星の下、海の上   作:ハルベルト

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 亀の歩みですが、1週間に1話は進められるように善処いたします。


2. -Admiral Apointed-

「ここか……」

 

 拓海が辞令を受けてから2日目の朝。大きな塀の前で黒塗りの車から降りた彼は、眼前に佇むそれをしかめ面で見ながら呟いた。

 今は大きめなサングラスを掛けており、白い軍服を着用してるので辛うじて軍人だと分かるが、服装を変えてしまえばチンピラにしか見えないだろう。

 彼がやってきた横須賀鎮守府と呼ばれる施設は、艦娘が深海棲艦と戦うための前線基地であり、艦娘達は普段はここで生活している。以前は艦娘以外にも提督、憲兵隊、技術部といった面々がいたのだが、現在は技術部の中でも提督から冷遇されていた一部のみ、となっている。

 彼が顔をしかめている間に、運転手は荷物であるスーツケースを下ろしていた。

 

「荷物、ありがとう」

「はい! では、少佐殿! 自分は戻ります! ご武運をお祈りしています!」

「ああ」

 

 車がその場から去っていくのを見ながら、彼は1ヶ月前のある光景を思い出す。

 

 

 

 

 

 前任と共に車に乗り込んだ少女。その今にも消えそうな背中を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 門にたどり着いた彼は早速奇妙な物を目にした。

 6mほどのクジラのような形態を持ち、体のほとんどが黒光りする金属質に、歪とも言える灰白色の歯が並んで、生物としても機械としても異様な存在。

 目があった部分は太い金属製の杭が打たれ、頭部は陥没したり穴が空いたりし、腹部は大きく切られて中身が抜かれ、そこからは青い体液のようなものが流れ出た跡がある。

 ソレは深海棲艦の中でも、人間の捕食専門とされる種類、駆逐イ級eaterの死骸だった。

 

 

 

 

 

 最初に確認された深海棲艦は、2m前後のイ級だった。ソイツらは水平線の向こうからでも、タンカーや客船、軍艦等に真っ直ぐ襲いにきた。現在では彼等の聴覚は非常に優れていて、大型の原動機系の音を聞き分けている、という結果が出ている。

 船舶を襲って沈めるのだが、それでは終わりではない。逃げるために海に飛び込んだ人々を、片っ端から()()()()()()。ただし、人間一人分を喰った個体は、それ以上は人々を襲わずに海域を離れていった。

 予測は簡単に出来た。『それ以上は体の大きさの問題で、食べれなかっただけなのだ』と。故に当初は深海棲艦に喰われてより、破壊の余波の方が死亡者数が多かった。運良く助かった人々も少なくなかった。

 しかし、eaterが出てくると一変した。このeaterは戦闘能力は皆無で、船舶の破壊活動には参加せずに離れ、海に入った人間を10人以上は喰う種類なのだ。彼等の捕食行為により、行方不明者も死傷者も断然に上がった。喰われた時に死ななくても、出血多量の死亡者も多かった。

 異様な姿に変えた人類の脅威は、通行を拒むかの如く若干の腐臭を放ちながら、門の前に転がっている。

 

「……これはまた大したもんだ」

 

 様子を概ね見た星野は、唯一空いたその脇を気にする事なく通り、鎮守府へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間に響く砲撃音。直後、前方の地面に向かって何かが高速で飛来し、爆発を起こす。

 煙と土煙が上がる中、離れた茂みから影が五つ現れる。現れたのは女性や少女達だったが、それぞれシャベルや角材を持っており、とてもではないが穏やかな雰囲気ではない。彼女らの服装は作業着や軍服でもなく、それだけで艦娘だと判別できた。

 

「長門さんの砲撃はやっぱスッゲエな!」

「うん。やっぱり戦艦の砲撃はいつ見ても凄いね」

 

 焦茶色のボブカットから四つのアンテナが突き出た、丈の短い青のセーラー服に白いプリーツスカート、高校生位の艦娘が、爆発の威力に興奮しながら言う。

 彼女に同意するのは中高校生位、三つ編みに赤いリボンを着けた黒髪に、黒いセーラー服と赤いスカーフの艦娘である。

 

「よし、龍田。≪≪誤射≫≫でケガした新任を死なない程度に≪≪応急処置≫≫して、|本部≪むこう≫に送り返す準備をするか」

「天龍ちゃんったら優しいのね~」

 

 天龍と呼ばれた艦娘は高校生位で、菫色の髪をショートカット、左目には眼帯、頭の両側には何かのパーツのような艤装が二つある。ワイシャツの上には黒いジャージのような服、鼠色のスカートを履いている。彼女は獰猛な笑みを浮かべ、両手で指をポキポキ鳴らしている。

