それでは今回もよろしくお願いします。
「た、ただいま……」
恐る恐る玄関の扉を開ける。
亜里沙達と別れて自宅に戻ったはいいが、何が仕掛けられているかわからない。
我が家だというのに一歩一歩慎重に足を運びながら、なるべく音を立てないよう、細心の注意を払う。
「絵里……」
何故かぼそっと小さな声で呼びかける。もちろん返事はなく、ぽっかりと穴が空いたような静寂しかない。これはこれで不安だ。果たして何が待ち受けているのだろうか。
いや、待て。これでは絵里に失礼な気がする。
そうだ。絵里がそんな変な事するわけないじゃないか。
そもそも普通にチョコレートを渡しに来ただけじゃないのか?
自分の考えを改めた俺は、ゆっくりとリビングの扉を開ける。
「…………」
リビングにはプリキュアやサンタやメイドの衣装が散乱していた。
いきなり予想の斜め上を行かれた。
どうしたものかと考えていると、今度はポケットの中でスマホが震える。
絵里からだろうか。
『チカ』
くっ、相変わらずすぎて何も言えねえ!
リビングにいないとなると、場所は一つしかないだろう。
俺は自分の部屋へと駆け上がった。
「…………」
俺のベッドにはでかい袋が置かれていた。
それは人がすっぽり入るくらいに……いや、もう何も言うまい。
その袋の紐を解くと、中からはいつもの金髪ポニーテールに私服姿の絵里さんが出てきた。
「……八幡」
何故か浮かない表情で正座している。ずっとこの状態で待っていたのだろうか。
「……どうかしましたか?」
「……思いつかなかった」
「何が?」
真っ赤な顔になった絵里は俺の肩を揺さぶりながら言った。
「思いつかなかったのよ!あなたにチョコを渡す最高のシチュエーションが!!」
「……ふ、普通に渡せばいいんじゃ……」
「ダメよ!そんなの……そんなの……」
絵里は涙に濡れた目をさらに見開いた。
「インパクトに欠けるじゃない!」
「いや、もう十分だから。あなた出会った時からインパクト炸裂しすぎだから」
「そ、そうかしら……」
「それと……それに……」
少し間を置き、濡れた青い瞳を見つめ、はっきり言う。
「来てくれるだけで嬉しい」
「じゃあ……」
絵里がベッドにちょこんと座ったまま、こちらに上目遣いを向けた。その姿は何だか幼く見え、思いきり頭を撫でてやりたい気分になる。
しかし、その口から出てきた言葉は、甘ったるい響きを持っていた。
「好きなだけ……キスしていいから」
そう言って彼女は唇を突き出し、目を閉じた。
この前みたいにならないように注意しながら、そっと唇を重ね、肩に手を回す。絵里の手も俺の肩に置かれ、互いの熱を共有している気分になった。
「……んく……っ」
「……っ……」
絵里の舌が口の中を這い回り、ザラザラとした感触を満遍なく伝えてくる。
その動きに合わせ、自然とこちらも舌が動き、舌を絡め合った。
絵里の口の中の感触とともに、甘い香りもこちらの理性を刺激してくる。
長く深いキスが終わるまで、密度の高い時間が過ぎていった。
日常のドタバタ劇も、こんな甘いひとときも、もっと重ねていきたいと、心から思えた。
唇を離した後、絵里さんは何ともいえないような笑みを浮かべた。視線もどこか遠くへ向けられている。
「ねえ、八幡……」
「?」
「どうしよう……チョコ、家に忘れて来ちゃった」
「……そ、そうすか」
読んでくれた方々、ありがとうございます!