捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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ずっと二人で… ♯2

 ラブライブ当日。

 空からは深々と雪が舞い降り、クリスマスムード漂う千葉の街を白く染め上げていた。会場へと向かう人々は、かじかんだ指をそれぞれに温めながら、ぞろぞろと移動していた。皆一様に吐く息は白く、今日は昨日に比べて一段と寒い気がした。

 昨日の内に座席の準備等をを終えた俺達は、今日は陽も昇りきらない内から、雪かきをしていた。まるで小型のブルドーザーにでもなったつもりで、懸命に雪を端っこへ押しやった。

 作業途中で絵里さんがこっそりと近寄ってきた。

『ありがとう』

 声には出さずにそう言って、すれ違いざまに、そっと手を重ねて会場へと向かっていった。

 とてもひんやりとしていた。

 しかし、確かな温もりを分け合えた。

 今日の絵里さんの雰囲気はいつもと違う。

 スクールアイドル・絢瀬絵里が100パーセントの状態でそこにいた。

 やっぱ流石だな。今もファンに手を振って……ファン?

 絵里さんが手を振る方を見ると、そこには雪かきが終わったと合図を出しているボランティアがいた。

 ……あぁ、もう。せっかく決まってたのに。ほら、ボランティアの人が気まずそうにしてるじゃんか。

 絵里さんは耳まで真っ赤にして、μ'sのメンバーと共に会場入りした。どうやらからかわれているようだ。

 俺は、その危なっかしくも凛とした背中に、今日の幸運を祈った。

 

『ありがとうございましたー!!!』 

 μ'sのメンバーが深く一礼し、観客に手を振る。割れんばかりの拍手は止む気配も見せず、パフォーマンスの凄さを物語っていた。

「すごい……」

 そんな由比ヶ浜の誰に言うでもない呟きにつられ、つい頷いてしまう。

 普段のポンコツは健在だったが、やはりステージに立つと、それを感じさせる事はなかった。まあ、要するにμ'sのステージは最高だったという事だ。

「「…………」」

 そして、さっきからチラチラと葉山や一色の視線を感じる。おそらく、プリキュア事件等の犯人がバレたようだ。まあ、この二人ならバラさないと思うが。

 絵里さんは色んな方向に満遍なく手を振り、最後にこっちを向いた。

 その姿は、今までで一番綺麗で、カメラなどなくても、脳内に焼き付いていく感覚がした。

 俺はμ'sがステージからいなくなっても、しばらく拍手を送り続けた。

 

 絵里さんに呼び出され、μ'sの楽屋まで行く。

 彼女は一人で待っていた。おそらく東條さんあたりが気を利かせてくれたのだろう。

 絵里さんの目はまだ潤んでいて、優勝の興奮の余韻があった。

「お疲れ様です」

「あなたも」

「……おめでとうございます」

「こういう時くらいは明るいテンションになりなさいよ」

 そう言いながらも微笑む絵里さんは、どこか満足げで、しかし何かを欲しがっているようだ。今の関係を考えると、気づかないふりなどできないし、するつもりもない。

 そして、自然と距離は縮まり、周りの音は波のように遠ざかっていった。絵里さんの紅く染まる頬に胸が高鳴り、自分がこの人を心から好きなんだと再認識する。

「…………」

「…………」 

 ようやく俺達は約1ヶ月ぶりのキスを交わした。




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