ファンタシースターポータブル オリジナルストーリーズ   作:きりの

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2nd universe 黒衣の破壊者
8話 初陣


「ハァ~イ!グラールチャンネル5、ヘッドラインニュース。ニュースキャスターのハルです!今日のニュースをピックアップ!」

 元気いっぱいノリノリミニスカニュースキャスターさんがVTRを出す。

「着工より2年。先月、ついに完成した『亜空間発生装置』の完成式典が、パルムの同盟軍本部で行われました。式には、亜空間理論を確立した、総合化学企業『インヘルト社』の『ナツメ・シュウ』代表取締役をはじめ……開発に加わった軍関係者や多くの企業が参加しました。今回披露されたこの装置により亜空間発生実験が成功すれば……有人での亜空間航行計画へと大きく前進することとなります。現在グラールが抱える資源枯渇問題に光明をもたらすこの研究……絶対に、成功してもらいたいものですね。では、続いてのニュースです。」

 グラールチャンネル5のヘッドラインニュースといえば、ニュース番組の中ではトップの人気を誇る、チャンネル5の顔である。今語られたニュースの内容だって、恐らく最も世界の注目を集めるものだっただろう。

 

 そんなニュースも、民間軍事会社リトルウィングの社員、エミリア・パーシバルは全く興味がなかった。そもそも別にエミリアが見たくてモニターについていた訳ではない。こともあろうに寝起きにクラウチ行きつけの飲み屋のツケの催促を伝言され、気分サイアク(仮にも保護者なのだ。もっとしっかりして欲しい。)で事務所に来てみると壁のモニターについていた、というだけである。

 ちなみに、見ていた当の本人である事務員のチェルシーは、「ノー!ニュース、それで終わりナノ?納得いかないヨー!」と内容に不満のご様子。確かに番組の方は別の話題(SEED(シード)ワクチンがもたらす遺伝子への副作用とかなんとか。やっぱり興味はない。)を始めてしまったようである。傍でコーヒー片手にニュースを眺めているのはエミリアのパートナー、ネロ・ボーランだ。彼が入社してから三日が経つが、すっかり馴染んだようで、チェルシーとニュースを見ているこの光景も珍しいものではない。

 

 さて、と。クラウチの所在をチェルシーに尋ねるつもりだったので、エミリアはとりあえず話を聞いてみることにする。

「おはよ、ネロ、チェルシー。……なんでいきなり怒ってるの?」

「あぁ、エミリア。おはよう。それがね……」

「今のニュース、スカイクラッド社が出てないネ!!亜空間航行の計画にイッパイ出資してるんだヨ!ウチのいい宣伝にナルと思ったのニー!」

「スカイクラッド社はリトルウィングの本社なんでしょう?リトルウィングの宣伝にはならないと思うけど…」

相変わらずキンキン騒ぐチェルシーに、なだめるネロ。まぁ、どうでもいいや。

「あー、ハイハイ。それよりチェルシー。おっさん、いる?」

「あ、そういえば、シャッチョサンが二人に用があるって言ってたネ。ニュース見ていてすっかり忘れてたヨ。」

「ま、いいけど……奥におっさんいるんだよね。」

「自分のデスクにいるはず。そういうことなら僕も行くよ。」

「シャッチョサンのトコ行くならついでにコレもお願いネ。」

 そう言って、チェルシーが小さな紙切れをひらひらとエミリアに渡す。領収書…?のようだ。

「なになに?ランジェリースポット、リッチベルベット。ダグオラ・シティ店……」

 限界を超えた怒りというのは逆にヒトを笑顔にする。

「……ねえ、このいかがわしい領収書はなに?」

「経費じゃ落ちないカラ自腹ダヨって伝えてネ!」

 笑顔で問うエミリアに完璧な笑顔で返すチェルシー。隣でネロが溜め息をついた。

「あのエロオヤジ……!ツケの払い忘れだけならず経費のムダ遣いもするか!」

「ハイ、文句は奥でネ!」

 言うが早いか、エミリアはドスドスと床を踏み鳴らしながらネロを引き連れて奥へ向かう。あんなエロオヤジに振り回されるなんてアホくさくてやってられない。一刻も早くこのイライラをぶちまけるのだ!!……が、

