捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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Together ♯4

「絵里さん、すいません。うちの兄が……」

「大丈夫よ。このくらい」

 八幡君に膝枕をしながら、小町さんに何でもないとばかりに微笑む。……はい、私のせいです。八幡君は私の裸を見て気絶しました。

 ちょっと悪ふざけが過ぎた事を反省しながら、八幡君の髪を撫でる。くせのある真っ黒な髪が可愛らしい。もちろん、この無防備な寝顔も。

 ……さすがに裸を見られるのは恥ずかしいわね。

 彼が目を覚ましたらどんな顔をして会えばいいのかしら。

「絵里さん、どうかしましたか?顔赤いですよ」

「え?あ、八幡君可愛いなあって……」

 ちなみに小町さんには、八幡君が転んで頭を打った事にしてある。義理の妹になるかもしれない女の子に『あなたのお兄さんを裸で誘惑しようとしたら、彼ったら、鼻血を出して気絶しちゃったのよ』なんていえない。だって、女の子なんだもんっ♪

「ふふっ」

 小町さんが小さく吹き出した。

「そんな事言ってくれるの絵里さんだけですよ」

「そう?」

「二人共~、ココアできたよ~♪」

 亜里沙が御盆にカップを3つ載せて、てくてく歩いてくる。料理は壊滅的だけど、ココアは美味しく作ってくれる。

「ありがとう」

「ありがと♪」

 カップに口をつけると、程よい甘さが温かく口の中に広がっていく。その感覚が体中に広がるように、ゆっくりと喉の奥へ流し込んだ。

「よしよし♪」

 亜里沙が八幡君の頭を撫でる。ま、まあ、このぐらいなら許してあげるわ。

「♪」

 次第にその手が頬へと伝っていく。

 それは止めておいた。

「八幡君が起きちゃうでしょ」

「は~い」

「はあ、お兄ちゃんったら幸せ者なんだから……」

「小町ちゃんもだよ」

「え?」

「八幡さんみたいな優しいお兄ちゃんがいるんだもん!」

「ま、まあ……優しいけど」

 小町さんは顔を赤くして照れている。この子は間違いなくブラコンだ。八幡君はシスコンだし……。

 急に色々と聞き出したくなった。

「ねえ、もっと八幡君の話聞きたいわ」

 私の言葉に小町さんは少し驚いた顔をしたが、すぐにぱあっとした笑顔になる。

「そうですね!じゃあ、小町がお兄ちゃんの一から百、いや千まで語りましょう!」

 小町さんはココアを飲み干し、胸を張る。

 私も小町さんに倣って、ココアを飲み干した。

「あっつ……」

「お姉ちゃん、夜までポンコツ発揮しないで」

「え?亜里沙、今何か言った?」

「何も言ってないよ♪」

 

「……ん」

「あ、起きた」

 ぼんやりとした視界の中、絢瀬さんの顔が次第にはっきりと形になっていく。後頭部にはいつもより柔らかい感触がある。あれ?枕の質が高く……

「……!すいません……」

「いいのよ。私のせいだし」

 起き上がろうとすると、押さえつけられる。そんなに強い力ではなかったが従っておいた。

 しかし……私のせい?

 はて、何の話だ?

「…………」

 記憶を掘り返していると、ぽつぽつと気を失う前の記憶が蘇ってくる。

 確か、真っ白な……!

「……すいません」

「どうかした?」

「俺……その……」

 寝起きだからか、刺激的すぎるあの姿で心臓が跳ね上がっているからか、上手く言葉が結べない。

「あれは……私が悪かったわ。調子に乗りすぎちゃった。ごめんなさい」

「俺は……別に……」

「じゃあ、おあいこね」

「それはそれで……」

 起き上がり、絢瀬さんの隣に座り直す。

 そこで時計が十時を回っている事に気がついた。

「俺、風呂入ってきます」

「ええ、私は小町さんの部屋にいるわね」

「はい」

 ウインクして背を向ける絢瀬さんが何だか少し大人びて見える。目が慈愛に満ちているというか、何というか。一歳だけとはいえやっぱり年上なんだな、と思ってしまう。普段はアレだけど。

 後頭部に絢瀬さんの膝枕の感触が残っているのを感じながら、俺はのろのろと風呂場へと向かった。

 




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