星の下、海の上   作:ハルベルト

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 今度は前回の投稿から数ヶ月以上経ってしまった。
 なかなか納得が行かなかったとはいえ、亀のような……いや、ナメクジのような更新速度ですね。
 ちょっと気合いを入れ直さないと……。
 とりあえず、前回からの続きです。


6. -Ruthless Words-

 鎮守府のよく使われた廊下を3人の人物が進んでいる。

 後尾を歩く白露の顔は、食堂を出る時からずっと困惑の色を浮かべている。

 その前には拓海が妖精を乗せている。興味深そうな様子で左右に視線を動かし、時折後ろの白露にチラリと視線を送る。

 若干距離をおいて先頭を歩くのは無表情の神通。しかし、纏っている雰囲気は不機嫌としか言い様の無いものである。そんな彼女がある部屋の前で止まって後ろを振り返る。

 

「こちらの部屋で執務をしております」

 

 目的地の部屋には『倉庫』という文字が書いてある表札が掛かっていた。

 白露は時化に揺れる小舟のような、神通は波1つ無い海上の軍艦のような気持ちで、拓海の反応を待つ。そんな二人の心境を余所に、彼は部屋の扉を無造作に開けた。

 

「……へぇ」

 

 窓1つ無い部屋の真ん中には質素な事務机。その上には幾つかの纏められた書類の束。両脇にはところ狭しと言わんばかりに書類の入った本棚。側にはパイプ椅子と扇風機が1台置いてある。

 

 

 

 

 

 拓海の頭の中には言いたい項目、聞きたい項目が山ほど出てくるが、一つを除いて全て飲み込むことにした。

 

「では最近の予定、及び近況を示した資料がどこか教えて欲しい」

「了解しました」

 

 短く返答した神通は部屋に入ると、机の引き出しに入っていた一冊のファイルから一枚の用紙を取り出す。

 

「こちらが現在の予定です。近況については机の上にある資料全てになります」

「ん、じゃあ予定表を見せて貰おう」

 

 出された用紙を手に取って、じっと確認をする拓海。しばらくすると、用紙を見るその表情が段々と険しいものへと変わっていく。

 そこへ後ろに回り込んでいた神通の手刀が、一切の躊躇も無く首に向けて放たれる。武術の達人が見れば、十分に洗練された動きと評するだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがその一撃は、ちょうど上体を倒した拓海に当たること無く空を切る。内心驚いた神通だが、顔には出さずに1歩距離を取る。

 

「ところで、神通。古鷹と吹雪について聞きたいんだが……」

 

 ほぼ同時に、拓海は反転しながら体を起こし、持ち上げた用紙越しに声をかける。呼ばれた彼女は今度こそ驚きを隠すことができなかった。

 

(躱したのはマグレでしょうか? いいえ! 当たる寸前まで動く様子はなかったし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! そう、この人は間違いなく私の手刀に気づいていた! なのにどうしてそのことを責めないのでしょうか!? 一体何を企んでいるのでしょう!!!?)

「……白露。神通に声かけてくれ」

「……えっ!? あっ、ハイ!」

 

 入り口から半ば茫然と様子を見ていた白露だったが、突然の指名に慌てて我に返る。背後の慌てぶりに、やっと神通も思考の海から引き戻される。

 

「……申し訳ございません。考え事にふけってしまいました」

 

 頭を下げる彼女に持っていた予定表を机の上に置き、ヤレヤレといった様子で神通の横を通って倉庫を出る。

 

「とりあえず俺は覚えた。予定の変更を頼む。時間が無いから後でまた来る」

「えっ!? 『覚えた』って…」

「白露、次に行くぞ」

 

 通り過ぎ様に言われた内容に驚いて振り返る神通だが、彼は言葉を返すこと無く、廊下に立っていた白露を伴って歩いて行った。

 一人部屋に残された神通は溜息を1つ吐くと、誰に言うでも無く呟く。

 

「あの格好といい、食堂の挨拶といい、今といい……随分と勝手気ままな方ですね。

 ……まあ、あとをお願いしますね」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 白露の案内である部屋の近くに到着した拓海はその場に立ち止まっていた。

 バキンと何かが壊れる音がしたのでその方向に視線を向ける。スーツケースの持ち手が自らの手の中で壊れていた。

 落ち着こうと一度頭を振って、再び十数m離れた『ソレ』を見る。

 

 

 

 

 

 彼等の前方、廊下の奥に見える扉は革張りされており、更に金属製の細かな意匠のきらびやかな装飾が各所に施されている。その扉の先にあるのが執務室である。

 拓海の胸中は穏やかではいられなかった。

 

(前任は大佐だったな!? 佐伯中将(あのおとこ)の執務室より豪勢な造りをしてるぞ!?)

 

 そんな事を思いながら、立ち止まった白露を置いて歩いていく。彼女が僅かに震えていた事に気付いてはいたが、 拓海は自分から聞く気は毛頭無かった。

 が、残り5mほどのところで足を止めた。頭の上の妖精が飛び降りたからだ。扉を指しながら拓海に向き直り、ドヤ顔で自らの胸を叩く。

 

「……任せろって事か?」

 

 こちらの言ってる内容が分かっているのか、コクコクと懸命に頷いている。彼の表情が不審なものになると、ムッとした妖精はクルリと後ろを向いてゴソゴソと動く。

 そして、数秒もしない内にその前方にほとんどそっくりの妖精が立っていた。唖然とする拓海を余所に、2体は4体に、4体は8体に……と増えていく。そして100を越えたであろうところで、唯一鉢巻をした最初の一体が扉と反対側に走る。

