捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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Blue Jean

 

 7月7日、七夕。

 季節はすっかり夏に突入した。青空はさらにに色濃く感じられ、太陽の光はより強く降り注いでくる。こんな突き抜けるような晴天の日は家でクーラーの吐き出す冷気を思う存分浴びながら、ゲームをするに限る。

 しかし、中々そうもいかないようで……

「あの……」

「何?」

 絢瀬さんが夏の暑さをものともしない笑顔を向けてくる。

「……暑いので離れていただきたいのですが」

「やだ」

 絢瀬さんはさらに腕をホールドしてくる。腕を組むというより、腕に抱きついているといった感じだ。春とは違い、薄着なので色々と困る。

「いや、暑いから……」

「やだ」

「だから……」

「チカ」

「…………」

「観念するチカ。……お願いチカ」

「…………」

 潤んだ瞳に対して、何も言えなくなってしまう。

 何故絢瀬さんがこんなになっているかというと、先日絢瀬家でのお泊まりを終えてから、今日までずっと会っていなかったからだ。絢瀬さんの所属するμ'sは着々と知名度を上げ、毎週ライブが開催できるぐらいの人気を獲得していた。このまま行けば、LOVELIVE出場も夢ではないらしい。

 ちなみに奉仕部は通常運行。大した事はしていない。由比ヶ浜との関係も全く気まずくないわけではないが、それでも以前と同じで、どこか気楽な接し方ができるようになっていた。

「ていうか、変装はそれだけでいいんですか?」

 離れさせる事は諦めて、今日のファッションにツッコんでみる。

 伊達眼鏡をかけているだけで、トレードマークの金髪ポニーテールはいつものままだ。

「平気よ。芸能人じゃないんだから」

「でもアイドルじゃないんですか?」

「スクールアイドルは知名度は上がってきてはいるんだけど、まだそこまでじゃないわ。A-RISEぐらいになれば別だけど」

「そうですか。まあ、絢瀬さんが良けりゃそれでいいですけど……」

「違うでしょ?」

「……何が?」

「呼び方よ。絵里でしょ絵里。あなたの賢く可愛い絵里♪」

「行きましょう、絢瀬さん」

「あ~!無視した!」

「いや、そんな約束……」

「してないけど、この際ついでよ!」

「……絵里さん」

「え?今、何て?」

「絵里さん」

「よろしい♪じゃあ、次の段階ね」

「?」

「絢瀬八幡……ちょっと違うわね。比企谷絵里……うん、こっちね♪」

 また何かおかしな事を始めようとしている。嫌な予感どころか、何をしようとしているかがはっきりわかっていて恐い。

「八幡君」

「何ですか?」

「私……婚姻届は財布の中に入れてるから、必要な時はいつでも言ってね!」

「……は?」

「だって今日は七夕よ!」

「いや、何の関係もない気が……」

「離れ離れになってた二人が再会するのよ!籍入れるくらいはいいじゃない!!」

「人生最大の分岐イベントの一つを容易く起こさないでくださいよ」

「私の初めてを奪ったくせに……」

「それキスの話ですよね。しかも奪われたの俺だし……」

「あなたはとんでもない物を奪っていきました。私の心です」

「……それでいい話になるとでも?」

「いいじゃない。名前書いて判子押して、一緒に暮らすだけよ」

「いや、まだ年齢的に無理ですから。つーか、まだ、そんな関係じゃないですから!」

「むう、手強いわね。でも今あなたは重要な事を言ったわ」

「はい?」

「まだ無理って言ったのよ。ま・だ・無・理って!つまり数年後はOKって事よね!」

「数年後ってどんなアニメが流行ってるんですかね?」

「話を逸らさないで!子供の名前はどうしようかしら。八絵とかどう?」

「嫌です」

「も~、つれないわね」

「いやそんな無理矢理繋げなくても、別の名前で……危ねえ。真剣に考えるところだった」

「ふふっ、その調子よ」

「てか、そろそろ離れてくださいよ」

「そう言いながらも絵里の胸の感触を楽しむ八幡であった」

「勝手なナレーションをつけるの止めてくださいね……」

「私、今日はつけてないの」

「…………」

「ほら、チラ見した」

「……行きますよ」

 くっ!なんか一ヶ月前よりぶっ飛び具合が進化している気がする。ジェノバなんぞ比較にならん進化だ。

 だが久しぶりに会ったからか、電話で話す時よりテンポよく会話をしながら、夏の秋葉原を並んで歩く。空にはいつの間にか飛行機雲が伸びていた。

 絢瀬さんは腕からは離れたが、手は繋いだままだった。

 





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