カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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ギャグ的シーリーアース
ギャグ書いてると突然シリアスっぽい何かを書きたくなるアレなんです。 許してください。


マシュ学校へ行く。~チョコレートクッキーはミントの香り~

 

 

 

 

 

 

「おかあさん、朝だよー遅刻しちゃうよー?」

 

「_____?」

 

朝、人類最後のマスターだったカルデアのマスターは体に感じる重みで目を覚ました。 だが、天井は見知ったカルデアの物ではなく慣れ親しんだ自分の家の天井である。

カルデアから自分の家へと帰ってきたことを再認識しながら、まだ意識を手放せようとする睡魔と格闘し首を下に向けるとマスター自分の腹部に圧し掛かっている一人の少女を見つける。

銀髪で大人しそうな印象であるが意外と活発的であり、気まぐれな猫の様な性格のこの少女はジャック・ザ・リッパー。 可憐な少女であるが、その実霧の都ロンドンを騒がせた連続殺人鬼である。

先日マスターと一緒にカルデアに帰り、お留守番を命じられたのにも関わらず懲りずにまた日本に密入国したサーヴァントの一人でもある彼女は、マスターの旅行バックに忍び込みまたマスターの実家にお世話になっていた。

 

「おかーさんのおかーさんもう朝ごはん作って待ってるよ? わたしたちもお腹すいちゃった」

 

「_____……」

 

 

「あと五分って言ったら解体してもいいっておかーさんのおかーさんが言ってたよ?」

 

「____……」

 

流石自分の母親、そこらへんは御見通しだとマスターは苦笑する。 だがもう少し寝ていたいのも事実であるのでマスターは自分に乗っかっているジャックを排除するために起きるふりをして、自分の布団にジャックを引きずり込む。

 

「わあっ、おかあさん? うあっあは、あははははは! くすぐったいよぅ!」

 

「_____?」

 

「うふふ、あはっははは! ぎぶあっぷ! ギブアップするからこちょこちょ止めてぇ!」

 

そのままマスターはジャックがギブアップして布団の中で大人しくなるまでくすぐると、ジャックを胸の中に抱きしめながらそのまま二度寝をしようと目を閉じる。 ジャックのほんのりと暖かい体温が寒い屋根裏部屋の中で湯たんぽ代わりになってとても快適であった。

 

「おかあさんの匂いがする……」

 

ジャックもそのままマスターの胸に顔を埋めるとそのまま寝息を立てていく。 これがマスターの年齢が未成年でなかったらまだ微笑ましい親子の図だっただろうが、悲しいかなマスターはまだ高校生であり、おかーさんもといおとーさんになるにはまだ早すぎた。

 

「わ、我が子が幼児愛好者に……! これは母として何とかしなければ!」

 

「いや、実母が横にいるんですけど……」

 

なので要らぬ誤解を招いてしまう。 マスターが恐る恐る顔を向けると涙目の義母と顔に青筋を立てながらフライパンを持っている実母が立っており、マスターがさらに激しい目覚めをさせられることになった。

 

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫ですか? 先輩?」

 

「_____……」

 

穏やかな日差しの中、頭におおきなたんこぶが出来たマスターとマシュの二人は学生服に身を包み学校へと向っていた。 彼らの通う学校は少々距離があるため最寄駅まで電車で行き、その後は歩きで学校へと向かう。

二人と一緒に他の生徒たちも姿が見えてきて来る中、マスターは何だか生徒たちがいつもの雰囲気と違うのに気付いた。 特に男子生徒だ、なんだかオールバック大目で何と言うかいつも地味な生徒も少し恰好を付けて歩いて皆そわそわしている。

 

「_____?」

 

「確かにそうですね……今日は何かイベントがあるのでしょうか? 」

 

「おーい、マシュちゃーん!」

 

「お二人さーん! おはようだがやー!」

 

不思議がる二人の元に、マスターの学友たちが駆け寄ってくる。 マスターが見るとサルみたいな学友以外の学友たちも何だか髪型を固めていたり、制服のボタンを外してかっこつけたりしている。

 

「おはようございます、皆さん。 お二人も何だかいつもと様子が違いますね。 今日は何かイベントでもありましたか?」

 

「何言ってんだよマシュちゃん! バレンタインだよ! 男の価値が決まると言っても良い日さ!」

 

