料理という物は五感全てを使って作る芸術品なのだと誰かが言った。
五感の内どれかを疎かにしても料理の味は変わってくる、耳も鼻も目も手も無論舌も全てを集中させてやっと相手を満足させることができる料理が完成する。
だが重要な事はそこではないと、同じ言葉を言った人が続けて言った。
料理という物はそこに込められた心こそが重要なものだと言った、心の籠められていない料理はどれだけ美味であろうと意味は無く無味に等しい。
子を想う母の料理がどんな一流のシェフの料理も敵わない理由はそこにある。
恋人、友人、家族、そして名前も知らぬ誰かのための世界で最も行われている一般的な献心的行為、それが料理である。 と。
一理ある、かもしれない。 と、私は目の前で私が作った出来そこないの料理ともいえない物を笑顔で頬張って「ごちそうさま」と言ったその人を見ているとそう思った。
次は貴方のためだけに作ってみたいと、そう、思った。
「と、いうことで食べるがよい。 儚げで可憐な少女が慣れない手つきで懸命に作ったクッキーである。 この世の宝石一つ物よりも貴重なその思い、食べ残しはノーなのだな」
「お、お口に合わないかもしれませんけど、た……食べてください……!」
「「「「ウォォォォォーッ!!」」」」
狂乱喚起する男性職員達の声が響くのは人理継続保障機関カルデアの食堂である。 エミヤ達率いるオカン達の尽力の元、早い、安い、旨い、の三拍子がそろい更に健康にも良い、バストアップの効果もあるとカルデアでは人気の食堂であった。
時間は丁度おやつ時の三時ごろ、テーブルには沢山のクッキーが乗っていた。 それぞれのクッキーにはサーヴァントをデフォルメ化した可愛らしい絵柄やカルデアのマークなどが焼付いており中々食べる物の視覚も楽しませる出来になっている。
そんなクッキーを作ったのはパッションリップというサーヴァントであった。 野に咲く一輪の花のように可憐で庇護欲を誘うその少女の両手には自らの体よりも大きな巨大な金属の鉤爪がその手の代わりについており、そのアンバランスさは見る者に恐怖を与える物である。
その異常さは彼女も自覚しており、召喚された際にはその周りの視線から怖がられてもしょうがないと半ば諦めていたが、いざ三日も経ってみるといつの間にか親衛隊が作られ、巨大な鉤爪を恐れることなく接してここでは不便だろうと世話を焼いてくれる人々の方が多かった。
中には貴方は鉤爪より胸の方が目立つから男たちには気を付けなさいと笑いながら冗談まで言ってくる者もいた。
嬉しさよりもなんだか涙が出てくるようであった。 月を見ながらこんなに幸せで良いのかと不安になったこともある。
だから何か自分からもお返ししたいと思ってタマモキャットに相談したところ、そういう時は料理が一番であると返ってきたことが始まりであった。
料理などしたことないリップが巨大な鉤爪で皆に料理を振る舞う何て夢のまた夢と思われたが、肉球で料理が抜群なタマモキャットとブーティカなどの世話焼きがリップでも作れる料理と聞いてクッキーを思いつき、多くの時間と人々の協力の元、消費したボウル六個、オーブンの扉五枚、冷蔵庫の取っ手三個、爆発二回、キッチンキューブ化二回という犠牲の果てに彼彼女らのためのクッキーが出来上がったのである。
「いやぁ、本当に美味しそうだなぁ。 本当に頑張ってくれたのかぁ……」
「あら、これフォウ君の絵柄ね。 女の子らしいわねぇ」
「お、オレこれ防腐加工して飾っておくよ……」
「いや食えよ」
まさに感心の出来、芳ばしく香るバニラとバターの匂いと可愛らしい絵柄のクッキーは年頃の女の子が作ったと言っても嘘偽りのないほどの出来であり、職員にとってはアイドルが自分たちのためにクッキーを作ってくれたようなもので胸に込み上がる感情を抑えながらクッキーを取ってそれぞれ口元へと持ってくる。
