Plains Walker -次元世界遊歩道中-   作:sasandra

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種明かし。主に説明成分多め。


028:妖精の森の攻防 その2

 俺の中の《声》に加わった、新たな《声》と、今までに起きたことを照らし合わせて、連なって起きた不可思議現象の真相が朧気ながらわかった。ヴァンも気づいたようで、彼の警告が俺の考えを裏打ちしてくれる。

 

「主っ! あのスリヴァーには【怨恨】がつけられています。危険ですから、早くお逃げに!」

 

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Rancor / 怨恨 (緑)

エンチャント — オーラ(Aura)

 

エンチャント(クリーチャー)

エンチャントされているクリーチャーは、+2/+0の修整を受けるとともにトランプルを持つ。

怨恨が戦場からいずれかの墓地に置かれたとき、怨恨をオーナーの手札に戻す。

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【怨恨】

 

それは、俺のデッキの中で、最も凶悪な特徴を持つかもしれない呪文だ。その『凶悪さ』をここに挙げてみることにしよう。

 

【怨恨】が1枚でも手札に加われば、わずか緑色マナ1点だけの『コストの軽さ』で、そのコストと釣り合わない『破格の効果』をもつオーラを、『複数クリーチャーに使いまわし』することができるのだ。

(※『使いまわし』とは、あるクリーチャーにつけられていたが、そのクリーチャーが死んでしまっても、【怨恨】を別のクリーチャーに再度使う事ができる、と言うことを端的に言い表した言葉だ)

 

 普通、エンチャント、とりわけオーラは、それがつけられたクリーチャーと道連れで墓地送りになってしまう事は先に説明した通りだ。だが、【怨恨】は、オーラに宿命づけられた、その弱点を克服しているのだ。この特徴だが、マジックのデザインをしている発売元が、ある時期にエンチャントの弱点を克服すべく打ち出した強化策の1つだった。だが、この効果は【怨恨】にとっては、『鬼に金棒』的な意味合いで噛み合ってしまい、結果的に、強すぎてゲームバランスを崩す、と言われてしまう程のカードになってしまったのだった。じつは、同様の特徴を持つオーラのカードは、【怨恨】が収録された同カードセット内において、他の色にも1枚ずつ存在してはいた。だが、他の色のオーラは【怨恨】程の『手軽さ』や『効果』は持ち合わせてはいなかったため、【怨恨】のように、もてはやされる事はなかった。

 【怨恨】の『使いまわし』できる効果は、現実では、わかりやすい現象で俺の前で具現化された。最初、ヴァンが倒した女についていた【怨恨】が、俺の頭上を通り越して【白スリヴァー】にのりうつった事が、『使いまわし』効果だったのだろう。(術者も無しにどう呪文が展開されてるのかは謎だが)

 また、まだ一度も説明したことが無い能力、『トランプル』についても触れておくべきだろう。【怨恨】はパワー2点分の能力値修正の他に、『トランプル』という能力をクリーチャーにもたらす。

 『トランプル』とは、クリーチャーが攻撃してダメージを与える時に効力を発揮する能力の1つだ。その効果は、クリーチャーの攻撃をプレイヤーにまで『貫通』させる事ができる。より具体的に言うと、『トランプル』を持つクリーチャーが、ブロッククリーチャーを倒しても、まだ余っているダメージ点がある場合、その余り分のダメージを、相手プレイヤーに与える事ができるのだ。

 ここまで説明すれば、想像できることだが、この能力はクリーチャーのパワーが高いほど、効力が高まる。例えば、1点しかタフネスを持たないクリーチャーを、10点のパワーを持つクリーチャーのブロックにあてれば、そのクリーチャーは死んでしまうが、10点のダメージを食らう事態は避けられる。しかし、攻撃クリーチャーが『トランプル』持ちだと、ブロッククリーチャーが死ぬ上に、余った9点のダメージを負う事になる。このように、『トランプル』が、あるのと無いのとでは、その差は歴然だ。