胸を張って答える学友の一人にマシュは首をかしげる。 バレンタインはもうすでに過ぎ去ってしまっているのだ。

 

「バレンタイン……? バレンタインは先日なのでは?」

 

「うむ、俺たちの学校振替でバレンタインデーは休みだっただろ? だから入れ替えで今日になっているのだ」

 

「_____……」

 

「そうそうだから、俺たちもこうしてバッチリ決めているわけよ!」

 

自慢げにポーズを決める学友二人、その自信満々な姿を見てマスターはバレンタインデーに格好つけても相手は前日に上げる相手を決めているのだから意味はないんじゃかと言うツッコミを飲み込む。 友人の甘い夢を醒まさせないのも友情の一つである。

 

「と、いうわけで……マシュちゃん、そのー……チョコとか……」

 

「も、申し訳ありません。 まさかそういう日とは知らなかったので用意が……」

 

「「ですよね~……」」

 

「でもマシュちゃんぐだっちの家に住んでいるんだし、ぐだっちにはバレンタインのチョコはあげれるんじゃないんべか?」

 

「はい! それはお渡しすることが出来ました!」

 

「「でーすーよーねー」」

 

マシュの笑顔を見て、マスターに殺気を向ける学友二人。 笑いかけているが目はまるで笑っていない、笑うとは本来威嚇のために用いられたと聞くがあながち嘘では無いなとマスターは思った。

そのままマスターは友人二名の濃い殺気を眠気覚ましの打ち水代わりに受けながら、一行は学校へと到着する。 校門から学生たちは皆賑わいを見せており、玄関でチョコを渡す者や、下駄箱の中にこっそりと入れる者もいた。 中には一足早い春を迎えている男女までいる。

 

「よし……行くぞ……」

 

マスターの学友たちも、自分の下駄箱に着くと深呼吸しながらゆっくりとその扉に手をかける。 栄光か絶望か、まるで何かに祈る様に目を閉じながら開けていくが、目を開いた瞬間その顔は落胆に変わった。

 

「な……ない……一つも……」

 

「ま、まぁ引き出しの中の可能性だってある! 諦めるのはまだ早いぞ!」

 

「_____……」

 

まだまだくじけない学友たちに苦笑しながらマスターも下駄箱を開けると、中に何かが入っているのを発見した。 マスターが取り出してみるとそれは可愛らしいリボンで飾られた袋の中に可愛くラッピングされたチョコレートが入っており、メッセージカードにはただハートのマークが一つだけ書かれていた。

 

「ほーう……ぐだ男どんにはマシュちゃん以外にもたぶらかしじゃ女子(おごじょ)がおるとか?」

 

「モテる男はよかばい……なんば釈明ばせんとか?」

 

「_____……」

 

「「もう言わんでよか!」」

 

「おんしら出身南のほうだったぺか?」

 

余りの憎しみに薩摩の方のぼっけもんになった学友二人が隅に置いてあった箒を持ち、目の前の裏切者(マスター)を叩き切ろうとじりじりと迫っていく。 正に一刀必殺、殺意しかにじまないその構えに、此処に沖田がいたら、一瞬で壬生狼モードにチェンジしていたことであろう。

 

「きゃっ……!?」

 

「____?」

 

「あれはマシュちゃんの声ばい! まっさかがんたれな男から言い寄られてるんじゃなかとか!」

 

「そりゃ大変ばい! 助けにいきもす!」

 

その時、隣の下駄箱からマシュの小さな悲鳴が聞こえたので、チェスト関ヶ原どころではなくなった学友たちが急いでマシュの所へと向かうぼっけもん二人。 マスターの方は、此処が人の多い学校と言うことと、マシュの力の強さとそれよりも強い精神の強さを誰よりも理解しているので、安心しながらマシュへと向かう。 無論悪い男に言い寄られているのであれば実力行使をしてでも止めるつもりでもあったが。

 

「マシュちゃん、大丈夫か……あぁ…」

 

「おぉ……う……」

 

「せ、先輩。 上履きを取ろうとして扉を開けたら中からこんなに……」

 

しかし男たちが見たのは、そんな男の姿ではなくチョコの山だった。 大小それぞれ異なるチョコがマシュの下駄箱から溢れるほどに詰め込まれていたのだ。 マシュが自分の上履きを取ろうとすると更にあふれて、床へと零れ落ちていく。

