ファンタシースターポータブル オリジナルストーリーズ 作:きりの
「記憶…喪失…?でも、あんたさっき…」
「うん。全部綺麗に忘れてしまってる訳じゃないんだ。戦い方は体が覚えてるし、武器の扱いやなんかも、どういうわけかはっきり覚えてる。でもそれ以外はさっぱりで…当然レリクスとかSEEDとかも、よく知らないんだよね。だから、信じられる。否定できる知識もないからね。」
ネロがにっこり笑顔で言う。
「そっか。なんか、あんたも大変なんだね…」
記憶喪失。いまいちピンと来ない感覚だが、逆に言えば、想像もつかない苦労があるんだと思う。それに、エミリアは嬉しかった。自分の話を真面目に聞いてくれるヒトは久しぶりだった。だから……
「あ、ありがとう…」
「何でお礼?」
「いいの!それより、とりあえず先に進もう?こんなとこ、早く脱出しなきゃ。」
クラウチに対する不満は、いつの間にか綺麗に無くなっていた。
レリクス内の探索は、意外とスムーズに進んだ。
もちろん、その功績のほとんどは、ネロのものだが。
起動したレリクスの中は罠だらけで、扉をくぐる度にレーザーやらビームやらが飛んでくるし、先ほどのように棲み付いてしまった原生生物達は襲い掛かってくるし、更には備え付けの
飛んできたレーザーもビームもネロが
そんな訳でエミリアは後ろをついて来ただけなのであった。
そうこうしている内に、二人はまた、開けた部屋へ来た。
「…ねぇ、まだ出口は見つからないの?」
かれこれ一時間。歩いても歩いても似たような部屋ばかりでエミリアはうんざりしていた。唯一の救いは、部屋ごとに入ってきたものの他には扉が一つしかなく、確実に奥へ進めているという確信を持てることだが、こう先が見えないのでは結局精神的にも体力的にもしんどいエミリアなのだった。
「大分歩いたし、そろそろあってもいいと思うんだけどね…」
引き換えネロの方はピンピンしている。アレだけ戦闘をこなして一体どこからその体力気力は湧いてくるのだろう、と見ているエミリアは余計にどんよりしてくる。
「しっかし、また随分大きな部屋に出たね。」
言われてエミリアも後ろから見渡す。この一時間で、新しい部屋に入る時にネロの後ろに隠れて入るのがすっかり習慣になってしまった。
「本当だ。あたし達が最初に入った部屋に似てるね…って、げっ。」
丁度円形になっているこの部屋を見渡して、エミリアは気づいた。気づいてしまった。
部屋を囲むように多数設置されているこの巨大な物体は…
「こ、このまわりに見えてるの、全部大型の
先ほどから相手をしていた小型のものが、動物や砲台をイメージさせられたのに対して、今周りを囲んでいるものはヒト型である。大きさは比ではない。ネロの身長の倍はあろうという巨大なものだ。レリクスのあらゆる仕掛けが起動している中、不気味に静かなのが気になる。エミリアはなんだか、こちらを見られているような気さえしてきた。
遠くはあるが一応、正面にまた別の扉が見えてはいるのだが…
「ねぇ、早く抜けよう?こんなのが動き出したらって考えると…」
この大きさにこの数だ。さすがのネロもたった一人で平気へっちゃらとはいかないだろう。考えただけでもぞっとする。
「うん、そうだね…戦う必要がないならそれに越したことは無いし…ここはひとつ、スルーさせてもらおうか。」
ごもっとも。そんな訳で失礼しま~すなんて扉に向け歩き出した、その時。
ゴトン!という音と共に、11時の方向から1体、2時の方向から1体、件の巨大
黒とベージュの装甲に覆われたその体は、手足が直接繋がっておらず、体から溢れるフォトンが繋いでいる。巨大な肩は上にせり出し、五本の指はその先が鉤爪のように獰猛に尖っている。体に埋もれるように設置された頭部から二つの光が、目が覗く。地に足をつけると背からこれまた巨大な重ね刃の斧を取り出した。
「ちょっ、じょ、冗談でしょ!?言ったそばから動き始めないでよ!」
エミリアは震えて声を上げる。なんとなくわかってはいたが、本当に動き出すなんて。しかも二体。自立起動兵器なんて銘打っているが、その様子はどことなく生物臭く、当の二体も斧を振り回して唸りを上げている。目と思しき光がはっきりとこちらを捉える。
今度こそ死んだ…そんなことを真っ白な頭にぼんやりと浮かべる。が、
「大丈夫だよ。エミリア。」
またしても。ちらりとこちらを振り返り、笑みを浮かべながらネロが
「大丈夫…って、戦う気!?」
驚き上ずった声で叫んだ。確かにネロは強い。だが、目の前の
「戦わなくちゃ。勝ってここから脱出しよう。」
安心させようとしてくれているのか、相変わらず笑顔を向けてくれているが、なんだか強張っているような…顔色も悪いような気がしてくる。
エミリアは戦ったことが無い。だからここまで戦闘はネロに任せてきた。今だってそうしようとしている。ネロもそのつもりだろう。しかし、本当にそれでいいのだろうか?
