捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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ALL STANDARD IS YOU

 

 これまでの人生で、最大級のイベントが起こった修学旅行は、無事(?)に終わりを告げた。最終日は俺へのヒソヒソ話の絶えない一日だったが、大して気にはならなかった。どうも不思議な感覚に支配され、京都にいる事すらどうでもよかった。それぐらい非現実的な出来事が起こったのだ。

 しかし、時間が経つにつれ、実感が湧いてくる。

 あの絵里さんと恋人同士になったのか……。

 去年までクラスの片隅にて、誰かと交流を深める事もなかった俺が、どういうわけか、他校のスクールアイドルで元生徒会長のポンコツクォーター美少女と付き合っている。

 恋人の関係になった途端、これまでの事を思い出し、つい頬が緩む。かなり色んな事をした……されたな。

「…………」

 向こうの席にいる戸部と目が合った。

「ひいっ!」

 ……にやけるのは自重しよう。

 

「お兄ちゃん、おめでとう!!」

 玄関の扉を開けるなり、小町が抱きついてきた。珍しく、カマクラも出迎えてくれている。

「ど、どうかしたか?」

「またまたとぼけちゃって~。亜里沙ちゃんから聞いたよ!とうとう絵里さんと恋人同士になったんだよね!灰色の青春に光が差したんだよね。寂しいぼっち生活が終わったんだよね!」

「おい、そこまで……いや、その通りか」

「いやぁ、小町嬉しいよ。お兄ちゃん、大事にするんだよ?」

「あ、ああ……」

 目の端の涙を拭う小町に戸惑い、頷きながら、その頭を撫でる。

 ……今後はこの可愛い妹の心配の種を少しでも減らしてやろう。じゃないと兄の面目が立たない。

 

 翌日は日曜日だったので、お土産を携え、午前中から絵里さんの家を訪ねた。

 呼び鈴を押すと、出てきたのは亜里沙だ。

 亜里沙は俺の顔を見ると、にこっと笑って、とんでもないフレーズを口にした。

「あ、お義兄ちゃん!いらっしゃい!」

「がはっ!」

 いきなり心臓を撃ち抜かれた。あれ?何だこの胸の高鳴り……。

「ど、どうしたんですか?どこか具合が悪いんですか?」

「い、今何て言ったんだ?」

「どこか具合が悪いんですかって……」

「その前の前ぐらいだ……

「お義兄ちゃん、いらっしゃいって言いました……」

「ぐあっ!」

 再び大きなダメージを喰らう。いい意味で。

「ど、どうしたんですかっ!」

「な、何故、お義兄ちゃんなんだ?」

「だって、八幡さんはお姉ちゃんの大事な人ですよ!お義兄ちゃんって呼ばないわけにはいかないじゃないですか!!」

 亜里沙は目をキラキラ輝かせながら言ってくる。

「そ、そうか……」

「ダメ……ですか?」

 今度は上目遣いで不安そうに聞いてくる。

「いや、大丈夫だ」

 俺とした事が即決即断とか……しかも、実妹いながら妹萌えとか……さすがは亜里沙。

「八幡」

 義兄としてのささやかな幸せに浸っていると、冷たい声が飛んできた。恐る恐る亜里沙の後ろに目をやると、金髪ポニーテールが腕を組んで、覇気で俺を震えあがらせた。

「何をしているチカ」

「あ、朝の挨拶を……」

「ふぅ~ん?亜里沙に性的な目を向けていた気がするけど、気のせいかしら?」

「め、滅相もございません」

「八幡、私の部屋へ来なさい」

「はい」

 交際が始まってから初の家デートは、絵里さんの説教からスタートした。





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