Plains Walker -次元世界遊歩道中-   作:sasandra

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ドンガメ更新。相変わらず。


009:召喚と謎の揺れ

 大きなため息をついて、隊長が俺の話をまとめる。

 

「つまり、お前は別の世界から、この世界にやってきて、気がついたら空想の《魔法》の力が使えるようになってたってことか?」 

「そーです!」

 

 言い放ってから、俺は自分がヒートアップしていたことに気付いた。隊長は俺に辟易してるようだし、目の前の金髪の少年も呆れたような表情をしている。間髪いれず、隣から「なっ、コイツ意外に逆切れ気質だろ」とラルフさんからツッコミが入る。なんだか恥ずかしい事になってしまった。微妙な空気の中、司祭から救いの一言が入る。

 

「さて、ここらで一休みとしましょうかな。ワタルさんも話しすぎでさぞ、疲れてるでしょう」

「はい、お気遣いありがとうございます」

 

と、返事すると同時に俺の腹も盛大に音をならす。そういえば起きてからこの方、何も食べてなかったな……

 

「ほっほっほ。何かつまめるものも用意しましょうか。では皆様少しお待ちくだされ」

 

 そう言って、ザーナ司祭は席を立ちあがり、部屋の外へと出て行った。ドアが閉まるまで目で追ってから、俺は改めて真正面に座る少年を見やった。少年はもう水晶玉を注視するのをやめており、その水晶もいつの間にか普通に戻っていた。少年は水晶玉を手にとり、ローブの内側へごそごそと収めている。すると、俺の視線に気付いたのか、こちらに視線を返してくる。初めて彼を見たときに、視線で俺を射抜くのではないかと思うほどの目つきの鋭さは感じなくなったが、今度はおかしな物でも見たかのような怪訝な表情になってる。

 

「……何?」

 

 初対面の人物であるという事など、全く気にしないぶっきらぼうな聞き方だ。いきなりつっけんどんな問いかけに、なかなか返答が口から出てこない。

 

「え、いや……べつに……」

 

 さっきの水晶玉がおかしくなった事や、当初なんでそんなに俺に注目してたのかとか、聞きたい事はいくらでもある。しかし、少年の様子から察するに聞いても答えてくれなさそうな雰囲気である。そこへ――

 

「へー、そいつがおやっさんの言ってた《天才》ってやつか。けど、なんつーかネクラにしか見えねーが」

 

 俺の右隣に座る、初対面の人に遠慮しない人物 その2から声がかかる。少年はラルフさんの方に、ちらりと視線を向けるだけで何も反応はしない。見かねた隊長からフォローが入る。

 

「ごほん、こいつはドミトリ・ワイアントつってな。《占術師》の素養がある。他にもいろいろできる多才なヤツなんだが、俺が巡回の帰りがてらにお前らを見つけたのも、コイツの《お告げ》があったからなんだ」

「ほぉ。未来を見通す事ができる《占術師》ってやつか。見るのは久しぶりだが、コイツはどの程度の精度で『視る』んだ?」

「『何かが起きる』という事だけだな。いつ起きるのか、どんな事が起きるのか、詳細までとなると、さすがにわからん。だが、『何かがおきる』という事に関しては今までで1回も外したことはない」

「へぇ……ワタルより若ぇのになかなか使えるヤツじゃねぇか……なぁ、ネクラ?」

「……僕はネクラじゃない。ドミトリというちゃんとした名前がある」

 

 ドミトリは年上なラルフさんに全く物怖じしないで言い返している。ラルフさんも特に気にしてる風はなく、それなりに感心しているようだ。一方、ドミトリはラルフさんにも関心がないらしく、適当にあしらってるように見えた。何となくやりとりを見てると、ドミトリが突然、俺に視線を向けてきた。今度は初めに見た時と同じような、何も見逃すまいとする鋭い目つきだった。

 

「アンタ、一体何者? 今まで《視た》ことがない変な感じがする。こんなにおかしいのは初めてだ。《輝石》が使えないヤツでも、こんなおかしいオーラは見たことはないのに…… 今までアンタみたいなヤツ見たこともない」

 

 「何者?と」聞かれても、こちとら身の上話は、相手に嫌気がさすほどまき散らかしたばかりである。「もう一回気ままに話してやろうか?」と思っていると、反応したのは意外にも隊長だった。

 

「ドミトリ。さっきまでの話だとワタルは《輝石》に依存しない魔法を使えるみたいだぞ。別に《輝石》を使わずとも魔法を使える種族はいたはずだ。ワタルも見た目とは違って、エルフやドワーフといった他種族の血をひいてるんじゃないのか?」

「隊長。目の前のコイツは、人間だよ。妖精やエルフが《輝石》に依らない独自の魔法を有しているのは創世記にも書かれてる事だけど、コイツにそんな力を有する種族の身体的特徴があるようには思えない」

 

 ああだこうだ言われてるが、この世界を数日だけしか経験してない俺には《魔法》とは、何たるものなのかわからない。黙っているとラルフさんが議論にのっかってきた。

 

