クインヴェールの翼も含めてアニメ化してほしい(切実)
「寒い寒い寒い寒い寒い・・・」
「どんだけ寒がってんの?」
身体を震わせる俺に呆れる綾斗。
俺・綾斗・クローディア・綺凛の四人は、アスタリスクの湖を走る船の上にいた。
アスタリスクの湾岸都市へ行き、そこから高速鉄道で綺凛の実家へ向かう為だ。
「七瀬さん、デッキじゃなくて船の中にいた方が良いんじゃ・・・」
「景色が見たい寒い寒い寒い・・・」
「そんなに寒がってまで見る必要あります?」
綺凛まで呆れている。
だって退屈なんだもん・・・
「ちょ、誰かユリス連れて来て・・・煉獄さんと松岡●造さんも連れて来て・・・」
「いや、ユリスも煉獄さんも暖まる為に炎出してるわけじゃないからね?松●修造さんに関しては炎出せないし」
「心を燃やしてもっと熱くなれよ!」
「お二人の言葉を合体させないで下さい」
「うぅ、クローディアぁ・・・暖めてぇ・・・」
「はいはい、ただいま」
後ろから俺を抱き締めてくれるクローディア。
クローディアが羽織っているコートの中に、デッキの椅子に座る俺の身体がすっぽり収まる。
「こんなこともあろうかと、大きめのコートを羽織ってきた甲斐がありましたね」
「あぁ、暖かい・・・クローディア、愛してる」
「フフッ・・・私も愛してますよ、七瀬」
「綺凛ちゃん、温かいブラックコーヒーいる?」
「いただきます、綾斗先輩」
何故か何とも言えない表情でホットブラックコーヒーを飲む二人。
いや俺にもくれよ。
「それにしても、綺凛の実家かぁ・・・どんなところなんだろうなぁ・・・」
「刀藤流の本家ですからね。立派なお屋敷を想像してしまいます」
「確かに。武家屋敷みたいな?」
「そ、そんなに期待しないで下さい・・・」
タハハと力なく笑う綺凛。
元気無さげなその表情が、俺は少し気になった。
「綺凛、何かあった?」
「え・・・?」
「いや、最近様子がおかしかったから。今も元気無さそうだし」
「・・・バレてました?」
「バレバレだわ」
「バレバレですね」
「バレバレだね」
「アハハ・・・」
俺達の答えに苦笑する綺凛。
やがて息を一つ吐き、俺達に向き直る。
「・・・今更ですが、実家に帰るのが怖いんです」
「怖い?」
「えぇ、父に会えるのは嬉しいんですが・・・大叔母様と顔を合わせるのが、少し気まずいと言いますか・・・」
浮かない表情の綺凛。
「大叔母様は父がいなくなった後、刀藤流の宗家を取りまとめて下さっている方です。とても素敵な方で、私も尊敬しているのですが・・・実はその大叔母様から、『すぐに戻って宗家を継いでほしい』と言われているんです」
「・・・それはつまり、星導館を退学しろということですか?」
「・・・はい」
クローディアの問いに頷く綺凛。
おいおい、マジかよ・・・
「大叔母様はあくまで臨時の代理であり、父は再度宗家の座に戻ることを固辞しているそうで・・・」
「・・・綺凛はそうしたいの?」
「い、いえ!私はこのまま星導館で、先輩達と腕を磨いていきたいと思っています!」
「それなら、自分の気持ちをちゃんと伝えれば良いじゃん。綺凛が尊敬する人なら、綺凛の気持ちを蔑ろにするような人じゃないだろうし」
「・・・普段ならそうかもしれません。ですが大叔母様は鋭い方なので、きっと私の心の迷いを見抜かれてしまうでしょう」
憂鬱な表情で水面を見つめる綺凛。
「私は・・・私の剣を、どう鍛えるべきなのか」
「それは・・・難しい問題だね」
言葉を選ぶ綾斗。
同じ剣士として、色々と思うところがあるんだろう。
「昨年の《鳳凰星武祭》準々決勝、私はユリス先輩を倒すことが出来ませんでした。それどころか隙を突かれ、綾斗先輩を足止めしてくれていた七瀬さんへの攻撃を許す始末・・・あの試合は、私のせいで負けたんです」
「いや、それを言ったら俺にだって責任が・・・」
「誤解しないで下さい。引きずってるわけじゃないんです」
俺の言葉に苦笑する綺凛。
「《鳳凰星武祭》閉幕後、私は私なりに鍛錬を積んできたつもりでした。もう二度と、仲間の足を引っ張らないようにと。ですが・・・」
唇を噛む綺凛。
「今年の《獅鷲星武祭》準々決勝のルサールカ戦、準決勝の黄龍戦、そして決勝のランスロット戦・・・私は何も出来ませんでした。四糸乃さんや《覇軍星君》の相手を、七瀬さんにお願いすることしか出来ず・・・決勝は途中でリタイアしてしまったんですから」
「それは綺凛ちゃんだけじゃないよ。少なくともルサールカ戦と黄龍戦は、俺達だってそうだったんだから」
「そうですよ。それにランスロット戦のリタイアは、私を庇ったせいで・・・」
綾斗とクローディアが声をかけるが、綺凛はゆっくり首を横に振った。
