捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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とまどい ♯3

 

「大丈夫?」

「ええ……」

 二人でベンチに腰掛け、絢瀬さんが濡らしたハンカチで顔を拭いてくれる。唾液やら何やらでベタついた顔を、すれ違う人がギョッとした顔で見るので、かなり気まずかった。

「昨日思いついた時はいい考えだと思ったんだけど……濃密な1回目になるし……」

「え?アレって1回だけになるんですか?」

「そうよ」

 あっけらかんと言い放つ絢瀬さんに、何も言い返せなくなる。……実際に俺も色々とヤバかった。まだ毛布のような温もりや、甘い香りが体に残っている気がした。

「満足した?」

「……ノーコメントで」

「むぅ、何よ……さり気なく胸触ってたくせに」

「え?俺、そんな事は……」

「ウ・ソ♪」

 何だよ、嘘かよ。ホントに触っちまうぞ。つーか、してやったり、みたいな顔が無駄に綺麗なのも腹立つな。

 仕返しにポニーテールにデコピンをかます。こんな時もおでこに仕返しできない自分のヘタレ具合が情けない。

「ふふっ。可愛いことするじゃない」

 絢瀬さんが顔を近づけてくる。慣れたように思えたその覗き込むような視線は、相変わらずこちらの心に不安定な揺らぎを与える。空振りする自分のデコピンを引っ込め、俺の左手はベンチの背もたれを掴んでいた。

「じゃあ、もう一度……」

 唇がいつの間にか触れ合う寸前になっていた。そして、そのまま時間が止まったように動かない。

「…………」

「…………」

 これはおそらく試されているのだろう。このまま本能的な欲求か、場の空気に流されてしまうのはそれはそれでいいのかもしれない。

 ただ…………それは恋愛感情ではない。似ても似つかぬ何かのように思える。

 俺は絢瀬さんの肩をゆっくりと押し戻す。

「あ…………」

 その寂しそうな顔に少し罪悪感を覚えたが、今の俺にはこれが精一杯の誠意だ。

「…………」

「まだ……ダメかぁ」

 空を仰ぐ絢瀬さんの顔はもう笑顔に戻っていた。

「あの……」

「いいのよ。今日、八幡君のいいところを一つ見つけられたから」

「……そ、そうすか」

「君は……優しい」

「…………」

「私、こんな気持ち初めてだから、正直言って何をどうすればいいかわからないの」

 そっと手を握られた。だがさっきまでと違う感触がするようだ。

「それで……少し暴走しちゃって」

「少し?」

「う、うるさいわね……でも、君は付き合ってくれる」

「…………べ、別に」

「ありがとう♪」

 礼を言われる筋合いはない。思考回路を使い、様々な理由を挙げようとすると、耳に直接、甘い言葉を吹き込まれた。

「大好き」

 





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