 『トランプル』能力は、現実においては、俺は身を以て体験する事となった。ヴァンが相打ちした後に、何故か俺の腹から出血した、『あれ』がそうなのだろう。ヴァンはあの時、女に腹を刺し貫かれていた。一方、俺の腹にできた怪我も、ヴァンが刺し貫かれたであろう位置にできている。この現象から、『女のパワーは、少なくとも、あの時点でのヴァンのタフネスを上回る数値だった』という事が断言できる。ヴァンのタフネスは【蜘蛛の陰影】で+1されて、2点だったはずだ。それを貫いたのだから、あの女のパワーは3点以上であったと言うことができる。

 

 さて、今度はその女についてだ。全くの想定外だったが、俺の中の《声》と融合した。いや、『元に戻った』と言った方が正しいのか? ヴァンや【ロクソドンの強打者】の時と同様、俺は既にその正体について完全に把握している。女は【林間隠れの斥候】だったのだ。

 

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Gladecover Scout / 林間隠れの斥候 (緑)

クリーチャー — エルフ(Elf) スカウト(Scout)

 

呪禁(このクリーチャーは、あなたの対戦相手がコントロールする呪文や能力の対象にならない。)

1/1

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 コストが緑1点と軽く、そしてパワー/タフネス=1/1の典型的な『軽い』クリーチャーだ。だが、このクリーチャーの有する『呪禁』能力は、相対する側にとっては厄介な、とても強力な能力だ。『呪禁』能力は、対戦相手、または対戦相手が操るクリーチャーの、特殊能力の標的にならない能力である。

 説明に、過去、俺が『深樹界』に転移してくる前、ヴァンが『アルノーゴ樹海』でトートが唱えた【恐怖】の呪文によって『破壊』されてしまった時を例にするとしよう。もし、この時のヴァンが【林間隠れの斥候】だとした場合、トートの唱える【恐怖】の標的とはならないので、『破壊』される事はなかっただろう。

 実際の卓上マジックでは、【呪禁】能力を持つクリーチャーに対して【呪文】を使おうとしても、唱えられないので、呪文を唱るのをあきらめるのが普通だ。(もしくは、他の標的に切り替えるだけなのだが……) だが、現実世界では、その『標的にしたくてもできない』ジレンマは、パニックに陥いれる程の強烈な違和感を俺にもたらした。【平和な心】を【林間隠れの斥候】に唱えようとした時に、俺の精神に、二律違反による矛盾の苛烈なストレスがかかったのかもしれない。あの時の、まるで喉まで出かかってるのに、出すことができないようなもどかしさは、今も思い出すだけで顔をしかめたくなる。あの時は、さっさと【平和な心】の標的を『武闘家』に切り替えていれば、ヴァンも相打ちにはならなかったはずだ。だが、覆水盆に返らず。既に起きてしまったことだ。どうしようもない。

 

 【怨恨】がのり移った【白スリヴァー】だが、俺が思考している間にも、徐々にすり寄ってきた。【白スリヴァー】の姿を、より近くで見ることで、コイツの正体も把握する事ができた。コイツの正体は【板金スリヴァー】だ。

 

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Plated Sliver / 板金スリヴァー (白)

クリーチャー — スリヴァー(Sliver)

 

すべてのスリヴァー(Sliver)・クリーチャーは+0/+1の修整を受ける。

1/1

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 コイツに関して、特筆すべき点は『スリヴァー』だということくらいだ。簡単に言うと、スリヴァーと呼ばれる種に属するクリーチャーは、それぞれ1枚ごとに同じ種族(=スリヴァー)すべてに影響を与える、なんらかの能力を持つデザインになっている。マジックの卓上デッキでは、この特徴を最大限に活かすために、すべてのクリーチャーがスリヴァーで構成されたデッキが考案されていたりするほどだ。また、地味にやっかいなのが、スリヴァーの能力補正は、能力を有する『そいつ自身』にも効果を及ぼす。【板金スリヴァー】は、すべての【スリヴァー】にタフネス1点分の上方修正を与えるのだが、この効果は【板金スリヴァー】自身にも適応される。今、のりうつった【怨恨】の効果もあって、コイツのパワー/タフネスは3/2であるはずだ。

