、電話とはいえ、会話をするのは久しぶりだった。変わらずの独特のある話し方に安心する遊一は、手を洗いながら電話することに了承を貰い、携帯の音量をあげ、手を洗う。
案外、洗いながらでも会話できるもので、お互いの近状報告や世間話、他の卒業生や後輩達の話などを交えて話していた。その途中、何度かクロノスが何かを言いたそうな話し方をしていたのに気づいていた遊一は、キリがいいところで、何か話があるのでは?と尋ねてみた。
『実はショニョール小波に頼みたいことがあるノーネ……』
遊一は、クロノスがやけに歯切れが悪いな……と思いながら、頼みたいことが何かを尋ねた。
『ショニョール小波は確か、高校の教員免許を持っていましたヨネ?』
確かに持っている。
三年生の頃、自分の学力のなさに危うさを感じ、慌てて勉強し、気付いたら、高校の教員免許を取得していた……と言うのは嘘で、プロ以外に道を作りたいと思った遊一は恩師クロノス、大道寺のような教師になりたいと思い、必死に勉強し、免許を取得した。
……まではよかったが、何せ気付いたら、”伝説の赤帽子”と呼ばれるようになった遊一を教員として、欲しがるデュエルアカデミア校がかなり多く、結局どこに就職するかは決められずに、そのままプロのデュエリストとなった。
最初は母校でもあるデュエルアカデミア本校にしようかと思ったが、本校の方は既に職員が足りており、増員の必要性がまったくなかったから、求人はしていなかった。
プロになってからは活動はほどほどにして、お金に困らない程度には働いた。最早、隠居生活みたいな生活を送っていた。
はっきり言って、退屈だった。
だからと言って、十代や亮、準みたいにプロとして働きまくる気なんて、まったくなかった。
……クロノスからの電話はそんな退屈から抜け出せるかもしれない電話だった。
『ショニョール小波、アナタ、デュエルアカデミア アルカナイト校に就職する気はないですかノーネ』
で、クロノス先生からの話を承諾し、現在に至るといわけだ。
面倒だから、はっきり言おう。物凄く後悔した、承諾したことを……舐めていた。デュエルアカデミアを……本校もノース校もそうだが、デュエルアカデミアは何故か通学や交通の不便な場所に学校を立てる。
アルカナイト校もそうだ。山の頂上に学校を立てており、通学や交通がかなり不便だ。しかも、山を降りても街はなく、村すらもなくただ広い土地が広がっているだけだ。
その広い土地から数時間かけて、ようやく一番近い街に辿りつけるという立地の悪さが笑えない。
……まぁ、本校なら本土から三日もかかるが……翔のクソ眼鏡は毎度毎度、本土に戻るたびに顔を青くしていたな〜……海に突き落とせばよかった。
……辞めたい、帰りたい。
「はぁ……」
「ど、どうかした、小波先生?」
「あ、いえ、おきになさらず」
「はぁ?」
帰りたい、辞めたいと思っていたなんて、口が裂けなくてもいえない。
……少し、違うことを考えよう。例えば、アルカナイト校とか。
デュエルアカデミア アルカナイト校。
今から二年前に出来たばかりの真新しい学校で、デュエルアカデミアでは珍しく……いや、初か?
本土の土の上にあるデュエルアカデミアである……山の頂上にある、不便だ。
最大敷地面積は知らないが、何でも周辺の山々を全部買い取って、作ったらしく、まだ建設途中の場所が多い、最終的には一つの都市を作る予定らしく、山を降りてから広がる土地に城下町みたいの作るらしい。
現にこのアルカナイト校の校舎、寮などは城みたいな形をしており、男子寮がジャック、女子寮がクィーン、そして、特別生がキングと名付けられた寮に住んでいる。元ネタはわかると思うが、デュエルモンスターズのモンスターである融合モンスターのアルカナナイト・ジョーカーとその融合素材のジャック・ナイト、クィーンズ・ナイト、キングス・ナイトである。なら、学校名はアルカナナイト校ではないか?と言われるが、何でもアルカナナイト校では呼びにくいから、アルカナイト校になったらしい……すげぇ、どうでもいい。
また、この学校には本校と同じように学校が差別化を図るために一般生徒と特別生の二つに分けている。ジャック、クィーンに住む生徒は一般生徒と呼ばれる生徒で、キングに住む生徒は特別生と呼ばれ、一目置かれる生徒らしく、学校内でも独特の権力があるらしい……まぁ、その特別生とは金持ちが大半らしい、ようは実力は二の次だ。
クロノス先生が俺をここに就職させたのは、その特別生が関係しているみたいだが、本人は下手な芝居と下手な話の空し方をしていたので、話す気はないとわかった。
だから、吹雪に頼んでアルカナイト校を調べてもらった。
さっきから、詳しいのは吹雪に教えてもらったからだ。
この学校のことを……その際に、可愛い女の子大特集を一緒に同封したり、明日香とのお見合い写真が入っていたので、明日香に連絡した、俺は悪くない。
あと、あの馬鹿は学校の見取り図を同封しなかったので、見た目がグロテスクな奴らを真夜中に送った、俺は悪くない、悪いのは見取り図を送らず、変な物を送ってきた吹雪が悪いんだ!俺は悪くねぇ!
と、何処ぞの親善大使様じゃないんだから、やめよ。
「小波先生」
「ふぁ?……ハッ!」
しまった!気を抜いてしまって、変な声を出してしまった!
「小波先生でも、そんな声出るんですね」
「あっははは……」
くっ、失態だ!
オノレ、許さんぞ、吹雪!