「それじゃあ、いただきまー____!?」
「がっ!?」
「こっ!?」
だが、クッキーを口に入れ、歯で砕こうとした瞬間クッキーとは思えない金属音が頭の中に響いた。 クッキーが固い、硬すぎる。 幾ら強い力で噛んでもひび一つ入らない。
正に超硬度クッキーである、人間では食べれる気がまったくしない。
「かたっ……!? これは一体……!」
「ふむ……やはり硬かったか……クッキーを作ったものは良いものの、リップが作るクッキーはなぜか超硬度になってしまうのだ。 まぁそこらへんは試食前のクッキーより柔らかくは出来たので愛の力で乗り切ってほしい。 実際試食をしたご主人は令呪を二つ使って完食したのだナ」
「あ、あの! 食べ切れなかったら残しても構いませんから……つ、次はちゃんと柔らかく作りますから……!」
「「「食べる!!」」」
「ふぇっ!?」
が、彼らもまたマスターと共に世界を救った者達である、ただクッキーが固いからと言って目の前の少女の残念がる顔を見るぐらいなら歯を砕く方を選ぶ。
彼らは目を合わせ頷くと、グループに分かれそれぞれクッキーの完食方法を模索し始めた。
「物理的固さだ、概念的固さではないということは何処かに柔らかくする方法があるはずだ!」
「A班は牛乳で試せ。 B班は強度を測定してどの力で噛めば砕けるか調べるんだ。 C班はオレが率いる! ハムスター作戦だ!」
「味は美味しいのよ! 人理定礎に比べれば美味しいクッキー食べる方が何倍も簡単で楽しいわ! ねぇ!」
「応っ!」
ある者は牛乳に浸し、ある者は細かくして食べようと尽力し、ある者は顎を強化する機械をどこからか持ってきて強引に食べようとした。
職員が言った通り味は良い、牛乳にも合うし非常におやつとしては美味である。いかほどあの腕で苦労して作ったのだろうか、職員たちはリップの気持ちを想うと何としてもこのクッキーを完食しなければという思いが強くなる。
想像よりも大事になってしまったパッションリップが止めようとしたが、制止も聴かず職員たちは硬化クッキーも何のその、一枚、また一枚とそのクッキーを減らしていき、ついには大盛りのクッキーはその姿を消してその皿だけがテーブルの上に乗っていた。
クッキーの欠片も残っていない見事なまでの完食であった。
「よっしゃー! 完食じゃー!! 美味しかったー!」
「顎が随分と鍛えられた気がするな……」
「リップちゃんご馳走様ー! ってアレ? リップちゃん?」
「ぐす……ひっぐ……」
御馳走様と職員たちがパッションリップを見てみると、当のリップは俯きながらほとほとと涙をこぼしていた。 その姿を見て職員たちは大慌て、なにか悪いことでもしてしまったのだろうかと右往左往、あたふたするばかりでこういう時に頼りなキャットも優しい顔つきでリップに微笑みかけているだけである。
「ど、どうしようか! やっぱハンマーで砕いてみたのは不味かったかなぁ……!」
「クッキーに牛乳は邪道と思われたのかな……!」
「キャッツちゃん! 私達何かやっちゃったのかしら!」
「そうですね、私もそう思います」
「キャッツ君!? 言葉使いが変だぞ!?」
「ぐすっ、違うんです……嬉しいんです……嬉しいんですけど……なんだか涙が……止まらなくて……ごめんなさい……」
涙で途切れ途切れになったリップの言葉を聞いて職員たちはキャットと同じように優しく微笑んだ。 一人の職員が自分では拭けないリップの涙をかわりにハンカチで拭って笑いかける。
「クッキー、美味しかったわ。 またいつか作って頂戴ね」
「次はチョコが入ってる奴がいいなぁ」
「毎日でも良いよー!」
「馬鹿、それだとリップちゃんが大変だろうが」
「でも次は少しだけ柔らかめがいいかなーははは!」
