「ふっふーん♪ ふふふーん♪ でゅふふふー♪ ふーひひひー♪」
奇妙で奇怪で不気味な鼻歌が廊下に響いていた。 その出所は2mを超すひげを蓄えた大男であり、そんな大男が乙女みたいにスキップしてにやけながら廊下を渡っているので通りがかる者がその男が通るたびに怪訝な目を向けるが男は全く気にしない。それほど上機嫌なのだ。
「がっぽりがっぽり大儲け~♪ これはマスターに何か奢っても良いでごじゃろうなぁ~」
その男はエドワード・ティーチという英霊であった。通称黒髭という海賊の代名詞と言っても良いほど有名な男で、その性格は冷酷であり残忍だと伝えられているが、このカルデアの黒髭はオタク文化に体の水分一滴まで染まった全方位オタク海賊なのであった。
「そうしたらマスターもいつかは拙者の後ろから抱き着いたりして『くろひ~大好き(はーと)』なーんて言っちゃったりしてそこからはじまるカルデアハーレム……むふふ、夢がひろがりんぐ!」
「先輩、あの英霊はどなたなんでしょう……」
「しっ、みちゃいけません! 」
隣でカルデアの研究員から指さされても気にしない、その子の手を掴んで足早に去っていった職員を見たって気にしない。
なんたって今日の黒髭は上機嫌なのだ、なんと思ったより取引が上手く行ってQPががっぽがっぽ。 一か月ニートしても十分お釣りがくるほどの利益が黒髭の元に転がり込んだ。
買いたいフィギュアもあったし、ゲームもあったし、マタハリちゃんの新作写真集だってあった。いまから何に使おうか幸せな金勘定をしながら黒髭が廊下をスキップしていると、後ろから一人の少女が黒髭に向かって走ってきた。
その少女は赤栗色の目と髪をした年齢にしては小さな顔立ちと大きな目で童顔に見られる顔立ちをしているが、その胸と臀部は年齢にしては少々成長しすぎている体を持っており、それが男性職員には密かに好評である。
性格は非常に活動的で有り余る元気と人懐っこく、友人を作りやすいタイプで実際に友人が多い何処にでもいる普通の女の子である。 ——ちなみに兄が一人いる——
そんな彼女はその小動物的外見からは想像できないが、この人理継続保障機関カルデア唯一のマスターであり、カルデアの人々と世界を救った少女であった。
そのマスターは一見笑顔に黒髭に走り寄ったと思うと、何をトチ狂ったのかそのまま手を回してその背中に密着し始めた。
「————!」
「ふぉう!? この背丈と柔らかさと匂いは……まさかマスター!? 拙者に後ろから抱き着くなんて……もしや、もしや、もしかして!?」
まさか抱き着かれるとは思っていなかった黒髭は、魑魅的な声をあげて驚いた。 女性から後ろからされることと言えば銃で撃たれるかカトラスで刺されるかぐらいしかなかったのだ、黒髭はついに自身の青春の到来を予感し、背中に伝わる柔らかさに全神経を集中させながらマスターに声をかける。
「ま、マスター。 マスターの気持ちは拙者分かったでござる……だが俺は黒髭……惚れちゃあ火傷しちまう————」
そういって黒髭マスターの手を握ろうとした瞬間、黒髭の視界が反転する、天井が下に地面が上に、まるで自分が浮いているかの様な感覚の後黒髭の頭は勢いよく地面へと激突した。
「____このへんたいー!!!!」
「
それは見事なマスターの投げっぱなしジャーマンスープレックスであった。 これには近くで衝撃的な光景に顔を青くしていたアステカ神話系お姉さんも一転して手放しの大絶賛である。
「ったァー!? ちょっとこれ床硬いし多分サーヴァントじゃなかったら死んじゃう系の奴なんですけどー!?」
流石の黒髭も涙目になりながらマスターを見上げるが、当のマスターは般若の様にしかめっ面_のはずであるが、幼顔なため何となくかわいく見える_になりながらポケットから数枚の写真を黒髭へ投げ渡す。
「————?」
「んん、写真? ……こ、これはっ!?」
その写真を見た黒髭が目を開いて驚愕した。
その写真は一人の少女がトレーニングの後、もう一人の少女とシャワーを浴びながらじゃれ合っている様子であった。その年では中々に育ち過ぎな体に流水が流れ非常に色っぽい。
因みに大事な所はすべてカメラに着いた水滴で隠れており、それもそれで想像掻きたら非常にポイントが高い。
言うまでもなく一人はマスターであり、もう一人はマスターの一番の相棒であり後輩のマシュ・キリエライトである。
この写真には黒髭は非常に心当たりがあった。 と言うか黒髭が一年の苦心の末に取った最高の一枚であり、先ほどの取引の中で最高額で取引された写真である。
「————?」
