Your story 主人公ではない彼の物語   作:前田友春

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異世界の始まりも、また裏路地から

思い返せば昔から俺が主人公(ヒーロー)である可能性はほとんどないに等しかったように思う。

 

例えば、何もしなくてもテストの点数が良かったはずもなければ、何をしなくても運動が完璧にできるはずもなかった。

 

むしろ、どれだけやっても勉強も運動も中の上から、上の下といった評価をもらうのが俺だった。それが俺の才能の限界であり、努力の限界だった。俺より勉強が出来る人間も、スポーツが出来る人間もゴロゴロといた。

 

そして、もちろん超能力を使えるわけでもなければ、魔法を使えるわけでもない。

 

通学時にパンを咥えた女子高生とぶつかることがなければ、悪の組織に攫われて改造されることもなかった。

 

つまるところ、俺という人間はどこにでもいる有象無象の一員であり、大衆を構成する一パーツである。

 

かの哲学者ニーチェの言葉を借りれば、現存在(ダーザイン)という言葉がきっとよく当てはまるのだろう。

 

今回の件を省みてもそうだ。

 

銃弾はしっかりと割り込んだ俺の急所に当たったし、そこに偶然、凄腕の医者が通りすぎることもなければ、傷を癒す超能力者や魔法使いとかいう人々が通りすぎることももちろんなかった。

 

これが、主人公(ヒーロー)ならきっと銃弾は俺に当たることなく逸れた上で、何故か不思議な力が働き俺はあの黒づくめの男たちを返り討ちにでもできたのかもしれない。

 

結局のところ現実というやつというのはどこまでも理想とはかけ離れた存在であり、ご都合主義なんてものはどこにも存在の余地はないものだったのだ。

 

いや、二十歳もそこそこのくせに何を言ってるのかと言う奴も多いだろう。実際俺も馬鹿らしいと思ってる。しかし、俺が死ぬまでに見つけた一番の発見はこれなのだから、勝手に喋るくらいはしても良いのではないだろうか?

 

まぁ、つまらん発表会ももう終わるから我慢してくれ。

 

結論として、俺は主人公(ヒーロー)ではなく、ただの脇役とかモブとかいうやつだったらしい。

 

そう、主人公にピッタリな存在を考えれば俺が死ぬ前に庇った少女とかはどうだろう。見ず知らずの男に命を救われる少女。

 

もし、この世界が小説や漫画の世界ならきっと主人公にしやすい題材ではないだろうか。話題性には事欠かないだろう。

 

……なんてな。

 

撃たれまくって頭までおかしくなったらしい。いつぞやに治ったと思った中二病が振り返してやがる。もちろん、そんな主人公(ヒーロー)とかいう存在はこの現実には存在しない。

 

いや、主人公やら勇者やら、そんな奴らはいるのだろう。テレビで見る有名人とか、スポーツ選手とか、彼らは主人公という存在と言っても違いないだろう。

 

ただ、俺は主人公ではなかっただけ。そう、それだけの話だ。

 

主人公なら何でもない人助けでも、それを脇役が行うと文字通り命がけになる。

 

俺たちのような脇役が生きるか死ぬかは、その時の運だ。

 

生き残った連中は運がよく、死んだ連中は運がなかっただけの話だ。ある意味で救いであり、有る意味でどこまでも救いがないのが、この現実という世界での俺たちの立ち位置なのだ。

 

俺たちの世界であるそこには、一切のご都合主義だったり、主人公補正というものの入るスペースは存在しない。

 

そりゃそうだ、そんなものは主人公(ヒーロー)のためにあるのだから俺たちのような脇役が享受出来るはずもないだろう。

 

だから世界の意思とか神の意思とかそんなものは存在せず、全ての事象は“偶然”で片付けられる。

 

以上が俺の結論であり、俺という人間が至った答えだった。

 

だからこそ、何の因果が働いたのか分からないが、あれだけ血を撒き散らして死んだはずの俺が再び目を覚ましたのもきっと何かの――

 

――“偶然”だったに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

初めに感じたのは肌寒さだった。目を開ければ灰色の曇り空が見えた。ぐっと上半身を起こしてみれば何処かの薄汚れた裏路地が見える。そして、鼻を刺すような何が腐ったような刺激臭。

 

まるでその光景は俺が撃たれた裏路地を思い起こす。あの日は晴れだったが、今は曇りだ。それに、あの裏路地とは完全に違うのだが、雰囲気的なものはそっくりだった。

 

