ファンタシースターポータブル オリジナルストーリーズ   作:きりの

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5話 ゆりかご

 少年、ネロ・ボーランには、いつも見てしまう夢がある。奇妙な夢だ。

 見知らぬ白い女性の機械人(キャスト)が、深い闇に沈んでゆく夢。しかも、夢の中ではどうやらネロとそのキャストは知り合いらしいのだ。

 ネロは記憶喪失である。故に、そのキャストが単に夢の中の登場人物に過ぎないのか、はたまた忘れてしまった誰かなのか、わからない。少なくとも、夢の中の自分にとっては大切なヒトのようなのだが。

 

 あぁ。またこの夢だ。

 沈んでいく白いヒト。手を伸ばして、僕に助けを求めている。

 僕も必死で手を伸ばす。そのヒトの名を叫ぶ。それは僕の口から出ている声のハズなのに、名前のところだけ曇ったように聞き取れない。

 この手が届くことは無い。伸ばせば伸ばすほど、距離だけが離れていく。僕は泣いた。泣き叫んだ。それでも届くことはない。そして――――――

 

 ネロが目を覚ますと、見知らぬ天井が広がっていた。

 妙な夢に叩き起こされたせいか、頭がぼんやりして働かない。ここはどこだろう?

 ネロはとりあえず、体を起こしてみることにした。かけられていたらしい薄手の毛布が滑り落ちる。どうやら自分が寝かされていたのはソファだったようで、

 

「オゥ、気がついたネ!」

 突然、上から声をかけられた。

 少し驚いて、ネロの口からも「えっ、」と声が漏れる。

 そのヒトもまた、見知らぬヒトだった。寝ていたネロを見下ろすような体勢でソファの傍に立っている。人種はキャストだろう。白い女性のキャスト。だが、夢に出てきたヒトとは別人だ。おしとやかなイメージのあのヒトに対して、とても派手なイメージ。緑色の肩まである髪にはウェーブがかけられ、大きな花飾りがついている。服装は少々露出のある黒いレースつきの白いワンピースで、ともすればなんだか水商売を連想させるような見た目のヒトだった。かなりグラマラスなボディラインだが、キャスト特有の機械的なツヤが素肌にあり、なんだかちぐはぐな印象を受ける。……正直ちょっと残念だ。

 ネロが眠い目を擦りながらそんな(一部失礼な)ことを考えていると、

「チョト、待ッテテネ。」

 と当のキャストさんは少しなだめるような調子で続けて後ろを向き、

「シャッチョサン、シャッチョサーン!お客サン、起ッきシタヨー!シャッチョサンも起ッきシテヨネ!」

 と少し声を張り上げて、誰かに呼びかけた。片言というか、不思議なイントネーションで話すヒトだ。何だか調子が狂う。

 

 話しかけた方から低く唸るような返答が返ってきたのを確認すると、その女性キャストはまたネロに向き直り、

「お客サン。『リトルウィング』へヨウコソ~。」

 なんて、呑気に話し始める。

「ワタシ、チェルシー。ヨロシクネ。」

「あ、はじめまして。えっと、ネロです。ネロ・ボーラン。よ、よろしくお願いします!」

 言われて、ネロも慌てて立ち上がり、挨拶を返す。

「はい、ハジメマシテネ~。礼儀正しいヒトで気に入ったヨ。今後ともご指名ヨロシクネ!」

 ご指名って。やっぱりそっちのヒトなんじゃ…とネロは邪推してしまう。

 

 だんだんと頭も働いてきたネロは、やはりここがどこなのか気になり、部屋にも目を向けてみる。チェルシーと名乗ったこの機械人(キャスト)さんは『リトルウィング』と言ったか。小さなオフィス…といった体裁から察するに、会社名、だろうか?個別にコンピューターのついた小さなデスクがいくつか並び、それぞれで従業員らしきヒト達がカタカタと音を立てている。天井など空いた空間には、いくつも地図のようなホログラムが浮かび、光の点がそこかしこでチカチカしている。奥の一番大きなデスクにはピンクのジャケットを着た大男が座っており、なにやら通信機器に怒鳴っている。

