星の下、海の上   作:ハルベルト

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 皆様、はじめまして。ハルベルトと申します。
 当作品を閲覧していただき、ありがとうございます。
 最後まで書ききるつもりですので、お付き合い頂ければと思っております。



1. -The Biginning-

 舞鶴に敷設された海軍の本部。その一室に一人の青年が呼び出されていた。

 彼の名は星野(ほしの) 拓海(たくみ)。中肉中背で身長は177、右頬から右耳の辺りにかけて傷痕がある、20才の海軍少佐である。

 彼の目の前には中将の階級章を着けた、およそ50代後半の初老の男が重厚な机の前に座っており、机の両脇には女性と少女が立っている。

 女性の方は長い栗色の髪を後ろでまとめ、白を基調とした体型がよくわかる服に赤いスカート。首元には桜の形を模した絞章を刻んだ金属が、鈍い黒金の輝きを放っている。

 少女の方はボブカットにした灰茶色の髪、腋から胸の横あたりまでが見える白い上着に、胴には黒い防具を着けている。赤いスカートの下にはスパッツを履き、額には両脇から角のような突起がある鉢金を着けている。

 

「一応資料を渡しておくし、概ねの話等は聞いているだろうが、言っておくぞ」

 

 中将は星野に書類を渡しながら、心底嫌そうな顔をしながら、説明を始めた。

 

「横須賀鎮守府の前任の提督は、普段からかなり好き勝手にやっており、艦娘に対しては()()として扱っていたらしい。憲兵を複数抱え込んでいたため此方への情報が遅れ、更に何の前触れもなく前任は失踪、艦娘達は外部から来る者達を敵視しているので、結局詳細は憲兵達の尋問次第で明らかになるだろう。録でもない話しか出てこんだろうが」

 

 彼は中将の話を聞きながら、時折手元の資料に目線を落とす。

 

「次の提督として送った男は、なかなか頭の切れる奴だった。だが、艦娘から攻撃を受けて三ヶ月の重症。本部としては頭を悩ましていたところで、新人の()()()()()()()を通してやった。……と言ったところだ」

「詳細な説明をドーモ。後は俺に任せてもらえねえかな、佐伯(さえき)中将殿?」

 

 皮肉めいた笑みを浮かべる彼の上官に対するものとは思えない言動に、佐伯中将の右後方にいる女性が眉根を寄せるが、中将は苦い顔を浮かべるだけで咎める様子は見られない。

 

「文字通り君の()()に期待しておこう」

 

 それだけ言って星野に退出を促すと、彼は敬礼をしてからクルリと向きを変え、扉に向かって歩き出す。

 

「努々忘れるなよ? もしも貴様の着任中、鎮守府の艦娘達が本部に危害を加えた場合には」

「分かってるさ」

 

 退出しようとした彼の背中に向け、佐伯中将が言葉を投げようとすると、遮るように淡々とした声が返ってきた。

 

「俺がいる限り、そんな事はさせねえ。だからアンタも『取引』は守れよ? まあ…」

 

 立ち止まった青年はそこで言葉を切り、首を横に向け目だけを中将に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負の感情が含まれた鋭い目を。

 

「今後もアンタに対する気持ちは変わることはないけどな」

「……」

 

 無言の中将を尻目に、星野は部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星野が出てしばらくすると、佐伯の左にいる少女の腰回りや右手に、光の粒子のようなものが集まる。数秒もしないうちに、集まった光の粒子はある物に変化していた。

 腰回りのそれは、昔の航空母艦の大型ミニチュアを用途別にバラバラにした後、背中側の基部から武装として運用できるようにしたもの。右手には集まった粒子は、クロスボウへと変化しており、所々に空母の意匠が施されている。

 人々はこれらの武装を"艤装"、艤装を装備できる彼女達を"艦娘"と呼んだ。

 

「止めろ、大鳳。大和もおかしな真似をするなよ?」

 

 中将に大鳳と呼ばれた艦娘は、ちょうどクロスボウに矢をつがえたところであった。

 

「何故です? 中将」

「そうです。中将との間に個人的な何かがあったのだとしても、彼の態度や発言は上官に対するものではありません。それに彼のあの様子だと謀反や」

「造反はない」

 

 側にいる二人の意見をねじ伏せるように、中将は重圧を感じさせる声を出す。

 

「……中将、大変恐縮ではありますが、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「許可する」

「彼と一体何があったのですか?」

 

 大和と呼ばれた女性の質問に彼の顔が歪む。しばしの沈黙の後、中将は溜め息を吐きながら立ち上がり、壁に掛けてある一つの表彰状の前に歩いていく。

 

「大和」

「はい」

「悪いがその問に答えない事も『取引』の一つだ」

「……承知いたしました」

 

 問いかけた大和のみならず大鳳も若干納得いかない様子だったが、それ以上問い詰められるわけもなかった。

 

「……彼との『取引』を少し話しておこう。一つ目は彼が私に対して謀反や造反をしない代わりに、阿賀野達に見てもらってる人物に、危害が加えられないようにする事だ」

 

 彼のその発言に二人の顔が怪訝なものになる。

 

「その人物を人質にとも、彼のことをどうとでもできるとも、思ってはおらん。更に先ほどの内容もどちらかと言えば、その人物が()()()()()()()彼は私に手を出さないで()()()()()、というところだ」