そういって笑いだす職員たちに、リップは涙を床に水溜りが出来るぐらい勢いを増して流していくので慌てて職員たちがそれぞれハンカチを持って駆け寄っていく、何時しかそれは争奪戦になり、また食堂が賑やかになっていった。
「あり、ありがとうございます……ぐずっ……わ、私ここに来れて、良かった……」
四方八方から伸ばされるハンカチにもみくちゃにされながらパッションリップはいつ止むか分からない涙と共にくしゃくしゃな笑顔で幸せいっぱいに笑っていた。
「メルト! メルト! 良かった、ここにいた!」
「……余り廊下を勢いよく走らないで頂戴。 只でさえ重いんだから床抜けるわよ?」
「ぬ、ぬけないもん!」
その数刻後、カルデアの廊下で一人の少女を見つけたパッションリップは急いでその少女へと駆け寄っていった。 リップとは違い華奢で細身である少女は正に無駄を一切そぎ落としたような人形のように艶やかで美しかった。 だが少女の足はリップの手のように何者も切り裂くような鋭い脚の具足で出来ている。
少女はメルトリリス。 パッションリップと同じアルターエゴのサーヴァントである。
「聴いて、メルト! 皆クッキー食べてくれたの! それで、皆有り難うって……」
「そう、それで?」
リップはその後の言葉を出すべきか少しだけ迷い、メルトの顔を伺いながら恐る恐る口にした。
「それで……その、メルトもお料理やってみない? その、メルトだったらもっと上手く出来るだろし、そうしたら皆さんとだって……」
「必要ないわ」
メルトは即答した。 そういってこの話は終わりだと言う様に背を向けて歩き出す。 慌ててリップが追いかけるが、メルトは振り向くことさえない。
「で、でもあの時メルト遠くから眺めてたでしょ? メルトだってきっと皆から分かって……」
「もう一度言うわ」
メルトが立ち止まってリップを見据える。
「必要ない。 ここの人間たちに私を分かって貰う必要なんてないし、私達は人間を否定するように作られた以上、私達の在り方はその人間たちを傷つける。 私達は怪物なの、理解は必要ない」
「でも、マスターさんはメルトのこと……」
「あの人の話はしないで、まったく忌々しい……」
途端に苦虫を噛み潰した様な顔をしてさっさと歩きだすメルト、そんなメルトを分からず屋といいながらもメルトの分のクッキーも取ってあるからとリップは声をかける。
「良かったら、メルトも食べてみて? そうしたらメルトも……」
「気が向いたら食べてあげる、気が向いたらね」
「もうメルトの意地悪!」
そういってメルトの姿は廊下の先へと消えていった。
時は深夜、物音一つしない真っ暗な食堂の中淡く光る非常灯に照らされて一つの影が現れた。 その影はぎこちない手の動きでテーブルをなぞると、そのまま厨房へと入っていく。
普段こんな夜中に厨房に入るのはスイーツをつまみ食いしに来た茨木童子ぐらいなものだが、今日は違った。
流れる様な長い髪にいかなるものも切り裂く鉄製の足を持つ少女、メルトリリスである。
彼女は厨房の明かりも点けず、鈍い動きで冷蔵庫の扉を開けると、何かを探し始めしばらくして一つの小包を取り出した。
それは可愛らしくリボンで包装されており、見事な達筆で「メルトへ」と書かれており、中には二、三枚のクッキーが入っていた。 どうやらリップがメルトに作ったものらしく、昼に作ったものと同じものであるらしかった。
「……っかた……!」
メルトはそのクッキーを袋から出すと、一かじりしようと口に含むがその固さに一瞬顔をしかめてしまう。 サーヴァントでも硬いと感じるほどの固さなのに昼の人間たちはどうやってこのクッキーを完食したのかと一瞬だけ感心してしまうぐらいにリップが作ったクッキーは固かったのだ、だが、そのままサーヴァントの力でクッキーを噛み砕くと、その次はバターの香りとバニラの良い匂いがまるで今まで凝縮された風味が解き放たれかのように口の中に広がっていった。
