“異世界“から生きる 【凍結】   作:アストラ9

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露払い

 

 今、俺の目の前には怒涛の表情の一人の女子、後ろにはいつだかの緑服の少年が尻餅をついている。そして目の前の少女はその手に鉄の鎖が取り付けられた棒状の物を握っている。まあその先についている鉄球型の物体は先ほど俺が弾いた為に消失してしまったのだが。

 

「邪魔を……しないでください!!」

 

 目の前の少女が怒鳴る、まるで俺が何か悪い事をしたかのように。っくくく、そんなに俺の気分を持ち上げるなよ、高ぶっちまうだろう?

 

「まあ、そっちの方が楽しいからいいんだが」

 

 全く、あの扉を開けてからは新しい事が多くていい。精霊使いに別世界、悪魔に後ろの面白い少年。本当に新しい世界は飽きさせるという事をしない。あの箱庭世界とは大違いだな。

 

「楽しい……ですって?」

 

 ふと少女の雰囲気が変わったのを感じる。なんだろうか、もしかして怒ったのか? だとしたらその質問に対しての答えはただ一つだ。

 

「ああ、楽しいね。この世界は面白い事が多くて飽きさせない」

 

「ふ、ふざけないでください!! そんな理由で私の邪魔をしないでください!!」

 

「ほう、ならばどんな理由なら邪魔をしていいと言うのだ? 正義感から、とでも言えば満足か?」

 

「っく……もう、いいです。貴方も、死んでください」

 

 それだけ言って彼女は此方へ全力疾走して来た。ふむ、なんだろうか、先程鉄球の奴は破壊した筈なんだが……何故もう一本の鎖ハンマーが手に握られているんだ。予備なんてあったのか? というか予備を何処にしまっておく場所があったんだ。もしかして体内か?

 

「いや、それはそれでありかもしれない。エリクサーを胃の中に入れておけばもしもの時に役立つかもしれないな。なあ、お前もそう思うだろう?」

 

「ッ⁉︎ 答える義務は、ないです!!」

 

 そう言って俺が再度断ち切った鎖を見るや否や、柄の部分を投げ捨てる。ふむ、武器を自ら投げ捨てるとは、如何なものか。俺だったら、まずしないね。例え刃先が欠けていたとしても、使えるならば使うまでだ。捨てるならば限界まで、ギリギリの所まで使い果たしてから、だ。

 

「まあそれは人それぞれだから俺が関与する事ではないが。というか俺に敵対する者の心配をする必要もないな」

 

 全く、今の俺は何をやっているんだ。いけないな、この戦いがつまらな過ぎて、つい現実逃避をしてしまっていた。いけないいけない。

 

「あ、あんたは一体……」

 

 後ろの少年が声を掛けてきた。

 

 ふむ、この反応からすると、どうやら俺の事は覚えていないようだ。まあ人生が変わっているから気付かれないのも分かるが。ついでに言うならば最初にコッチに来た時は一瞬で消し炭になったからな。なんとも無念である。

 

 っと、思考に浸るのはいい加減にしよう。少年が可哀想だ。

 

「……ん、待てよ? 俺の名前とは一体……」

 

 なんだっただろうか、なんて言葉は言わない。目の前の少年に言っても、期待出来るような答えは出ないだろう。

 

 それに分からないのであれば分からないなりに、何か対抗策を講じればいい。なに、簡単な事だ。今までと何も、何も変わりはしない。

 

 ふむ、だとしたらどんな名前にしようか。残念だが俺はこう言った名前決めなどというセンスがない。誠に残念ながら。自分のセンスを信じて見ても、何も意味はないだろう。

 

 だとすれば俺に出来るのは、過去の産物を発掘する事だけである。まああの世界にいる人間の名前など、誰のも知らないが。

 

 だが俺にはあの世界で戦闘した奴らの名前を知っている。砂の巨人、ユニコーン、セイレーン。ランチュラに墓荒らし、ついでにルシファーというのも知っている。これらの中から適当に選べばいいだろう。

 

「いや、そうだな……俺の名前、強いていうならそれは——」

 

 その先の名前を言おうとした時、生憎ながら邪魔が入ってしまった。勿論それを行なった人物とは、先程戦闘(という名の露払い)を行なっていた青髪の少女である。少しほったらかしにし過ぎたか。

 

「すまないな、お前の相手を疎かにしてしまって。続き、やるか?」

 

「!!! 馬鹿にして……!!」

 

 ぬぬぬ、何処で間違えてしまったのだろうか。俺は至って普通に、紳士的な対応とやらをして見たのだが。やはり酒場の男の言葉は間違いだったとでも言うのか。それとも俺の技量がたりない……?