「ここは……一体何なんです?」

 と、そんなきょろきょろと見回すネロに、クスッと笑うと、傍のモニターに手をかける。

「ココはリゾート型コロニー『クラッド6』。」

 チェルシーの操作でモニターの画面に星の(またた)く宇宙が映り、そこに一つのスペースコロニーが浮かび上がる。巨大な2つの輪の中央の空間に流線形の本体を通したような見た目をしていて、2つの輪と本体はそれぞれ5本の等間隔の支柱のようなもので繋がっている。

「これが、『クラッド6』…」

「その中の民間軍事会社『リトルウィング』の事務所ナノ。」

「軍事会社の事務所…?どうして、そんなところに僕が?」

「アナタ、シャッチョサンがエミリアと一緒に連れてきたお客サンネ~。いままでずっと寝ていたのヨ。ぐっすり、すやすや。寝る子は育つって感じダッタネ。」

 なんだそれは。結局どういうことなんだ、と。ん?エミリア…?ネロは何かにひっかかり、そして、

 

 どっっっっ、とさっきまでの出来事が、まるで溢れるかのように蘇ってきた。

 レリクスに閉じこめられたこと。エミリアという不思議な少女に出会ったこと。そして…

「そうだ、そうだよ、どうして僕、ここに…?僕、死んだはずじゃ…?」

 思わずネロの口をついて出る。そうだ。僕は死んだはずだ。無我夢中でエミリアをかばって、攻撃を受けた。体を引き裂かれる感覚。忘れ得ぬ激痛。生きていられたとは思えない。しかし、今こうして話して、動いている。体に不自由は無く、痛みも無い。死後の世界、とかも考えたが、最近の天国には軍事会社なんてものがあるのだろうか?

 と、ネロが勝手に混乱していると、

 

「おうおうおう、面白いぐらいワケがわからないって顔してるな。」

 先ほど奥で通信していたピンクジャケットの大男がやって来た。

「俺は、クラウチ・ミュラー。この軍事会社『リトルウィング』を取りしきってるモンだ。」

 低い声で、物腰柔らかに話し始める。が、目が伸びきった前髪に隠れて見えない。口元も髭に覆われ、言ってはなんだがかなりむさい。人種は…耳の形から察するに獣人(ビースト)だろうか?っと、挨拶を返さねば。

「あ、えーっと。」

「ネロ・ボーランだろ?聞いてたぜ。さて、軍事会社といっても肩書きだけでな。やってる事はそこらの便利屋とたいして変わらねぇ。要人警護とか、廃棄プラントの調査とかショボいもんばっかりさ。」

 少し自嘲気味に笑って続ける。

「で、この前あったレリクスの調査。そこにもたまたま参加してたってわけだ。いろいろあって、レリクス内に閉じ込められたバカを救出するっつー任務に切り替わっちまったけどな。」

「えーっと、つまり。」

「そう。そのバカがお前さんだよ。しかも、身元の確認もとれないときた。しょうがねえから俺が引き取る形でいったんここまでご招待、ってわけよ。」

「それは、ご迷惑おかけしました…。本当に、ありがとうございます。」

 なんとも情けない話だ。しかしクラウチと名乗る男はなだめるように笑みを浮かべて、

「気にすんな。こっちもわりと下心があるからよ。」

「はぁ。下心、ですか。」

 やはり、救出料とかだろうか?いやいやそれよりも。

「えっと、でも、治療してくださったんですよね…これ?すごい技術ですよ…傷跡一つないなんて。それに、あの、一緒にいた女の子は…?」

 一番気になっていたことを質問する。が、クラウチは首を傾げ、

「傷だの治療だの何のことを言ってるのかわからねぇが、お前さん、外傷は無しって話だったぜ?それと、そのエミリアってガキのことなら気にすんな。アイツは今…」

 と、言いかけたところで、ネロの背後の扉から短いコール音が響く。事務所への来客だろうか?クラウチはそこでいったん話を切ると、

「おっ、ちょうどいいタイミングだな。さっさと入れ!」

 と呼びかける。応じるように扉が開き、ダルそうな様子で見覚えのある女の子が現れた。というか、あの子は—―――――――

 

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