それでは今回もよろしくお願いします。
「……………………え?」
絵里さんが振り返り、ポカンとした表情を見せる。そして、その表情のまま距離を詰めてきた。
「今、何て言ったの?」
「……絵里さんの事が……好きなんですけど」
「もう一回言って」
「……絵里さんの事が……好きなんですけど」
「ん?何か言った?」
「今日はもう部屋に戻って眠りたいです」
「ごめんなさいごめんなさい!つい何度も聞きたくなったのよ!」
「そ、そうですか……」
「やっと……言ってくれた……」
その目には涙が煌めいている。金色のポニーテールは冬の夜風にさらさらと揺れ、淡い香りを撒いていた。白く細い指は胸の前で組まれ、時折震えていた。
落ち着かない気分のまま言葉を搾り出す。
「その……返事は?」
「もちろん、OKよ…………それに……」
絵里さんは俺の首筋に手を回した。
「私をこんな気持ちにさせておいて、私以外の誰かのものになるなんて……」
見慣れたはずの瞳は、いつもより蒼く、妖艶に輝いていた。
「……認められないわっ……」
静かに唇が重なる。何もかもが今までと違い、優しく深い。温かな気持ちが流れ込んでくるみたいだ。
このまま一つになってしまうんじゃないかという幻想がちらついて、現実と混ざり合う。
やがて夢のような時間は途切れた。
離れていくその瞬間が名残惜しい。
「あの~、お二人さん?」
「「!」」
いつの間にか近くにいた東條さんと亜里沙と矢澤さんが、ニヤニヤしながら顔を赤らめていた。
「……いつからそこに」
「二人が修学旅行の話してた時やね」
ほぼ最初からじゃねーか。気がつかなかった俺も大概だが。
「お姉ちゃん、おめでとう!」
亜里沙は絵里さんに抱きついた。
「ありがとう、亜里沙。本当にありがとう」
「八幡さんも、不束な……ほんっとうに不束者の姉ですが、どうかよろしくお願いします!」
俺に向き直った亜里沙は180度に頭を下げる。おい、髪が地面に着いてるぞ。
「あ、亜里沙?そこまでされると、お姉ちゃんかなりショックよ。落ち込むわよ」
頬をひくつかせる絵里さんの肩に、矢澤さんがそっと手を置いた。
「まあ、よかったじゃないの。でも、アイドルとしての自覚も持っていてね……ぐす……おめでとう」
「にこっち、感動しすぎやろ……」
「ふん!目にゴミが入っただけよ!」
そのやり取りを微笑ましく見ながら、時間がかなりやばい事に気がついた。
「じゃあ、俺はそろそろ……」
「ええ、またすぐに会えるものね」
「ええ……もちろん」
「それじゃあ……んっ!」
突然、絵里さんが目を閉じ、ほんのり赤い唇を突き出す。
「はい?」
「ん!」
「あの……」
「ん~~!」
俺はそこまで鈍感じゃない。
今、絵里さんが何を求めているかはさすがにわかる。しかし……周りに人がいるんですが。チラチラとこっちを見ている観光客がいるんですが。
「比企谷君、女の子に恥をかかせたらいかんよ!」
「八幡さん、お願いします!」
「ああ、もう!男ならサクッといっちゃいなさいよ!」
「…………」
さっきの絵里さんに倣い、唇を重ねる。正直かなり下手くそだと思うが、今はこの幸せに浸る事にした。
やはり、自分からするのは初めてだからか、足がガクガクと震える。周りからは外国人観光客の囃し立てる声が聞こえてきた。
……こうして、俺と絢瀬絵里は恋人同士になった。
読んでくれた方々、ありがとうございます!