これだから夏は嫌なんだ・・・
作戦会議終了後、俺は会場の外のベンチに座っていた。
試合開始まで少し時間があったので、外の空気が吸いたくなったのだが・・・
「・・・思ったより寒いな」
「当然でしょう」
後ろから声がする。振り向くと、私服姿の三咲姉が立っていた。
「今は秋の終わり・・・もうじき冬なんですから。暖かくしないと風邪をひきますよ?」
そう言って、着ていたコートを俺に掛けてくれる三咲姉。
暖かいな・・・
「試合、観に来てくれたの?」
「えぇ。明日の決勝に備えて、今日は休養日になりましたから」
俺の隣に座りながら言う三咲姉。
「九美と戦えなかったのは残念ですが・・・チームとしては、今日を休養に充てられるのは大きいですね」
「決勝に向けて、しっかりコンディションを整えられるしな。俺達が勝っても黄龍が勝っても、今日の試合での疲弊は免れない。つまり明日の決勝は、コンディションの面でランスロットが優位に立てるわけだ」
「その通りです。だからと言って、油断など一切しませんけどね」
不敵な笑みを浮かべる三咲姉。
やれやれ、厄介なことこの上ないな・・・
「・・・まぁ、今はランスロットのことを考えても仕方ないか。まずは黄龍を倒すことに集中しないとな」
「フフッ、その意気です。八重も強くなっているようですし、楽しみですね」
「八重には悪いけど、兄として負けるわけにはいかないからな。絶対に勝つよ」
「それを言うなら、私は姉として負けられませんね」
立ち上がる三咲姉。
「七瀬が相手でも、八重が相手でも・・・私は負けません。優勝するのは我々です」
「いつまでも最強チームの座を守れると思うなよ」
俺も立ち上がり、三咲姉を見据える。
「優勝するのは俺達だ。首洗って待っとけ」
「えぇ、期待しています」
三咲姉はそう言うと、俺の肩を軽く叩いて会場へと向かっていった。
「七瀬さ~ん!」
三咲姉の背中を見送っていると、綺凛が小走りでやってきた。
「そろそろ時間ですよ。控え室に戻りましょう」
「おう、了解」
「あれ?そのコートどうしたんですか?」
「あぁ、これは・・・激励の証、かな」
「はい?」
首を傾げている綺凛。俺は笑いながら、綺凛の頭を撫でた。
「何でもないよ。行こうぜ」
「はいっ」
歩き出す俺達。
と、綺凛の表情がいつもより硬い気がした。
「綺凛、ひょっとして緊張してる?」
「・・・分かりますか?」
少しバツが悪そうな綺凛。
「実は、色々と考えてしまって・・・この戦いは、私だけのものではありませんから」
「・・・まぁな」
チーム戦というのは、メンバーの思いも背負って戦わないといけない。
その重みは、自分一人で戦う時とは比べ物にならないからな・・・
「確かに一人だけのものじゃないけど・・・だからこそ、一人で背負う必要はないぞ」
綺凛の手を握る俺。
「《鳳凰星武祭》の時、綺凛も言ってくれただろ。『一人で背負うな』って」
「あっ・・・」
「お前の側には、五人も仲間がいるんだ。気負いすぎんなよ」
「・・・ありがとうございます」
俺の手を握り返してくる綺凛。
「《鳳凰星武祭》では、準々決勝で負けてしまいましたけど・・・今回はそこを超えて、準決勝まできましたね」
「ここもあくまで通過点だ。優勝まで突っ走るぞ」
「はいっ!」
笑顔を見せる綺凛なのだった。
*****
『今回の《獅鷲星武祭》も、遂に準決勝までやってまいりました!』
シリウスドームに、実況の梁瀬さんの声が響き渡る。
『決勝でチーム・ランスロットと対戦することになるのは、チーム・エンフィールドなのか!?それともチーム・黄龍なのか!?注目の一戦です!』
大歓声が降り注ぐ中、俺達はステージの中央へと歩みを進める。
そこには既に、チーム・黄龍の面々がスタンバイしていた。
「おっ、来たね」
ニヤリと笑うセシリー。
「遅いじゃないか。こっちは早く戦いたくてウズウズしてんのにさ」
「やかましいわ、このルーズボラ女」
「何その新しい罵倒ワード!?」
ルーズでズボラな女、略してルーズボラ女・・・セシリーにピッタリだと思う。
「お前の二つ名、今日から《ルーズボラ女》で良いんじゃね?」
「嫌だよ!?何でそんなカッコ悪い二つ名を名乗らなきゃいけないのさ!?」
「いえ、セシリーにはピッタリだと思います」
「虎峰!?」
ショックを受けているセシリー。
ってか、虎峰が足に着けてるのって・・・
「・・・使うんだな、《通天足》」
「えぇ」
頷く虎峰。