「そいつは変だぜ。俺は、ワタルがグレーに強化魔法を使った時、嫌な感じ……というか魔力の高まりを感じた。あれは、俺が今の『呪われた』状態になった時に感じた、自分を塗りつぶされちまいそうな感覚に似ていた……」

 

ラルフさんの言う事も抽象的で理解できなかったが、隊長も同意する。

 

「ああ、俺もお前らに会う前、魔力の高まりを確かに感じた。その後、魔力の発生したと思われる場所に行ったらお前らを見つけたんだ。あの時に感じた、妙な魔力は、ワタルが【呪文】を唱えた時のものじゃないのか」

「僕はその場所に居なかったから、隊長が感じた魔力についてはわからない。でも、僕は1回ハーフエルフを《視た》ことがある。彼は、輝石を使う人間と比べて体に纏わりついてるオーラの《色》が違った。でもコイツはそれとも違うんだ。こう……言い表しづらいけど、僕達が普段使ってる《輝石》や他種族の《魔法》とは違う、異なるものが纏わりついてる感じがするんだ」

「ふむ……」

 

 隊長とラルフさんがあーだこーだと言って、ドミトリが冷静に反論するという議論がしばらく続いた。聞きなれない単語ばかり出てくるので俺には何を言ってるのか半分も理解できなかった。 どうやら、議論の話題は、ドミトリが俺に《視た》何かが問題であるらしい。議論はしばらく続き、最終的に俺が【呪文】をもう一回使えばわかるという事に落ち着いた。

 

「ほっほっほ。皆様何やら騒がしいご様子。休憩中に余計な体力を使っては元も子もないのでは?」

 

ちょうど議論のきりの良い所になった時、ザーナさんがロミスさんを伴って戻ってきた。二人の手にはおぼんがあり、ティーカップとポット、パンが盛られたバスケットがのっていた。

 

バスケットの中のパンは何かを挟んでいるらしく、野菜らしき緑や、何かの肉だと思わしき茶色い物がパンからはみ出している。なかなかうまそうに見えるので、口の中でじゅるりと唾液がにじみでてくる。

ロミスさんが慣れた手つきでティーカップと小皿を取り分けてくれた。全員にいきわたって、ロミスさんが空いている席に座るのを今か今かと待つ。座ったのを確認してから……

 

「いただききまーす」

 

と、バスケットに手をつきだしたら……

 

パシィンと、右から手を叩かれてしまった。俺の食事を邪魔する曲者は誰ぞと見やれば、なんと、ロミスさんが身を乗り出して、俺の手をインターセプトしているではないか。

 

「ワタルさん。お行儀が悪いですよ。まだ女神様へのお祈りがすんでいません。」

 

小柄なかわいらしい姿の背後に、薄暗い大きな闇を幻視するような言い方であった。小柄で優しそうな彼女からは想像できない凄みに、さすがのドミトリやラルフさんもぎょっとしている。別に、異郷の俺には女神様やらなんやら全く縁がなく、俺自身も無神論者であったが、今はロミスさんに従った方が賢明なようだ。なんか怖いし……

 

「し、失礼しました……」

 

胃がさっさと食い物を寄越せと主張しているが、ここは郷に入ってはなんとやら。ザーナ司祭を見ると、彼はやれやれとため息をついてから、席についてる全員に言い聞かせるように話を始めた。

 

「ワタルさん、いますこし付き合ってくだされ。私が祈りの言葉を申し上げますから、あとに続けてください」

 

 司祭はそう言うと、目を閉じて両肘を机の上にのせて左右の手を組む祈りの姿勢をとった。俺以外のみんなも、次々に祈りのために手をくみ出した。ドミトリやラルフさんまで大人しく従っている。戸惑いながらも俺も同じようにする。俺の準備ができるのを片目を開いて確認した司祭は、祈りを始めた。

 

「大いなる慈悲深き女神様よ。か弱き私たちに、今日を生き抜くための糧と力を授けてくださったことに感謝します」

 

ザーナ司祭の後に全員が続けて祈りを終える。唱和している間だけであったが、神秘的な雰囲気だった。やがて、祈りが終わると、司祭は机についてる面々を見渡して、柔和な表情で「それでは頂きましょう」と告げた。

 

ザーナ司祭の言葉が終わるや否や、バスケットに向かって手が延びていた。むんずとパンをつかんで、一口に頬張る。異郷の得たいの知れない食べ物に対して無防備すぎやしないか、少し気にするべき所かもしれない。しかし、昨日もここの料理を食べてる事であるし、今更なので気にしないことにした。

なにより、おれは腹が減っているのだ。口の中に収まるだけパンを突っ込んで、思いっきりかじる。もしゃもしゃ噛むと、シャキシャキした野菜と、少し硬いが肉の香ばしさが口内に広がる。勢いのまま食べてはみたが、パンも柔らかく、結構いける味である。

 

「ふふぁい!(うまい!)」

 

