ファンタシースターポータブル オリジナルストーリーズ   作:きりの

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2話 襲撃者

 叩く。殴る。蹴る。押す。引く。

「…ダメだ。ビクともしない。」

男が顔をしかめる。

「…本当に、閉じ込められちゃったんだ…」

エミリアも(うつむ)く。どうしてこんなことに。

 

 気付けば地響きは止んでいた。とはいえ扉も閉じたまま。

何とか脱出できないかとその鋼鉄の扉を相手に頑張っていたところである。

「けど傷一つつかないとはね…」

「あー、もう!だからレリクスなんて嫌だったのに!!あのおっさん…!!」

静まり返った広間に声が反響する。

考えてみたら、エミリアは腹が立ってきた。無理矢理連れて来ておいて、置き去りにするなんて。許せん。こんないたいけな乙女を一人で、なんて…っと。一人じゃなかった。

 

「そういえば…さ。もしかして…あんた、あたしのために逃げ遅れたり…してる?」

「…あー、いや 「ごめん!!」

「そんな、気にしないでいいって。」

男は笑ってなだめる。

考えてみれば、彼は扉のすぐそばで脱出を呼びかけていたワケで。エミリアにかまったりしなければ問題なく、余裕で脱出できていたハズなのである。

…なんか、めちゃくちゃ居心地悪い。

「でも…、何で、そんな…あたしなんかのために…」

すると、男は何だか困ったような表情を浮かべ、

「うーん、なんて言うか…癖…かな…?」

「…は?」

「ああいうの見ると、『見捨てちゃダメだ!!』って僕の体が叫ぶような気がして。今も考える前に手が出てた。」

「変なの…」

「よく言われるよ…」

ははは…と苦笑いを浮かべている。

 

 よく見れば、本当に変わった男だ。

身長はかなり高い。180も半ばのクラウチと同じくらいかもしれない。歳はエミリアと同じくらいだろうか。人種はヒューマン…だと思うのだが(消去法)、体調が心配になるような色白で、目は青い右目と赤い左目のオッドアイである。服装はかなりボロボロでくたびれた戦闘用と思しき赤いスーツに、これまたボロボロの金の装飾がついた黒の上着を羽織っている。もう一般的な部分が黒の短髪と顔立ち(整っているとは思う。別に好みではない。)くらいしかない。

何だか頼りない。彼の印象はそんな感じだった。

 

 それでもエミリアは何となくほっとしていた。本当に一人で閉じ込められたりしたら一体どうなっていたことか…

 

「って、え?先に進むの!?」

入口だった扉は閉じているが、反対側の扉は開いたままだ。男はどうもそちらへ歩き出そうとしているようで、

「うん。もしかしたら、あっちにも出口があるかもしれないからね。」

それは確かにそうなのだが…しかし一人になりたくないエミリアにとって、彼がこの部屋を出て先に進むと言うことは…

「ここ、未開のレリクスなんだよ?すっっっっっごい、危ないんだよ!?」

「だから僕達が集められてたんじゃないか。僕だって傭兵だよ?大体、ここにいても仕方ないしね。助けもいつになるかわからないし、そもそも僕どこにも所属してないし、助けてもらえるかどうか…」

「そ、それもそうだけど…」

「君はここで待ってて。もしかしたら助けが来るかもしれないし。」

あー、もう。仕方ない。

 

「ま、待って!い、行くから!あたしも一緒に行く!!」

すると男は眉を寄せて、

「いや、君はここにいた方が…」

「やだ!無理!一人は無理!!ぜったいついてく!!」

「わ、わかったよ…いいよ、一緒に行こう…」

言ってしまった…けど、とりあえずよし。超不安だけど仕方ない。

無理矢理勇気づける。あんなんでも一応傭兵らしいし。もうどうにでもなれ!

