由比ヶ浜は俺の手を引き、すたすた歩いていく。人目を避けるための行動がかえって人目を集めているが、最早お構いなしのようだ。
やがて、階段下の人目につかないスペースへ辿り着く。
「ふう……な、何かごめんね?」
「……いや、いい。それよか、何だ?」
こんな場所まで連れてきたのなら、何か人前では言いづらい用があるんじゃなかろうか。カツアゲとかじゃないよね?ね?
「あ、うん。ちょっとヒッキーに聞きたいことが……」
そう言って、由比ヶ浜は胸の前で左手をきゅっと握りしめ、俯いた。俺はこの気まずい間を埋める為に、鞄を掛け直した。
やがて由比ヶ浜が顔を上げる。
「あの……ヒッキーって……やっぱりあの金髪の人と付き合ってるの!?」
「…………」
正直答えづらい質問だ。
まさかガールフレンド(仮)なんて言うわけにもいかない。
それ以外になんて言えば……
「……あー、まあ、あれだ。色々あんだよ」
結局それしか言えなかった。
そんな曖昧模糊とした言葉に、由比ヶ浜はふむと考え込むように頷く。
「付き合ってるなら付き合ってるって言うよね……」
何かボソボソと独り言を呟いているが、こちらには聞こえない。
「よし!」
いきなり意気込んだ由比ヶ浜に、驚いて飛び退いてしまう。
「ど、どうした?」
由比ヶ浜は俺の問いには答えず、いきなり駆けだして行った。
「…………」
どうして俺の周りには、俺の話を聞かない奴が多いのか……。
*******
「むう……やはり何か感じるわね」
「エリチ、どうしたん?」
「う~ん、八幡君の周りに希以外の良からぬ気配が……」
「エ、エリチはウチの事を何と思っとるん?」
「それはさておき」
「おいとくんかい!」
「電話してみようかしら。いいえ、いけないわ絵里。そう安々と夫……いえ、旦那……いえ、恋人の浮気を疑うなんて」
「エリチ、全部口に出とるよ」
「あら、いけない」
希に言われて口を慌てて両手で閉じる。……あまり意味のない行動だったわ。
『先日、熱愛が発覚したアイドルグループSのMさんがグループ脱退を発表しました』
ショーウインドウの内側から、こちらに向けられて備えつけられたテレビが、最新のゴシップを流している。
アイドルグループという単語に反応して、にこと花陽が立ち止まり、ニュースを食い入るように見始めた。
「はあ、もったいないわね。せっかく売れ始めたのに……」
「仕方ないですよね……アイドルですもんね……」
あれ?何故かしら?ギクリとしてしまったわ。
「そういえばスクールアイドルも恋愛禁止なのかなぁ?」
穂乃果が首を傾げながら呟く。
「当たり前でしょ!私達はアイドルなのよ」
「そ、そうですよ!やっぱりいけません!」
「それに……高校生で恋愛なんて……早過ぎます!」
「そ、そうかなあ?」
反対意見が多数のようね。ことり、頑張って!!
「ま、私はどっちでもいいけど……」
「真姫ちゃんは声かけづらいから大丈夫にゃ~」
「し、失礼ね!ナンパくらいされた事あるわよ!」
わ、私だってあるわよ!
「エリチはどう思うん?」
希がニヤニヤしながら聞いてくる。くっ、この借りは希編で必ず……!
私は咳払いをして、頭の中から言葉を引きずり出した。
「そうね、私は……こだわる必要はないと思うわ」
やっぱり皆キョトンとしている。
「ア、アンタ何言ってんのよ!」
「そうですよ、絵里!」
「高校生活は一度きりなのよ。私は……で、出会いを大切にしてもらいたいわ……うん、青春だもの。アオハライドしなきゃ」
『…………怪しい』
私は学校に着くまで、皆の疑惑の視線に晒された。