 【板金スリヴァー】について、ぐだぐだ並び立てたが、じつは、目の前のコイツの単体としての脅威度は、それほど大きくはない。群になってこそスリヴァーの能力が生かされるのだが、目の前のコイツは単体だ。スリヴァーの利点も、単体では無視できる微々たるものにすぎない。(ただし【怨恨】の分が積み重なった分を勘定した、総合的な尺度での脅威度は別だが……)

 

「クッソ……」

 

 なんとか立ち上がり、迫るスリヴァーから逃れるためにヴァンの方へ駆けだす。ヴァンはまだ剣を杖にしてうずくまっており、復帰するにはまだまだ時間がかかりそうだ。ヴァンのパワー、タフネスは2/1。まともに今のスリヴァーとやり合えば、やられはすれども、差し違える事はできるはずだ。だが、あんな調子では、まともに抵抗できるとは思えない。しかし、それでも…… 少しでも生き残る可能性があるとするならば、それはヴァンのもとへ寄る事だ。

 

「そのまま奥へ、クレス殿を探して頼るのです」

 

 なんとかヴァンへ近づき、彼を追い抜き、そして、どこへ続いているのかわからない茂みの奥へと逃げてゆく。ヴァンとすれ違う瞬間、俺は何も話さなかった。彼の俺を見る目を見て、なんとなくだが言葉は不要だと思ったのだ。

 

「ねぇ、ワタル。 彼は大丈夫なの!?」

 

アイシャは恐る恐るの様子で、ぴかぴか光りながら、俺についてくる。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

息を切らせながら、なんとか答える。俺が言っていることは嘘だ。『大丈夫』なのは、ヴァンがやられてしまっても、また召喚することができる、という意味であって、今の状態の彼が【板金スリヴァー】を相手に無事で済むという意味ではない。

 

「ロウ殿! 頼んだぞ!」

 

ほどなくして、後ろからヴァンの叫び声が聞こえてくる。続いて、【板金スリヴァー】の咆哮が聞こえ、何かをすりつぶす音が鳴り響いた。

 

「ねぇ! ヴァンが! ねぇ! ワタル! ……!?」

 

 アイシャの悲痛な声が聞こえたが、俺は何かがすりつぶれる音が聞こえるのと同時に、全身に激しい痛みを覚えた。俺の自身の体には、何も起きていないはずなのに、全身が激しい力で押しつぶされたかのような痛みがしたのだ。俺に触れる存在は何もないのに、肉が引きちぎられているような感覚がする! 何もされてないはずなのに、骨が砕かれているような感覚がした! 俺の頭をはさむものは何もないのに、頭がつぶされるような痛みを覚える!

 

「ぐあぁぁぁぁ」

 

うめき声が自然と喉の奥底から出てくる。知らず知らずのうちに、俺は地面を転げまわっていた。

しばらくして、やっと痛みが治まった。きっと【板金スリヴァー】はヴァンを殺したはずだ。なによりも、俺が先ほど感じた『痛み』がすべてを物語っている。地面に手をついて起き上がろうとする。だが、のばした先の手を見て一瞬、茫然としてしまった。俺の手は血で染まっていたのだ。反対の掌を見ても、そちらも血にまみれていた。きっとこれも、ヴァンが【板金スリヴァー】にやられた時に発動した『トランプル』の効果によるものだろう。恐ろしい事に、やられたクリーチャーが受けた被害をそのままトレースしているようだ。きっとヴァンは【板金スリヴァー】に全身をかみ砕かれたのだろう。 

 

「はぁ…… はぁ……」

「ワタルぅ…… 一体どうしちゃったのよ! 全身血まみれじゃない! ねぇ、もう私達の森の事はいいから、逃げようよ!」

 