2口目、3口目と、口に入れるのももどかしく、あれよあれよとかじっては咀嚼して飲みこみ、かじって咀嚼して飲みこみの繰り返し。このパン――こちらでなんという名前かわからないが――本当にうまい。食がガンガン進む。

 

「ふふ。そう言ってらえると作ったかいがあります。ただ、ワタルさん。ちょっとお行儀が悪いですよ」

 

 ロミスさんが困り顔で俺に注意してくる。背は俺より小っちゃいが、まるでお姉さんであるかのような言い方だ。やはり、この軽食をつくったのはロミスさんのようだった。日本でちょっとお高い軽食屋で食べられるメニューだと言われても通じるくらいうまい。

 

「こりゃなかなかいけるじゃないか。こんなうまいサンドには巡り合った事がねぇ。挟んである素材の旨みが最大限に生かされてるって感じだな」

「さすがに僕も、ロミスの料理ほどの物は作る自信がない」

「へぇ、ロミスの作る料理はうまいってナエから聞いたことはあるが、これほどのもんだとはなぁ」

 

 俺以外の男たちも大絶賛である。2つめのサンド――おそらくこちらの世界でいうサンドイッチであろう――にとりかかってみると、今度はトッピングが違うらしく、シャリっとした歯ごたえがした。何かの果実なのか、しかも複数の異なるものが入ってるようだが、こちらも絶妙な味である。

 

「ほっほ。私もロミスに胃袋を掴まれてしまいましてな。できるものなら三食全て作ってもらいたいものなのですが」

「司祭様。いくらなんでもそれは無理です。それでは私の弟たちの面倒を誰が見るというのですか」

「こんなにうまい物を毎日作ってくれる事になるなんて、そいつぁとんだ幸せ者だろうなぁ。嬢ちゃんはいい嫁さんになるぜ」

「そんな、ラルフ様……私の腕なんてまだまだです……」

 

ロミスさんは顔を赤らめながら謙遜している。現代日本から比べれば、文明レベルは明らかに劣っているだろう。調理器具も漏れずに劣っているであろうことは想像に難くない。その上で、現代日本にあるお店と同レベルの料理を仕上げる事ができるというのは、ロミスさんの腕は推して図るべしであろう。あ、でも輝石ってやつがあるから、そこらへんがどう影響するかはわかんないな。

 

そうやって、ロミスさんの作った軽食に舌鼓を打ちつつ、和やかな雰囲気で時間が過ぎていった。

 

***************************************

 

 

所はかわって、教会裏の井戸がある広場へとロミスさんを除いた全員で移動してきた。俺がさっきロミスさんと出会った場所だ。俺は教会を背にして、建物もまばらな、村を取り囲む壁の方向を向いて立っている。他の面々は横から俺を観察できる位置に立っている。ちなみにロミスさんは後かたずけで不在だ。俺の事情聴取の後に話題に上がった《呪文》を披露してみる事となったのだ。

 

「さて、それじゃあ、ワタル。わかってるとは思うが、おまえが使えるようになった《呪文》を唱えてもらうぞ。一応、目的を言っておくが、おまえの能力を、ドミトリの魔力視で改めて確認するためだ。我々やここの村人に危険性がない《呪文》を唱えるように」

「はい、わかりました」

 

そう言う隊長は、俺が《危険》な事をやったときのためなのだろうか、俺と出会った時に背中に着けていた盾と剣を装備している。

 

「おやっさん。そこらへんは何かあったら俺が何とかする。何、この距離ならワタルの首を落とすことくらい、2秒もあれば十分だ」

 

ラルフさんがこちらを見ながら物騒な事を言う。《狼》に襲われていた時に使っていた、あの《伸びる斬撃》を使えば、わけもなく俺の首を落とす事ができるのだろう。俺とラルフさんたちの距離は5メートル以上は離れているのだが、射程距離はそれ以上なのかもしれない。脅された時のラルフさんの恐ろしさを思い出してしまい、背中がブルリと震えてしまった。

 

「オイオイ、脅すのもそれくらいにしといてやれ。まぁこんな揺さぶりビビッてるようじゃ、今ここで何かをしでかすタマでもないだろ…… ドミトリ、いいか?」

「わかった」

 

ドミトリは再び、ローブの内側でゴソゴソしてしてから、俺の事情聴取の時に使っていた水晶玉を取り出した。水晶玉の縁が輝きだし、やがて中が黒く変色しだした。尋問中に水晶に起こっていたのと同じだ現象だ。

 

「いいよ。《呪文》を唱えて」

 

ドミトリはこれから起こる事は何一つ見逃すまい、というような気迫すら感じさせる目つきでこちらを観察している。注目されていると思うと緊張してきてしまった。数回深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

 

「では、いきます」

 

《呪文》と言われても、何を唱えればよいのか分からなかったが、俺は今までの経緯、さらに、今も内に響く《声》――これは、グレーに《呪文》を使った時から聞こえていた――から一つの推論をしていた。俺の予想が正しいならば、即時に周りに被害を及ぼすような《呪文》は、『今の俺』には唱えられないはずだ。内から聞こえる《声》に従って俺は唱えるべき呪文を選ぶ。――まずは基本的な所から行くことにしよう。

