星の下、海の上   作:ハルベルト

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皆様、更新が遅くなりまして、すみませんでした。
ちょっと現実(リアル)で資格試験や手続きで……言い訳ですね、ハイ。
今回はいよいよ食堂に入りましたが、ここで残念なお知らせが。
皆が大好きな()()()は出ません。


4. -Befall Trouble-

 食堂に入った拓海は、目の前に広がる光景に驚いていた。

 床や机、椅子は何かのシミで酷く汚れている。予想済みでもあった光景であるが、それは全体の半分のみ。他は床は板を綺麗なものに張り替え、机や椅子は新しく木から作ってあり、その上に白い無地のシーツが引いてある。しかもまだまだ途中なのか、床板の古い部分と新しい部分との境目には、ブルーシートが被せてある。厨房側にあるカウンター席はもうすっかり新品同然だった。

 遠巻きに経過観察を行っていた部隊からは、不届き者どもを捕縛後に鎮守府を出入りした者はいないとの事だったので、張り替えているのは間違いなく鎮守府にいる者達だろう。彼らが日曜大工めいた事をやって此処までになったのだろうと思うと、努力の跡に目頭が熱くなる思いだった。

 

 

 

 

 

 今は四人の艦娘が新品になった机と椅子で、お互いに喋りながら食事を取っており、少し離れた厨房には三人の艦娘の姿が見える。

 入り口で全体の様子を見ていた拓海は、詳細を見るために食堂の中を歩き出した。

 その足音に食事をしていた四人の艦娘が気付き、思考停止した様子が見て取れる。が、すぐにその表情は恐怖の色を帯び始め、食事を中断し急いで片づけ始めた。彼は食事を続けるように促すために近づくが、その前に一人の艦娘が動く。

 

「…あっ!?」

 

 青いラインの入った袖のない白のセーラー服、青色の足元まで伸びた長い髪の艦娘、五月雨が立った瞬間に、右前方にバランスを崩す。しかしバランスを崩したのとほぼ同時に、拓海はその右肩を引っ張るように支えた。

 少し目を丸くしていた彼の眉間に、少しずつしわが寄っていく。そんな様子には目もくれず、五月雨は掴まれた肩を見ながら、顔を青くして体を震わせる。

 

「おい、だい」

「いやぁっ!?」

 

 拓海が言い終わるよりも先に、彼女は思いっきり彼の手を振り払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッと気づいた五月雨が振り返った途端、彼女の顔から更に血の気が引いていく。

 彼女と共に食事をしていた三人の艦娘達も、顔面蒼白になる。

 厨房から顔を出した柿色の服に三角巾とエプロン姿の艦娘は、今にも泡を吹きだしそうな様子。

 拓海を追って食堂に入った鳥海と楓は思考が止まり、その場で固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女たちの視線の先には、残した食事の直撃をもろに受けた拓海の姿。彼が少し目を丸くしていたのも束の間、自らの状態をのんびりと確認し始めた。

 

「……これはダメだな」

 

 ポツリとそう漏らした彼が視線を前に戻すと五月雨と目が合う。膝から全身が震え始め、口からカタカタという音を鳴らし、目元から涙が溢れそうな彼女。

 

「提督! 五月雨の失態の責任はこの白露型一番艦、白露が受けます!」

 

 五月雨の隣の席から立った艦娘が、二人の間に割って入るように両手を広げて飛び出す。

 

「だから、お願いですから……五月雨の事を見逃してください!」

「し…白露……姉さん……」

 

 彼女は怯えこそあるものの、目を反らす事無く真っ直ぐに拓海を見る。一緒にいた他の二人の艦娘、村雨と涼風は手を固く握りしめて固唾を呑んでいる。

 

「じゃ、今から暫くは俺の補佐役な」

 

 彼が汚れた上着を脱ぎながら軽い調子で言うと、その場にいる面々の表情が凍りついた。

 

「ああ。艦娘相手だと秘書艦って言うんだっけ? ややこしいな」

「ま、待って下さい、提督!」

「白露姉や五月雨の代わりに、アタイが罰を受けるよ!」

 

 向かい側にいた二人が声を上げるが、彼は聞いてる様子もなく、持ってきていたスーツケースを開いてゴソゴソと何かを探し始める。

 

「楓さん!!!?」

 

 突然上がった鳥海の驚き声に、拓海以外の視線が一点に集まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その先には右手に持った大型スパナを背中まで振りかぶり、背を向けて屈んでいる彼に向かって走っていく楓の姿。

 

「くたばれっ!!!」

 

 まともに受ければ怪我は免れない凶器を、未だスーツケースの中を探っている頭に向け、躊躇無く振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その結果は彼女の…否、見ていた誰もが予想してない結果に終わる。

 

「おお、あったあった」

 