これにはメルトはまた違う意味で驚いた、認めるのが癪ではあるが美味なのだ、あの爪で調理するには相当の修練と努力が必要だったであろう。
「……悪くないわね」
自身にも聞こえないような小さな声でメルトはそう漏らすと、自身の手を見つめた。 神経障害により極端に指先の触覚が低下しているのものそれは美しく白い手であり、そこには一切の無駄もなく正に人形の様な手である。
「____あの子はあの手で……」
だが、メルトはその日々自分でも一片の無駄のない完璧に美しい体と自称するほどのその一部を見て少しだけ目を伏せた。 人ではない手と人ではない足を持つ少女達、そしてその片方はその手を受け入れ、受け入れられようとしている。
メルトはそれが羨ましいわけではない、嫉妬しているわけでもない、ただ少しだけ嬉しいという感情があった。 あの子が受け入れられている、良き人々に出会った彼女の幸運をメルトは優しく微笑み、もう一つクッキーを口にしようとする。
「料理……か……いやいや、有り得ないわ、有り得ない。……まったくリップのせいね」
これもクッキーが美味しいのが悪いと誤魔化しながら残りのクッキーを味わおうとしたメルトだが、突如厨房の明かりが点いたことによってその手が止まってしまう。
今の今まで穏やかな気持ちでクッキーを頬張っていたメルトであるが、何も知らない第三者が見ると厨房でクッキーを頬張っている姿は只のつまみ食い犯であり、メルトにとってそれは消滅したくなるほど恥ずかしい事でもあるので、代わりに目撃者の記憶を消滅させるべく目にも留まらぬ速さでその足を振り上げて目標の頭へ振り下ろす__
「_____!?」
寸前でその少年の姿を見たことでその足は止まった。 鈍く光るその足が髪の毛数本を切り裂きながら元の場所へと戻っていく。
「貴方、こんな時間に何してるのよ……」
「_____……」
それはこちらのセリフですといきなり目の前に刃のヒールを突き付けられ震えながら返したのはカルデアのマスターであった。
その姿は寝間着と言うよりは今まで運動していたかのような恰好であり、黒いインナーを着ていた。
「_____……」
「訓練……? こんな夜中に……?」
マスターは訓練の帰りであった。 訓練と言っても正式なものではなく、時々やる秘密の特訓の様な物であり、金時たちから格闘技などの戦闘訓練を集中して受けている。
元々はマスターがサーヴァントを呼べないアクシデントがあった際の訓練であるがマスターの怪我率が高く、普段ではあまり許可されないためマスターが秘密裏にお願いして夜中密かに行っている物であった。
その帰りに小腹が空いてしまったため、イケないと思いつつも何か摘まもうと厨房へとやってきてメルトと鉢合わせてしまったのである。
「____?」
「私は、別に何も……」
そういうメルトは何をしていたかと聞かれるが、しどろもどろになるメルトが答えるよりも早くメルトが持っていたクッキーを持って察してしまった。
「____……」
「そのにやけ顔直さないと本当に記憶を失うことになるわよ?」
「_____!」
なんだか仲の良い姉妹を見たような気分でニヤニヤしてたのも束の間もう一度メルトが足を上げ始めたので、顔を青くして自分の目的を果たそうとマスターは冷凍庫を開ける。
「___……」
が、運の悪いことに冷蔵庫に作り置きの料理は無く、材料等ばかりで食べられるものは全くなかった。 スイーツなどにはすでに予約が入っているため手が出せず、かといって一から作るというのも手間がかかるし証拠が残ってしまう。
しかし小腹は空いたら気になるという物で、マスターは炊飯器を開けて中のお米が残っていることを確認すると手を洗ってその手に塩を付けていく。