 

「ちょっとおっさん!……ってうわ、酒臭っ!」

 そんなエミリアの勢いは、クラウチのデスク周辺に立ち込める悪臭に遮られてしまう。

「よぉ、来たか。」

 なんて呑気な容疑者だろう。エミリアが勢いを取り戻す。

「来たか、じゃないっての!いつもの飲み屋からまた電話来たんだよ!いいかげんツケを払って欲しい、って!それにこれ!」

 バン!と件の領収書をデスクに叩き付ける。しかし、クラウチは眉根に皺を寄せるだけで、

「あぁん?こりゃあ資料の経費じゃねえか。どうしてお前がもってんだ?」

「こんないかがわしいものが、経費で落ちるわけないでしょ!常識で考えろ、常識で!」

「あぁ?バカ、わかってねーな。こういう根回しも必要なんだよ。……まぁいい、それよりも仕事の話だ。」

 まぁいい、で片づけられた!まるで懲りてないよこのおっさん!!

 

「喜べ、お前たちにふさわしい仕事を見つけてきてやったぞ。」

「僕達にふさわしい、ですか?どんな仕事なんです?」

「ヒト探しさ。緊急かつ、重要な依頼でな。急ぎ、探して欲しいヤツがいる。」

「ヒトの捜索……?なにかの重要参考人とか、要人とか?」

 エミリアも首を傾げる。そんなのあたし達に振っていいのだろうか。

「うんにゃ。俺が前に金を貸したヤツ。つまるところ、借金の取り立てだ。」

「依頼主おっさんじゃん!そんなの自分で探しに行け!」

「やかましい!どっかのタダ飯食らいがレリクスでの仕事をポカったから、ロクな依頼がこねぇんだよ!」

「う……それを言われると……」

 エミリアを打ち負かすと、今度はクラウチが一枚の写真をデスクに出す。クラウチのような色黒の肌に、灰色の髪の作業服の男が写っている。

「捜索対象者の名は『ワレリー・ココフ』。51歳、男性……人種は獣人(ビースト)だ。こいつの船は、モトゥブのクロウドッグ地方と場所が特定している。シティでもカジノでもなく……とてもヤツには用事が無さそうなヘンピな場所だ。」

「場所までわかってるんなら、なおさら自分で行けばいいじゃん……」

「何か言ったか、ごくつぶし?」

「なんでもないですー!」

「座標のデータの方はお前らの船に送っといてやる。出発は…2時間後だな。それからネロ、お前さんにはこれだ。」

 そう言ってネロに小さな端末を渡す。受け取ったネロの方は物珍しげに眺めると、

「これ、携帯ですか?」

()()()()経費で落ちたぜ。さっそくパートナーカードを開いてみろ……違う、メニューだ…ん、それだ。」

 エアディスプレイが現れ、操作もそれを直接タッチして行うタイプの端末だ。おっかなびっくり怪しい手つきでネロがそれを操作していく。どうにかこうにか画面を開き、「えっ…」と驚愕の表情をつくる。

「これ、僕のパートナーカードじゃないですか!そんな、どうやって……?」

「昔の知り合いに、ちょっとな。顔写真と名前さえありゃあ、ちゃちゃっとこのくらいはな。」

 クラウチは得意気だ。いやつまり偽造だろそれ。ドヤるところじゃないよ。

「……おっさん、ネロにはなんだか甘くない?」

「ガキのお守り押し付けたんだ。このくらいは当然だろ。第一、無いと不便だしな。」

「ありがとうございます!エミリア、パートナーカード交換しよう!」

 ネロもなんだか嬉しそうだ。そりゃあまぁ、あたしだってこいつには感謝してるけどさー。

「その辺の操作は後でエミリアに聞け。じゃ、よろしく頼んだぜ。」

 へーい、と適当に返事をして事務所を後にする。

 

