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4月末の日曜日。俺と絢瀬さんはデスティニーランドに来ていた。春の陽気が心地良く、行楽日和という事もあって、園内は大勢の客でごった返していた。
「わぁ~♪私、実はここに来るの初めてなのよ!」
絵里さんが飛び跳ねそうな勢いで言う。一応言っておくが、プリキュアの恰好はしていない。普通の私服だ。着てくる物まで警戒しなけりゃいけないとは……。
「八幡君は来た事あるの?」
「俺は…………小さい頃に来たくらいですかね」
正直言えば記憶が遠すぎて、初来園といってもいいくらいだ。
「よし、今日は楽しむわよ!!」
「……うす」
絢瀬さんのガッツポーズに、小さく握り拳を掲げて返す。いかん、早くも絢瀬さんのペースに飲まれている。理性を保て、比企谷八幡。いくらこの人がぼっち三原則が通じない人だとしても。
「ほら、何ぼーっとしてるの?はやくはやく!」
油断した隙に腕を組まれる。だぁ~~!あんまりこっちに体重かけないで!なんか腕の辺りで柔らかい物が潰れてるから!
すれ違う人、前を横切る人等をかき分けるように進みながら、目的のアトラクションへと歩く。こりゃあ、行列がしんどそうだな……。
「う~ん、やっぱりこっちの方が恋人らしいかしら」
「は?」
絡まれた腕が解かれ、今度は指が交わる。彼女はその繋がれた手を見て、うんうんと満足そうに頷いた。
「あ、あの……」
「ふふっ。その照れてる顔、好きよ」
「…………」
覗き込むような視線についあらぬ方向を向いてしまう。
「そういや…………ファーストライブ成功、おめでとうございます」
「ありがとう。今や部員も約9人になるのよ」
「何ですか?その、約ってのは」
「まだ正式な入部はしてないけど、多分あと一押しで入ってくれそうな子達がいるのよ」
「へえ」
「そっちはどう?浮気とかしてない?」
「活動内容じゃなくて、そっちかよ……してませんよ。特に依頼もないですし……」
「あら、そうなの?仕方ないわね。じゃあ、私が……」
「学外の生徒はご遠慮願います」
「むぅ、ケチ」
「はいはい」
「じゃあ、八幡君には私がご奉仕してあげる♪」
「一気に話がずれた気が…………」
前より会話が滑らかになっているのに、少し……ほんの少しだけ、気持ちが和らいだ気がした。
幾つかのアトラクションに乗り、12時を回ったところで、昼食をとる事にした。
…………実は一番不安な時間である。
あの普段のぶっ飛んだテンションからどんな料理が飛び出してくるのか、見当もつかない。胃薬準備した方がよかっただろうか。
「はい、沢山食べてね♪」
俺はゆっくりと視線を弁当の方に向ける。
「…………おお」
そこには彩りも鮮やかな、和洋折衷の美味しそうな品々が並んだ弁当箱があった。
「すごいですね……」
「はい、あ~ん♪」
絢瀬さんは箸で摘まんだ卵焼きをこちらに差し出している。ひとまずスルー推奨で。
「じゃあ、いただきます」
えーと、箸はどこかな?
「はい、あ~ん♪」
「あの、箸は……」
「はい、あ~ん♪」
「…………」
「はい、あ~ん♪」
駄目だ。笑顔も姿勢もずっとキープされている。
…………腹、減ったな。空腹には勝てそうもない。
恐る恐る卵焼きを頬張った。
「……んぐ」
「美味しい?」
「……はい」
「よかった♪じゃあ、次は、ウインナーかしら」
その喜びに綻んだ笑顔には一点の曇りもなく、こんなに幸せそうに笑う人を初めて知った気がした。
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