捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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 それでは今回もよろしくお願いします。


サバイバル

 夜。絢瀬さんから電話がきた。

「八幡君、はろはろ~」

「まだ出てきてない方の挨拶をとらないでください」

「じゃあ……とぅっとぅる~♪」

「……まあ、それでいいですよ」

「今日は……ごめんね?いきなり変なメールを送って……」

「あ、え、別にいいですけど……」

「八幡君が浮気なんてするはずがないものね」

「う、浮気?」

「ええ、私のボーイフレンド(仮)でしょう?」

「そうでしゅね……ボーイフレンド(仮)でしゅね」

「……八幡君?」

「はい、何ですか?」

「よかったわね。胸が大きな女の子と仲良くなれて♪」

「な、仲良くなってなんかないれすよ?同じ部活になっただけです」

「あ~!嘘ついてる!」

「いや、嘘なんか……」

「観念するチカ。浮気は止めて結婚するチカ」

「あの、絢瀬さん?少しヤンデレてらっしゃる?」

「明日……待ってるチカ」

「絢瀬さん?…………やべえ」

 

 次の日。

 さすがにベッドの中に絢瀬さんがいるとかいうTo LOVEるはなく、ひとまず無事に朝食を終える。

 しかし、真に警戒すべきはこれからだ。

「やっはろー、ヒッキー!」

「……うす」

 由比ヶ浜が肩を叩いて挨拶してくる。トレードマークのマークのお団子はバッチリ決まっていて、茶色い髪が朝のそよ風に微かに揺れている。

 こういった気軽なスキンシップは、中学時代の俺ならば間違いなく勘違いしていただろう。しかし、今はそれどころではない。

 由比ヶ浜をじっと見つめる。

 ……胸は昨日と同じ大きさだ。つまり、絢瀬さんが変装しているわけではない。

「ヒ、ヒッキー?」

「何だよ」

 由比ヶ浜が体を隠すように身を捩る。少し頬が赤く、何かを恥じらっているようだ。

「そ、そんなに胸ばかり見ないでよ!変態!」

「え?見てねーよ!」

「見てたし!食いつくように見てたし!」

「食い入るように、な」

「そう、それ!って話を逸らさないで!」

「…………」

「あ、無視した!…………人前じゃなかったら……いいんだよ?」

 

 登校中……セーフ。

 平塚先生か……。

 胸は絢瀬さんより僅かに大きい。

 背も高い。

 絢瀬さんの変装の可能性はなきにしもあらずか。

「比企谷、ちょっと」

 授業が終わり、平塚先生に呼ばれる。

 そのまま人気のない場所まで連れて行かれた。

 何か授業中に粗相をしてしまったのかと思い、落ち着かない気分になる。

 すると平塚先生は振り返り、顔を赤らめ、もじもじしていた。

「き、君が年頃なのはわかるが、その……あんなに胸ばかり見られると、授業に集中できないではないか……」

「は、はあ……」

 途切れ途切れに呟かれる言葉を聞いて思った。

 俺の先生がこんなに可愛いわけがない。

「い、いや……変装してないかと……」

「そんな言い訳があるか!」

 午前中……セーフ。

 いかん。俺とした事が……警戒しすぎだ。

 落ち着け。わざわざ学校をサボってまで来るわけがないだろう。頭はぶっ飛んでいるが、一応優等生だったはずだ。

 昼休み……セーフ。

 午後……セーフ。

 そして部活中……

「ゆきのん……えへへ♪」

「あ、あまりくっつかないでもらえるかしら?」

「…………」

 今日も由比ヶ浜が俺の太股に手を乗っけているが、今は大して意識してない……ごめん、やっぱ無理。

 しかも今日は話を振ってくる時に、やたら顔を近づけてくる。ふわりとフルーティーな香りが漂い、心臓に悪い。

「…………」

 雪ノ下はその状況を怪訝そうな目で見ていた。

 

 気疲れでへとへとになりながら、無事に部活動を終え、校門を出る。今日みたいな日は自転車を漕ぐのも面倒くさい。だが、学校の敷地から出て、やっと新鮮な空気を吸えた気がした。

 もしかして絢瀬さんは家に来ているのだろうか。まあ、それなら騒ぎにはならないから……。

 そこで背後から声をかけられる。

「あら八幡君、偶然ね」

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはファッション雑誌から出てきたようなモデル、もとい絢瀬さんが立っていた。

「な、何故ここに……」

「たまたま通りかかっただけよ!」

 絶対に嘘だ。

「それより……八幡君!」

 いきなり腕を組まれる。胸が強く押しつけられ、体が強張る。

「一緒に帰りましょ♪」

「は、はあ……」

「ちょっと待ったぁ!」

 由比ヶ浜が俺と絢瀬さんの間に割って入る。

「誰かしら?」

「ヒッキーは今日は私と帰るんです!邪魔しないでください!」

「いや、お前こっちじゃないだろ……」

「なるほど……あの悪い気配はあなただったのね」

 絢瀬さんと由比ヶ浜の鋭い視線が交錯し、周囲にぽつぽつといる人達の注目が集まる。

「…………」

 俺のガールフレンド(仮)とクラスメイトが修羅場すぎるとか、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。




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