アイシャはさっきよりも、さらに激しく明滅しながら俺の周りを飛び交って、必死に語りかけてきてくれている。逃げるも何も、先ほどのヴァンから貫通してきた『トランプル』のダメージで、体全体に鈍い痛みを感じるようになり、十全に動くことができなくなってしまった。ロウにやられた時と同じくらい気怠く、体が重くて思うように動かない。それでもなんとか立ち上がり、奥へと進む。

 

少し進むと、結界が行く手を遮っている所に出てきた。

 

「くそ…… 行き止まり!?」

「ここからは結界の境目が突き出しているの。これ以上は結界に沿って逃げないと……」

 

少しでも距離をショートカットするために、結界が張られている境界と並行になるよう、徐々に向きを変えて歩を進める。しかし、ダメージを負ったせいか、中々速度は上がらない。

 

「ギシャアアアア!」

「きゃあ! もうそこまで来ちゃったわよ」

 

俺が出てきた茂みから鳴き声が響く。とうとう【板金スリヴァー】が俺を捉えたようだ。このままではいずれ追いつかれてしまう。

 

そこに、別の獣が吠える鳴き声がするとともに、茂みから勢いよく飛び出してきた影があった。

 

「ガルルルウゥ」

 

ロウだ! 『武闘家』を倒して、駆けつけてくれたようだ。

 

「ワンちゃん!」

 

 アイシャが強く輝いて喜びを表わした。ロウは素早く駆けてきて、俺達と【板金スリヴァー】の間に入り込み、【スリヴァー】を牽制する。よく見ると、多少傷ついているようだった。だが、その傷も徐々にふさがってるように見えた。やはり、『災厄の魔物』のように、クリーチャーは受けたダメージを回復する事ができるようだ。マジックのターンの進行上ルールに、『自ターンの最後に、与えられたダメージが帳消しとなる』フェイズが存在するが、これが現実に発現した結果なのだろうか?

 

「ワタル! あっち!」

 

 アイシャが俺が向いている別の方向で、光って俺に呼び掛けてきた。見ると、さらに新手が現れている! どんだけ来れば気が済むんだ、畜生!

 ソイツは一見すると、ただの猪のように見えた。だが、頭に赤く長い毛を生やしている。頭頂部で炎が燃えているかのようだ。そして、頭の側面の両方から、緩やかな曲線を描く角が突き出ている。大きく開かれた口からは、ロウのものと勝るとも劣らない鋭い歯が並んでいる。体の真正面を俺達の方に向け、後ろの方の全貌を見る事はできないが、時折体の縁の横から、揺れているしっぽが見える。そのしっぽは、先端だけが黒く染まった白い毛がふさふさ生えていて、まるで墨がついた毛筆のようだった。ふらりふらりと、時折姿を見せるしっぽだけを見てると、ソイツが呑気な存在のようにように思えるが、そのがっしりした図体で突っ込まれたら、それこそ軽トラで突っ込まれるのと変わらないダメージを負う事だろう。

 『猪モドキ』は、俺達の進む方向から、少し外れているが、俺達を遮るには容易にできる場所に位置取りしている。

 

「追い込まれたか……」

 

 俺は少しずつ、じりじりと結界の方へ後退していく。『猪モドキ』は、今は俺達の方を様子見しているが、いつ突っ込んでくるかわからない。ロウの方も、スリヴァーとにらみ合いをしていて、とても『猪モドキ』をどうにかできるとは思えない。

 

(【平和な心】を使うか?)

