東方幸々蛇   作:続空秋堵

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盟友と星々

六日目が始まった。

天狗は相も変わらず山を警戒し、鬼は酒を片手に、河童はゆったりと川に流され、にとりのような一部の河童はなにかしらの研究をしている。にとり曰く、まだ全ての河童に浪漫というものの布教が済んでいないらしく、ただそれも時間の問題らしい。そんな蛇足は置いておき、どの種族も明日の戦への気持ちが高ぶっているのかどこか忙しない。

鬼はいつだって騒がしいだろと言われちゃおしまいだが、いつも通りに見えるがどこか様子が違うと言えば伝わるだろうか。

 

そんな中、その戦の中心である白蛇は暢気にも魚を釣っていた。

 

「釣れるかい?」

「ぼちぼちだね」

 

川の中に吸い込まれた竿の先端部分を眺めながら悠然としていた白蛇に声をかけたのは、同じく戦の中心人物である伊吹萃香だった。彼女は気分の良い顔をしながら隣に座り、近くに放ってあった竿を持ち川へ沈める。ちなみに、その竿は気分転換にやってきたにとりのものである。

 

「良い顔をしているね。何か良いことでもあったのかい」

「なに、ただ酒が抜けているだけさ。それとももしかしたら自分でも気づかないくらいに明日を楽しみにしているか」

「どっちとも正解とみた」

「どうだろうねぇ」

 

おちゃらけて見せる萃香のその態度が物語る。

さて、彼女はなぜやってきたのか。疑問も沸くが、どうせ理由なんてないのだろう。自由気ままに生き喧嘩するのが鬼なのだから。

 

「にしても戦は明日だというのに随分余裕じゃないか」

「戦士の休息ってね」

 

まだ戦ってもいないが、これから戦士になるのだろう。多分。

これで会話を終わらせるのも面白くないので話を広げることとする。

 

「果たして、私がただ釣りをしていると思うかい?」

 

その言葉に萃香の頰は釣り上がる。どうやら釣れたのは魚ではなかったらしい。

 

「ほほう、既に戦いは始まっている的なやつかい?」

「いやそれはない。でも準備を含めるなら開戦さね」

 

こればかりは価値観の相違じゃないだろうか。

例えば、織田信長の火縄銃を集めたことを戦術と言うのならその集めていた準備期間は戦が始まっていることになる。私は準備期間は戦闘外と思いたい。弱小妖怪は上の者に勝てないなら頭を使わなければならないのだ。

ずる賢く、小賢しく。

 

「ふーん、まぁどっちにしろ楽しみだよ。あっ釣れた」

 

竿を引き上げその魚を見ては、花を萎ませるように顰めてしまう萃香。

 

「あんまり美味しそうじゃないね……」

「じゃあ貰っといてやるよ」

「ん、いらないから上げる」

 

 

 

 

 

「いつまで釣りをするんだい?」

 

時刻は朝から午後へと跨いだ。

口を開いた萃香は伸びをする。飽きたんだろう。だいたい三時間以上釣りをしているのだ。その時間をかけるのが釣りの醍醐味なんだろうが鬼には、いや萃香には合わなかったのだろう。

 

「まだまだやるさ。今日は終われないかもしれないね」

「うげぇ……。いやさ、何かしようよ。そうだ、酒を飲もう!」

「私は付き合わな……もう飲んでるじゃないか」

 

やはり鬼には酒なのだろう。

鬼に金棒と言う言葉が強い者がさらに強くなってしまう例えなら、鬼に酒という言葉を作るべきで。強い者がなにかしらの物によっておとなしくなる様。どうだろうか?と自分で明暗だと思ったが酔拳なんてものを思い出して項垂れる。

鬼強すぎんよ。

 

「お前さんこそ、いつまで私の隣にいるんだい?」

「ありゃ、邪魔だった?」

「いんや。ただたんに暇だろうと思っただけさ」

 

それだけ言うとやはり鬼は酒を(あお)った。それを横目に見ながらも、まぁいいか。と思い釣りを続けた。

私と萃香は静かにそれぞれのことをした。釣りに酒。共通点がない二つ。これがもし見知らぬ奴なら気まずくてこの場から逃げていただろう。だが、萃香ならそんなことをしなくて済む。まるで嫌じゃない。むしろ大切だと思える時間だろう。

 

これが作られた関係じゃなければ。

 

閑話休題。

それは気に入らないが、私はこうした事によって分かったことがあるので説いておこうと思う。

 