「……仰ってる意味がよく分かりません。まるでその人物に危害が加えられた途端、中将の身が簡単に損なわれるような御様子ですが?」

 

 大鳳が首を傾げながら尋ねると、大鳳に向き直った佐伯中将はゆっくりと頷いた。

 

「そうだ。彼にとっては私の命を取るのは簡単なことだ。更に言うなら彼と話をするから、いつもは別々に私の護衛に就くお前たちを呼んだのだ」

「そんなに危険な男なら尚更っ!」

 

 声を荒くし、クロスボウを改めて握りなおした大鳳を、中将は片手を挙げて静止させ、首を横に振った。

 

「未知数の相手にお前たちを向かわせる気はない」

「……人間相手にまるで未知の深海棲艦を相手にしたような対応ですね」

「話はここまでだ、大和。君は下がり給え」

 

 未だ怪訝な顔をした大和がそう言うと、中将は再び椅子に座りながら、強引に大和に退室を命じた。

 

「……了解しました。本部所属艦娘大和、下がります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大和が退室し、しばし室内が静まりかえる。先に破ったのは中将だった。

 

彩海(あやみ)

「はい、()()()

 

 いつの間にか艤装が消えた大鳳……いや、佐伯 彩海は寂しそうな顔をしていた。

 

「幻滅しただろうね? 信頼していると豪語したお前たちにすら秘密の『取引』をしたうえ、まるで弱気な私を見て」

「……少しだけ。それでも、これ以上詳しくは話せないのでしょう? それにお父様には様々な功績もあります。彼に対する攻撃を止めさせたのも、私の身も案じてのことでしょう?」

「……すまん」

「お気になさらないで下さい。少しお疲れのようですので、お茶をお持ちしますね」

 

 娘が部屋を出ると、彼は一つ重い溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カッカッカッ! 流石の貴様もお疲れのようじゃのう!」

 

 中将一人になったはずの部屋に、しわがれた老婆のような声が響く。その声に彼は全く動じた様子はない。

 否、彼の目付きは鋭くなり、怒りの感情を含んでいる。

 

「黙れ。この悪魔が」

「おお、怖い怖い。流石は海軍No.3。何かされる前に下がるとしようかのう」

 

 そして部屋には空気の重みを増した静寂が訪れた。

 彼は先ほどの表彰状に目を移す。

 

「『人類の救世主、艦娘誕生の功績を讃えて』……か」

 

 呟きながら、中将は目を瞑って思い返す。

 

 

 

 

 

 突如現れて人類を襲い始めた謎の存在、深海棲艦。意思の疎通を図るも出来ず、頑丈な体はレーダーには映らず、第二次世界大戦を彷彿させる武装を持ち、クジラのような形態から人型まで存在する。彼らは獲物を探すように海を駆け回り、航海する船舶を襲い、時には沿岸部に上陸し、種類によっては()()()()

 日本の自衛隊は名を改め日本防衛軍となり、沿岸部に住む人々を守るために多くの命が散った。人間同士の戦争用(さいしんしき)の兵器の利点がほとんど意味をなさず、次々と餌食となっていったからだ。辛うじて倒した深海棲艦を調査したが、判明したのは人類の技術では解析しきれないこと。そして、一部がほぼ人間の情報(DNA)を持っていることだった。

 しばらく後に、全世界がほぼ一斉に深海棲艦からの大規模な侵攻を受けた。日本は北海道の太平洋側から東京の沿岸部までが壊滅、人口は4分の1になった。

 

 

 

 

 

 最早、人類の未来は絶望的だった。

 

 

 

 

 

 しかし、突然に大きな契機が訪れた。

 

 

 

 

 

 その一つが艦娘である。人々の中から選ばれた少女達が、それぞれ別々の軍艦の記憶を持つようになり、栄誉として称号を受け継ぎ、深海棲艦と互角以上に戦える超人(ヒーロー)である。

 

 

 

 

 

 それが()()()の人々の認識である。中将についても偶然に最初の艦娘の誕生に立ち会った、とされている。

 中将はそこまで思い返すと、天井を見上げて自嘲する。「何が()()だ」と。

 

 

 

 

 

 そして現状の問題に意識を戻す。

 人々から英雄視されている艦娘達だが、当然のように快く思わない者達が、特に軍部に少なくない人数はいるのだ。前任の提督もそういった輩の一人だった。

 

(彼は一体、どう考えているだろうか?)

 

 佐伯中将が星野小佐と顔を合わせて言葉を交わすのは、今日が4度目だった。2度目に会った時に中将が艦娘についての考え方を尋ねると、次のように答えた。

 

 

 

 

 

 

「敵じゃないなら、どうでもいい」

 

 

 

 

 

 

 そんな彼が3度目には、艦娘を指揮する提督を希望する旨を伝えてきた。その時の目は敵意もあったが、それ以上に決意のようなものを感じたのだ。一体どんな心境の変化があったのだろうか?

 

(まあ、前任のような事にはならないように気を付けておくか)

 

 そこまで考えたところで、そろそろ娘が戻ってくるとみて、机の上の書類に取り掛かり始めた。




※佐伯中将と大鳳(佐伯 彩海)は実の親子です。
 また、謎の多くの部分は、今後の展開で明かしていく予定です。

2017/01/19部分的に修正
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