この写真は最近黒髭が奇妙な動きをしているという噂をもとに本人の部屋をシャーロックホームズにお願いしてまで探った時に出てきたものであるらしく、マスターはこれを使って如何しようとしていたかを聞こうとして顔を赤くし、心当たりがあるだろうと質問を変えて言い放った。
「合点がいったか? はい、まぁいきましたけども。 あ、いやこれは違うんでごじゃる、たしかにこれを撮ったのは拙者でごじゃるが、そもそも侵入に成功したのは他のサーヴァントと女神の幸運のおかげと言うか、というか売れ行き的に女性の方にも需要があったことが個人的に闇が深いと言いますか」
「————!?」
「ぴっ! いや、売ったっていっても、その違うでごじゃるよ? 協力の報酬として大っぴらじゃなくて秘密裏に何人かに……」
「!?」
「えーっと、30人ぐらい……?」
「————!!!」
「ありがとうございますゥ!?」
全然秘密裏じゃないという叫びと共に放たれるローリングソバット。 これには近くで観戦していた神様系ルチャドーラも両手を挙げての大喜びである、因みに彼女も黒髭から写真を貰っている。
「————!」
「ま、まぁ私はそんなに気にしていませんから……」
「————!」
「気にしなきゃダメ? そ、そうですか……」
その数刻後、頬を膨らませながら怒るマスターとそれをじゃじゃ馬を抑える様にどうどうとマスターを押さえるマシュが二人で廊下を歩いていた。
黒髭が盗撮したお宝写真はカルデア中にばら撒かれており、ケツァルお姉さんの筋肉式説得で黒髭がそれで得た収益は全てマスターとマシュの懐に入ることになったのは良いことなのだが、マスターにしたら自分の裸は別にどうってこともないが、マシュの裸が公然の目に晒されるのは我慢ならなかった。
なので、子供のサーヴァントたちをご飯と引き換えに雇い、写真回収に乗り出すことになった。 黒髭のQPよさらば。
ジャック達や新入りのポール・バニヤンの尽力の元お宝写真は大方回収に成功したが、驚くべきごとに所持していた者は男性サーヴァントや男性職員だけではなく女性サーヴァントの所持が多かったことである。
しかも、一人で二、三枚以上も買っており、ルーラー裁判に連れて行かれる前に黒髭が言っていた「女性にも需要があった」と言う言葉を思い出してマスターは溜息を一つ吐く。
「で、でもこんなに売れていたってことはカルデアでの先輩の人気の高さが伺えて私としても鼻が高いと言いますかなんといいますか……」
その溜息を見てマシュが必死にフォローをするが、どちらかというとマシュが人気で売れたと考えているマスターは苦笑いしながらマシュの頭を撫でて、ある部屋の前に立つ。
そこは部屋番号に「221-b」と割り振られており、マスターがそのドアをノックしようとすると
「どうぞ」
と先んじて男の声が部屋の中から聞こえてきたので、そのまま二人は部屋の中へと入っていく。
「大体の数が集まったようだが、金輪際いかなる理由があろうとも彼の部屋には連れて行かないでくれたまえ。 事件が起こったのなら別だが彼の部屋からは火事か有毒性ガスぐらいしか発生しないだろうからね。 あぁレディ・マシュ、この前君が欲しがっていた本は机の上に置いてある。おっとそこ以外の所は触らないでくれたまえ、散らかっているようで整理しているんだ」
「やぁ、マイレディ。 君がこの男に用があるワケが無いし、目的は私だろう? 申し訳ないが写真は持っていないヨ、この年になると父性の方が強くってネー」
中に入ると埃っぽい部屋の中に横積みされた本の数々、謎の骸骨に実験器具が片づけられないままに放置されており、その奥で一人の初老の男と若者がチェスに興じていた。
二人とも視線も向けずに一言も発していないマスター達を言い当て、目的まで事前に知っている態度をとっており、チェスをする手を休める気もない。
だがそれは不思議でもなんでもない、彼らは世界最高とも言える探偵とその宿敵なのだから。
一人はシャーロック・ホームズ、そしてもう一人は自らを
「いえ、匿名のタレコミで教授、貴方が写真を買ったのはすでに発覚済みなのですが」
「いや、本当本当アラフィフ嘘つかない。 なんならボディチェックしてみるかね? そのままマッサージしてくれると非常に腰に良いんだけどネ」
「————」
「え? いいの? ホント?」
「教授、君の番だが」
「どうせ私が何処を指すか分かってるんだろう? どうせそこまで行ったら八手目で君のチェックだ、それで終わり。私はマイレディのマッサージを堪能しなければならないのでね」
