Your story 主人公ではない彼の物語   作:前田友春

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再会そして……4

二人が落ち着いたのはそれから数分後のことだった。未だに目は赤く、鼻を啜っているがどうにか泣き止んではくれたらしい。

 

「ねぇ、兄ちゃん。その右腕って……」

 

俺の右に座っていたシャイロが言う。ちなみにこのソファー四人掛けになっており、今は左からティナ、俺、シャイロの順番で座っている。

 

え、シャルはどうしたって?

 

あいつは何故かソファーに座っている俺の膝に腕と頭を載せるような形で床に座っている。そして何がおかしいのか目を細めてニコニコと笑っている。まぁ、笑顔なのは良いことだ。

 

「あぁ、一年ほど前に少し怪我をしてな。もう痛みも何もない。感覚がないんだ」

 

「なぁ、シャイロ。兄貴のこの腕治せないのか?」

 

ティナは俺の左腕に自らの腕を絡めながら言う。

 

「馬鹿を言うな。もう手遅れだよ。折れた骨が完全に固まってるんだ、これを治せる奴はきっと二つ名持ちの凄腕魔術師くらいだろう」

 

法術とは万能ではない。死者を蘇らすことは出来ないし、未だに治せない病気も多い。法術は人間の治癒力を極限まで高めたり、異常を排除したり、傷を癒すくらいのことしか出来ないんだ。

 

俺のこの腕は折れた後、固まってしまってもう長い。俺にとってこの腕はすでに“異常”でもなんでもない“当たり前”となっている。そんな腕を無理やり治せる奴がいるとしたら、そいつはよほど名の通った魔術師に違いない。

 

「馬鹿って言うなバカ兄貴! それにシャイロを舐めるなよ! すげーんだから!」

 

むぅ、少し離れていたら言うようになったな。これが反抗期ってやつか。何だか妹の成長が見えたようで嬉しいばかりだ。

 

「こらっ、ティナちゃん! お兄ちゃんをバカって言っちゃダメなんだよっ! お兄ちゃんはバカだけど、バカじゃないんだからっ!」

 

シャル、俺をかばってくれる気持ちはありがたいが全くかばったことになっていないんだけど……。とりあえず、この数時間でキミが一番バカだということはお兄ちゃん分かったよ。

 

「シャルの姉貴……それ全くかばえてないぞ」

 

ほら言わんこっちゃない、ティナが呆れてる。

 

「えーっ、そんなことないよっ! 私はお兄ちゃんの味方だからっ!」

 

何とも嬉しいお言葉をティナから頂いた時だった。少しだけ口を詰むんでいたシャイロが口を開いた。

 

「……出来るよ」

 

「「……え?」」

 

ティナとシャルの声がかぶる。

 

「だから、出来るよ。私はこの時のために法術を磨いてきたんだから!」

 

「本当にいってるのか?」

 

今度は俺が聞き返す番だ。折れたばかりの骨だったならそこそこ名の知れた魔術師なら治すことは容易いだろう。俺には無理でも才能があったシャイロなら涼しい顔をして治せることは間違いない。

 

しかし、今回は複雑に折れて固まってしまった骨だ。それも随分昔に。

もし、俺が同じようなやつに相談されたら諦めるか切り落とすか選べと言うね。ちなみに俺はそれで前者を選んだ。

 

「もちろんだよ、兄ちゃんっ! でも、それにはすんごい苦痛を伴うけどいい?」

 

顔面をくいっと押し付けるように身を乗り出してくるシャイロ。整った顔が近くに来たから思わず仰け反ってしまった。

 

ヘタレで悪かったな。前世から美人とは縁がなかったんだ。

 

美人といっても妹だけど、美人なことには変わりはない。

 

「あぁ、そのくらいは覚悟の上だけど……」

 

「まぁ、兄ちゃんには寝ててもらうから痛みを感じないとは思うけどね。ささ、ソファーに横になって」

 

「え、今からやるのか?」

 

「善は急げって言うのは兄ちゃんの言葉だよ。ティナちゃんも、姉ちゃんも立ち上がって兄ちゃんを横にして」

 

そうテキパキと指示を出すシャイロを見ていると本当に成長したんだなと思う。昔は引っ込み思案だったと言うのに、人間成長すれば変わるもんだ。

 

「なぁ、言っただろ。うちのシャイロは凄いんだって!」

 

そう特徴的な犬歯を見せながら笑って、ティナは立ち上がる。その笑みはどこか誇らしげだった。

 

「さすがシャイロちゃん。お姉ちゃん鼻が高いよ!」

 

シャルも俺の膝から手と頭をどけると立ち上がり、一歩下がった。

 

どうやら本当に今からやるようだ。

 

 

そして、ソファーに横になった俺の前にシャイロが立つ。顔は余裕そうな表情。どうやら自信はあるようだ。

 

「とりあえず、兄ちゃんには麻酔代わりで眠ってもらうから痛みはないと思う。起きたら治ってるから安心して」

 

シャイロはそう自信たっぷりに言うと目をつぶり詠唱を始める。その姿は修道服と相まって神秘的な印象を抱かせる。

 

「オリジナルスペル」

 

あぁ、このセリフで思い出した。彼女はオリジナルスペルの使い手であったということを。

 

オリジナルスペルを使えるような天才魔術師なら俺のこの腕を治すくらいわけないはずだ。自信のわけがようやく分かった。何とも心強いことだ。俺も安心出来る。

 

そして彼女は詠唱を終えると呪文を口にした。

 

睡眠魔法といったものは多くあるのだが、それらを使わずにオリジナルスペルを使ったってことはこの魔法にそれなりの意味があるのだろう。

 

 

「安らかな眠りを運ぶ天使」

 

俺の体の上までシャイロが両手を伸ばした。その手からは白く光る天使の羽根のような物が手いっぱいに握られていた。

 

そして、シャイロは手を開く。ゆっくりと羽根が俺に向かって落ちてくる。

 

「お兄ちゃん、お休み。また明日ね」

 

「兄貴、色々とした話は明日聞かせてもらうけど、とりあえず今日はお休み。また、明日な!」

 

「兄ちゃん、心配しないで明日の朝には治っているからさっ! だってボクはお兄ちゃんの弟子で、なんでも出来る法術師だからねっ。それじゃあ、お休み。また明日」

 

あぁ、そうだ俺も大切なことをいい忘れていた。

 

「あぁ、みんなお休み。また明日な」

 

あの時は明日はなかったから、言ってないが今日は違う。

 

俺の言葉にシャル達は満足そうな笑みを浮かべた。

 

ゆっくりと舞うように落ちてきた羽根が俺の頭に当たる。彼女達の笑みを横目にゆっくりと視界が黒くなった。

 

 

 

 

 

 

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