 

 《声》の中から一つを選び取る。自分の心の中の奥底を見つめるイメージ。底が見渡せない常闇のイメージが浮かぶ。その闇を恐れずに腕をつっこんで、掴んで、ひっぱりあげる。闇の中から徐々に《何か》が湧き上る感触がする。掴んだ《何か》から発する《声》が、別の《何か》を必要としていると訴えかけてきた。それは、そいつを【呪文】として使うために必要なもの。【呪文】の元となるエネルギーだ。

 

 マジックにおいては、カードには必ず行使するために必要となるコストが設定されている。(一部例外はあるが……) コストは『土地』から必要分の『マナ』を引き出す事で払うのが通常のやり方だ。『土地』は基本的には5種類――これはカードを大別する、5つの色に対応している――があるが、今回必要なのは『平地』である。そう、これから唱える《呪文》の色は『白』だ。

 

 ここで、グレーに《呪文》を唱えた時の感覚をもう一度思い出す。あの時、俺は広大な平地と鬱蒼と生い茂る森のビジョンを見た。マナを引き出すにはあの感覚がヒントになると思ったのだ。すると、俺の中に《何か》や《声》とは異なる奇妙な《感覚》がある事に気付く。なんと言ったら良いのか、《声》は俺自身の内に潜んでいるのだが、この《感覚》は細いようで、何かとつながっているような感触がするのだ。

 

 これから使おうとしている《何か》が俺に訴える。「それを引っ張って、自分によこせ」と。それを聞いて、確たる理由はないが合点がいった。きっと、コレをたぐりよせば、マナを引き出す事ができるのだろう。《感覚》のつながる先は、広大な平原。グレーの時と同じビジョンを幻視する。

 

「さあ、来るんだ」

 

 昨日もやったはずだから、きっとできる。平地につながる《感覚》を伝って膨大なエネルギーが体に満ち溢れる。白く輝く、厳かで聖なるエネルギー。伝ってきたそのエネルギーを《声》にくれてやる。《声》が歓喜しているのがわかる。

 

「【先兵の精鋭】」

 

《呪文》を口にした後、俺の目の前の空間が円状に捻じ曲がった。そして、円の中心が白く染まり、次第に何かの形を成していくように変形しだした。徐々に縦に長く伸びて、人の形となっていく。光も強さが弱まり、形を成していく物の表面があらわになる。

現れたのは、鈍色に反射するがっしりとした鎧。細く伸びるように型どられた四股のひとつには、一振りの剣が握られている。人の顔を成した部分には、黒髪の男の顔が現れた。

目の前で起こっている奇怪なこの現象を簡単に言うと『一人の戦士が何もない空間から現れた』という他ない。

 戦士の男は閉じていた瞼を開け、まっすぐに俺を見つめてきた。剣を鞘に納めながら、俺の前まで進んで来ると、片膝だちの姿勢となった。

 

「こうして会いまみえる日をどれだけ心待ちにしていたことか。我の姿見は変われども、今までの百を越す戦いに変わらず、忠義を捧げようぞ。さあ、主(あるじ)、命令を。今度の敵はどこにいるのだ?」

 

力強い物言いに、自分に対して言われている事に気づくのが遅れてしまった。

 

「あ……あー、とりあえず落ち着いて。OK、落ち着こう」

 

目の前の、厳かな騎士に対しての言葉というよりかは、自分に向けての言葉だった。グレーに呪文を使ったときと同様、体が勝手に動くのに任せていたら、予想以上の事が起きてしまった。冗談半分にやったら深刻な事態になってしまって呆然としてしまうのと同じである。

 

「ワタル、そいつは一体?さっきの魔力の高まり……この感じはグレーの時と……」

 

 横からラルフさんの質問が入る。後の方は聞き取れなかったが、何やら口元に手を当ててブツブツいっている。さらに――

 

「おまえっ、強化魔法だけじゃなくて《守護者》も召喚できるのかっ!?」

「今まで見たことない色、魔力の流れだった。隊長、さっきのは《守護者》召喚じゃないよ。《守護者召喚》だったら、魔力の源は輝石から出てくるはずなのに、今のは突然、虚空に魔力が出現したんだ」

「ほう……という事は、先ほどの術は《守護者》召喚に似て非なる物、ということですかな?ドミトリ殿?」

 

ラルフさん以外の人達も三者三様の驚きを見せている。やべ……そういえば俺、召喚を使うとは一言も言ってなかった。グレーに使った【不退転の意志】を使うものだと思われてたようだ。

 

「主…… こやつらは……?」

 

【先兵の精鋭】は跪いた姿勢から立ち上がり、一度鞘にしまった剣に手をかけ、横に立っている男たちをギロリと睨みつけている。攻撃されでもしたらたまらないので、慌てて肩に手をかけて止める。

 

「ちょい!ちょっ!ストップ、ストップ。この人たちは敵でもなんでもないから。落ち着こう。話せばわかる」

「む……主がそういうのならば……」

 

