その目はあまりにも純粋で真っ直ぐだった。
こんな綺麗な瞳を生まれて初めて見た。
その瞳に吸い込まれそうな感覚と、世界に二人だけしかいないみたいな感覚が、俺を捉え、彼女から目を逸らせないでいた。
「…………」
「…………」
何か言わなければならないのに、音を立てる事が許されないような沈黙。
そんな時間が、どのくらい経っただろうか。やっとのことで口を開く。
「…………俺も」
「…………」
「……俺もわからない」
絢瀬さんは表情を崩さずに、目を潤ませたまま、俺の言葉を聞いていた。
「その……絢瀬さんみたいな……から、告白されるなんて……思ってなかったですし」
「…………」
「それに、絢瀬さんの気持ちも……何かの勘違いじゃないかって思う自分もいますし」
「…………」
「だから……まあ、その……何て言えばいいのか、わからない」
傍から見れば、優柔不断の馬鹿野郎でしかないだろう。誠意が足りないと罵られるかもしれない。しかし、今の俺に出せる精一杯の答えがこれだ。いや、これは答えではない。ただ答えを先延ばしにしようとしているだけだ。
俺はいつの間にか俯いていた絢瀬さんの言葉を待った。
「……じゃあ、いい考えがあるわ」
「……はい」
「仮恋人にならない!?」
「……はい……は?」
俺は絢瀬さんの顔を見る。そこには満面の笑みを浮かべたキュアハート、もとい絢瀬さんがいる。
「私知ってるわよ!日本にはガールフレンド(仮)という関係があるのよね?」
「…………」
あれ?シリアスな空気が霧散していってるような気がしますが……。カラスの鳴き声が「アホー、アホー」なんて聞こえてくる。うわぁ、まじか。
「そうね。いきなりじゃ比企谷君も困るはずだわ。何事にも準備が必要だものね」
「あの……」
「よし、比企谷君!私、頑張るわ!」
話、聞いてねぇ。
「あの…………っ」
「…………ん」
本日2度目。累計3回目のキスが唐突に交わされる。
こちらが何か考える前に、柔らかな唇は離れていった。
「……い、いきなり、何を……」
「もちろん期限を設けるわ」
「……期限?」
「あなたに10回キスをします」
絢瀬さんは顔を真っ赤にして、唇を震わせている。
「じゅ、10回目のキスまでにあなたが私の事を好きにならなかったら、私は諦めるわ」
「はあ……」
何が何だかよくわからないままに頷く。つーか、この人プリキュアの衣装だから、改めて考えると、さっきまでのシーンもシリアスではなくシュールだ。無駄に似合うからタチが悪い。プリキュア好きの俺が言うから間違いない。
とりあえず、気になる事を聞いた。
「あの……もう既に3回してるんですが、それは……」
「含めないわ!」
「えっと……それは……」
「認められないわ!」
どうやら異論・反論は許されないらしい。
こうして俺と絢瀬絵里の奇妙な関係が始まった。