「私が何も出来なかったことは事実です。だからこそどうしても悔しいですし、もっと強くなりたい。その為に、私はこれからどうすれば良いのか・・・それを迷っています」
「つまり星導館で俺達と共に成長するか、実家に戻って刀藤流を極めるかで悩んでるってことか?刀藤流を極めたいなら、実家に戻った方が良いのは間違いないしな」
「えぇ。私としては、星導館を離れたくありませんが・・・今後のことを考えると・・・どうすべきなのか・・・」
「なるほどな・・・《芙堕落》の話を保留したのも、それが理由か?」
「はい。《天苛武葬》のように、純星煌式武装を手にすることも一つの道だとは思いますが・・・本当にそれでいいのかどうか・・・」
「まぁアイツも《通天足》を使うことに関しては、だいぶ葛藤したらしいしな・・・」
前に虎峰のヤツ、『これは弱さの証であり、浅ましさの自負なんです』なんて言ってたっけ・・・
綺凛も純星煌式武装を手にすることに、少なからず葛藤があるらしい。
「・・・私はもう、どうすればいいのか分からないんです」
か細い声で呟く綺凛。
やれやれ・・・
「クローディア」
「はい」
俺の意図を察したクローディアが、俺から離れる。
俺は綺凛の前に立つと・・・
「ていっ」
「あうっ!?」
思いっきりデコピンをかました。
「ちょ、七瀬さん!?何するんですか!?」
「一人でうじうじ悩まない。綺凛の悪い癖だぞ。伯父さんの時のこと、忘れたわけじゃないよな?」
「はうっ!?」
顔が赤くなる綺凛。
俺に抱きついて号泣したことを思い出したらしい。
「もっと早く相談しろよ。俺達は危うく何も知らずに、お前の実家にお邪魔するところだったんだぞ」
「あうぅ・・・すみません・・・」
「全く・・・まぁ、綺凛の悩みはとりあえず放置な」
「えぇっ!?」
「まずお前がすべきは正座だ」
「何でですか!?」
「いいから正座しろロリ巨乳!」
「は、はいぃっ!」
ロリ巨乳へのツッコミも忘れ、その場に正座する綺凛。
俺は腕を組んで仁王立ちした。
「まず《鳳凰星武祭》の準々決勝・・・確かに綺凛がユリスを倒してくれていれば、俺達は勝てたかもしれない」
「・・・はい」
「でもその前の五回戦で、綺凛が五和姉と六月姉を止めてくれてなかったら・・・俺達はあの試合で敗退してた」
「っ・・・」
息を呑む綺凛に構わず、俺は言葉を続けた。
「《獅鷲星武祭》だってそうだろ。綾斗と綺凛が時間を稼いでくれなかったら、俺は封印を解けずに暁彗に負けてた。綺凛が身体を張ってクローディアを守ってくれなかったら、俺達はあの時点で負けてた。お前がいなきゃ、優勝は有り得なかったんだ」
綺凛の頭を撫でる俺。
「強くなりたいっていう気持ちを否定したりしないけど、『何も出来なかった』なんて二度と言うな。メチャクチャ感謝してるんだぞ、相棒」
そう言って笑うと、綺凛の目から涙が零れ落ちる。
「あ、ありがとうございます・・・うぅ・・・」
「あらあら、泣かないで下さいな」
「俺達だって、綺凛ちゃんには感謝してるんだよ」
綺凛の目元をハンカチで拭うクローディアに、微笑んでいる綾斗。
とりあえず言いたいことは言ったので、次の問題に移るとしよう。
「説教が終わったところで、綺凛の悩みについて考えようか。意見ある人いる?」
「いや、ノリが軽くない?」
苦笑する綾斗。
「まぁ、無いわけじゃ無いけど」
「え、マジで?」
「綾斗、何か考えがあるのですか?」
「うん、一応」
俺とクローディアの問いに頷くと、綾斗は綺凛に視線を移した。
「綺凛ちゃん、凄く申し訳ないんだけど・・・今からご実家に連絡して、帰るのは何日か遅くなるって伝えてくれないかな?」
「え・・・?」
キョトンとしている綺凛。
「そ、それは構いませんが・・・どちらへ行かれるおつもりですか?」
「んー、あんまり頼りたくない相手ではあるんだけど・・・」
困ったような笑みを浮かべる綾斗。
「とりあえず皆、これから俺の実家に行こうか」
「「「・・・はい?」」」
首を傾げる俺・クローディア・綺凛なのだった。
どうも〜、ムッティです。
《空白の二年七ヶ月》を経て再び動き出したこの作品ですが、内容的にまだ11巻なんですよね・・・
シャノン『その前に《空白の七ヶ月》が二回もあったからね。そりゃ進まないわ』
とりあえずサクッと進めて、早く《王竜星武祭》編にいきたいかな。
シャノン『流れとか考えてあるの?』
大まかな流れは考えてあるよ。
七瀬が『ピー』して『ピー』と『ピー』が『ピー』みたいな・・・
シャノン『いやピーピーうるさいわ!そこ伏せるなら最初からしゃべんないでよ!?』
ご期待に添えるか分かりませんが、楽しみにしていただけると幸いです。
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン『またねー!』