その行動に厨房を後にしようとしたメルトはマスターが何をしているのか興味を持ち横目で目立たないように見ている。
「____っ」
そのままマスターはお椀に入れたお米を手に乗せると、上手く手の中で握りながら形を整えていく。 何回かコメを握るとそれは綺麗に三角型に形が整えられていき一つの料理が出来上がった、日本で古くから伝わっている伝統料理で、その中に入れる具で様々なレパートリーが楽しめる料理、おにぎりである。
「それ、なんなの?」
おにぎりが余りにも単純で簡単にできたので、メルトはついマスターに目の前の米の塊のことをマスターに聴いた。
マスターも聴かれるとは思っていなかったのか少しだけ驚いたが、少しだけ微笑んでお握りの事を説明すると興味深げにマスターが握ったおにぎりに視線を移す。
「おにぎり……勿論AIだし知っているけれど、こんな簡単に作れるものだったのね……私の手でも……」
「____?」
「は、はい? 作ってみるって、私が? 冗談言わないで、なんで私がそんなことを……」
メルトに興味があると分かったのか、マスターはメルトにおにぎり作りの提案をするが、メルトの方は冗談じゃないと首を横に振る。
「____」
「嫌いとかそういうことでは無くて、私の手は鈍いから……じゃなくて、ああもう!」
____これだから目の前の人は嫌いだ。
とメルトリリスは心の底からそう思った。いくら自分が突っぱねても構って来て、世話を焼かなくていいといっても焼いてきて、幾ら冷たい言葉をかけようが気にしない。 自分から嫌われてるって思っていない、いや嫌われてたって構わないって思ってる。
__嫌な人、嫌な人、嫌な人、嫌な人。
だからこの人の前ではふと思ってもいない事を言ってしまうし、いつの間にか乗せられてしまっている。
「はぁ……わかりました、一度だけよ……」
今回みたいに。
「それで、次はどうすればいいの?」
数分後、マスターの提案に折れたメルトの手にはラップの上に乗せられた米が湯気を漂わせていた。 メルトは初めてだし、火傷しないようにとメルトはマスターとは違いラップを使っておにぎりを作ることになった。
メルトからすれば、神経障害で熱さも感じにくいうえにサーヴァントなので平気だと言うがそこもマスターは譲らなかった。
「_____」
「包むようにして優しく握る……んっ……」
マスターが見ている中、メルトがおにぎりを握っていくが、指の感覚がないメルトは感触がつかめず米が零れ落ちたり、潰れたりで上手くいかない。 何回かやり直すもやはり神経障害がネックになっているのか、なかなかおにぎりの形が出来上がらない。
「んっ……くっ、なんで……あんなに簡単そうだったのに……こんなこと、リップはもっと難しそうなこと出来ていたっていうのに……」
自分の思う様に指が動かず、想像する物が出来上がらない。 何も作れない、その思いに焦りが生じてまた手の中の米を潰しそうになった時、ふとマスターの手がメルトリリスの手を包み込む。
「え……?」
「____」
メルトがマスターの顔を見ると、マスターは微笑むとゆっくりとメルトの手を動かしていく。 それ合わせてメルトの手も動いて米が優しくにぎられて出来上がっていく。
「(あったかい……?)」
何も感じないはずのメルトの手が、ふと温かく感じた。 有り得ない、とても有り得ない事なのだが、マスターの手から確かに伝わる温かさはメルトの心を落ち着かせ、少しだけ彼女の頬も暖かくさせる。 ずっと前にこんなことがあった様な気までしてくる。
そのままマスターの手に導かれるまま手の中を握っていき、その手を開いてみると、そこには一つの丸いおにぎりがメルトの掌に出来上がっていた。