マスターから、と言うか若い子からのマッサージが嬉しいのかチェスを放って何処から持ってきた棺桶の上にうつ伏せに寝っころがる教授、武器に使う棺桶をそんな扱いにしてよいのだろうか、そのまま教授が棺桶の中に入る破目にならないだろうかと疑問は浮かぶが、マスターもマッサージするために教授の上に乗っかっていく。
何とも珍しい光景にマシュも目をぱちくりとさせながら見守る中、ホームズはパイプを一つ吹かすと一つ嫌な笑みを浮かべて教授に話しかけた。
「いや、五手でチェックだ」
「ほぉう、探偵の前で黒幕補正を受けている私でもそこまでチェスは弱くは無い。 どんな手を使うのかね?」
「ふむ、そうだな……右肩、左脇、右足太もも……」
「ほぅ!? ま、待ちなさいマスター! ホームズ貴様ァ!」
ホームズに言われたとおりにマスターがその部位を探ってみると、精巧につくられた隠しポケットがありそこからは何枚かの写真が出てきた。 無論マスターのお宝写真であり、黒髭から買ったものに違いなかった。
「それに、右足の靴の裏、最後にベルトの裏。これでチェックだ」
「す、すごいです! 教授の体から集まらなかった写真の全てが……! 直にして六十万QPを超える程度かと!」
「な、なぜ……他の者に買わせてそれをまた買い取る者にさらに第三者を使って足を突かないようにしたはず……!」
「なぜってタレコミをしたのは私だからね、いやぁ確証はなかったが君ならやると思って先手を打っておいてよかったよ」
「おのれホームズ! 証拠もないのにタレコミとか探偵のやることじゃネー! はっ……!」
「————……」
背中から伝わる凄まじい殺気に気付くも遅し、マスターは教授の両足を掴むとそのまま背中の方へ引っ張り始める。
リバース・ボストンクラブ、日本で言うと逆エビ固めである。
「あいだだだだだだだだ! 腰っ! 腰が逝ってしまう! マイレディ! ギブ! ギブ!」
軋む骨、痛む腰、アラフィフにはサーヴァントでもなかなか辛い固め技に棺桶を叩いてギブを宣言するがここには後輩と探偵はいてもレフリーはいない。
悪人に仏の慈悲は無用。お構いなしなマスターのプロレス技が続く中、アラフィフ教授の声がいつまでも221Bに響いていた。
「くっそー……マスターちゃんの貴重なお宝写真が……高かったのに……」
「マシュちゃんとのツインお宝だったのに……あの子元気っこなのにガード固いから難易度高いんだよなぁ……」
「先輩、男子たちまだ悔しがってます」
「阿呆ね」
次の日、写真を没収されてQPだけなくなった様々な人々が肩を落として歩いている中、一人の女性が周りと違って明るく笑いながら廊下を歩いていた。
アステカ風の衣装に身を包んだ背の高いお姉さん、その正体は太陽神のケツァルコアトルである。 今日はいつもより上機嫌で、暗い表情で歩いている人たちを元気付けながら朝食を食べに食堂へと向かっていた。
「ウーン、みんな今日は暗いネー、特に男の子。 まぁ十中八九写真を取られたからでしょうけど、なんだか悪いことをしてしまったですね……」
そういって誰も見ていないところで胸から二つの写真を取りだす。
「グラシアス、黒い髭さん。全部あなたのおかげネー……でもごめんなさい、こんな良い写真はやっぱり独占したいもの」
一つは全部回収されたはずであったマスターのお宝写真であった。 黒髭に筋肉式説得する際、マスターからご褒美に誰にも見せないという条件付きで特別に一枚だけ貰ったものである。
「そして、こっちの写真も……ふふ、オーレ……」
そしてもう一枚、マスターの寝顔が写された写真である。 こちらは黒髭の盗撮の手伝いをしたときに女神に願った捧げものとして黒髭から貰った写真である。
ケツァルはその写真のマスターに一つキスをすると、胸にしまいなおすとまた廊下を歩いて職員たちに元気を振りまいていく。
「ブエノスディアス! さぁ! 今日も素敵な一日デース! 皆さん、元気よく生きまショー!!」
正にそれは太陽の様な笑顔であった。
————————マスターの明日はどっちだ。
初のぐだ子編。
ぐだ男が犬なら、ぐだ子は猫。 大人しく女性っぽい所があるのがぐだ男なら元気で男の子っぽいところがあるのがぐだ子と性格を分けています。
ぐだ男ではできなかったこと、ぐだ子ならではの描写もあると思いますので、
元気っ子な感じのぐだ子パート、another sky編。これからも楽しみにしていただけると嬉しく思います。
誤字報告&感想、ありがとうございます。 やっとダッシュの使い方も学び、これからももっと見やすい小説を目指していきますのでどうかよろしくお願い足します。