絢瀬さんの発言により、女子二人が俺に好奇の眼差しを向ける。うわー、しんどい。どうやら今、俺は採点されているらしい。まあ、この場で採点できるものと言えば、顔とファッションくらいだろう。なので、男子より採点システムが発達している女子は二つのポイントなぞすぐに採点を終えてしまう。
「へぇ」
「…………」
「こらこら、あなた達。初対面でそんなにジロジロ見ちゃ失礼でしょ?」
あなたも初対面でわけのわからない展開に俺を引きずり込んでいるんですが……。
「あ、ごめんなさい!」
「私達はもう行きますね!」
二人は足早に店を出て行った。果たして、俺は『絢瀬絵里の彼氏』として、どのような評価を下されたのだろうか。まあ、実際に付き合う事はないから大して気にはならないが、あえて予想するなら決して芳しいものではないだろう。まず絢瀬さんの思わせぶりな言葉をどう受け取るかにもよるが、仮に彼氏と見られたとしても、『まあ、絢瀬さんは自分が美人だからあまり理想が高くないのよ』みたいに思われているだろう。実際、この人と並んで様になる奴といえば、同じクラスになった、学年どころか学校一のモテ男・葉山隼人くらいしか知らない。葉山の事も全然知らないけど。
「……ふぅ」
どう逃げようか考えながら絢瀬さんに目を向けると、何故か頭を抱え、項垂れていた。その動作のせいで、胸がさらにテーブルに押し付けられ、パラダイスな眺めになっている。生まれて初めてテーブルになりたいと思ってしまった。
その姿勢のまま絢瀬さんは口を開いた。
「どうしよう……見栄をはってしまったわ……」
「「「…………」」」
残念極まりないその言葉に、俺も妹コンビも冷めきった視線を向けてしまった。
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「じゃあ、呼び方はどうしましょうか」
「いや、何の事でしょうか?」
「私は八幡君って呼ぶわね。それとも……八幡の方がいいかしら?」
「お、お兄ちゃん……小町はそろそろ……」
「いや待て行くなお願い一人にしないでマジで」
『あとは若いふたりに任せて』みたいなノリで帰ろうとする妹を引き留め、溜息をつく。
色々とおかしい。どこがおかしいかと聞かれれば、この人と出会ってからの全てだ。まともな箇所が存在しない。
常識がないとかではなく、さっきも言ったように、頭のネジがぶっ飛んでいるというか……
「ねえ。それじゃあ友達以上恋人未満から始めない?」
「友達は超えてるのかよ……」
「不満なの?」
絢瀬さんは少し頬を膨らます。何で無駄に可愛いんだよ。
「いや、なんつーか、初対面でしゅから……」
「あ、噛んだ♪可愛い♪」
あーもう!ペース狂うじゃねーか!噛んじゃう俺も俺だが。
「じゃあ今からデートをしましょう」
「は?」
「デートよ!初対面なのが問題なら、今からお互いを知ればいいのよ!」
「…………」
…………まじか。
俺は自分で自分の太股を抓った。微かな痛みだけが、これが夢じゃない事を教えてくれた。