【先兵の精鋭】が肩越しにこちらを見て、彼が剣の握りから手を離したときだった。

 

突然、ドクンッと大地が揺れた。

 

そして、途轍もなく強大な存在を感じとった。

 

蛇に睨まれた蛙という言葉があっているだろうか、自分が矮小に感じてしまうほどの大きな存在に見られているかのような悪寒。反射的に震えが背中を駆け抜ける。

 

突然の事態に、誰も反応できずにそのまま時間が流れる。始めの大きな揺れ以降、特に何も起きなかった。遅れて、冷や汗が頬を伝う。

 

「今のは……地震?」

 

おずおず、周りの人間に聞いてみる。元の世界では全世界中、最強に地震慣れしている日本国民こと俺をしても、今の揺れは奇妙に感じられた。地震という物は、揺れが継続的に続く物だ。いつかの大震災の時の揺れは記憶に新しい。だが今のは、一度だけ大きく揺れを感じた。地震というよりかは、車に乗っていて交通事故にあった時の揺れ……と表現した方が近いように感じる。

 

「いや……地震って、こんな辺境じゃ起きた事なんて聞いたこともねぇ」

「おい、ドミトリ。今のは何だったかわかるか?」

「……今のは揺れというよりかは、大きな魔力波動のような……でも、これだけ大きな衝撃だったなら、昨日の《星読み》で何か兆候があったはず……」

 

ドミトリでさえ何が起こったのかわかっていないようだった。ならば、【先兵の精鋭】にも聞こうとしてみたが、どう呼んでよいか迷ってしまった。

 

「えー……あなたは、今の揺れは何だったかわかる?」

「そのように、かしこまって呼んで頂かずに結構。無骨物の我にはさっぱりわかりませぬ」

「そうか……、えーと、じゃあなんて呼べばいい? 名前は?」

 

【先兵の精鋭】は少し、小難しい顔をしてから答える。

 

「我にはそのような物はございませぬ。構わないのならば主から名を賜りたく存じますが」

「え……名前か……」

 

 改めて、【先兵の精鋭】を視る。全身に鈍色に輝く鎧を纏い、背は俺よりも高く、体つきは隊長ほどではないが、ラルフさんに負けず劣らずがっしりとしている。黒髪をしていて、良く見れば顔の右頬に傷後がはしっているのがわかる。中年オッサンの厳つい顔つきではあるが、話し方から如何にも武人と言った印象を受ける。腰には得物である剣を帯びていて、頼もしさも感じられる。

 よくよく思いだしてみれば、コイツは俺のデッキの中ではいつも切込み役をしてきたクリーチャーだった。

 

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先兵の精鋭/Elite Vanguard  (白)

 

クリーチャー — 人間(Human) 兵士(Soldier)

 

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『クリーチャー』

 

 それは、マジック・ザ・ギャザリングでは攻守を担う主要的存在である。

 基本的にプレイヤー達は、クリーチャーを自分の僕として召喚、相手を攻撃、または相手からの攻撃の防御に利用することで勝負を進めていく。

 

 クリーチャーを召喚するには『コスト』が必要だ。『コスト』とは、呪文を行使するのに必要なエネルギーの事を指す。単純に、RPGでいう呪文の『消費MP』と同じ概念だと考えても構わない。

 

 マジック・ザ・ギャザリングでは『コスト』として支払うエネルギーは1種類だけではない。ゲームによっては、『HP』とか『必殺技ゲージ』を消費して繰り出す技も存在する。同様に、1つのエネルギー源だけではマジックに存在するすべての呪文を使う事は出来ないのだ。

 マジックでは、『コスト』に使用するエネルギーを『マナ』と呼んでいる。『マナ』は基本的なもので5種類存在し、内訳は白マナ、青マナ、黒マナ、赤マナ、緑マナとなっている。それぞれのマナ対応する呪文は色付けで大別されており、マジックにおける大多数の呪文は、これら5つの内のどれかに属している。

 

 さて、【先兵の精鋭】のコストは、白マナ1つ分である。(なお、この呪文は白に区別される)

マジックが先ほど例にあげた一般的なRPGと異なる点は、術者自身にリソースが設定されていない事だ。要はプレイヤー自身には、MPに相当するステータス概念がないのである。

 

 自分のMPの代わりに、マジックのプレイヤーは『土地』からマナを発生させる。『土地』は自分のターンに1つだけ『場』に出す事が出来るカードであり、場に出ている『土地』がプレイヤーの使う呪文のエネルギー源となる。

 マナは5種類存在していると言ったが、マナごとに発生源の土地も定まっている。白マナには平地、青マナには島、黒マナには沼、赤マナには山、緑マナには森が必要だ。

 

 先ほど、俺は白マナを『土地』から発生させて、【先兵の精鋭】の『コスト』として支払った。召喚呪文の行使の前に、平地を幻視したのは、きっとこれが関係しているのだろう。

 