 

 対応策を考えながら後ずさっていると、背中に柔らかい感触がした。ちらりと後ろを見ると、薄い緑色をした幕が、目の前にあった。とうとう、結界の境界ギリギリまで追い詰められたのだ。

 結界は変わらずオーロラのようにたゆたっていて綺麗だ。この幕さえ越えられれば…… 忸怩たる思いで、向こう側を眺めていたら、ある方向に、向こう側の景色に見られるものとは異なる、奇妙な物を見つけた。

 

「あれは……!?」

 

 この辺りは樹海というほど木々が密集しておらず、起伏が激しい今までの地形に比べて、平坦な地面が続いている。アルノーゴ樹海での封印石があった場所に似ていて、ある程度奥が見渡せる場所になっていた。結界の向こう側もその地形は続いていたが、その先に、樹木の背丈を超す、非常に大きいな花のような植物があったのだ。その花は、いくつもの白い花びらで成り立っており、中心部から、アイシャの光っている時と同じような光が解き放たれていた。光は天空に向かって一直線に伸びて、ホタルのような小さな光の燐光を周りに降り注いでいる。今までの暗澹たる『深樹界』の、憂鬱とする光景を見せられてきた人間には、その花の姿は、突如現れた神聖なものか何かに見えるだろう。それほどに美しく不思議な花だった。

 

(トクン)

 

 その白い花を俺が認識した途端、俺の中の《声》が脈動したかのように感じた。少し前に、結界に初めて触れた時に続いて2回目だ。確証は何もないが、この白い花は、俺の中の《声》と関係している、そんな事を直感した。

 今こうしている間にも、俺の中の《声》達が騒いでいるのを感じる。何かの到来を、今か今かと待ちわびていて、期待に満ち溢れているようだ。ロウを取り戻した時、俺の中の《声》達が歓喜に打ち震えるていたことは、俺の記憶に印象深く焼き付いていた。それと比べると、今回のは、それとはまた別の何かのような気がする。《声》達は俺に何かを促しているのだろろうか?

 

「ワタルっ。目なんか閉じて、何してるのよ!」

 

 アイシャの叱責も無視して、俺は《声》の中に意識を沈める。いつも【呪文】を行使するときよりも、より深く。自分そのものが《声》と同質化するように意識する。変化には直ぐに気づいた。これまで、《声》達へリンクが成立しているマナの通り道、――いや、つながりと言った方がいいか――が、もうひとつ、増えていたのだ! 

 この新しいリンクは、既にあった2本よりも、若干弱々しいが、それでも『つながり』と認識できる程度には感触がはっきりしている。『つながり』が向かう先に望みを託して、俺は迷わず新たなリンクをたどる。土地へのリンクを辿るとき、つながった土地の情景が意識に投影されるが、今回も見えるものがあった。見えたのは、禍々しく歪んだ木々によって成り立つ樹海に囲まれている、巨大な花。天に向かって堂々と屹立し、花の中心から暖かみのある光をまっすぐ上に放っている。光は花の周りに恵みをもたらし、それを享受しているのか、周りでは可憐な妖精達が、花畑の上で楽しそうに宙を舞っている。

 

 その瞬間――リンクがはっきりと確立したのを捉えた。刹那の間に、俺はそれが何かを理解した。

 

「【陽花弁……木立ち……】」

 

薄い緑色の結界から先に見える、あの花は、やはり俺のデッキの中に入っていた土地カード、【陽花弁の木立ち】だったのだ。カードイラスト通り、どでかい姿そのままなのには、驚きを通り越して茫然としてしまいそうだ。俺のデッキの中にあったはずのカードが、目の前で具現化している事は、もう何回目になるかはわからない。疑念が余計に深まるが、今はそんな場合ではない。

 

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Sunpetal Grove / 陽花弁の木立ち

土地

 

陽花弁の木立ちは、あなたが森(Forest)か平地(Plains)をコントロールしていないかぎり、タップ状態で戦場に出る。

(T):(緑)か(白)を加える。

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 【陽花弁の木立ち】は土地カードだ。まず、『土地カード』に関してだが、マジックには【平地】、【沼】、【島】、【山】、【森】の5つの、各色のマナを発生させることができる、『基本土地』と総称される土地カードが、5種類存在する。それらに対して、『特殊地形』と呼ばれる土地カードも存在する。『特殊地形』は「マナを生み出す」という基本土地と同じ性能に加え、プラスアルファの能力を持ったカードが多い。(逆にマナを生み出さない特殊地形も存在するが……)