二人で暫く黙ってみるといい。それだけで二人の関係が分かる。と。

二人きりになって何を思って何を感じ、居心地が悪かったのか良かったのか。不安になったのか安心できたのか。それが分かるだろう。

 

私は今萃香といられて良い気分だ。それが明日戦う相手であっても心はざわめかない。こうしている事が当然だと思える。それ程までに私は伊吹萃香との関係を重畳だと言えるのだ。それは私だけのものかもしれない。萃香は何も考えず、ただこの場に居るだけなのかもしれない。内心のことなんて分からないけれど、私は萃香を尊敬できる立派な(ひと)として見れるのだ。

 

だからこそ、悔しいのだろう私は。悔しくて仕方がないのだろう。

 

鬼は卑怯者を嫌う。弱虫を嫌う。まさに私のことだろう。卑怯者で姑息な蛇なのだ。鬼が、萃香が嫌うような自分を良心的に接してくれるこの環境が嫌で仕方がない。そんな私であるが。もし、私が鬼である伊吹萃香の友になれるのならば、それは一生の誇りだと思える。その為には私が自分を変えなければならない。威勢があって、正直である自分に。

それがきっと、今私がしたいことだから。

 

「私は白蛇。元神で今妖怪の碌でなし。嘘は吐くし直ぐに逃げては高みで見物するようなやつ。『幸せを前借りする能力』と『他人の不幸や悲しみを背負う能力』を持った幸運の白蛇さ」

「・・・どうしたの?唐突に」

「なにただの自己紹介さ。お前さん方ばかり私のことを勝手に知っているが私はお前さん方のことを何にも知らない。知りたいのさ。なにが好きで、嫌いで、どんな奴で、何者なのか」

 

まだしてなかっただろう?と続く。私はお友達はどうやったら増えるのかはわからない。今まで他人から避けてきた私には自然に友達が作れない。ならば私なりに考えるしかないのだろう。

名前を聞いて、その人の事知って、私も話して雑談する。別に全部知りたい訳じゃない。ただ興味を持った他者のことを考えてしまうのが人間なのだ。ならば始めに自己紹介。私と言う人物像を知ってもらう為に。

 

「本当に、白蛇って変なやつだね」

「嫌いかい?」

「いいや、おもしろい」

 

嘘は嫌いだけどね。と続く萃香の言葉を聞いて思わず苦笑。つまりは私が嫌いじゃないかと。

 

「私は伊吹萃香。鬼であり愚直な馬鹿野郎。嘘は嫌いだし卑怯者も嫌い。逆に威勢のある馬鹿や素直であることが正しいのだと信じきって騙されるような愚者は結構好き。『密と疎を操る程度の能力』を持っているお酒大好き怖くない(おにい)さんさ」

 

そう言って笑う萃香の表情は凛々しく見える。思わず最後はお姉さんだろうとツッコミたくもなるが、ニシっと唇を釣り上げる顔を見るとそんな言葉も引っ込んでしまう。平然と私を否定するもしっかりと目を見て言葉の一つ一つを語る萃香に胸が暖かく感じた。

まったく、

 

「かっこいいやつだよ」

 

私は素直で真正面から否定してくるこの伊吹萃香が恩師として一方的に敬う。私の目標という奴はこの鬼なのかもしれない。なにからなにまで、ただ近くにいるだけで影響を受けて教えられる。

 

「萃香、これからよろしく」

「これからも、だろう?」

 

そう言って二人で拳を合わせる。

これからも、と言ってくれたことはきっと自分のことを認めてくれている……と思ってみてもいいだろうか。まだまだこの先のことはよく分からないけれど、初めてのお友達が出来た瞬間だった。

 

 

 

 

 

「勇儀ってどんな奴だい?」

 

私が萃香と友達になって最初に始めたことは周りの人物たちの情報収集だった。この自分の意図ではなく作られてしまった関係を確かなものにする為に、私が知って言葉を交わせねばならない。それに一方的に知られているのも少し不快でもあった。

 

「ん、そうだね。まあ面倒見の良い奴だよ。姉御っていうのかな?真っ直ぐで直向きで強いやつ。その割にちゃんと周りが見れていて、気も使える。泣いてるやつがいれば話を聞いてやるし、悪いことをするやつには叱ってやれる。私とは大違いかな」

 

勇儀の評価は高かった。

話を聞いているだけでその性格が素晴らしいものだと感じるし、眩しいやつなんだろうと思える。萃香が最後に言った大違いというのも自嘲ではなく、純粋にそう思っているようだった。