「えーっと、惑星モトゥブ。グラール太陽系第三惑星。豊かな資源を有しているが、自然環境は非常に厳しく、地表のほとんどの部分が砂漠で覆われている。人口の7割が獣人(ビースト)……」

 ネロが今読んでいるのは、彼のマイシップ備え付けの端末からアクセスした、データベースの惑星モトゥブの項だ。準備したはいいが、出発までまだ時間があるので、モトゥブについて知りたいというネロにエミリアが出してやったのだ。

「ホントに何も知らないの?」

「一応初めて目を覚ました時にはモトゥブにいたみたいだから、全く知らないって訳じゃないけどね。」

 まぁでもそれどころじゃなかったから、とネロはなんだかよくわからない笑みを浮かべている。

「そういえば、ワレリー・ココフ…だっけ?そのヒトも獣人(ビースト)だったよね。」

「そうだったっけ?まぁモトゥブなら不思議じゃないけど。なんで?」

「どうしてモトゥブには獣人(ビースト)が多いんだろうって思ってさ。」

 時々真顔でこういうこと言われると、エミリアも正直驚いてしまう。あんなにしっかりしていて、あんなに強いのに。もちろん記憶喪失の彼には仕方のないことだが、こうも当たり前のことを尋ねられると、ちぐはぐな印象を受けずにはいられないエミリアなのであった。

「あんたの知識の偏り方、すごいよね……環境が厳しいからだよ。」

「……どういうこと?」

「だから、そもそも獣人(ビースト)っていうのは、モトゥブの厳しい環境でも活動できる奴隷として、ヒューマンの遺伝子を組み替えて生まれたの。今はそういう差別もほとんどないけど。その時の名残もあって、モトゥブには獣人(ビースト)が多いワケ。単純に、環境が厳し過ぎて他の人種には適さないってのもあるらしいけどね。」

「……その環境が厳しいところに、ヒューマン二人で行くんだね…」

「だよねー。……せめていいところに着陸してよねー。」

「自動操縦だからあんまり融通利かないけどね……って。」

 と、ネロがなんだか訝しんだような視線をこちらに向けてくる。

「……エミリアも一緒に乗ってくの?」

「当たり前じゃん!パートナーなんだから。なんか文句ある?」

「いや、ないけど……てっきり君は自分のマイシップで行くものだと…」

「おっさんに連れまわされてたから持ってないんですー!」

「えっ、てことは、このヴィートって…」

「あれ?言ってなかったっけ?あたしと共用だよ?」

「えぇぇっ!そうだったの!?」

「なんでそこでそんな驚くの!?」

「いや、別に深い意味はないけど……壊さないでね?」

「あんた、あたしをなんだと思ってるの!?」

 やいのやいのと言い争いを止めたのは、通信機から聞こえて来たチェルシーの声だった。

 

『ハイハーイ、お二人サン。そろそろ時間ダヨー?目的地の座標入レて、カタパルトに乗せてネー?』

「げ、チェルシー!もうそんな時間!?」

 どうにも疎いネロにビシバシ指示を出し、どうにか発進準備を整える。……けど。

「カタパルト…って、これでいいのかな?」

『モウ少し右だヨー……ソーウ……ソウ!オッケーネ!』

 暗いトンネルのようなカタパルトにのろくさ操舵してどうにか乗せるネロ。誘導灯が点灯し、視界の先に広がる宇宙空間に向け、まっすぐ光の道が描かれる。いざ、発s…

「あれ?自動操縦に切り替わらないぞ……?」

「え?ウソ、ちょっ『左翼第二カタパルト、ヴィート・R927、ハッシーン!!』

「ちょっ、待っ…」

「ウソでしょ!!?」

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」」

 たくさんの星々が見守る宇宙。その広大な宇宙に、あたし達はあわただしく、騒がしく飛び出したのだった。

 


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