 まるで緊張感を感じさせない彼は、後ろを一瞥もせずに左手でその一撃を止めていた。右手にはスーツケースから出した青いタオルとポリ袋。脱いだ軍服の上着を袋の中に入れてから、やっと背後にいる彼女の方を見る。

 

「ッ!? 放しやがれ!!!」

 

 スパナを両手で持ちながら蹴りを放つ…前に立った拓海に、足の裏で膝を抑えられる。

 

「このっ!!!?」

 

 凶器から手を放して襟首をつかむ…前に片手を取られて引っ張られ、後ろ手に回られる。

 

「ク、クソッ!!!」

「へえ」

 

 振り返って飛び掛かる…前に片足を引っ掛けられ、尻餅をつかされる。

 立ち上がろうとした彼女の眼前に向かって掌が突き出され、当たる数cm手前で止められた。

 

「う……あ……」

 

 足腰の力が一気に抜けたように、その場にへたり込む姿を見て、彼は軽く息を吐きながらタオルで頭を拭き始める。

 

「で、白露」

「!!!? はい」

「もうすぐ始まる就任挨拶の後はよろしくね」

「……はい」

 

 茫然と成り行きを見ていた白露に拓海が声をかけると、直ぐに我に返るがその返事はあまりにも弱弱しかった。次々に目の前で起きた事態に、幾分か落ち着きを取り戻し始めた五月雨に顔を向けると、視線に気づいて頭を深く下げる。

 

「も、申し訳ありません!!!」

 

 その様子を見ながら、タオルで汚れを一通り拭いた彼はゆっくりと歩み寄る。両手こそ下ろしていたものの、五月雨を庇うように立つ白露の一歩手前まで来ると、片膝をついてゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「まず()()()()()をそのままにした事の方が問題だと思うが?」

 

 その台詞に彼女は思わず驚愕のために顔を上げ、その後ろに回り込んだ村雨と涼風も含む面々が目を丸くする。

 

「五月雨、どういうこと!?」

「まさか今朝の哨戒の時に痛めたの?」

「さっき白露姉がアタイ達確認取った時に大丈夫だって言ってたじゃねぇか!?」

「えっと…それは……」

 

 詰め寄る三人と、しどろもどろになる五月雨を見ながら、拓海は再び自分の荷物を調べる。

 すぐに取り出された真っ白な包帯を、村雨と涼風を見ながら突き出す。

 

「やり方、分かるか?」

「えっと……はい」

「じゃあ、任せた」

 

 おずおずと両手を出した村雨に包帯を渡すと、未だに腰を抜かしている楓に向き直る。

 

「悪かったな。ちょっとやり過ぎた」

 

 歩み寄って手を差し出すも、彼から逃げるように後退りながら彼女は力の無い声を出す。

 

「ア、アンタ……ホントになんなんだ?」

 

 問われた拓海は周囲の怯えや諦めの視線を見回し、自分の手を見つめてポケットに突っ込む。

 

「新しい提督。今はそれで十分だろ?」

 

 彼女にそう答えた後、厨房の方に向かって歩いていく。向かって来た彼に対し、厨房からずっと様子を見ていた艦娘達は慌てる。

 

「あ、そのままで良いから」

「え?」

 

 出迎えようとしたのを先に制し、カウンターの手前に立つ。

 

「確か艦娘の那珂だったな」

「は、はい!」

()()()()()()()()だろうが、蒸しタオルを作っておいてくれ」

「は…へ?」

「あと、今から食堂(ここ)に鎮守府の職員を集めさせているから」

 

 気の抜けたような返事をする那珂に構わず、拓海は言いたいことは終わったとばかりに踵を返す。

 

「ちょちょ、ちょっと待って提督!」

「ん?」

 

 静止の声に立ち止まり、後ろを向いた彼に彼女はよくわからないといった表情で尋ねた。

 

「時雨ちゃんから聞いてるってどういう事ですかー?」

「……ああ、悪かったな。それは忘れてくれ。代わりに頼み事があるんだ」

「頼み……命令ではなく、頼み事ですか?」

「そう、頼み事」

 

 そう言って、薄く笑いを浮かべた彼は自分のほほの辺りを指でたたく。

 

「『俺が顔に落書きしたメンツは戻り次第、時間前に消していい』ってな。ついでに()()()()()()()()()()も蒸しタオルを渡してくれよ」




皆の人気者の間宮さんも鳳翔さんも伊良湖ちゃんも、最低でもしばらくは出てきません。
当作品の鎮守府の厨房では、艦娘や職員が数名がかりの当番制で動いてます。


秘書艦になった白露ですが、ヒロインではありません。
でも、あの元気さは好きです。
艦これ始めたときの秘書艦は電で、五月雨ではありませんでした。
でも、あの背伸び感は好きです。
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