『拳士は道具に頼ることを良しとしない』という考えの虎峰は、日々己の身体を唯一の武器として磨き上げていた。
その虎峰が、《通天足》という道具を使ってこの試合に臨もうとしている・・・勝利への執念を見た気がした。
「・・・負けないからな」
「それはこっちのセリフです」
お互いの拳を合わせる。一方・・・
「久しぶりだね、《叢雲》。それに《華焔の魔女》」
沈雲と沈華が、綾斗とユリスに向き合っていた。
「《鳳凰星武祭》では負けてしまったけど、今回は負けないよ」
「絶対に勝ってみせるわ」
二人の真っ直ぐな視線に、綾斗とユリスが面食らっている。
「・・・君達、何かあったの?」
「もっとこう・・・意地悪く絡まれるかと思ったのだが・・・」
「ハハッ、まぁそう思うだろうね」
苦笑する沈雲。
「自分達が優位な状況で、ひたすら相手を嬲る・・・それが如何に無様で愚かしいことか、身をもって知ったからね。七瀬がいなかったら、あの時どうなってたことか・・・」
あぁ、二人がリンチされてた時か・・・そんなこともあったっけか・・・
「それにそんな戦い方じゃ、いつまで経っても成長できないもの。七瀬にどんどん差をつけられて、そのことをようやく実感したわ」
溜め息をつく沈華。
「だからこそ私達も、今日まで必死に特訓を重ねてきた。あの時の私達とは違う。だから七瀬・・・」
沈華が俺を見据える。
「個人としては、私も沈雲もアンタに遠く及ばないけど・・・チームとしてアンタ達に負けるつもりは無いわ。この試合、勝つのは私達だからね」
「寝言は寝てから言えや痴女」
「だから痴女じゃないわよ!?」
「そんないやらしく胸の谷間を強調しやがって」
「強調してないから!そういう服なんだから仕方ないでしょ!?」
「隣のセシリーに謝った方が良いぞ」
「七瀬!?それじゃ私が貧乳みたいじゃん!?」
「あ、ウォン師姉・・・申し訳ありません」
「沈華!?アンタ喧嘩売ってんの!?」
「やかましいぞセシリー」
「あたっ!?」
暁彗がセシリーの頭を小突く。そして俺の方を見た。
「・・・師父の期待に応える為、俺は負けられん。手加減はせんぞ、七瀬」
「手加減なんかしたら、強制的に坊主にしてやるよ・・・セシリーを」
「何で私!?」
「・・・手加減しても良いかもしれん」
「大師兄!?」
悲鳴を上げるセシリー。と、八重が前に進み出てくる。
「・・・お兄様」
「八重・・・」
視線がぶつかる。ここまで来た以上、特に言うべきことはない。
あえて言葉をかけるとするなら・・・
「・・・お互いベストを尽くそうぜ」
「っ・・・はいっ!」
それだけ言葉を交わすと、俺達は所定の位置へと戻った。
「まさかあの双子が、揃って改心しているとはな・・・」
唖然としているユリス。
「七瀬、お前何をしたんだ?」
「色々あったんだよ。なぁ、クローディア?」
「えぇ、色々ありましたね」
クスクス笑っているクローディア。
「あの時は、根は悪くない方々だと思いましたが・・・本当に変わりましたね」
「性格の悪さは変わってないけどな」
とはいえ、もう以前のように人を見下したりすることはない。
だからこそ、こうして戦うとなると厄介なんだけどな・・・
「気を付けろよ、クローディア。本当に《鳳凰星武祭》の時とは違うぞ」
「えぇ、承知しています」
頷くクローディア。俺は皆を見渡した。
「アイツらは強い。それでも・・・俺達は負けられない。絶対勝つぞ」
「「「「「応ッ!」」」」」
改めて、全員の心が一つになる。
『さぁ、いよいよ試合が始まります!勝つのはどちらのチームなのでしょうか!?』
梁瀬さんの声と共に、機械音声が試合開始を告げるのだった。
『《獅鷲星武祭》準決勝、試合開始!』
どうも~、ムッティです。
シャノン「いよいよ黄龍戦が始まるね」
果たして七瀬達は勝てるのか・・・
そしてセシリーは坊主になるのか・・・
シャノン「それはマジで止めたげて!?」
まぁ冗談はさておき・・・
『刀藤綺凛の兄の日常記』の作者である綺凛・凛綺さんが、再び毎日投稿を始められました!
本編の方も再開したので、皆さん是非チェックしてみて下さい!
シャノン「主人公の綺優くんだけじゃなくて、周りの登場人物達も続々と人間を卒業してる感じだよね」
ホントそれな。
まさにThe Asterisk Warが始まる予感・・・
これからの展開が楽しみです。
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」