もしかして、白昼夢でも見てたのだろうか。あの撃たれた感覚も、あの少女の泣き声も全ては幻だったのだろうか。それならそれで何と中二病溢れる夢を見てたのだろうか。見ず知らずの少女を庇って撃たれて死ぬなんて、中学生が考えた妄想と言われても仕方が無い。俺が他人に聞かされたのならまずは病院行けと言うね、間違いなく。

 

その時ふと気づいた。そういえば、俺はあの少女の顔も声も何と無く朧げにしか覚えていない。痛みはあれだけはっきりと覚えているのに肝心の少女のことを覚えていないことはこれいかに。

 

霞がかかっているというか靄がかかっていると言えばいいのか、少女の全貌を思い出そうと海馬をフル回転させても、脳内に浮かぶ画像はモザイクがかかり全く使い物にならない。

 

これは本格的に白昼夢でも夢でも見た説が濃厚かもな。ったく、バカは死んでも治らないとか言うけど、中二病も治らないのかもしれないな。

 

……バカと中二病は死んでも治らない。

 

なんか、それっぽい名言が出来たな。……いや、こんなこと言ってるからバカって言われるんだろうな、きっと。

 

さてと、閑話休題。そろそろ、現状確認をしなければ……いつまでも現実逃避をしている場合じゃないな。

 

その時になって俺はようやく気付いた。どこか肌寒いと思ったら、着ている服がボロボロの黒い布切れに変わっていた。本当にただの布切れを身に纏い着ている。

 

というより身に纏っていると言った方が正しいくらいだ。

 

まぁ、そんなことはどうでもいい。身ぐるみ剥がれることなんかとっくの昔に覚悟している。だから、服が変わっていることもカバンがないことも、財布がないことだってどうでもいい。

 

だけど……。

 

試しに手をグーパーしてみる。手は俺の思う通りに掌を握ったり伸ばしたり動いている。間違いない俺の手だ。だが、明らかな違和感。

 

まさか……。ガバりと勢いよく立ち上がってみる。座っていた時とそこまで変わらない目線。俺は日本人の平均身長より身長は高かったはずだ。小学校の時から後ろから数えた方が常に早かったし、組み体操では土台だった。だからこそ、こんなに目線が低いとはあり得ない。

 

「なんじゃこりゃああああああああ!」

 

汚い路地裏に俺の声がこだまする。ついでに言えば俺の声はこんなに高くない。むしろ平均よりも低く、どちらかと言えばハスキーボイスだ。

 

どうやら、俺は自分の想像以上に大変なことになってるようだった。

 

ついでに異世界に来ての第一声がこんなしょうもないカッコつかない言葉になったのは俺らしい。

 

 

以上のことが俺がこの世界に来た最初の記憶となる。なんの因果か俺はこの世界推定五歳児ほどの若返った姿で目が覚めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから先のことは俺に人生が一二を争うくらいに大変だった。いや、俺は今でも夢だと半ば思ってる節がある。だって、笑えないだろ? 目覚めた先が異世界だなんて……。

 

俺が目が覚めた場所はどうやら第7世界のある国のとある街のスラム街“らしい”。いや、“らしい”というのはスラムに住んでいる人や街ゆく人々やの話を盗み聞きした結果わかった話なので確証性はちと薄い。

 

まぁ、異世界というのは概ね本当だろう。なんて言っても中世のような街並みに魔法なんてもんまであるんだから。商店街の肉屋のおっちゃんが火の玉操ってる時は感動を受けた。大道芸でもどうやらないみたいだし。

 

いや、俺も頭が悪い話だと思うんだ。撃たれて目が覚めたら、異世界でしかも魔法があるなんて、どこの三流小説だよってね。

 

ところがどっこい、それが現実だから笑えない。頬を摘めば痛みが走るし、走ってこければ血が出る。

 

肌を刺す寒さも、頬の痛みも全てが現実と教えてくれている。思わず、少しだけ笑ってしまう。どうやら、俺は生きていることが嬉しいみたいだ。

 

そんなこんなで始まった第7世界生活だが、思わぬところで思わぬところで行き詰まった。いや、より正確に言うなら終わりかけた……うん、ようは死にかけたのだ。

 

何と言ってもここは異世界だ。俺の知っている世界ではない。自身の格好を顧みればどう見たってスラム街の子供A。装備品は黒い布切れのみ。財布もない。靴もない。携帯なんてあるはずもない。勿論、所持金は0G。

 

いや、身ぐるみ剥ぐにしても、もう少し慈悲があってもいいと思うんだ。某RPGでさえ、全滅しても所持金が半分になるだけだというに。これがゲームなら製作者に文句の電話の一つや二つを入れたいね。電話があって番号が分かっているなら今すぐにでもかけるよ、俺は。