 

「いや、もう面倒だからいいや。とりあえずお前は寝ててくれ」

 

「何を言って——」

 

「『ドルミナー』」

 

 直前に『エルフ』を召喚し、魔法を発現可能にしておく。このエルフが覚えている『ドルミナー』は意外と便利で、助かっている。

 

 流石にボス級には効かなかったが、あの世界の大体の敵、人間にこの魔法は効いた。俺がやっても、彼女が使っても、だ。恐らくだが、素質等は関係ないんじゃないかと思われる。あくまで推測だが。

 

「な、なに、これ……急に、眠気…が…?」

 

「おお、良かった。ちゃんと効いてくれたんだな。魔法」

 

「魔…法……?」

 

「もしかしたらこの世界の住人には魔法無効化とかあるんじゃないかと心配していたが、取り越し苦労だったようだ。検証の協力感謝する、名も知らぬ少女よ。お詫びと言ってはなんだが、ゆっくり休んでくれ」

 

 まあ草っ原の上にだが、と一言加えるのを忘れない。これが紳士的な対応、と言うやつなのだろう? 上手く実践出来ている筈だ。

 少女が眠りに入ったのを確認し、軽く欠伸をする。よし、久しぶりの新世界だ。楽しませて貰うとしよう。

 

「主公様、お召し物が汚れていますわ」

 

 召喚精霊のエルフが俺の袖についた泥を手で払ってくれた。その時の彼女の表情はとても、それはとてもうっとりしていた。泥を眺めるのが趣味なのだろうか、随分と個性的である。

 

「ん、ああ、すまないな。だがいくら(泥の事が)好きだったとしても、俺(についた泥)の事まで気にしなくてもいいと思うぞ。俺はお前(の趣味)の事を尊重させて貰う」

 

「ッ⁉︎ だ、ダメです主公様! 私なんかの事を気にしては…!」

 

「いやいや、何を言う。お前は俺の(召喚精霊)だぞ? お前のような奴を気にするのは当然の事だろう」

 

「……!」

 

 勿論、それを怠れば戦力低下に繋がる恐れがある。戦場で使い物になってくれなければ意味がないだろう。

 コレにうってつけなのが、仲間の"あふたーけあ"だと、酒場のマスター並びに俺を捕らえた憲兵に聞いた事がある。まあ上手く実践出来ていないのは分かるが、それはいずれ治るのを待つとしよう。

 

 というか、もしかしてやり方を間違えたのだろうか。召喚精霊なのに、何故か彼女の顔が紅い。もしかして精霊にも熱とかあるんだろうか。

 もしもあるとするのならば、今すぐ戻さないと危険かもしれない。コレも仲間の"あふたーけあ"である。

 

「エルフ、お前は一旦待機スペースへ戻った方がいい」

 

「え? ど、どういうこ」

 

「俺はお前の身が心配なんだ。少し休んでくれ」

 

 流石にフラフラになってまで戦って貰おうとは思っていない。まあ時には無理して戦う必要もあるが、それは今ではない。それに精霊使いの強さはその手札の数にある。切れるカードが一枚減った所で、俺が死に至る程追い詰められる訳じゃない。

 

「とりあえず、一旦帰っててくれ。必要になったらまた呼び出させて貰う」

 

「……ホントですか?」

 

「ああ、本当だとも」

 

「絶対に?」

 

「絶対だ」

 

「絶対の絶対に?」

 

「絶対の絶対だ」

 

 何を疑う余地があるのだろうか。戦力として活用出来るのは極限まで使う、それが俺だと言う事を覚えていないのだろうか。と言うよりも彼女は使い果たされるのをご希望なのか? だとすると少し、呼びにくくなるのだが……。

 

「主公様、それじゃ、お身体にお気をつけてッ!」

 

「ああ、お前もな」

 

「それと、浮気も厳禁ですからねッ!」

 

「…? あ、ああ。分かった」

 

 それを聞くと、彼女は嬉々と帰ってしまった。全く、意外に忙しい奴だったな、エルフ。

 それと、一つ気になった事がある。彼女が言っていた、言葉に単語だ。その疑問が俺の中にあるんだが……

 

「なあ少年、"浮気"ってなんだ?」

 

「……リア充爆発しろぉぉおおおお!!!」

 

 振り向くとそんな叫び声と共に彼は崩れてしまった。意味は分からないが、やはり面白い奴だ、この少年は。精々、俺の暇つぶし材料にはなる事を期待させて貰うぞ、少年?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っくそ、羨ましいくらいのいちゃつきを見せられたぜ、コンチクショウ!」

 

「……?」

 

 先程の戦闘劇から数分後。現在俺は目の前の少年、スバルと情報を交換を行うつもりでいた。まあ先程から何故かスバルはイライラしているのだが。

 

「それで、お前名前は?」

 

「名前?」

 

「ああ、名前だよ、な・ま・え!」

 

 ふむ、そう言えばそうだった。というか先程のアレでなんて名乗るか忘れちまった。どうしたものか。

 

 いや、敢えてここは"精霊使い"から考えてみるか。よし、この単語から連想される名前は……

 

「やはり面倒だな。もうめんどくさいから"セイ"でいこう」

 

 因みに決め方は、頭文字と最後尾の文字をくっつけただけである。

 

「という事でスバル、今から俺の名前は"セイ"だ。宜しく頼む」

 