 

「そいつは良いやつだ。で、能力は?」

「あれ、気になるの?『怪力乱神を持つ程度』の能力だけど」

「そうかい」

 

ハズレか。

 

「じゃあ他に知っている奴」

「んー、関白天狗とか?」

「では一応」

「ああうん。関白天狗のことだね。あいつは一言、頭でっかちさ。芯が強すぎて周りの言葉なんてまるで入っていない。だけどちゃんと筋は通っているし、あいつの硬い頭はいつだって正しい。関白天狗ってのも的を射た表現さ。能力は『嘘を風とする程度の能力』……あれ、そう言えばいつから関白天狗って名前が浸透したんだっけ?」

 

首を傾げる萃香に、知っていたがハズレだと思う私。

後半は疑問に思ったようだがそのことは諦めている。

 

「じゃあ次……天魔は?」

 

私は少し声音を変えて聞いてみる。

正直、私が一番怪しいと、いや確信している人物だ。

 

「天魔、うん。天魔ね。あいつは気味が悪い奴だよ」

 

意外にも、萃香からの辛辣な言葉に驚いた。

彼女が鬼だとしても、やはり人の好き嫌いはあるということだろう。

 

「あいつは絶対なる強者さ。それなのにまるで妖力を感じないし、強者らしい威圧も感じない。どこまでも自分の力を隠していて、高いところから見られているような不快さがある」

「天魔が……か。意外だね」

「やっぱり白蛇は嘘吐きだ。最初から疑ってはいただろう?」

 

そうなのだろうか?

そうかもしれない。

 

「妖怪って奴は生きた時間だけ強くなる。妖力は膨れるし、それに見合った風格が出来る。まぁ例外はいるかもだけど」

 

ちらりと見てくるが、私のことなんだろう。私は萃香や勇儀よりずっと長く生きている。それでもずっと弱いのが私なのだ。種族なんて関係ない。弱い。理由なんてものは、普通に弱いとしか言いようがない。鬼が純粋に強いならば、私は純粋に弱いのだ。

 

「多分天魔は……いや、そうなんだろう。天魔は最も最初に生まれた妖怪だよ」

 

息が詰まる。もし、本当に天魔が原始の妖怪ならば可能だろう。人の記憶を、大人数を同時に操作して、記憶を植えつけ都合の悪いことを忘れさせる。果たしてそれにどんな意味があるのかは分からないが、原始の妖怪ならばできるのではないだろうか。長年生きた者にはそれに合った妖力が実力が携わる。だが、妖力がいくら多いと言っても記憶の操作なんてできるか?無理だろう。ならば何かしらの能力があるのか。

 

「あいつは常に力を隠しているが私にはわかる。あれは化け物さ。この世界が始まって何十年、何百年経ったのかは分からないが、その全てを生きて息して居たんだろう。例えばさ、普通に見える人間がいたとして、普通に生きているとするだろう?でも実力のある奴にはその人間に尻尾が見えるとしたら警戒するじゃないか。強大な力を持っているのに、さも普通だと装い周りに溶け込む。それが強い者なのに、ここの天魔は実力を隠していない」

 

どういうこと?と萃香に問う。だって矛盾しているじゃないか。隠しているのに隠していないなんて。

隠して周りに溶け込んで生きているのに、萃香はそれを隠していないと言うのだ。はて、どういうことだろうか。長々と語ってくれたところ悪いとは思うが私にはピンとこない。

 

「だからさ。隠しているんじゃないんだよ。植えられているのさ」

 

植えられている。その考えが先ほどの思考通りなら、それは恐ろしいことだ。

まだ、よく分からないならば完結に言うとしよう。

 

種を隠すには土の中だと言いたいのだ。

 

種だけを隠してしまえれば良いのなら、そこから生まれた花はさぞ美しく見えるだろう。種から何の花が咲くかは知らないが、目的が種なら奪われないように咲かせてしまえばいい。成長しきった花から種を奪うことはできないのだから。

 

「だから私は天魔を好きになれない。嘘を嘘ではなく事実に変えてしまうのだから」

 

それは妖怪と呼んでいいのだろうか。生きる者として呼んでいいのだろうか。

だってそれは、神が世界を作るように創造的で非現実的だから。

 

