捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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HOWEVER ♯2

「た、ただいま……」

 恐る恐る玄関の扉を開ける。

 亜里沙達と別れて自宅に戻ったはいいが、何が仕掛けられているかわからない。

 我が家だというのに一歩一歩慎重に足を運びながら、なるべく音を立てないよう、細心の注意を払う。

「絵里……」

 何故かぼそっと小さな声で呼びかける。もちろん返事はなく、ぽっかりと穴が空いたような静寂しかない。これはこれで不安だ。果たして何が待ち受けているのだろうか。

 いや、待て。これでは絵里に失礼な気がする。

 そうだ。絵里がそんな変な事するわけないじゃないか。

 そもそも普通にチョコレートを渡しに来ただけじゃないのか?

 自分の考えを改めた俺は、ゆっくりとリビングの扉を開ける。

「…………」

 リビングにはプリキュアやサンタやメイドの衣装が散乱していた。

 いきなり予想の斜め上を行かれた。

 どうしたものかと考えていると、今度はポケットの中でスマホが震える。

 絵里からだろうか。

『チカ』

 くっ、相変わらずすぎて何も言えねえ!

 リビングにいないとなると、場所は一つしかないだろう。

 俺は自分の部屋へと駆け上がった。

 

「…………」

 俺のベッドにはでかい袋が置かれていた。

 それは人がすっぽり入るくらいに……いや、もう何も言うまい。

 その袋の紐を解くと、中からはいつもの金髪ポニーテールに私服姿の絵里さんが出てきた。

「……八幡」

 何故か浮かない表情で正座している。ずっとこの状態で待っていたのだろうか。

「……どうかしましたか?」

「……思いつかなかった」

「何が?」

 真っ赤な顔になった絵里は俺の肩を揺さぶりながら言った。

「思いつかなかったのよ!あなたにチョコを渡す最高のシチュエーションが!!」

「……ふ、普通に渡せばいいんじゃ……」

「ダメよ!そんなの……そんなの……」

 絵里は涙に濡れた目をさらに見開いた。

「インパクトに欠けるじゃない!」

「いや、もう十分だから。あなた出会った時からインパクト炸裂しすぎだから」

「そ、そうかしら……」

「それと……それに……」

 少し間を置き、濡れた青い瞳を見つめ、はっきり言う。

「来てくれるだけで嬉しい」

「じゃあ……」

 絵里がベッドにちょこんと座ったまま、こちらに上目遣いを向けた。その姿は何だか幼く見え、思いきり頭を撫でてやりたい気分になる。

 しかし、その口から出てきた言葉は、甘ったるい響きを持っていた。

「好きなだけ……キスしていいから」

 そう言って彼女は唇を突き出し、目を閉じた。

 この前みたいにならないように注意しながら、そっと唇を重ね、肩に手を回す。絵里の手も俺の肩に置かれ、互いの熱を共有している気分になった。

「……んく……っ」

「……っ……」

 絵里の舌が口の中を這い回り、ザラザラとした感触を満遍なく伝えてくる。

 その動きに合わせ、自然とこちらも舌が動き、舌を絡め合った。

 絵里の口の中の感触とともに、甘い香りもこちらの理性を刺激してくる。

 長く深いキスが終わるまで、密度の高い時間が過ぎていった。

 日常のドタバタ劇も、こんな甘いひとときも、もっと重ねていきたいと、心から思えた。

 

 唇を離した後、絵里さんは何ともいえないような笑みを浮かべた。視線もどこか遠くへ向けられている。

「ねえ、八幡……」

「?」

「どうしよう……チョコ、家に忘れて来ちゃった」

「……そ、そうすか」

 




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