捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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 セイレンは先生が一番好きです!

 それでは今回もよろしくお願いします!


とまどい ♯5

「あ、忘れてたわ」

 絢瀬さんはぽんっと手を叩き、俺の隣へ来る。

「おはよ、八幡君♪……んっ」

 また朝の挨拶かと思ったら、左頬に絢瀬さんの唇の感触が来た。

「なっ!?」

「ええっ!!!!!」

「お、お姉ちゃん!?」

 俺とシスターズの驚愕一色の声に、絢瀬さんはキョトンと首を傾げる。

「あら、ただの挨拶だけど」

「お姉ちゃん、い、いきなりすぎるよ!今までそんな事……」

「しっ!」

 絢瀬さんは唇の前に人差し指を立て、小さく怒った表情を作る。その唇を見ると瑞々しい色気を感じ、朝から顔が熱くなりそうだ。あれ?まだ夢の中だったかな?

「お兄ちゃんが……もう、小町の知らないお兄ちゃんに……」

 小町は盛大に勘違いしているようなので、後でしっかり事実を教えよう……いや、待て。観覧車での事とか絶対に言えない。 

「あの、ちなみにこれは二回目……」

「認められないわ!」

「いや、でも……」

「唇じゃないチカ。観念するチカ」

「何ですか、その語尾は……しかも何故ドヤ顔?」

「お姉ちゃん……」

 ほら、可愛い妹が残念なものを見る目になってますよ。

「それより、朝食冷めちゃうわよ」

「あ、はい……」

 変な語尾と朝食で誤魔化されたが、まあ仕方ないのかもしれない。最初に細かいルール設定をしなかった自分にも落ち度はある。今さら細かなルールを作るのも、何だか男としては見苦しい気がする。

「おはよ~」

 休日だというのに、仕事に行く準備を終えた母ちゃんが、リビングの扉を開けて入って来た。

「おはよう。今日も仕事かよ」

「ええ、ゴールデンウィークで若いのが休み取ってるからね」

 そこで自分が周りの分も働くとか社畜精神凄まじすぎるだろ。

 …………はあ、やっぱり働きたくねえなぁ。

「はい、これお弁当です」

 絢瀬さんが母ちゃんに弁当を手渡す。何故にこの人は初めて上がった家にこんなに馴染んでいるんだろう。

「ありがと♪でも本当にどうしてこんな超絶美人がうちのバカ息子なんかを……」

 俺が聞きたいくらいだ。いや、聞いたけど……ねえ?

「学校では生徒会長やってて、成績優秀・スポーツ万能。おまけに料理も上手いなんて…………」

「いえ、それほどでは……」

 改めて聞くと、確かにスペックはすごい。そして性格はその何十、何百倍もすごい。というかポンコツだ。 

「さっきお父さんもデレデレしながらお弁当持って行ったわ」

 あの親父……女には気をつけろって俺に言ってたじゃねえか。

「絵里ちゃん!八幡を……よろしくね」

「お任せください!」

 母ちゃん、泣くな。なんか俺が虚しい気持ちになるだろ。あと二人して勝手に任せるな。任されるな。徳川軍ばりに外堀と内堀を効率よく埋められている気がする。

「じゃあ、行ってきま~す!」

「傘持ったのか?今日、午後から降るらしいぞ」

「あ、そうなの?ありがと!」

 皆で母ちゃんを送り出した後、俺は朝食を摂る事にした。……やっぱり美味い。

 

「お兄ちゃん、洗い物私がやっとくから、二人でいちゃついてていいよ~♪」

「さり気なくとんでもない事言うな。休みくらい俺がやっとくよ」

「じゃ、お願い!」

「あ、私が手伝うわ」

 いや、今あなたと台所に並んで立つとですね、色々とよからぬ妄想をしてしまいそうになるので、止めていただきたいのですが…………などと言う事はできず、共同作業をする事になる。

「初の……共同作業」

 俺が洗った食器を拭きながら、絢瀬さんが頬を染める。……いきなり変な事言うなよ。茶碗落として割るとこだったぞ。

「意味深な言い方しないでください」

「ねえ、八幡君」

「?」

 俺は絢瀬さんの方は向かずに、洗い物に集中する。専業主夫を目指すだけあって、家事に対する集中力は自信がある。

「私ね、八幡君の良いところ、もう一つ見つけちゃったかも♪」

「……そうっすか」

 洗い物から目を逸らしていないけれど、頭の中で、また悪戯っぽい笑顔を浮かべている絢瀬さんを容易に想像出来た。

 




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