所々歪んでいて、お米も最初の時より少なくなっており、にぎり慣れたマスターと比べると子供が握ったようなおにぎりであるが、立派なおにぎりである。
「出来た……? これが、おにぎり? 」
「_____」
「え? 交換……?」
マスターはそのまま自分もおにぎりを握ると、そのままメルトリリスの前へと差し出す。 呆気にとられたメルトは一瞬固まってしまったが、すぐに元に戻ると焦りながら首を横に振る。
「な、なんで交換しなきゃならないのよ!?」
メルトからすれば自分の失敗作に近いおにぎりというだけでも恥ずかしいのにそれが他人の口に入るということは耐えがたく赤面物でありからかっているかとも言ったが、マスターは優しくも真面目な顔であった。
「_____」
「大事なこと? あのドンファン顔から教えて貰ったって……」
それはエミヤがこのカルデアで初めてマスターに料理を教える時であった。 その時はまだ人理滅却時であり、マスターはエミヤにまだ当時は苦手であった料理を教えてもらうつもりであったが、まずエミヤはおにぎりを作らせた。 簡単な料理ぐらいマスターも作れるので、子ども扱いをされていると不満げであったが、真剣な目つきであったので何も言えず、ただおにぎりを作った。
「それじゃあ、そのおにぎりと交換だ。 俺のをあげるから、マスターのおにぎりを戴きます」
おにぎりが出来上がると、エミヤはそういってまだ形も歪なマスターの出来立てのおにぎりをそのままペロリと平らげてご馳走様でしたと手を合わせた。
その時エミヤが何を言いたかったのかは分からなかったが、ごちそうさまと言ってもらえるのは悪い気分ではなく、またごちそうさまといってもらいたいという気持ちが残っていつの間にか料理が苦手だという気持ちはいつの間にかどこかに消えさっていた。
マスターは今になってもその時のエミヤの真意を全て理解しているとは言えない、が、誰かにご馳走様と言ってもらえるのはとても大事なことなのだと思っている。
だから、メルトリリスのおにぎりと交換してほしいとマスターは言った。 別に本当に嫌なら構わないと付け加えたが、マスターの青い目は真直ぐにメルトリリスを見つめている。
「……初めてできっと美味しくないわよ」
「____」
メルトリリスは一つため息をつくと、諦めたようにマスターのおにぎりを口元に持っていく。
「きっとべちゃべちゃで食べにくいわよ」
「_____」
「塩だっていれすぎたかもしれないわ?」
「____」
「貴方って本当に嫌な人…… _____い、戴きます」
「_____」
戴きますと二人で言って、メルトはマスターのおにぎりを口に含む。 俵藤太の提供である塩と米は良い塩梅で混ざり合っており甘い米とほんのりと効いた塩が食欲を進ませるようであった。
メルトリリスは自らのおにぎりを食べているマスターを一目見ると、やはり塩が多すぎたのか塩辛そうな表情を浮かべていたが、メルトリリスが見ていることに気付くと、笑顔で「美味しいよ」と言った。
その姿を見てメルトリリスは、
「馬鹿ね」
と慎ましく咲いた一輪の花のような笑顔でそういった。
__彼女たちの明日はどっちだ。
ドラ○エや待望の水着イベントで書く暇がない……!(自業自得)
今回は遅れに遅れて二週間! すいません! 反省しています!
今回はアルターエゴとお料理のお話。 時期としてはメルトリリスの絆が4~5になるぐらいの御話でしょうか、展開が無理矢理かもしれませんが赦してください。
誤字報告&感想、毎度の事ありがとうございます。 見直しても見直しても無くならない誤字! 何故だ! 感想は日々の励みとなっておりますありがとうございます。
次回は、カルデアぐだ子編。 もしカルデアにいるのがぐだ男じゃなくてぐだ子だったらというお話でございます。
それでは楽しんでみて頂けたら嬉しく思います。