 【陽花弁の木立ち】だが、基本土地の【森】や【平地】は異なり、この土地はマナを2種類発生させることができる。発生させることができるマナは白、緑の2種類だ。ある意味、【森】や【平地】の上位互換と言える存在だ。だが、その便利さゆえに、バランスをとるため、何某かの足枷がついていることも珍しくは無い。【陽弁花の木立ち】の場合は、【森】か【平地】が場に存在しない時は、すぐには使う事ができないという点だ。この場合、次のターンまで待つ必要がある。だが、このデメリットは、今回に限ってはクリアされていると思ってよさそうだ。《声》に意識を沈めて知覚した、【陽花弁の木立ち】へのリンクはエネルギーに満ち溢れていたし、【森】と【平地】へのリンクも確立している以上、状況的に条件をクリアしているのは明らかだからだ。とにかく、これで今まで、封じられていた、コストが3マナの【呪文】が解禁されることになる。

 

 【陽花弁の木立ち】とのリンクが確立してから、《声》の中でも一際、自己主張をする存在がいた。そいつは、《声》に戻ってきたのはいいが、俺が今まで使えるマナが2点分しかなかったがために、活躍の場を得られなかった。それが、今になって、「やっと自分の出番が来た」と、いきり立っているようなのだ。【呪文】を行使するときは、《声》の中の存在達は、我先に、と各自声高に主張するのだが、今回はこいつが一番騒がしい。その激しさや、他の《声》も辟易しているくらいだ。

 そんな様子の、その《声》が頼もしく、そして滑稽にも感じてしまって、クスリと笑いが漏れてしまう。さっきから俺の様子がおかしいのか、アイシャがさらに何か言っているようだったが、内なる《声》に集中しているせいか、言葉は耳を素通りしていく。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その《声》の様子を見ていたら気が変わった。ああ、期待通りにお前を解き放ってやろう。図らずもお誂え向きの舞台は整っている。俺達のピンチを救ってくれ。

 

 《声》に手を突っ込む動作をイメージする。同時に、もう一つの手で、土地につながるリンクを3つ、まとめて掴んで手繰り寄せる。引き出すマナは、森から緑マナ、平地から白マナだ。そして最後の【陽花弁の木立ち】からは、期待通りに、白マナ、緑マナ、どちらでも取り出せるようだった。まぁ、これから解き放とうとするヤツは、1点分のマナさえあればどちらでもいい。ここは緑にしておこう。

3点分の潤沢なマナをリンクから引っ張りだし、ソイツにぶち込む様をイメージする。

 

「行け、【ロクソドンの強打者】!」

 

すると、俺の目の前で黒い穴が中空に発生する。穴は次第に膨張していき、大柄な体格の異形の存在を形づくり始める。突如として現れた奇妙な存在に、猪モドキも【板金スリヴァー】も硬直する。ただ、ロウだけが何が起きているのかが分かっているのか、変化が生じた場所を見向きもせずに、敵を牽制し続けている。やがて、姿を現したのは象の頭を持ち、長いハンマーを持つクリーチャーだった。

 【ロクソドンの強打者】は大地を踏みしめると、ハンマーを大きく振ってから、石づきを地面に勢いよく叩きつけ、「プァン!」と咆哮をあげる。【ロクソドンの強打者】の姿を見るのはそれほど間が無いはずだが、ずいぶん久しぶりなように感じる。見た限り、アルン村の教会内で初めて見たときと変わらないようだ。

 

「【ロクソドンの強打者】! っと……」

 

 俺が、声をかけると、【強打者】は「ぷあん?」と鳴いて俺の方を振り返った。大きい図体だが、長い鼻がぷらぷらと揺れている。強い存在感と、愛嬌が同居しているようで、親しみやすさを感じる。

 俺が黙ったのは、命令する前に、名前を考えてやらなきゃいけない、と気づいたからだ。絶対に必要というわけではないのだが、これまでのクリーチャー達にもやってあげたことだし、これは今後も続けていく事にしようと思う。付ける名前が単純なのは許してほしいが……