 

「あ、いたいたマシュちゃん! はいこれチョコレート、ってうわもうこんなに!」

 

さらに一人の女子がマシュに手渡しでチョコレートを渡しに来る、それを見た他の女子たちもこぞってマシュの周りに集まってきた。

 

「あ、ありがとうございます。 しかしバレンタインと言うのは女子が男子に渡す者では?」

 

「何言ってんの! 今の時代は友チョコが主流なのよ。 友達同士でこれからもよろしくって渡すわけ! ま、この量のチョコ見る限り友達になってくださーいって人達も多そうだけど……ねぇ?」

 

「んなっ! 俺たちはもうマシュちゃんと友達だっつーの!」

 

「友人同士でチョコ……そういうのもあるんですね……わわっ、これ以上はバックに入りません!」

 

意地悪そうに笑うクラス女子に、向きになりながら反論する学友たち。 賑やかに笑い合っている人達の中心にマシュが居るところを見て、マスターはマシュが学校生活に馴染めていることに安堵すると同時にマシュが皆に知られているということに少しだけ心の中で妬いてしまっている自分を自覚する。

意外に自分も独占欲が強いのかもしれないと思いながらマスターは、全方向から贈られてくるチョコの対応に四苦八苦しているマシュをただ微笑みながら見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「結局一つも貰えなかったぁ……」

 

「まだ、まだ放課後があるから……」

 

それから、学校の昼休み。 チョコを貰った男子や女子たちが昼食のデザート代わりに貰ったチョコを開封して頬張っている頃、マスターの学友二人は溢れる涙と共に机に突っ伏していた。 机からは流れた涙が横から流れ落ちて滝の様な光景と化している。

 

「まーだやってんのけ、チョコぐらいでそんな落ち込むことあるべか?」

 

「うるせぇ! ていうかお前らちゃっかりチョコ貰ってんじゃねーよ!」

 

「サルに負けるとは……」

 

ぼりぼりと口いっぱいにチョコを頬張りながらサルの様な学友、こちらは敗北者二人とは違い、チョコを貰うことに成功していた。

サルの様な学友は、そのフレンドリーな性格が功を奏したのか様々な女子からチョコを貰っており、それが雰囲気的に義理チョコだったとしても数にするとクラスで一番貰っている男子とも言えた。

一方マスターの方は下駄箱に入っていたチョコを含め、その後机の中や手渡しを含めると三つ程度であり、サル君に比べると少なかった。 だが、何だかどれも気合が入っているというか、ハートが書かれていたり、好意的なメッセージが添えられたりしていて、まさか本命なのかと学友たちを戦慄させることになった。

 

「そうだ、マシュちゃんからチョコをおすそ分けしてもらうのは女々か?……そうしたら俺たちだってチョコを貰えることになる。 しかもマシュちゃんからの手渡しで」

 

「名案にごつ……」

 

「______……?」

 

「悲しくないのかって? 悲しいさ、だがゼロよりはたとえマイナスでも一が欲しい……持てる者に持たざる者の気持ちは分かるまいて……」

 

「そういや今日はマシュちゃん遅いっぺな」

 

サルの様な学友が時計を見ると、昼休みはもう半分を過ぎようとしていた。 いつもならマシュはこの時間ならすでに自身の弁当を持ってマスターの教室で仲良く昼食を取っているはずであった。_友人たちの嫉妬の視線を浴びながらではあるが_

 

「確かに遅いなぁ、何か用事でもあるんだろうか?」

 

「_____?」

 

クラスの女子たちに誘われて昼食を取っているんだろうとマスターは笑うが、チョコを貰えなかった学友たちはそのモテない脳内回路をフルに巡らせて様々な憶測を立てていた。 その真剣なまなざしと燃える情熱の目にはとても似合わない阿呆な想像をしていることはマスターにも分かったが、何にせよマシュが自分の意志で決定して行動しているのならばマスターは何の文句も言う必要は感じなかった。

 

「_____……」

 

ふとマスターは今朝の友人たちに囲まれたマシュを思い出す。 友人たちに囲まれ困惑しながらもどこか楽しそうなマシュの姿、それは何処にでもいる素敵な女の子であり、その姿を見てマスターは思わず顔をがほころんだことを覚えている。