エミリアは戦ったことが無い。しかし全く戦うことができないワケではない。使い方もうろ覚えだが、武器は持っているのだ。
『大丈夫。僕は絶対に君を見捨てないから。』『だから。君が今説明してくれたこと、信じるよ。』
ネロの言葉が、不意に脳裏に蘇る。エミリアは、武器に手をかけた。
「わかった!…あたしも戦う!!」
「…は?」
きょとんとこちらを振り向く。エミリアはネロの横に立ち、続ける。
「あたしも戦う!逃げてちゃダメだから…あたしも戦えるから…それに。」
震える手で構える。敵を見据える。
「あんたの『大丈夫』って言葉、あたしも信じたい。だから…戦う!!」
見得切って何だがめちゃくちゃ怖い。大体迷惑かもしれない。足を引っ張る予感しかしないし。しかしネロは、そっとエミリアの腕に触れると、
「僕が前で注意を引き付ける。君はその援護をしてくれ!」
また一度微笑みを顔につくり、ネロが走り出す。戦いが、始まった。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ネロが両手で持った
ガキィン!!
それを
そしてその隙に、すかさずもう一体が切りかかる。しかしネロは、自らの攻撃を防いだ斧に足をかけて跳び、宙返りして躱して見せた。空を切る斧が、ドズゥン!!と地を鳴らす。
戦いは、そんなことの繰り返しだった。
故に決心したエミリアが
『不思議な
「確か、振って呪文、だったよね…?」
とりあえず言われた通り、ネロの右に立つ
「ふ、ファイア…」
しーん…
そりゃわかってはいたが。煙の一つも上がってくれてもいいのではないだろうか。
「振り方が悪いのかな…それとも声量…?ファイア!ファイア!!ファイアー!!!」
静寂。いや、ネロの戦闘音はけたたましく鳴り響いているが。
「…足を引っ張るとか以前の問題だわ…」
なんだか泣きたくなってきた、その時。
ネロと戦闘していた一体がこちらに気付き、ネロがもう一方と組み合っている隙にエミリアに切りかかって来た!巨体が、斧が迫る。
「うわわわわっ!!」
間一髪、半分倒れるように横に跳び、斧の一撃を躱す。空を切った斧が床を抉る。背筋が凍った。
「う…嘘でしょ…?」
遠くからネロが戦っているのを見ているのと、間近で対峙するのは全然違った。足がすくんで立ち直れない。ネロが声をかける。
「エミリア!!クソッ!!!」
助けようとこちらに走ろうとしたようだが、向こうの兵器が妨げる。歯噛みして剣を振るい、また声をかけてくる。
「一度距離をとって攻撃するんだ!!エミリア!!お願い!!動いて!!」
何だかその声は泣きそうに聞こえた。見捨てないと、大丈夫だと彼は言った。エミリアはそれを信じたいと思った。だからこうして戦うことを決心したのだ。それなのに。
「う、う…うあぁぁぁぁぁああああ!!!」
エミリアは震える足で無理矢理立ち上がった。そして
ネロがまた叫ぶ。
「いいぞ!さぁ、攻撃するんだ!!」
でも。
「そ、それが、出ないの!!『ファイア』って唱えても何も出ないの!!」
攻撃を躱し、また一撃を加えながらネロが叫ぶ。
「もっとちゃんと炎をイメージして振るんだ!それから呪文が違う!いいかい、『
そ、そうだったの…炎だからてっきり…
「
次の瞬間、ゴォッと目の前の空気が燃え上がり、拳大の火の玉が生まれ、
「やっ…た…」
頭部を失った
「やった…!!」
そして丁度その時、ネロが戦っていた方がバラバラになって爆発するのを見た。よくよく考えてみれば元々一対二で均衡していた戦いである。当然と言えば当然だろうか?すかさず
「エミリア!!大丈夫!?」
「あ、う、うん…あたし…生きてる?」
ぞくぞくと実感が湧いてくる。今度は喜びに体が震える。
「やった…!やったよ!!あんなでっかいのを倒しちゃった!!」
ネロも少し青ざめていたが、エミリアが無事なのを確認するとほっと息をつき、その場に座り込んでしまった。
「よかった…!本当によかった…」
「すごい!本当にすごい!あんたを信じてよかった!やった!やったぁ!!」
エミリアは喜びを抑えきれなかった。溢れ出て来る喜びは口にするだけでは足りず、ぴょんぴょん跳ねた。実感して、噛み締めて。
そう、だからこそ気づくのが遅れた。頭部を失ってなお、よろよろと背後で立ち上がる
「えっ…」
時間が止まったような錯覚を覚えた。物音で振り向いたエミリアが見た時には、その鉤爪が振り上げられたところで。それがそのまま振り下ろされた場合、真下にいるエミリアは…しかし、
それより前にエミリアの体は反対側から突き飛ばされた。あまりの急な展開に何が起こったのかわからなかった。だがエミリアが元々立っていた場所に、何かを突き飛ばしたような格好のネロを見た時、
「うそ、やだ!やめて!!」
だがそんな訴えも虚しく。鉤爪は振り下ろされ、その腕が、体が、真っ赤に染まっていく。
鉤爪を振り下ろした勢いでまた
ちょっとした血の海が出来ていた。その中心にネロが沈んでいる。体は引き裂かれ、既にぴくりとも動かない。あっという間に涙で視界が滲んでいく。こんな、こんなことって。
「やだ…やだよ……どうしてあたしなんか……かばって…」
そうだ。彼は言った。言ってしまったのだ。『見捨てない』と。
「起きてよ…起きて!起きてってば!!」
血もなにも省みず体を揺する。こんなにも、こんなにも軽いなんて。
「どうして?どうしていつもそうなの!?みんなあたしを置いて行っちゃうの!?」
やっと…やっとまた、出会えたと思ったのに。
「あたしを置いていかないでよ!ひとりにしないでよ!お願いだから……目を開けてよ……!」
胸が潰れるかと思った。
「誰か、誰でもいいから!助けてよぉっ!!」
必死の叫びも薄暗い部屋に吸い込まれていくようで。そして、エミリアもまた、意識を失った。