 俺の【ロクソドンの強打者】に対する一番強いイメージは、【平和な心】をかけられて豹変した時のものではなく、騎士の攻撃をハンマーの一撃で退けた光景だ。あの時は、人間離れした動きをした騎士にも驚いたものだが、さらにそれを覆した、【ロクソドンの強打者】の痛烈な反撃にショックを受けたのを覚えている。【ロクソドンの強打者】の英名の内、『強打者』に相当するのは"Smiter"だが、強烈な一撃――スマッシュ"Smash"――を名前の由来にしよう。

 

「『マッシュ』。お前の名前は、これから『マッシュ』だ! あいつらをやっちまえ!」

 

俺が叫ぶと、マッシュは喜ぶように「パオーーン」と鼻を持ち上げて大きく咆哮した。

マッシュは、両手でハンマーをもつと、大きな巨体を『猪モドキ』へ向かわせてゆく。意外と身のこなしが軽く、すぐに接敵する。

 

「フガッ!?」

 

猪モドキは出鼻をくじかれたようで、マッシュへむけて突進しようとするが、既にマッシュはハンマーを振りかぶった状態で待ち受けていた。

 

「ブギイィィ!」

 

メリィという、何かが砕けた音とともに、『猪モドキ』が苦痛の雄叫びをあげる。マッシュが、名前の由来に恥じない、見事なフルスイングを『猪モドキ』に叩き込んだのだ。『猪モドキ』は吹っ飛ばされたあと、一回バウンドしてから、木の幹に背中から激突した。『猪モドキ』は口から泡をふいて、痙攣している。しばらくは動けなさそうだ。

 

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Loxodon Smiter / ロクソドンの強打者 (1)(緑)(白)

クリーチャー — 象(Elephant) 兵士(Soldier)

 

この呪文は打ち消されない。

対戦相手1人がコントロールする呪文や能力があなたにロクソドンの強打者を捨てさせるなら、それをあなたの墓地に置く代わりに戦場に出す。

4/4

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 【ロクソドンの強打者】の最大の魅力は、その『コストパフォーマンスの良さ』にあるだろう。わずか3マナでパワー/タフネスが4点ずつ、という性能は、クリーチャーカードの性能に重きを置いた白、緑以外の色では、中々お目にかかれないだろう。俺が今、召喚する事ができるヴァンやクレスでさえ、この数値を実現しようと思うと、オーラ呪文1つは何かつけなければならないだろう。それが1枚で済むのだから、手数の少なさと効率性が重視されるマジックでは、この性能は注目に値する。(ロウこと、【番狼】は、【ロクソドンの強打者】と同じ強みを持つクリーチャーなので、ここでは扱わない)【ロクソドンの強打者】はそれだけに限らず、他にも能力がある事も、高評価(by俺)の要因となるわけだが、それらの効力が発揮されることは、そうそう無いのでここでは脇に置いておく。

 

「ガルルァ!」

「ギシャアアア」

 

マッシュが『猪モドキ』の相手をしている間に、ロウと【スリヴァー】との間でも戦いが始まっていた。お互いのパワーは相手を殺し切るには十分な数値を持っている。ロウが【スリヴァー】の胴体に噛みついて、同じ個所に深いダメージを与えようとしているが、【スリヴァー】の方は、胴体をむちゃくちゃに振り回して、ロウを振りほどこうとしている。ロウは、何度も地面にたたきつけられているが、噛みつきをとこうとはしない。体格差からは【スリヴァー】の方が勝っているようにも思えるが、パワー、タフネスの総合的な点数では、ロウの方が勝っているはずだ。俺にはロウを信じて見守る事しかできない。

 

「プァァン!!」

 

一方、マッシュの方は、痙攣して動けない『猪モドキ』にとどめの一撃をさしていた。とどめの一撃が叩きこまれた箇所は、跡がくっきりと残る程めり込んでいた。俺としては、あの一撃を受けるのは御免こうむる。『猪モドキ』は痙攣を止めて、やがて黒い泡に包まれ始めた。