 

「あ、そういえば、あんたの名前…聞いてなかったね。」

「あー、そうだね。ごたごたしてたから、うっかりしてたよ。」

そして少し照れくさそうに、

「僕はネロ。ネロ・ボーラン。」

「ネロ…ネロね!あたし、エミリア。エミリア・パーシバル。」

「よろしく、エミリアさん!」

「呼び捨てでいいって!」

「そう?そ、それじゃあ…エミリア。よろしくね。」

「よろしく!…よし。それじゃあ早速…」

 

 突如、叫び声が部屋に響いた。

 

 今しがた向かおうとしていた、先へ進む扉の向こう。仄暗(ほのぐら)いその空間からグオォォという、そのものずばり、獣が吠えているような唸り声が響いてきた。それも一つではない。一つが吠えると他も吠える。群れを表す連鎖だった。先ほどの地震のせいだろうか?やたら殺気が籠っているように聞こえてならない。

 

「これはどうも、おだやかじゃないね。」

「なになに!?なんなのよーっ!?」

レリクスだろうが廃墟は廃墟。原生生物(げんせいせいぶつ)の一匹や二匹、棲み付いていてもおかしくはないのだ。わかってはいた。しかしそれと心の準備ができるかは別の話だ。「傭兵」として登録されてこそいるが、エミリアは戦闘経験が全くないのだ。だからといってこれだけ殺気立った声を上げる群れを無視もできないだろうが。心臓が破裂しそうだ。

 

「君、戦える?」

「うえぇ!?…えーっと…い、一応、武器は持ってます…けど…?」

決して戦えるとは言わない。とても言えない。となればまずい。非常にまずい。

丸腰で熊にでも出会ったと想像してみて欲しい。当然逃げればよい。否、逃げるしかない。聞くところによれば、目を合わせたままゆっくり後ずさりしていくのがいいのだとか。

今だって同じことだ。逃げればいい。戦えなくたって勝てなくたって逃げればいいのだ。

ところで逃げるための後ろの入口は固く閉ざされてしまっている訳なのだが、どう逃げればいいのだろうか。もちろんそんなこともあろうかと、武器はあるのだが…とても戦えるとは言えない、と堂々巡りである。

 

「よし、とりあえずそれ出して。構えるだけでいいから構えておいて。そして僕の後ろから離れないように。」

「う、うん。」

言われた通りにするしかない。エミリアは震える手で自分の左足太ももにつけたナノトランサーを起動した。

 

 ナノトランサーとは、言わば収納装置。小型の亜空間を生成し、そこに手荷物を収納する。武器を多く持ち歩く傭兵はもちろんのこと、買い物帰りの主婦の皆様まで御用達の現代社会になくてはならないモノである。

エミリアは拳大(こぶしだい)でピンク色のボタンのような形状のものを三つ持っていて、内二つは両袖に一つずつ。もう一つが今起動したもので、左太ももに白いベルトで固定してある。

そこからエミリアは、自分の長杖(ロッド)を取り出した。

 

ネロはというと、上着の肩の装飾がそうだったようで、そこからエミリアの身長くらいはあるだろうという長剣(ソード)を取り出した。武器の刃もフォトンで形成するこの御時世(ごじせい)に、見たことも無い片刃の実体剣。長さの割に細く、緩いカーブを描く刀身が(あや)しく光っている。

 

 構えながら、ちらりとこちらに目をやりながら言う。

「不思議な長杖(ロッド)だね?」

エミリアの物も確かに珍しいものではあるらしいが、今はそんなことはどうでもいい。どうせ使い方もよくわかっていない(鈍器くらいにはなるだろうか?)のだ。

「あ、あんたに言われたくないんだけど…」

どうにか受け答えしながらネロの後ろに隠れるようにつく。嫌な汗が背を伝い、使うつもりのない長杖(ロッド)を握る手に力が籠る。そして、

 

 襲撃者達(しゅうげきしゃたち)が、荒々しく部屋に突入してきた。

 

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