 説明が長くなったが、【先兵の精鋭】のコストは白マナ1つ。これは最初のターンから【先兵の精鋭】を使う事ができるという事を意味する。ちなみに、ゲーム開始時には土地は何もない状態から始まる。最初の1つ目の土地が平地ならば【先兵の精鋭】を唱える事ができる、というわけだ。……あれ? でも【不退転の意志】のコストって2マナ分だったような…… 

 

 まぁいい。そんなわけもあって、【先兵の精鋭】はいつも第1ターン目から召喚されることが多く、俺のデッキの中では、文字通り先兵の役を担ってきたカードだったのである。

 

 

 そんな事を思い出しながら、目の前の忠義熱い騎士につけるべき名前を考える。先兵の精鋭……英語だと"Elite Vanguard" エリ……いや、ヴァン……ヴァン!

 

「お前の名前はヴァンだ」

 

勢いよく思いつきで言ってしまった。単純すぎないか若干不安になりかけた時――

 

「ほう……我の名前はヴァン! しかと受け取った。今後もより一層、忠義を捧げん!」

 

と、最初に俺に跪いた時と同じ姿勢をとった。どうやら思ったよりも受けは悪くなさそうである。内心、安堵をついていると、大きな声を張り上げてこちらに走り寄ってくる騎士に気付いた。

 

 

「アルバート隊長~っ!」

 

見れば、アルン村の入り口で隊長と雑談を交わしていた騎士だった。彼は俺たちの元までやってくると、隊長に詰め寄った。

 

「隊長! 先ほどの揺れは一体なんなのですか? 住民達は不安に思っております。今のところ、騎士団が住民の対応に当たっているのでパニックには陥っておりません。これからいかがいたしましょう?」

 

隊長は少し思案してから、淀みなく答える。

 

「住民には浄化の儀式の準備でちょっとしたトラブルがあったと説明しておけ。些細なミスで特に問題はない。迷惑をかけて申し訳ない、と謝罪を忘れずにな」

「了解致しました」

「よし、いけ」

 

指示を聞いた騎士は来た方向へ戻っていった。隊長は戻っていった騎士を見送ってから、ドミトリに質問をする。

 

「ドミトリ。さっきの揺れの発生源と原因を調べることはできるか?」

「揺れの発生源は僕達からほとんど離れてない所だと思うよ。原因、というか切っ掛けは明らかにひとつしか思い当たらないね」

 

そう言ってこっちを睨み付けてくる。隊長もやはりかと呟きながら、少々困り顔でこちらみ見てくる。

 

「おまえら、なんか心当たりは……ってそんな顔じゃあるわけないか……」

 

俺の内心が表にあらわれてたようだ。隊長は頭をガリガリかきながら、ヴァンにも質問する。

 

「そこの《守護者》のおまえ」

「我か?」

「そうだ、お前だ。さっきの揺れはお前が出現してから起きたのは明らかだ。このことに関して何かお前は関わっているのか?」

「主に先ほどの申し上げた通り、我には先ほどの揺れに関しては一切何もわからない。ましてや、我には先ほどのような大規模な現象を起こす魔術的素養は全く無い。あんな現象、起こしたくとも我にはとても無理だ」

 

魔法的手段で呼び出した魔法的存在から「魔法が使えない」と宣言されしまってはなんだか少し残念に感じてしまう。

 

「なんだ、ヴァンって魔法使えないんだ」

「申し訳ありませぬ。我が、主に貢献できるのは我が武を持ってしてのみ。さすがに他の同志のように多才ではないのです」

 

まあ、1マナバニラクリーチャーだし、当然と言えば当然か。ちなみに、バニラクリーチャーとは特殊能力が一切無いクリーチャーのことをさす。バニラとは、特殊能力を持っていた場合、カードに説明文章が記載されているのに対して、能力無しの場合だと何もかかれていない事に起因する。妙に納得していると「たいちょ~」と隊長を呼ぶ声がまた聞こえた。聞き覚えのある、透き通る高い声からナエさんだとわかった。純白の衣装をしたニーナさんと、水色の髪型が映えるロミスさんと一緒だった。ナエさんの真紅の髪も相まって、俺がこちらに来てから遭遇した三大美女が一同に揃ってるのもなかなか見物な光景であった。

 

ナエさんはヴァンの存在に気付いたようで、少し警戒しながら隊長に話しかける。

 

「隊長。そこの人は一体?」

「あー……そいつはワタルの《守護者》?……みたいなもんだ」

 

こっちを見ながら隊長は言うが、口調が少し疑問形である。

 

「へー。ワタルって《守護者》が呼び出せたんだね。ワタルの《守護者》って隊長みたいに厳ついんだね」

 

 ナエさんの発言から間をおかず、隊長とヴァンが同時に「厳つくなどない」とハモった。両者の反撃を聞いて、ナエさんはかなり狼狽えた。

 

「えっ! この《守護者》しゃべれんの? すごい…… あ、え~と厳ついと言って失礼しました」

 

