ほとんどの人が年末は忙しいでしょうが、言い訳になりませんね。
僕の時間の使い方が悪いからでしょうが……。
では、今回は厨房からのお話です。
あれから最初に食堂に入ってきたのは、甚だ嫌な顔をした天龍と仏頂面をした摩耶、そして二人の後ろに目が笑ってない龍田が続く形だった。
しばらくすると何人かが食堂に入ってくる。彼等は入口にいる村雨と涼風から拓海の言伝てを聞き、座る者もいれば立つ者もいる。
食堂に入ると直ぐにタオルを渡された赤城は、離れた場所から様子を見ていた拓海を見つけると、一人の艦娘を伴って近づく。那珂と似た服装に背中まである黒のストレートヘア、彼に向けるキリリとした眼、そして研ぎ澄まされた雰囲気を持った彼女に、姿勢を崩していた彼も背筋を伸ばす。
「星野提督。こちらは提督の代行を務めている1人、神通です」
「……はじめまして提督」
紹介された神通は、一瞬怪訝な目で彼を見てから軽く頭を下げる。
(なにか気に障ることでも……いや、そういえば……)
拓海は軍服の上着を脱いでからそのままの格好だったため、今は黒い光沢のあるTシャツ、履きっぱなし下衣服は所々ボロボロで汚れている。
おそらく、赤城からの紹介が無ければ不審者と見られていただろう。
「あー、こんな格好だけど……よろしく」
そう言って右手を前に出すが、彼女はその手を一瞥もすることなく話し始める。
「現在哨戒任務に金剛、榛名、翔鶴、熊野、夕立、山風の以上6名が出撃しております。また翔鳳、古鷹、川内、吹雪の以上4名については、現在入渠中のため集まることができません」
「……なるほど、報告お疲れ様」
彼が右手を引っ込めながら集まった者達を見渡すと、いつの間にか時雨が紛れていた。見られた事に気付いた彼女は不愉快そうな目付きで睨み返し、それを見て不安そうな表情になった他の艦娘達と何やらヒソヒソと話始めた。
その時、側に立て掛けておいた荷物から物音がする。突然の事に赤城と神通が驚く中、彼はスーツケースからカタカタと音を立てている小箱を取り出し、何も躊躇すること無く開ける。
その途端、小さな影が拓海の顔面目掛けて飛び出す。しかし、彼はいきなりの事態に対して動揺する素振りを欠片も見せずに、片手でネズミ程の大きさのソレを非常に馴れた動作で捕らえる。
捕まえたソレは人のような形状をしていた。ただし、3頭身の身長は10㎝前後と非常に小さい。
「やれやれ。相変わらずやんちゃな妖精だぜ」
拓海は呆れながらもソレが羽織ったどてらの後ろ襟をつまみ、鉢巻をした頭をもう一方の人差し指でグリグリと押す。
妖精。主に西洋の伝説に出てくるその名称は、目に見えない自然霊を身近に感じ易くするため、様々なイメージを当てはめたものとも言われる。元々は神々を零落させて伝聞させた存在であったり、精霊のように崇拝される存在だそうだ。
しかし、拓海がつまみ上げている小さな妖精は「愛着が湧きやすいから」ということで、そのように呼ばれているだけである。人に近しい形をして、様々な役割を持っている。深海棲艦との戦いに助力してくれる彼等だが、詳しい正体は未だに不明なのだ。
「提督。その子は何の妖精です? 一見すると工廠妖精に見えますが」
「ああ。万能工務妖精とのことだが……詳しくは直接聞いてくれ。俺は妖精達と意思疎通が出来ないからな」
神通の問いかけに、拓海は妖精を弄る手を止めて自らの掌に乗せ、彼女に向けて差し出す。彼女が手を伸ばすと、妖精はぴょんぴょんと身軽に肩まで跳ねる。
神通の横で興味深そうにその妖精を見ていた赤城が彼に尋ねる。
「艦娘の妖精等では無いのですね?」
「ん? 工作艦明石の妖精はもう別にいるだろ?」
そう。
艦娘とは対応する妖精が契約を交わした女性なのだ。
深海棲艦と戦えるのは妖精達のおかげであり、今やこの国には必要不可欠な存在だった。
神通の肩に乗った妖精は、何かを伝えるように身振り手振りをし始める。
「成る程。分かりました」
少ししたら話が終わったらしく、彼女の肩から妖精は飛ぶようにジャンプする。
拓海の顔面目掛けて。
「むぐっ!?」
今度は対処出来なかった拓海の顔面にへばりつき、そのまま鼻を踏み台によじ登って頭の上で鼻息を荒くして胡座を掻く妖精。彼は少し眉間にシワを作りながら、涼しい顔をしている神通に顔を向ける。
「……何だって?」
「移動の際は頭の上に乗せて行って欲しいそうです」