 リスのように軽快な動きで白露の肩まで登り、ぺちぺちと頬を叩く妖精。我に返った彼女は目の前にある光景に呆気にとられるも、しきりに叩いてくる妖精の意思を伝えるために口を開く。

 

「えっと……分身が10000体まで出来る…そこそこ離れても動かせる…清掃と換気をする…内装に希望があったら話して欲しい……って言ってます」

「……あー、うん。

 じゃあ、部屋を少し見てから決めるからちょっと待っててくれ」

「は、はい」

 

 

 

 

 

 部屋の中は扉ほどでは無いが、床には紋様の入った絨毯が敷かれ、隅には明らかに金のかかりそうな壺が2個、更に立派な額縁に入った絵画が壁に飾ってある。入って左には2つソファーがテーブルを挟むように置かれ、天井からは煌めくシャンデリアがぶら下がり、右には高価そうな小物のある重厚そうな机、その側にはアンティークな古時計がある。

 拓海にとっては非常に落ち着かない部屋の様相だったが、椅子と窓だけは不釣り合いなほどに普通だった。

 肝心の執務に関わる物としては、先ほどの机にあるPCやオフィス用品、1つだけのほとんど中身が入ってない本棚位である。

 

 

 

 

 

 部屋を十分に確認した拓海が扉を開けると直ぐ足元には先ほどよりも数を増やした妖精達が、思い思いに座ったり跳ねたりと自由気ままな様子だった。視線を変えると、妖精にじゃれつかれて笑みを浮かべる白露の姿が目に入った。が、彼女は見られている事に直ぐ気付き、緊張と恐怖で顔を強張らせる。

 

「あぁ。邪魔してしまったな」

「いっ、いえ! そんな事はありません!!」

「そうか」

 

 そして拓海はこちらに気付いた妖精に部屋の物を順繰りに指差しながら伝える。

 

「天井のシャンデリアと入口の扉は廊下に合わせるように交換。隅にある壺と壁の絵、そして古時計は壊れないように包んで部屋の外に置いてくれ。あとはそのままにして清掃も頼みたい」

 

 内容を把握した妖精がピシッと敬礼をすると、分身の妖精達も続くように敬礼してから部屋の中へと駆け込んでいった。その様子を見て幾分か頬を弛ませた拓海は白露達のところへ近づく。が、2,3歩進んだところで何かを思い出したように立ち止まる。

 

「ついでにこれも部屋に置いておいてくれ」

 

 そう言って彼が指差したのは、持ち手の壊れたスーツケースだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 執務室を妖精の分身に任せ、再び頭の上に妖精を乗せた拓海は、白露の案内で工廠へ向かって進む。

 だが、その途中で前方を歩く二人の少女を見つける。

 

「あれは、確か吹雪型の艦娘達か?」

 

 彼が白のセーラー服と紺のスカートを着た二人の後ろ姿を見て呟くと、白露は何かを思い出したかのように慌て始める。

 

「あ、あれは、多分……白雪ちゃんと深雪ちゃんです!」

「……」

 

 彼女の声に後ろを振り返った二人は、二人から目を逸らさない拓海と目が合うと、慌てたように早足で去っていった。

 

「……ふーん。あの二人は医務室に用事があったみたいだな」

「え、えっと……そうみたいですねっ!」

「……ところで白露」

「は、はいっ! 何でしょうか!?」

「そろそろ放してくれないか?」

「……あっ!? えっと……すみません!」

 

 白露は掴んだ拓海の服を離して数歩離れ、深く頭を下げる。

 

「気にしてないから、顔を上げてくれ」

 

 彼が手をパタパタと降りながら言うと、白露は様子を窺いながら恐る恐る顔を上げる。だが、姿勢を正しても視線は合わせないように下に向けている。

 

「前任には随分と暴力を振るわれたみたいだな」

「……知って…るんですね」

「君の様子を見ていれば()()()()()()出来る。

 俺からこういう話題をしたくはなかったが、流石にこれ以上は触れずにはいられないんでな」

 

 そこまで言うと、彼は視線の高さを白露に合わせるように膝を曲げる。

 

「鎮守府にいる皆が思っているだろうが、俺も必要だと思ったら汚い事をする上に、手を出すこともある。『信用してくれ』なんて台詞を言う資格は無いし、言う積もりも無い。敵だと思ったら、それが何であろうが遠慮も躊躇もしない」

「……」

 

 彼女がおずおずと視線を拓海に向けると、丁度正面で彼と目が合った。真っ直ぐ自身に向けられていた目だが、そこから違和感にも近いものを感じる。

 その様子に気付いたのか、拓海は直立して肩を竦めてみせる。

 

「ま、尤も。それ以前の前提として、今まで君達の置かれてた環境が悪い部分があるからな。最低1年は気長に鎮守府の様子を見て、どうしようか考えさせてもらうよ」

 

 そこで白露の後ろに回り、その背中を軽く押す。

 

「では、案内の続きを頼むよ。あと…」

 

 そこで一回言葉を切ると物陰になっているを一瞥する。

 

「護衛も、ね」

「は、はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らがその場を離れると先ほど拓海が一瞥した物陰から、一つの影が出てくる。

 

「気付かれちゃった? さっきのやり取りを考えると、これじゃ跡をつけてもボロは出さないだろうし……。まだまだ修行不足かなー。

 とりあえず報告としては、『警戒厳、油断大敵』っと」




 最後に出てきたのは誰でしょうかねぇ?(惚け顔)
 いずれ明確に名指しで出しますが。
 因みにこの神通さんは死んで欲しく無いから、訓練は少しスパルタにする人です。
 ……鬼教官との違いが分からん。
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