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それでは今回もよろしくお願いします。
「ア、ア、アンタ……」
にこっちさんはわなわなと震え、口をパクパクとさせている。言葉が上手く音にならずに、戸惑っているようだ。そりゃそうだろう。俺も驚いている。いや、これが初めてじゃないんだけど。
しかし、絢瀬さんは余裕の態度を崩す事はない。
「あら、にこにはいないの?フィアンセ」
そう言いながら、するりと腕を絡めてくる。……ちょっと前に似たようなシチュエーションがあったような気がしますが……。
絢瀬さんの青い瞳が自信満々に輝き、スクールアイドルという立場をものともしていないのがわかる。おい、いいのかよ。てか、何故フィアンセの有無の確認?
しかし、にこっちさんにその挑発は有効だったようだ。
「そ、そりゃあ、にこくらいになれば、沢山お誘いが有るわよ!で、でも?にこは皆のアイドルだし?」
視線をキョロキョロさせ、身振り手振りが大げさで、明らかに嘘くさい感じはあるが、まあそこはスルーで。
「って、話を逸らさないで!」
にこっちさんは思い出したように、絢瀬さんの方へ身を乗り出す。
「ア、アンタ……に言っても意味なさそうね。なんか謎なテンションになってるし。……そこのアンタ!」
「あ、はい……」
「本当に絵里のフィアンセなの?」
「違います」
「即答!?」
絢瀬さんが驚愕のあまりSD化して、肩をポカポカ叩いてくる(気のせいのはず)。
「ひどいチカ!ひどいチカ!」
「フィアンセではないですが……」
俺は全員の視線を浴びながら、一呼吸おいて、口を開いた。
「恋人(仮)です」
『…………』
店内が静寂に包まれる。
心なしか温度が少し下がったような……冷房効きすぎなんだろうか。
さらに女性店員が通りすがりにゴミを見るような目を向けてきた気がするが、気のせいだと信じたい。
「お兄ちゃん……」
「あー、まあ、複雑やね?」
「あはは……」
「な、何よ(仮)って!ねえ、絵里!って……」
隣の絢瀬さんに目を向けると、顔から湯気が出そうなくらいに顔を真っ赤にして、フラフラしていた。
「こ、こ、恋人……チカァ」
フィアンセと堂々と宣言するくせに、何故そこで赤くなるんだよ……。
とはいえ俺もかなり恥ずかしい。だが、この前の由比ヶ浜の件で、自分のはっきりしない態度が生んだゴタゴタを繰り返すのは嫌だった。隣で固唾を飲んでいた亜里沙もホッとした顔をしていた。
「にこっち。エリチも本気やから許してあげて」
「……わかったわよ。ただし!」
にこっちさんは再び俺をビシィッと指差した。
「節度を持った交際を心がける事!μ'sはこれからどんどん知名度を上げていくんだから!うっかり熱愛写真なんて撮られたら承知しないわよ!」
「え?μ'sのメンバーなんですか?」
「今さら!?」
いや、まだ本名すら知らない状態ですし……。
この後、互いの自己紹介を済ませ、亜里沙の誕生日パーティーに二人が加わる事になった。唯一の男の俺としてはさらに肩身が狭いが、何も言わないでおこう。
矢澤さんが『にっこにこ』とかなんかやろうとしたら、東條さんから店内という事で止められた。確かに地雷っぽいから、出来るだけ触れないでおこう。
「恋人……恋人……チカァ」
絢瀬さんは亜里沙が正気に戻すまで、10分くらいかかった。
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