「今から……? んー、少し気になる所ではあるが、敢えて無視をしよう!」

 

「そうだな。それじゃあスバル、この世界について教えてくれ」

 

「え? 俺のこの反応にはスルー?」

 

 スバルは口をあんぐりと開けたまま此方を見つめてくる。何をやっているんだ、お前は。

 

「いいから話せ。話はそれからだ」

 

 スバルは頭を掻きながら話し始めた。

 

「え、あ、うん。分かりました。……っていっても、俺に話せる事は余り無いんだけど」

 

「なに? お前はこの世界の住人だろう? 何故自分の世界の事を知らない?」

 

「え、えーと……っていうかセイの方がこの世界の事を知っているんじゃないか? そんな服を着ているんだし」

 

「何を言ってる。異世界人である俺がこの世界を知っている訳がないだろう。地理や歴史、言語など全てに於いて俺は何も知らないのだぞ?」

 

「へー、異世界人ねー。異世界…人……?」

 

 そしてスバルは目を見開いて、えぇーー⁉︎ と叫んだ。どうしたのだろうか、いきなり。

 

「お、お、お前、今なんて⁉︎」

 

「何って、地理や歴史……」

 

「その前!!」

 

「異世界人である俺……?」

 

「そう、それ! あんた異世界人だったのかよ!!」

 

 そう叫んで、くぅ〜!! と一人で舞い上がっている。全く、随分と忙しく奴だ。まあ、そこが面白そうではあるが。

 

「もしかして、もしかしちゃうとセイも日本人だったり!?」

 

「残念だが、私は日本人ではない。ご期待に添えれなくて悪かったな」

 

「マジかよッ! ちょっと期待しちゃったじゃないか!!」

 

 そこで顎に手をおき、数秒後にハッとなるスバル。

 

「いや、でもそれって他にも異世界があるって事じゃ……! やっべぇ超行ってみたいだけど」

 

 スバルは非常に高いテンションで騒ぎ始める。まあ他の世界があると知った時、とても感激するのは俺も分かる。現に今の俺はこの世界にワクワクしているからな。だがな、スバル。お前のその言葉を無視する事は出来ない。

 

「セイの世界って一体、どんなとk」

 

「その話はするな、スバル。面白くないから」

 

「え……?」

 

 本当に、あの世界はつまらない。毎回同じゲームをやらせて、一体何が楽しいと言うのだ。働き詰めで人生を一周させても、後に残る物は何も無い。レベルも上げていないから発展度にも貢献できないしな。まあ強いて残る物を言うならば、働き尽くしたという記憶と、つまらなかったという後悔の念だけだろうか。

 

「も、もしかして悪い事聞いちゃったか…?」

 

「いや、別に悪い事ではない。まあ俺のテンションはダダ下がりになったがな」

 

「すいませんでしたぁぁあああ!!!」

 

 地面に顔をつけて見事な土下座を見せてくる。ふむ、そこまで重大なことではないんだが。まあ面白いからいいか。

 

「さてと、それじゃあそろそろ真面目な話でもしようか」

 

 その言葉を発するだけで、場の空気は引き締まった。こういうチームプレイという奴は、実に面白い。やはりこの世界に来たという事が間違いではなかったのだな。

 

 俺たちは情報交換を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまずはこの世界に来た経路について、だ」

 

「ああ、了解。俺はさっきも名乗った通り、ナツキスバル。平成生まれ平成育ちのゆとり世代! 近所のコンビニで飯を買って帰ってたらいきなりこの世界に異世界召喚された、悲劇の主人公さッ!」

 

「へえ、そうだったのか。それは知らなかった」

 

「え、あ、ちょ、真面目に受け取らないで貰えます⁉︎」

 

 スバルが此方へ批難を飛ばしてくる。全く、酷い話だ。まさか嘘を混ぜてくるなんて……。

 

「ま、どうでもいいけど」

 

「どうでもいいの⁉︎」

 

「とりあえず俺の方も。俺は旅人として、ある程度モンスターを狩っていたんだが、それが終わったから市長の所まで行って引退しようと思っていたんだ。だがその途中に今までには無かった扉を見つけた」

 

「ほうほう」

 

「で、扉を開けたらこの世界にいた」

 

「ほうほう、つまり俺と一緒で、気付いたらこの世界にいたって事だな。よかった〜、同じ境遇の人がいて」

 

 ああ、そうだな、スバル。同郷の者ではないが、仲間がいて心強いというのはありがたい。モチベーションは時に、戦闘にまで関係してくるからな。

 

「それじゃスバル、一つ質問いいか?」

 

「おうとも、なんでも聞いてくれ」

 

「俺が眠らせたあの少女、アレは誰だ?」

 

 その時、スバルの表情が凍った。くく、やはりビンゴか。さてと、コレをきっかけにいろいろ聴きだすとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 あー、やっぱりイチャイチャは難しすぎるぜ! なんで皆がコレをジャンジャン描けるんだ。その才能を分けて貰いたい! ……って位酷い話でしたね。次は頑張ります。
 
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