それでは今回もよろしくお願いします。
「絵里さん、すいません。うちの兄が……」
「大丈夫よ。このくらい」
八幡君に膝枕をしながら、小町さんに何でもないとばかりに微笑む。……はい、私のせいです。八幡君は私の裸を見て気絶しました。
ちょっと悪ふざけが過ぎた事を反省しながら、八幡君の髪を撫でる。くせのある真っ黒な髪が可愛らしい。もちろん、この無防備な寝顔も。
……さすがに裸を見られるのは恥ずかしいわね。
彼が目を覚ましたらどんな顔をして会えばいいのかしら。
「絵里さん、どうかしましたか?顔赤いですよ」
「え?あ、八幡君可愛いなあって……」
ちなみに小町さんには、八幡君が転んで頭を打った事にしてある。義理の妹になるかもしれない女の子に『あなたのお兄さんを裸で誘惑しようとしたら、彼ったら、鼻血を出して気絶しちゃったのよ』なんていえない。だって、女の子なんだもんっ♪
「ふふっ」
小町さんが小さく吹き出した。
「そんな事言ってくれるの絵里さんだけですよ」
「そう?」
「二人共~、ココアできたよ~♪」
亜里沙が御盆にカップを3つ載せて、てくてく歩いてくる。料理は壊滅的だけど、ココアは美味しく作ってくれる。
「ありがとう」
「ありがと♪」
カップに口をつけると、程よい甘さが温かく口の中に広がっていく。その感覚が体中に広がるように、ゆっくりと喉の奥へ流し込んだ。
「よしよし♪」
亜里沙が八幡君の頭を撫でる。ま、まあ、このぐらいなら許してあげるわ。
「♪」
次第にその手が頬へと伝っていく。
それは止めておいた。
「八幡君が起きちゃうでしょ」
「は~い」
「はあ、お兄ちゃんったら幸せ者なんだから……」
「小町ちゃんもだよ」
「え?」
「八幡さんみたいな優しいお兄ちゃんがいるんだもん!」
「ま、まあ……優しいけど」
小町さんは顔を赤くして照れている。この子は間違いなくブラコンだ。八幡君はシスコンだし……。
急に色々と聞き出したくなった。
「ねえ、もっと八幡君の話聞きたいわ」
私の言葉に小町さんは少し驚いた顔をしたが、すぐにぱあっとした笑顔になる。
「そうですね!じゃあ、小町がお兄ちゃんの一から百、いや千まで語りましょう!」
小町さんはココアを飲み干し、胸を張る。
私も小町さんに倣って、ココアを飲み干した。
「あっつ……」
「お姉ちゃん、夜までポンコツ発揮しないで」
「え?亜里沙、今何か言った?」
「何も言ってないよ♪」
「……ん」
「あ、起きた」
ぼんやりとした視界の中、絢瀬さんの顔が次第にはっきりと形になっていく。後頭部にはいつもより柔らかい感触がある。あれ?枕の質が高く……
「……!すいません……」
「いいのよ。私のせいだし」
起き上がろうとすると、押さえつけられる。そんなに強い力ではなかったが従っておいた。
しかし……私のせい?
はて、何の話だ?
「…………」
記憶を掘り返していると、ぽつぽつと気を失う前の記憶が蘇ってくる。
確か、真っ白な……!
「……すいません」
「どうかした?」
「俺……その……」
寝起きだからか、刺激的すぎるあの姿で心臓が跳ね上がっているからか、上手く言葉が結べない。
「あれは……私が悪かったわ。調子に乗りすぎちゃった。ごめんなさい」
「俺は……別に……」
「じゃあ、おあいこね」
「それはそれで……」
起き上がり、絢瀬さんの隣に座り直す。
そこで時計が十時を回っている事に気がついた。
「俺、風呂入ってきます」
「ええ、私は小町さんの部屋にいるわね」
「はい」
ウインクして背を向ける絢瀬さんが何だか少し大人びて見える。目が慈愛に満ちているというか、何というか。一歳だけとはいえやっぱり年上なんだな、と思ってしまう。普段はアレだけど。
後頭部に絢瀬さんの膝枕の感触が残っているのを感じながら、俺はのろのろと風呂場へと向かった。
読んでくれた方々、ありがとうございます!