ファンタシースターポータブル オリジナルストーリーズ 作:きりの
1話 幸せからは程遠い
いたいけな乙女16歳を仕事と称していきなりこんな危険なところへ連れ込むとは、一体どういう了見だろうか。
民間軍事会社リトルウイングの
いつまでも働く気を見せねぇから楽な仕事を振ってやろうというのに、この
二人はその主張を食い違えたまま現在地レリクスに到着するまでの約2時間、激しい論戦を繰り広げた。今では「帰りたい」と「ダメだ」の応酬になっている。
「レリクス」とは、いわゆる旧文明の遺跡である。
「旧」とは言うが、それは一度何らかの原因(一説にはSEEDとも)で滅んだゆえにそう呼ばれるだけで、そこに見え隠れするテクノロジーには、今のものより優れているものが多く存在する。
今、学者達を賑わせる「亜空間航行理論」に通ずるものもあるとかで、その研究は非常に盛んなのだ。
したがって、その遺跡たる「レリクス」の調査も、最近増えている仕事の一つ。危険が伴う仕事(クラウチはおままごとと笑うが)の為、リトルウイングのような会社から
今回は特にフリーで活動しているような者まで招かれ、集合場所に指定された入口すぐのこの広間は、腕利きの傭兵達でごった返していた。ニュースでよく見るような顔もある。
故に、ニート少女エミリアは目立っていた。160も無い身長に、学生服を改造した赤いセーラー服とローファー、サイドテールにしたブロンドのセミロングなど、どこをどう見てもこの場にそぐわない。首にはヘッドホンなんかもかかっている。散歩にでも来たのだろうか。
そんな訳で注目を集め始めている彼女なのだが、当の本人にしてみればそれどころではない。
彼女は一刻も早くここから帰りたいのだ。
「本当に危ないんだって!!ね~やだー!!帰りたいよ~~~~!!」
言ってはいるが、なんとなく主張が通らないのはわかっている。そもそもクラウチには「レリクスが危険である」ことを全く納得頂いていないのだ。それはもう、口にタコができそうなほど説明したが、聞く耳すら持ってもらえない。結局、こんなのは「ニートが駄々をこねている」ようにしか映っていないのだろう。だからと言って折れてやる訳にもいかないのだが。
「ったく、少しは働きやがれ。」
それももっともなのだが。エミリアも言い返しづらくなってしまう。
「ここは安全だから、今からおめぇ用の仕事をもらってきてやる。ウロウロしたりするなよ。いいか?こ・こ・に・い・ろ!」
クラウチはぴしゃりと言い放ち、人混みの中に消えた。
かくして傭兵少女エミリア(装備:ヘッドホン)は一人になってしまった。
あんな
集合場所となったこの広間は、本当にただ空間が空いただけのような場所で、ちょっとしたパーティーができそうな広さの他には、奥の部屋へ通じる扉しかない。
レリクスそのものの場所が海底にあるため(故に海底レリクスと呼ばれる。安直。)、天井には円形で小型の天窓がいくつも空いており、そこから自然光が入るようにはなっているが、海を挟むため仄かなものである。
その代わり柱に
フォトンは柱だけでなく部屋のいたるところに流れており、それぞれに不思議な模様を刻んでいる。黒を基調とした壁面に青いフォトンの流れるこの部屋は、施された装飾も相まって神殿のような神秘的で厳かな印象を受ける。エミリアは、なんだか生きた心地がしなかった。
「やだ…」
消え入るような、今にも泣き出しそうな声で。
「ここ、やだよ…」
誰にともなく呟く。
ともすれば背筋の凍るような部屋に、エミリアは一人だった。周囲の他人など騒音でしかない。
飲み込まれるような感覚に吐き気がした。
しかし、
「うっ…!?」
それは頭痛だった。それも頭が割れるのではないかと錯覚するほどの。
感じていた精神的な吐き気とは全く別のモノ。
まるで外から力を加えられ、ギリギリと締め付けられるような。そんな痛み。
呻いて、うずくまる。立ってはいられない。そして、
ゴゴッと低い音を響かせ、突然地震が起きた。
大きな揺れはその一回だったが、完全に収まることは無く、ゴゴゴゴと唸るような地響きが続く。
部屋中のヒト達が騒ぐ、叫ぶ。 危険を、脱出を。
見た目以上に頑丈につくられたレリクスは、崩れるような気配は無い。
が、入口の開けっ放しになっていた扉が、ゆっくりとだがひとりでに閉じようとしているのだ。扉の開閉はそもそも自動としてプログラムされているようで、当然調査に来た傭兵達にコントロールする術はなく、閉じてしまえば脱出はできない。屈強な傭兵達が一斉にその入口目指して駆け出す。そうして一つしかない入口はあっという間に渋滞になった。
それでも元々ヒトが4人は並んで通れるだろうという大きさだ。閉じるスピードも非常に緩く、どんどんヒトが流れ出る。多少揉めこそしたが、何とか全員通れそうだ。めでたしめでたし、、、と
原因不明のゲリラ頭痛が去り、エミリアが事態に気付いたのはその頃だった。
あれだけたくさんの傭兵で賑わっていた広間にはもう片手で数えるくらいしかいない。それも扉のそばで避難を呼び掛けている男と、今まさに扉から出ようとしている数人だ。
「え………えぇっ!?」
自分でも間の抜けた声だと思う。
驚きこそしたが、状況がわからぬほど馬鹿ではない。閉じゆく扉の隙間はおよそエミリア二人分。そこまでの距離5メートル。走ればまだ間に合う!!無理矢理奮い立とうとしたエミリアだったが、
先ほどの頭痛のせいか、はたまた未だ続く地響きのせいか、足がすくんで立つことすらできない。
扉のすぐそばで避難を呼びかけていた男が気付いた。
「君!何をしているんだ!!早く出よう!!」
必死に呼びかけながらこちらに駆けてくる。
「あ…うん!でも、足が…!」
すると男は「ええい!クソ!!」と言うが早いかエミリアを抱きかかえてしまった。
「え、うそ、ちょ 「うおおおおおおおっ!!」
細身でありながら、がっしりした体格のその男は、エミリアを軽々抱えて駆け出す。
「い…いったい何なのよ、あんた!?」
「見捨てちゃいけないんだ、僕は!!」
男はヒト一人抱えてなお、速かった。
が、出遅れたことに変わりは無い。目の前に踏み込んだ時にはもう紙1枚分の隙間しかなく。
無情にも、2人を残して扉は閉じた。