たじたじしながらもヴァンに謝るナエさん。隊長からの「俺には謝らんか」のツッコミはスルーのようである。

ナエさんだと締まらないせいか、横からニーナさんが「ちょっと、ナエ!何しにここまできたの?」と注意がかかった。

 

「あ、そうだった。隊長。さっきすごい揺れがあったんですが、一体なんだったんですか? なんだか外も騒がしいようですし……」

「あー、それだが、直接的な原因はまだ不明だ。これからドミトリに原因を探らせようとしてたんだが……ナエ。おまえは空いてるヤツを連れて村の回りを警邏してこい。もしかしたら、この現象で新しく《災厄の魔物》が湧いてるかもしれん」

「わかりました。ニーナもつれてっていいですか?」

 

ナエさんの要求に、少し躊躇ってから隊長が答える。

 

「あー…… 一応、怪我人のために許可する。だが、ニーナは後衛で、さらに貴重な《聖石》の使い手だ。怪我させんじゃねーぞ」

 

ナエさんは自信満々で答える。

 

「あったり前です。ニーナの《守護者》は私なんですから。誰がきても指一本触れさせやしません!」

 

隊長もナエさんがこう返すとわかった上で言ってたようで、ニーナさんに確認する。

 

「そういうわけだ。ニーナ、頼めるか?」

「はい、ナエがついていてくれてるなら何も心配いらませんから」

「そんなに信頼してくれてるなんて、私、感激ぃ~」

 

と、ナエさんがニーナさんにガバリと抱きついた。「ちょ、やめなさい」という抗議むなしく、ニーナさんはナエさんにいいようにスリスリされている。このやり取り自体、よくあることなのか、隊長もドミトリもやれやれといったような表情だ。ラルフさんは「眼福、眼福」とばかりにニヤけた表情で観察に徹している。そんな中――

 

「司祭様? いかがなさいました?」

 

ナエさんとニーナさんのやり取りに場の空気が弛緩し始めたなか、ロミスさんがザーナ司祭に何か感づいたのか様子を見に近寄った。

 

「……っ!? 御加減が悪いのですか?顔色が悪いですよ!」

 

ザーナ司祭はわずかながら体が震えてるように見えた。村の外の方を呆然とながめて、「いや……まさか……」とブツブツと何かを呟いている。顔は青ざめて、汗をびっしょりとかいている。ロミスさんの問いかけも聞こえてないのか、心ここにあらずといった感じであった。

 

「ザーナ司祭? おい、どうしたんだ?」

 

司祭の異変に気付いた隊長が、肩を揺さぶってやっと呼び掛けられてた事に気付いたようだった。

 

「……っ、これは、アルバート隊長。いががなされた」

「それはこっちのセリフだ。ぼーっとしていて、そこの嬢ちゃんが声をけているのにも気づいてなかったじゃないか。一体どうしたんだ?」

「司祭様? 大丈夫ですか?」

 

ロミスさんが心配そうに司祭の手を両手で握っている。いつの間にか自分がこの場全員の注目を集めてる事に気付いたようで、司祭は今までの態度らしくない、たどたどしい反応を返す。

 

「こ、これは失礼しました。先ほどの揺れが思いの外、衝撃的でしてな。呆然としてしまいました。いやはや、老いてしまうと何事に対しても脆くなってしまっていけませんな」

 

徐々調子を取り戻してきたようで、話すうちに見慣れた好好爺の表情に戻ってきていた。

 

「さっきの揺れ、凄かったですもんね」

 

ナエさんも声をかけるが、相変わらずニーナさんにくっついたままである。あまり心配しているように見えないのは今更ではあるが……

 

「ほっほっほ。年甲斐もなく驚いてしまいましたな。ですがもう大丈夫です。ロミスも心配させてしまってすまなかった」

「よし、ザーナ司祭。悪いが住民達の様子を見回ってくれないか? 俺とドミトリは原因を調査する。浄化の儀式も最終日を前にこんなことになるたぁな……」

 

「……わかりました」

 

少し間があった後、司祭がうなずいた。なにやら《浄化の儀式》なる、聞きなれない単語が隊長の口から出てきたようだが何の事なのか想像がつかない。

 

「隊長。儀式はどうするのですか?」

 

今度はニーナさんから質問が出る。今までの周りの人間の反応から察するに、さっきの揺れは非常事態の扱いをされてるようだ。有事の際は予定が取り止めになることは多々あることだが……

 

「見回りで《魔物》が湧いてないようなら、予定通りに明日決行する。先伸ばしにすると、結界術式が持たなくなる。それに、もうここが儀式を行う最後の村だ。結界石の力ももう打ち止めだから、なんとしてでもやらなければならん……」

 

隊長は苦渋を噛み殺していたような表情をしていた。いろいろとキツキツの状況下で任務を強いられているようだ。

 

「他に何か質問はないか?」

「いえ、ありません」

「よし、行け」

「了解」

 

打てば響くような応答が女性二人から返ってくる。いつの間にやらナエさんはニーナさんを解放して、二人ともビシッと直立姿勢をとっていた。締めるところはしっかりと締める所に、流石は騎士団というだけのことはあるかと感心した。

