捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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 今年も既に6分の1が終わりました。

 それでは今回もよろしくお願いします。


真夏の扉 ♯4

 

 夏休み最終日。

 まだ暑い日は続くが、夜になると、少しだけ秋の気配を感じるようになった。この時期の心地良く頬を撫でていく夜風は割と好きだ。

 夏休みの間は、毎週のように絵里さんに連れ回され、賑やかだったが、最終日くらいは静かに過ごすのもいい。

 そんな事を考えていたら、スマホが震え、着信を告げた。

 こんな時間に電話をかけてくるのは一人しか思いつかない。

「あ、もしもし、八幡君ぁぁっ!」

「…………」

「あたたた……」

「だ、大丈夫ですか?」

「ええ……大丈夫よ。テーブルに脛をぶつけて、床に買ったばかりの化粧水をばらまいて、少し落ち込んでいるだけだから……」

「そりゃあ、ご愁傷様です」

「まあ、済んだ事をいっても仕方ないわね。それより……夏休み最終日はどうだった?」

「別に……特にやる事もありませんよ。宿題は8月に入る前に終わらせましたし、出かける気にはならないし」

「さすが八幡君ね」

「褒めてるんですか?皮肉ですか?」

「もちろん、どっちもよ♪」

「まあ、そうでしょうね。そういや、何か用ですか?」

「声が聞きたかっただけよ」

「そうですか。じゃあ、目的は達成って事で……」

「ええ、一緒に楽しくお喋りしながら9月を迎えましょう」

「……拒否権は?」

「認められないわ!」

「はあ……まあ、いいですけどね。どーせ、あんま眠くないですし」

「ありがと♪」

「…………」

「…………」

「あの……」

「ご、ごめんね!何も考えずに電話しちゃったから、何を話せばいいかわからなくて!」

「そうですか……」

「あ、そういえばいい話題があるわ!八幡君の学校は文化祭はいつなの?」

「確か9月末だったような……」

「何でうろ覚えなのよ」

「いや、ほら……」

「ああ、わかったわ。ごめんなさい。でも元気を出して。私がいるから人生バラ色よ」

「いや、勝手に黒歴史にしないでもらえますか」

「違うの?」

「確かに楽しんだかと言われれば答えはNOです。しかし、殆ど参加していないという事は、殆ど働かずに済んだという事です。エネルギーを節約したという点におはいては、学校一の勝者はこの俺です」

「ハラショー……そういう考え方もあるのね」

「ええ。勝利の形なんて人それぞれなんですよ」

「納得はしたくないのに、これといって批判する要素がないわね」

「も、もうその辺の話はいいでしょう。てか文化祭がどうしたんですか」

「もちろん観に行くためよ」

「それは無理です」

「なぁんでよ!?」

「それ、矢澤さんの……それはさておき、流石にまずいでしょう。μ’sも有名になってきましたし」

「う~……」

「その……俺のどうでもいい文化祭より、絵里さんが一生懸命やってる事の方が大事なんじゃないかと……」

「え?あ、うん……そんな可愛い事言われたら、言うこと聞くしかないじゃない」

「ええ、それじゃあ……」

「あ、待って!次は……」

 お互いに自分勝手なテンポで進める会話は意外と弾み、気がつけば深夜2時を過ぎていた。





 読んでくれた方々、ありがとうございます!

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