Your story 主人公ではない彼の物語   作:前田友春

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再会そして……2

「って、ここで脱ぐのか?」

 

「当たり前でしょ、ここ脱衣所なんだしっ! あ、そうそう服はね、これを着てね! その服は捨てるからっ!」

 

連れて来られた先は馬鹿でかい脱衣所。その広さは俺が暮らしていた向日葵の家の俺たちの寝室兼子供部屋程度の大きさは十分にある。

 

そして、そんな脱衣所に呆然とする俺を脇目にシャルはそこにあったタンスから男物の服を取り出す。見ただけで最高級の布だと分かるそれをまるで試着するかのように広げてシャルはうんうんと満足げに頷く。

 

シャルの体格には明らかに大きすぎる服。男物だ。なんだ、男と一緒に住んでいたのか、ならなおさら一緒に入ることなんて出来まい。これはいい言い訳が出来た。

 

しかし、男の人と住んでいるのに奴隷と言うか兄と一緒に風呂に入りたがるかね、兄に懐いてくれているのは嬉しいが、これはちと問題だろう。

 

「なんだ、男の人と住んでいるのか? なら、ますます一緒に入ることは出来ないな。しかし、お前にも春が来たのか。良かったよ」

 

確かにシャルの容姿であれば男の一人や二人、百人くらい簡単に釣れるだろう。昔も可愛かったが今は群を抜いている。神話に出てくる天使と言っても大袈裟じゃないだろう。いや、身内贔屓を覗いても今のシャルは絶世の美女だった。

 

「え、何言ってるの? 私達がお兄ちゃん以外の人と一緒に暮らすはずないじゃん」

 

「え、ならその服はなんだ?」

 

「それはあれだよ。お兄ちゃんがいつ来てもいいように私たちで買っておいたの。昔からお兄ちゃん、身長が高かったから大きめのサイズ買ってて良かったぁ! シャルの計算通りだよっ! さぁさ! 脱いで脱いで!」

 

きっと今の俺の顔は微妙な表情に違いない。

そんな俺を横目に先ほどの泣き顔が嘘のようにキャピキャピしてきたシャルは俺の服を脱がそうと黒い布を引っ張る。

 

「分かった分かった! 一緒に入るからタオルくれ! タオルの一つや二つ余分にあるだろ?」

 

ここは折れるしかないようだ。奴隷の身うんぬんもあるが、それ以前にこうなったシャルは昔から頑固だったのだ。タオルで隠して極力見なければ大丈夫だろ、きっと。相手はご主人様の前に妹だ、変な気は起こらないはずだ、うん。

 

そんな俺の言葉にシャルは今日何度目かの首を傾げる。

 

「え、何を言ってるの? お風呂は裸で入るものだよ?」

 

「いや、まさかとは思うが俺もお前も裸で一緒に入るつもりだったのか?」

 

「え、当たり前でしょ、お兄ちゃん。昔もタオルしてなかったじゃん!」

 

「いや、昔はタオルが少なかったからだ! 体を拭くのも二人で一つのタオルだっただろ」

 

いや、それ以前にあの時もだいぶ危なかった。5年前といえば俺が十二でシャルが十一だったし。

 

「よくわからないけど、とりあえず早く入るよっ! さぁ、脱いで脱いでっ!」

 

なんだか頭が痛くなってきたのは季節外れの風邪でもなんでもないんだろう。

 

とりあえず、それは阻止しないとマズイ。主に俺の精神がマズイ。あの時とシャルが変わっていないなら、どうにかする手段がある。今はそれにかけるしかない。

 

「いや、頼むよ。せめてタオルで体を隠してくれ。じゃないと“シャルのことが嫌いになっちゃうかもな”」

 

そういった瞬間だった。シャルは俺に抱きつくとまた泣きはじめる。

 

「ひっく……き、嫌いにならないでぇ……。シャルをもう置いていかないで……ぐすっ。わたし、わたしなんでもするから……ぐすん」

 