 

しかし、これは現実。なら、俺のやるべきことは単純だ。生きるために手を尽くすことだ。まず、大事なのは食料の確保だ。

 

そんなこんなで食料の確保に乗り出したのだが、大通りの商店街に出てみれば何か偉そうな服を着た人(後々分かった話だと憲兵様らしい)や商店街のおっさん達に追い回される。なんでもスラム街の子供は盗人が多く疑わしきは罰せろという考えらしい。推定無罪の原則の日本がこれほど恋しくなったことはない。

 

しかし、大通りに行けないからと言って腹が都合よくスリリングな運動だけでお腹いっぱいになるわけでも喉が潤うわけでもなんでもない。

 

逆に腹は減るし、喉だって乾く。それが人間の生理的反応というやつだ。

 

いくら俺が現代社会の知恵を、記憶を持っていたとしても五歳児でしかもスラム街に住んでいる時点でどうしようもない。

 

しかし、生きなければいけないのも事実。二度も死ぬなんてごめん被る。

 

別に前世の終わりに不服だったり、未練があるわけではない。少女を庇って死んだんだぜ。

 

最高にかっこいいじゃないか?

 

俺の最期を飾るには過ぎた舞台だろう。脇役の俺が主人公並みのカッコいいことを出来たんだ。その値段が俺の命一個なら安いに違いない。

 

それでも何かの偶然でこうやって今、地面に立てているのだ。それなら生きていかなといけない。

 

一度体験したから分かる。

 

死の恐怖。闇に、無に包まれる感覚。全てが無くなっていく、冷たくて深い深淵に飲まれていく……。

 

あんな経験は金輪際お断り願いたい。次は孫に囲まれて大往生したいところだ。

 

だから俺がとったことは生ゴミを漁り、そのあたりの水たまりの泥水を啜った。

 

元々、海外をプラプラとしていた時にもカエルやザリガニを食べたり、時には虫を食べたりもしてたのだ。

 

それが生ゴミと泥水に変わっただけ、背に腹はかえられぬ。餓死するよりかは幾分とマシだ。食うか死ぬか、Dead or eat、なら食うしか道はない。

 

スラム街の人間はそんな子供を見ても手を貸してはくれない。

 

だが、それでいいと思う。生物はいつだって自分自身を最優先させないといけない。生物である以上人間もそうだ。

 

あっ、これ俺の持論な、よければ覚えておいてくれ。

 

だからこそ、食うにいっぱいいっぱいのスラム街の人たちが俺みたいなパッと出の子供を無視するのも仕方が無い話であろう。俺は別にそれが非情だとも心ないとも思わん。それが当たり前だ。先進国の人間はこの辺りの感覚がちと薄すぎる。

 

まぁ、そんなこんななスラム生活だったが、長く続くことはなかった。日にちにして約四日。俺は一歩も歩けない状況になっていた。

 

理由は簡単、何かが“あたった”のだ。それが生ゴミだったのか、泥水だったのかは分からない。多分、どっちもだったんだろうけど、とりあえず腹がすげぇ痛くなった。よく腹がネジ切れるとか言うけどまさにそんな感じ。前世でもそんな痛みなかったというのに。

 

インドで水道水を飲んだときでも三日三晩苦しんだが、今回はそれ以上だ。流石、異世界、俺の経験と想像を遥かに超えてくれる。いや、悪い方に超えられても困るんだけどな……。

 

やっぱりあれだ。前世の記憶があろうが、知恵があろうが、それを生かす環境がなければ何にも意味がない。

 

これ俺が異世界に来た経験談。もしも異世界に行く機会があれば参考にしてくれれば幸いだ。結構的を得てると思う。

 

人間に必要なのはやっぱり運だ。それ以外のなにものでもないだろう。

 

そんなこんなで俺が動けなくなるようになるまで時間はさほどかからなかった。

 

その日は雨だった。裏路地で横たわる俺に雨が降り注いでいたのを今でも思い出す。吐いたり、下から出したりでもう、話す気力もない少年Aはひっそりと息を引き取るはずだった。

 

そう、はずだったのだ。

 

何がの因果が働いたのか俺にはサッパリと分からないが、俺は人生を続行出来た。

 

このこともきっと“偶然”に違いない。

 

その日俺は一人の老人に拾われる。俺がこの世界で命を救われた人の名を挙げろと言われたら少し悩んだのちにこの人を挙げるね。

 

彼の名はプリースト。本名は分からないが俺は彼のことをずっとそう呼んでいた。

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