「……」
何も言う気が無くなった彼が時計を見ると、もう指定した時刻の5分前だった。
少し前に堂々と食堂に入ってきた長門は涼風から蒸しタオルを受け取り、拓海を一瞥してからすぐに顔を拭く。そんな彼女の様子と時間を見計らいながら、彼は横にしたスーツケースの上に乗って食堂を軽く見回す。
「気をつ」
「ちょっと待った!」
急いで姿勢を正し、号令を掛けようとした長門を制する。
「正式な集会の積もりは無いし、疲れている者達もいるだろ? なるべく早く済ませるから、堅苦しくして体力を消耗させるのも悪いし、座っている者はそのままで良い」
その台詞に少しばかり皆がざわめくが、彼は気にせずに喋り始めた。
「まず、はじめまして、だ。俺の名前は星野拓海、今日からここの提督になる。階級は少佐。よろしく頼む。
今はちょうど良さそうな台が見つからなかったので、荷物の上から話をさせてもらう」
ざわめいていた艦娘や職員達だったが、直ぐにその視線に別な感情が溢れ返る。
憎悪、憤怒、恐怖、更には侮蔑。
それらにどれだけ気付いたのか否か、彼はこう続けた。
「『軍人らしくない格好や言葉使い』とか『少佐風情』とか『若造』とか、まぁ他にも色々あるだろう。
だから先ずは1つ。俺はこんな風に喋っているが、特に直すつもりはない。諸君も口汚かろうが言葉使いが悪かろうが結構。慣れない喋り方をして、疲れてもらっては困るからな」
そこまでで言葉を切り、集まった者達の反応を窺う。特に大した反応が無いのを確認した彼は次の話に移る。
「そして2つ目。前任者はどうしてたか知らんが、今日からは俺のやり方に従ってもらう」
半分以上の艦娘達が重苦しい雰囲気を纏うのを感じながら、1回大きく息を吐く。
「……とは言え、諸君にも様々な要望があるだろう。よって週に約1時間、艦娘から3名、技術部から2名、そして二日後に来る憲兵隊から1名、そして俺を混じえた7名による会議を設ける。」
これにはあちこちから再びざわめきが起こる。
「お願い聞いてもらえるって事?」
「私達の事、ないがしろにしないかしら?」
「どうせ提督の独壇場になるさ」
「こうやって安心させる手だよ」
「前の提督は聞きすらしなかったな」
「聞くだけで何も反映しないわよ」
「ちなみにだ!」
拓海が一際大きな声を出すと、全員少しばかり驚いて静まり返る。
「会議を開く一番の理由は、報告書等では俺が気付かない部分を知るためだ。現状把握が主な目的であって、要望を聞くのは次いでの話だということを理解して貰おう」
良い意味でも
「3つ目だが、二日後に憲兵隊と艦娘二名がここに着任する。艦娘二名は残念ながら『予備戦力』と言ったところだ。しかし、この鎮守府で寝食を共にする仲間であるというのを理解した上で、迎え入れてもらいたい。
長くなってしまったが、以上で俺の着任の挨拶と今後の簡単な予定とさせてもらう。予定を中断させた者達はすまなかったが、もう各々の予定に戻ってもらって結構だ」
そこまで言った拓海は床に降りると、五月雨の側に居る白露に視線を向ける。
「白露、まずは鎮守府の案内をしてもらうぞ」
「分かりました」
彼女は何か思案中の様子だったが、呼び掛けられると直ぐに表情を固くして歩き出す。
「お待ち下さい」
が、その間に神通が入り込んだ。一見すると非常に冷静な様子の彼女だったが、先ほどよりも鋭い目を向けている。
「どうした、神通?」
「本日の提督代行として動いていたのは私です。予定にも影響しますので、詳しい説明をお願いします」
「あ、さっき言いそびれてたな。とりあえず、白露は1週間は借りるぞ」
「ずいぶんと急な話ですね。彼女にも幾つかやってもらうことがある予定だったのですが、
トゲのある言い方をして、彼女は食堂の出口へと足早に歩き出す。
「神通、待て」
呼び止められた彼女は大変不愉快そうな表情を隠すこともせずに、振り返ってへの字にした口を開く。
「何か? 直ぐに
「組み直しする前の予定を見たいから、俺達も一緒に行かせて貰おうか」
そう言って拓海は未だに誰も出る様子の無い食堂を出るために歩き出す。
その背中に敵意ある視線を注がれながら。
僕と契約して魔法少女になってよ (◕‿‿◕)
って話がありましたね。
妖精さんの何人かは艦娘の格好しているところから、今回の発想に到りました。
まあ、色々と無理もありそうですが。