 

「ぱおおん」

 

マッシュは『猪モドキ』が消え去るのも見ずに、こちらを振り返った。ハンマーの石突を地面に立てて、俺に向かって一鳴きした。まるで「どんなもんだい!」と言ってるかのようだ。

 

「ガルルァ……」

「ギ、ギ……」

「ワンちゃん……」

 

ロウの方も決着がつこうとしていた。ロウは【スリヴァー】に地面に何度もたたきつけられ、もうダメなのではないかと思う程ダメージを受けている。アイシャも気が気がでないのか、心配の言葉を漏らしている。だが、ロウは一度も噛みつきを解くことは無く、【スリヴァー】に確実にダメージを与えていった。対するスリヴァーは、ロウを振りほどくのに体力を使い果たしたのか、それともロウの攻撃が効いてきたのか、徐々に動きが鈍化していった。今は地面に共倒れているが、ロウはそれでも噛みつきを続けていた。

 

「ギゥゥ……」

 

やがて、スリヴァーが、聞こえるか聞こえないか程度のうめき声を発したあと、静かに瞳を閉じた。口は少しだけ開いたままで、舌が垂れている。そして、黒い泡に包まれ始めた。ロウも【スリヴァー】と同じように目を閉じて、動かなくなってしまった。ヴァンがやられた時と同じように、ロウの体は一瞬光ったあと、体の端から光の粒子となって、風に運ばれるように空中に溶けて消えて行った。ロウは最後まで【スリヴァー】に噛みついたままだった。

 

「そんな…… ワンちゃんが……」

 

俺の《声》の中に、弱々しい《声》が戻ってきた。

 

「お疲れ…… ありがとうな」

 

胸に手を当て、ロウに感謝を送る。しみじみしていた俺に、急にアイシャが飛び込んできた。

 

「ワタル、ねぇワタル! ヴァンとワンちゃんが死んじゃったじゃないの! それよりも、あの新しく出てきたわけのわかんない化け物はなんなのよ! それと、あの化け物が出てきた時、貴方からとても心地の良い魔力の気配があふれてきたんだけど、あれは一体なん……って、ちょっとぉ!」

 

次から次へと起きた不思議な現象に、アイシャは我慢できなくなったのか、次々にまくしたてて聞いてくる。こんなに詰め寄られてはたまらない。アイシャを手で遮って、なんとか静かにさせる。

 アイシャを落ち着かせる余裕があるのも、火急の脅威が、ロウとマッシュの奮闘のおかげでなんとかなったおかげだ。だが、まだ忘れてはいけない存在がある。【怨恨】の次の挙動だ。普通に考えれば、【怨恨】も俺のデッキの中にあったカードなのだから、【林間隠れの斥候】と同じように、俺の中の《声》に加わってもいいはずだ。だが、【スリヴァー】が黒い泡に包まれて消え去った後には、淡い緑の光を放つ存在が、空中に浮いていたままとなっていた。その光は、そこに留まり続けたままで、どこにも向かおうとはしない。光が動かない事が、俺に『まだ何かが起きる』と示唆しているように思えてならないのだ。マッシュも俺の考えている事がわかっているのか、「ぱおん」と鳴きながら、俺達のそばに近づき、俺と【怨恨】の光の射線上に立って、守ってくれている。(アイシャがまたわめきだして、うるさいが……)しばらくすると、変化がおきた。

 

「動いた!」

 

【怨恨】の光は、今度は『猪モドキ』が現れた方向へ移動しだした。すなわち、まだ俺達の敵となりうる存在が、その先に居るという事になる。その存在は、意外と近場に居たようで、【怨恨】が発現した時に現れる、放電現象の音がバチリとしたのを耳が捕えた。やがて、新たな【怨恨】の対象となったクリーチャーが、姿を現す。

 




20181015:マッシュ召喚前の《声》の描写に、少しつけたし。
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