 龍田は天龍と同じ位の背格好で、髪は同じ菫色のセミロング、左頬に小さな泣き黒子があり、頭上にはリング状の艤装が浮いてる。ワイシャツの上は胸元が空いた黒いワンピースのような服を着て、口調は若干間延びし、目を少し細めて口元は笑みを含んでいる。

 

「皆さん、油断や慢心は禁物ですよ。まだ姿を確認出来ないのですから」

「赤城さんは心配性だな。あれだけスッゲエのが間近で炸裂したんだぜ?」

 

 焦茶色の髪の艦娘が赤城と呼んだ艦娘は、艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、弓道着のような白い上着、赤く丈の短い袴を着た、20歳前後ほどの女性だった。

 赤城は頭を振りながら、言ってきた艦娘を諭すように言う。

 

「確かに、摩耶さんの言うとおり、あれで平気な訳は無いと思います。ですが万が一を考えておけば、何かあった時に少なくとも取り乱すことは無いでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ。流石は一航戦の赤城だな」

 

 突然聞こえてきた男性の声に、その場にいた艦娘達に動揺が走る。土煙が晴れた後には抉れた地面が見える。その2,3歩の場所にいた拓海に、外傷は見当たらなかった。

 ただし、軍帽はズタズタ、掛けていたサングラスには罅が入り、袖や裾は所々破れ、スーツケースには土が付着してる、という何とも締まりきらない姿だった。

 

「中々の威力だな。長距離砲撃ギリギリの位置から射撃、イ級の死骸を狙い精度を上げる。長距離射撃の()()か。この前の奴は艤装制御装置の範囲外で、()()()()()()だったな」

 

 彼は自身の見解を話しながら、茫然としてる赤城達に向かって歩いていく。そして5,6歩の位置で立ち止まり、口角を上げて肩をすくめた。

 

「ま、ド派手な歓迎ありがとよ。俺が今日からこの鎮守府の提督になる星野だ。よろしくな」

 

 『提督』の言葉に一瞬で艦娘達は我に帰る。そして直ぐに赤城が土下座をし始めた。

 

「申し訳ございません!! 罰はこの赤城が受けますので、どうか他の子達は!!!」

「あ、赤城さん!」

「ま、待ってくれ…下さい、提督!! アタシがきちんと周辺確認しなかったからです!! 責めを受けるのはアタシだ…です!!!」

「ま、摩耶ちゃんは悪くないわ~!」

「待って下さい提督! 赤城さんも摩耶さんも主力を張れる一人です! 僕は駆逐艦で、他にも代わりが出来る子がいるから! だから罰は僕だけにして下さい!」

「ちょっ、時雨ちゃん!?」

「はい、スト~ップ!!!」

 

 赤城を筆頭に次々と膝を折る面々に、拓海は大声を上げて制する。

 

「とりあえず、まず土下座を止めて立ってくれ。このままじゃ落ち着いて話す事もままならない」

 

 艦娘達を立たせた彼は、頭の痛くなる状況にこめかみを押さえつつ、罰の形について思案した。

 こういう流れで『罰を与えない』という選択肢は直ぐに消した。艦娘達に「後でとんでもない見返りを求められる」と思われ、猜疑心を深める可能性が高いと判断したからだ。しかし、ある程度の恥ずかしい思いをさせないと、今度は逆に嘗められる場合がある。

 

 

 

 

 

 だが、あまり長く黙っている訳にもいかないので、艦娘達がゆるゆると立ち上がったのを見計らい、思考する時間を稼ぐためにも口を動かす。

「まず、先ほどの言い方で分かった奴もいるだろうが、俺は堅っ苦しいのが苦手だ。だから素の調子で話させてもらうし、君らも無理に言葉を正さなくていい」

 

 彼は摩耶から目線を外さずに言うと、彼女は顔をこちらに向けたまま目だけを逸らす。

 

「艦娘達の名簿は本部にあるものを確認させてもらったから、呼称は覚えている。まず、赤城」

「は、はい」

「次に、摩耶」

「う…はい」

「天龍」

「…おう」

「龍田」

「は~い」

「時雨」

「…はい」

 

 全員の呼称と顔を確認したところで、考えがまとまり始めた彼はいよいよ本題に入る。

 

「この場にいない長門を含め、お前達はチームで動いている。一人の失敗が仲間の危機に繋がる事を再確認してもらうため、連帯責任で罰を受けてもらう」

 

 その言葉を聞いた途端、五人はまるでこの世の終わりのような表情をした。

 

「では全員、目を瞑ってもらう」

 

 そして、拓海はスーツケースからあるモノを取り出した。




※イ級eaterは原作ゲームにはいません。
 深海棲艦には人間を食べるタイプがどうしても欲しかったのですが、艦これアーケードのサイズ等を考えたら小さ過ぎたのです。
 ですが、全て一律に(一種類でも)大型化すると、人類への脅威度が減ると考えた結果、こうなりました。
 二次創作だから大丈夫、だよね(汗)?
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