もっとマシュにはいろんな友達を持って、いろんな経験をしてもらいたいとマスターは思い、そしてそれには自分という存在が邪魔なんじゃないかとも考えた。

カルデアでマシュとマスターが出会ってから二人はどんな時も一緒であった。 それはマスターがマシュとデミ・サーヴァントとして契約し、それに加え特異点が危険な場所であり、マシュがいないとマスターの身が危険だったのもあるが、何時しか二人はそんな理由を持たなくとも一緒にいることが当たり前になり、マシュもそれでよいと考えている。

だが、そのせいでマシュが同年代の子との交流を断っていたり、自身の行動の自由を束縛しているとしたら、それはいけない事だとマスターは考える。 ここは特異点ではなく平和な一地方なのだ、自分の事なんて放っておいて自分の好きなように行動しても誰も文句は言わない。

忌避するべきはそれをどこか嫌だと感じている自分の心だ。

 

「どしたべぐだっち、そんな考え込むような顔をして」

 

「____……」

 

サル君の声に意識を戻してマスターは笑ってごまかす。

思い上がりだろうか、いや思い上がりなのだろう。 だけど、それでも__それはマスターがただの男の子であるが故の苦悩だった。

 

「なんだかしらねぇけど、悩み事なら相談乗るべ?」

 

「____?」

 

「へ? チョコどっちから食べようか迷ってた? それオラもなんだべー。 いやー飯食う前にチョコ食っちゃうのもどうかとは思うんだべが……」

 

「死ね……! 死ね……!」

 

凄まじい怨念と共に机をたたく音がするが二人は無視しながら貰ったチョコ見せ合う。 確かにサルの様な学友のチョコの量は昼食のデザートとしては多すぎるようである。

 

「おーサル君! 私のチョコ食べてくれたー? お返しは三倍返しでよろしくねー!」

 

「おう、ちゃんとカカオ豆でお返しするべー」

 

「原材料三倍って意味じゃない!! あ、そうそう今日は下級生のクラスは家庭科の実習だったらしいよ。 振替バレンタインデーの時にチョコクッキー何て先生も分かってると思わない?」

 

「教頭先生からして愉快な先生だからなぁ、ちなみにどこのクラス?」

 

「えーっとBだったかなぁ……」

 

教室が凍る。 教室にいる男子の視線が全てマスターへと向かい、じっと真顔で見つめ始める。 カルデアにいるメジェド様を思い出すが、それ以上に自分にミイラ案件が迫っていることがカルデアで身についた危機察知能力によって察知していた。 一人、また一人と席を立ちマスターを囲むようにして周りに立ち始める。

 

「____……!」

 

そして気づく、Bのクラスはマシュが在籍しているクラスである。 つまりマシュもクッキーを作っているのだろう、遅れているのはその為であり、そしてそのクッキーが誰に送られるのかなんて日々昼食毎にマシュを見ている男子生徒なら考えずとも分かることであった。

 

「囲めー……こいつは足が速いからな、出口をふさぐんだ……簀巻きにするぞ……」

 

「_____!!」

 

「ははぁー? 裏切者ー? 果たして裏切ったのはどちらかな……お前は俺たちの心を裏切ったんだっ!」

 

「____!!」

 

「逆恨みのどこが悪いというのだ! 言ったはずだゼロよりマイナスでも一が良いと! マシュちゃんお手製クッキーが食えるなら俺は喜んでマイナスになろう……!」

 

男たちの眼に漆黒の炎が宿る、殺ると言ったら殺るそんな覚悟を持った目であったがこんなことのためにそんな覚悟を持ってどうするというのか、マスターは目の前の男たちのオルタ化現象にに困惑すると共に、マシュのクッキーを奪おうとする敵と認識する。 鈍感やらなんやら言われるマスターではあるがそう易々と大事な後輩のクッキーをはいどうぞと渡すような優男ではなかった。

 

「_____こいっ!」

 

「その意気やよし! 我等神聖隊がメンバー二人プラス嫉妬に燃える男子たちがお前の相手だ! 不足はないだろう!」

 

今ここに美少女のチョコクッキーをかけた戦いが始まろうとしていた。 因みに周りで見ている女子は皆ドン引きであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それで先輩はそんなにぼろぼろなんですか……」