「分かったから泣き止んでくれ、タオルさえしてくればいいからさ」

 

「……ぐすんっ。本当……?」

 

そう上目遣いで見られたら困る。シャルは妹でありご主人様でもあるのだ。今はただの主従関係なのだから、それ以上の感情は不要である。

 

「あぁ、本当に本当」

 

しかし、効果は少しくらいあるとは思ったが、これほどとは……。

 

これではまるで……。

 

それから、急にしおらしくなったシャルと小さな銭湯くらいはあるんじゃなかろうという洗い場で体を洗った。シャルは終始、俯いたまま無言で体を洗い、俺もそれに倣い無言で体を体を念入りに洗った。

 

流しても流してもお湯が真っ黒になるなんて恐怖体験を経験できるのは世界広しといえども奴隷くらいだろう。

 

そんん馬鹿なこと考えながら体を念入りに洗い、湯船に浸かった。

 

子供が泳げそうな馬鹿でかい浴槽で端っこに浸かっていた俺の左隣にシャルは俯いたまま浸かるとか細い声を出した。あぁ、もちろんシャルも俺もタオル巻いてるよ。シャルの体はそれでも目の毒だが……。

 

「ねぇ、お兄ちゃん……。シャルのこと嫌いになってない?」

 

「あぁ、もちろん嫌いになってないよ」

 

「本当? シャルのこと好き?」

 

「あぁ、大好きだ」

 

ただし枕詞に妹や家族して、と付くがな。もちろん、そんなことは言わない。俺だって空気くらいは読める。

 

「本当にっ! 私も大好きっ!」

 

まるで百面相みたく表情を変え、満面の笑みに戻ったシャルは俺の左腕に抱きついた。

 

あの出来れば離していただけませんかね、色々と柔らかいんです。どこがとは言わないけど。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。その右腕って……」

 

「あぁ、少し怪我をしてな」

 

シャルの息を飲む音が聞こえた。何度見ても確かに最悪の見てくれだ。バラバラに折れた骨がそのまま固まったのだから、見てくれが良いわけがないだろう。歪になるのも仕方がない。

 

「それに体に傷がいっぱい……」

 

昔、剣奴をしていたこともあったし、無理やり高難易度クエストにも連れて行かれたこともあった。魔物なんて何体殺したか覚えてないし、傷を何度負ったかも覚えていない。

 

そんなんだから今の俺には傷がついている場所がないくらいにボロボロの体をしていた。まぁ、見てくれは悪いが内面は丈夫だ。

 

流石に腕がただ繋がっているだけ同然だから五体満足とは言えないが、この世界でこれだけの怪我で生きているのも弱い俺にとっては奇跡的だった。

 

そうしてシャルは俺の胸元の大きな傷を指でなぞる。昔、狼に裂かれた傷だ。

 

やめてくれ、そんな表情をしないでくれ。俺はそんな顔をしてもらうために奴隷になったわけじゃない。

 

「なぁ、そのブレスレット、まだしてたのか……?」

 

目に着いたのはシャルの右手首に巻かれたブレスレット。ボロボロになってはいるが俺があの夜置いていったものなのは間違いない。

 

「当たり前じゃん……お兄ちゃんからもらったプレゼントだよ。捨てるわけないじゃん……」

 

「……そうか」

 

「それよりも、お兄ちゃんもその指輪まだしてたんだね」

 

「あぁ、ずっと付けているからもう外れなくてな。ありがとう」

 

それにこの指輪には命を救われた。どんな加護があったのか俺には分からないが、あの一撃が腕一本で済んだのはこれのお陰だろう。スクラップにならずに済んだのはこれをくれたシャル達のおかげだ。

 

俺の言葉にシャルは何も言わず、代わりに腕にギュッと抱きつくことで返した。

 

それからは風呂を上がるまでシャルは何も話さず、俺も何も言わず無言ままただ湯船に浸かっていたのだった。

 

 

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