「とりあえず、職員室に着きましたよ」
そう言われて、ドアの近くに下げられている表札には”職員室”と筆書きで書かれていた……何故、筆書き。
「入りましょう、小波先生」
「あっ、ハイ」
浜中先生に言われ、職員室に入ると職員室にいた先生が一斉にこちらを向いた。
……グラサンつけてないな。
「教頭先生、小波先生を連れて来ました」
「ありがとうございます、浜中先生」
他の先生方がグラサンをつけていないことに、ホッとしていると浜中先生と円形脱毛症の眼鏡をかけた変態そうな中年オヤジが一緒に来た。
「ようこそ、小波遊一先生。私は教頭の
「よろしくお願いします、教頭先生」
教頭が手を差し出してきたので、握手に応じる。
というか、お前どっちが苗字だよ。
「さて、挨拶はこれぐらいにして、行きましょうか」
「はい?」
え、他の先生への挨拶はいいのかよ?と首を傾げていると、白衣を着た女性が遊一の目の前まで来て、遊一の身体を見ながら言った。
「今から、入学式と始業式なんですよ……美味しそう」
「⁉」
妖艶な笑みを浮かべる目の前にいる女性に、何故か危機感を覚えた遊一はバックステップで、後ろに飛び逃げた。周りの先生は一瞬、遊一がバックステップをしたのは何事かと見たが、遊一の前にいる女性を見て、納得し、ゾロゾロと職員室を出て行った。
「あら、酷いわね、小波先生」
前にいる女性がやけに甘ったるい声で話してくるのに、何故か寒気が襲い、鳥肌が立つのも感じた遊一は、目を丸くしている浜中先生の背中に隠れた。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。
私は、
そう言って笑う霧川 華先生は良くも悪くも、浜中先生とは正反対の女性だった。
浜中先生は背が小さく、ないとこはなく、さらに中学生に間違われるぐらいの童顔である、動物で例えるならリス。
霧川先生は逆に背が高く、出るとこは出て、引き締まるとこは引き締まっている、俗にいうボンキュッボンであり、容姿も大人の女性であるため、動物で例えるなら猫だろう。
それだけ、二人には差があるが遊一はこの霧川先生に何故か嫌な感じを感じた。
「小波遊一です、プロデュエリストしてます」
未だに浜中先生の背中に隠れている遊一は霧川先生に対して、かなり警戒を持っているのが見て取れた。
それを見た霧川先生は肩を竦め、さっさと職員室から出て行った。
遊一は霧川先生の気配がなくなるまで、浜中先生の背中に隠れていた。
そして、他の先生達よりも遅れながらも、遊一と浜中先生は入学式と始業式が行われる多目的ホールに着いた。
多目的ホールと言っても、その大きさは普通の学校にある多目的ホールとは広さがまったく違った。遊一は見た瞬間、ここはオペラハウスか⁉と見間違えるぐらいに広く、席の並び方がそれだったからだ。
遊一がそんな多目的ホールに唖然としていると、浜中先生が右手に持った紙と左手に持った座席表を見比べていた。
「えーと、どこかな?」
遊一は我に帰り、浜中先生を見ると何故か電車の座席表を見て、首を捻っていた。
「……浜中先生」
「はい?」
「先生が見ているのは、電車の座席表です。多目的ホールの座席表は目の前です」
「……へ?」
浜中先生は慌てて、電車の座席表をしまい、目の前にある多目的ホールの座席表を食い入るように見て、えへへと笑ったあと、逃げるように階段を降りて行った。
遊一はそれを呆れながら、見ていた。
そして、気づいた。
「俺の席は?」
ちなみに遊一の席が書かれた紙を持っているのは、浜中先生であり、浜中先生がそれに気付くのは、入学式と始業式が始まる直前であった。
何故か、多目的ホールのライトが落とされる。そして、すぐに一点……教壇だけがライトアップされる。
そこにはムキムキマッチョの校長
三時間ぐらい時間をかけて、話が終わると、次は新生徒会長の
そして、またライトが消され、また一点のみがライトアップされる……そこには黒い髪をなびかせて歩く美少女がいた。
誰もが彼女、神原桜に釘付けになった……それほど、彼女は美しい。黒い髪に整った顔立ち、和服が似合う体型だった。
彼女は教壇まで行くと、綺麗な一礼をして、綺麗な声で挨拶をした。
「皆様、おはようございます」
こうして、新生徒会長神原桜の歓迎の挨拶や在校生、先輩や先生方に向けた挨拶など、一通り終えると深呼吸をした。
「今年はとても素晴らしい先生が来られました……伝説の赤帽子の異名を持つ、小波遊一先生です」
彼女がそういうと、遊一がライトアップされる……ライトアップされた遊一。
「……」
寝ていた。
その瞬間、隣に座っていた浜中先生が遊一の頭を強く叩いた……が、まったく効いてはなかったが、遊一は何か首に当たったか?程度のつもりで、叩かれた場所を摩りながら、起きた。
「うぉ、まぶし」
「な、何やってんですか、小波先生!」
能天気な遊一に焦りを感じた浜中先生は遊一にまた詰め寄り、遊一の肩を強く揺さぶり、状況を教えるが、遊一はまったく動じず、欠伸までしていた。
「とりあえず、小波先生はこちらに」
神原が指差した方向がライトアップされる。遊一は他の先生や浜中先生に言われ、嫌々ながら、壇上に上がり、神原が指定した場所。
神原と迎え合うように立った。
「では、小波先生」
「うん?」
「ーーーデュエルをしましょう」
彼女は不適に笑った。