 

「ザーナ司祭と嬢ちゃんも頼んだぞ」

「かしこまりました。ロミス、他のみんなにも声をかけて村の様子を見て回るように言いなさい」

「はい。わかりました」

 

それぞれの組が去っていくのを確認してから隊長はこっちを向いた。

 

「おまえらは…… 仕方ないから俺とドミトリに着いてこい。それと、ラルフ、すまないがおまえもついてきてくれないか? おまえも居た方が俺たちは仕事に集中できる。ワタルが出した《守護者》らしき存在もこのままってわけにもいかないだろうからな」

「そうなるだろうって事は予想してたぜ。ま、俺としちゃ乗りかかった船だ。最後まで面倒みてやるぜ。俺としてもワタルは、アイツら以外の《呪い》に関係する、やっと見つけた手掛かりなんだ。それ以前に、このまま放りだすのは俺の信条に反するしな」

「フッ、その性格はかわっちゃいないな」

 

隊長は少しの間、ラルフさんにニヤリとすると、ドミトリに命令を下した。

 

「よし、ドミトリ。さっきの揺れが何だったかはっきりさせるぞ」

「わかった。……教会の方向から魔力の反応があったような気がする……」

「オマエら、ついてこい」

 

ドミトリは水晶玉を取り出して歩き出す。そして、それに隊長も続いた。俺も行かなければならないだろう。少し躊躇ってラルフさんを見ると、彼も頷いて俺を促した。

 

「ワタル、おまえが出したそいつもいっしょだ」

「……わかりました。ヴァン、行こう。たぶんこっちがおとなしくしてる限りは大丈夫だよ」

「御意。我は主の意にそった行動をするまで」

 

ラルフさんを最後尾にして、俺たちは教会へ向かって歩き出した。

 

****************************************

 

ワタル達が去り、無人となった教会裏の敷地には、端の方に一本の木が生えている。時刻は昼を過ぎ、日が中天から少し傾き始め、注ぐ日の光が涼しげな木の根元に木陰をつくっている。足元には草が青々と茂り、昼寝をするには絶好な場所であると言えよう。そんな情景が、ゆらゆらと波打ち始め、景色が不明瞭になり始める。仮にワタルがこの場に居たらこう言うだろう――この光景は蜃気楼のようだ、と――

 やがて、景色の揺らぎはおさまり、その場には二人の男が現れた。二人は立っている場所に移動してきたのではない、二人は立っている場所にそのまま現れたのだ。仮に仮を重ねるようだが、ワタルが居たならば、こう言うだろう――「瞬間移動!?」と。 二人は漆黒のローブで全身覆った出で立ちをしていて、顔はフードで影になっていて他人から見る事はできない。ただ、不気味に吊り上っている口元を確認することができるだけだ。

 

「さて、あの《召喚》、そして謎の揺れと来た、どう見る?」

「見るも何も、あの《召喚》は我々の《召喚》と同じだろう。感じられる魔力の質も同じだと言ってもいい。揺れについてはわからん。《占術師》の小僧の言うとおり、《召喚》が切っ掛けになったのだろうが……連動して何かが起きたとでもいうのか?」

「……揺れに関しては、騎士団に任せておけばよいのではないか?」

「ふむ、隠れてる我らでは、いろいろと嗅ぎまわるのにはリスクが伴うからそれが良いだろう、そしてあの《召喚》だが……」

「あの若いのが我々と同じ術を使ったとしても、『輝石』を媒介にしていないという点は非常に気になる所ではあるな」

 

片方の男は顎に手をあて、少し思案してから返事を返す

「だが、今は手を出すのはまずいだろう。攫って尋問するにしても、騎士団が居る村の中では孤立無援だ。さらに、さっきの《召喚》で騎士団から重要人物とみなされた可能性がある」

 

「と、すれば明日の『儀式』に乗じて行動を起こすか?」

「ふむ、だったらついでに《調達》もすませてしまうか? もうすでに充分、集まってしまったが、多くて困るという事はないだろう」

「のめりこみすぎて、危ない事にならないだろうな? 『殺し』が入るとお前は歯止めがきかないから困る」

 

そう小言を言われた男は、釣り上げた口元を、さらに不気味ににやけた表情にして返事をする。

 

「それは俺にもわからん。一年前の実験体も居た上に、久しぶりに騎士を殺れそうな機会だからな。俺の手で殺す事を想像しただけで胸が高鳴ってくる」

「はぁ、お前の、その殺人衝動は救いようがないな。少なくとも明日の儀式までは我慢しておけ」

「ふ、せいぜい努力する事にしよう。行くぞ」

「やれやれ、人扱いが荒いからなおさら困る」

 

話し合いは終わったのか、溜息をついたもう片方の男が片腕を上げて、手をつきだす。すると、二人のたっている場所の景色が再びゆらゆらと揺らぎだした。景色の揺れが収まった時、二人の男の姿は忽然と消え去っていたのだった。




20150621誤記訂正
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