 

「_____……」

 

夕日も沈みかけ、夜の帳が降りようとしている頃ぼろぼろになったマスターと普段通りのマシュの二人は家路へ向っていた。 歩く速度はマスターがマシュに合わせ、会話はマシュがマスターに合わせる。 二人以外は誰もいない、静かな黄昏の帰り道であった。

結局マシュが作ったクッキー争奪戦の勝利者は誰もいなかった。 マシュのチョコクッキーは所謂友チョコになったからである。 一応マシュは周りに渡せる分を作っていたのだが、周りの女子がそれを友チョコとして皆美味しく頂いてしまったのである。 なので教室には無数の屍と真っ白く燃え尽きたマスターが椅子にもたれかかっているという惨状のみが残り、女子たちには白すぎる目を向けられるだけとなった。 _因みにサルの様な学友はチョコの食い過ぎで鼻血を出して保健室へと搬送された_

 

「____?」

 

「はい、皆さんとのお菓子作りは楽しかったです! 隣の子はミントを入れるといいと言い出しましてのど飴を砕き始めまして、その次は__」

 

楽しかったかとマスターが聞くと、マシュは目を光らせて思い出話に花を咲かせる。 その笑う姿はとても可愛らしく、正に花が咲いたような笑顔でマスターへと微笑みかけるたび、マスターもまたつられて笑う。

そしてその笑顔を見るたびに、マスターは何処か心が軋むような感覚を受ける。

 

「それで今日の放課後に皆で遊びに行こうと____あっ、いえこれは私は遠慮したのですが……」

 

つい口が滑ってしまったマシュに、マスターは一瞬だけ表情を曇らせるが、それをマシュに悟らせないようにしながら表情を作りながらマシュに尋ねる。

 

「_____?」

 

「あ、はい。 夕食に遅れてしまってはいけませんし、それに……その、こうやって一緒に帰れませんから」

 

そういって少しだけ赤面して照れくさそうに笑うマシュに、マスターは心がねじ曲がるような痛みを覚える。 それはマシュに思われているという嬉しさと無意識に彼女の自由を束縛しまっているという罪悪感が同時に彼の心に渦巻くが故の痛みであった。

 

「_____マシュ」

 

「はい、先輩。 どうされました? あっ……」

 

マスターは何かの決心をすると、マシュの手を握り目を見つめ、その言葉を口にしようとする。 マシュは突然の事に顔を更に赤くしてただ固まるだけである。

 

「_____マシュ」

 

「は、はい……!」

 

もう守ってもらわなくも自分は__

 

そう言いかけようとして、マスターは言葉が喉につかえて先の言葉が出てこない。 その言葉を言えば彼女を失う、そんな恐怖が彼の心を満たし何も言えなくする。

独占欲の強すぎる男め、マシュを縛り付けるつもりか臆病者、彼はあらゆる限りの罵倒を自分自身に浴びせるが、それは自分自身がマシュの事をどう思っているかの表れでもあった。

 

「……先輩?」

 

心配してマシュがマスターの眼を覗き込み、ようやくマスターは自分がただ何も言わずに立ち止まっていることに気付き、慌てて笑って誤魔化す。

 

「___、____!」

 

「昼のダメージが蓄積していた? それは大変です、帰ってダ・ヴィンチちゃんにメディカルチェックを……」

 

「_____!!」

 

本気で心配をするマシュを落ち着かせながら、その手から伝わるマシュの暖かみにマスターはただ一人苦痛へと苛まれていった。

淡くその色を失っていく黄昏のように、彼の心もまた深い、深い暗がりへと落ちていくようであった。

 

__マスターの明日はどっちだ。

 

 




マシュにとってはマスターといることが自分が一番したい事なのに、マスターは自分のせいでマシュが自分がしたいことをやれていないと思っちゃっているんです。 青春。

それに加え独占したいという気持ちともっといろんな人と出会いをしてほしいという気持ちが相反してマスターの心をハンマーで殴りつけているわけです。
マシュだからこそ有り得ない葛藤をするマスターでした。


感想、誤字報告ありがとうございます! 感想の返事が追い付かないよやばいやばい……
アヴァンジャーのワンちゃん、可愛いですよね……狼良い……

次回は、またまた若返り回! しかし若返ったのはマスターではなく……
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