「天魔が人間に溶け込んで生きてしまっても、周りは騙される。だが私は異変に気付く。そして、その異変に気づいた者たちもその違和感を忘れて天魔は人間なんだと勝手に頭が理解する。間違った情報を正しいのだと理解する。それって、とっても気味が悪くないかい?」

 

頭の中で順番に理解していく。バラバラになった欠片を集め、一つの模型を完成させるように集合していく。だが、これはまだ仮定であって、結果がそうだと決まった訳でもないのだ。

だからこそ聞かなければならない。

 

「じゃあ天魔の能力は、『嘘を現実にする程度の能力』?」

「どうだろうね」

「知らないのかい?」

「ああ、知らないよ。誰も知らない。鬼も河童も天狗だろうと天魔の実力を、能力を知らない。周りは天魔が能力持ちなんじゃないかという疑問すら抱けない。私だってそうさ。今こうして天魔の話題になって初めて違和感や天魔の実力について知りたくなったんだからね」

 

いや、前も考えて隠蔽されたのかな?

 

萃香ですら何も出来ないでいた偉大で強大な能力。その真髄が分からない。一体どんな能力で、どこまでできるのか。

私はそれを知ってどうする?そんな強者に弱者がどう挑めばいい?どうあればいい?

 

「白蛇」

 

思考の闇に呑まれて潰れてしまいそうな時、引き上げてくれたその声。

 

「大丈夫さ。敵がどれだけ強大だろうと、嘘に立ち向かい倒してしまうのが鬼。白蛇が一人で勝てないと思うなら嘘を切り捨てる鬼としてお前の背中を押してやるさ」

 

だって、ダチなんだろう?

 

その言葉に救われ、立ち向かおうと思った。

なぜ一人で戦おうと思っていたのだろうか。近くにこんな好敵手がいて、ダチだと言ってくれて。こんな気持ちになって嬉しくない訳がない。

 

「敵わないな……」

「おいおい、まだ勝負は始まってないだろ?大事な勝負は明日で、今日はその前哨戦。私とお前がちっと気に入らない相手に一言物申しにいこうじゃないか」

 

そう言って伸ばしてくれた手を見て、私は頷き強く握り返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

今日の準備をして、いつに天魔の元へ行くのかを話し合った私たちのちょっとした会話。

 

「私は旅をしているが、色んなやつに向かって、鬼に対して何か言っておいてもらいたいことはあるかい?」

 

問う私。旅のなか様々な人と出会うが、どれも鬼に対しては良いイメージがなかったからこそ聞いてみる。

すると彼女は片目を閉じ舌をだして言うのだ。

 

「鬼は怖くないよ。ただ、かっこいいだけさ」

 

そう言う彼女は今までに見たこともない可愛いさと、雄々しさを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夜。月がすっかり登ってしまい月明かりを頼りに歩かねばならない時間帯。だがここは川、水面に反射した月明かりがその眩しさを増幅させて光には困らない。

その川で釣った大量の魚を桶に入れて私は一仕事終えたと息を吐いた。桶に入れた魚はあまりの多さに飛び出ている魚も大量にいて、ピチピチと飛び跳ねる。桶をもう二つぐらい増やした方が良かったなと今更ながら後悔。

 

「あ、白蛇!」

「おやにとり」

 

大量の魚を死なせないように水を浴びせていると走ってくる河童が一人。

盟友だと呼んでくれる話の合う仲間だ。

 

「どうだい?アレは完成したかえ?」

「バッチリだよ!………でも正直疲れたかな。昨日唐突に案をもらって一睡もせずに作り続けたし」

「本当に悪いことをしたね。それとありがと」

「いいさいいさ!妖怪は一日ぐらい寝なくても大丈夫だし、盟友の助けになれるならそれだけで頑張れるからね」

 

本当にいいやつだ。

私なんかには勿体無いような愛おしいやつ。

 

「でも疲れたから休憩ー」

 

岸側にばたりと倒れて大の字になった。

私もさして疲れている訳ではないのだが、体が自然と動いてにとりの隣で同じく大の字になる。

 

「白蛇も凄いね、これだけいれば十分だよ」

「いやいやにとりの方が凄いさ」

「いやいや」

 

そのいやいやはそれ程でもないと続くんだろう。

こうして二人でいると時間を忘れてしまいそうになる。このまま眠ってしまってもいいが、今日の私は気分が良い。伊吹萃香という友達が出来たからだ。

 

「明日はついに鬼との戦いだね」

 

先に話し始めたのはにとり。

 

「本当に凄いよ、白蛇は。山にやってきたと思えば鬼との勝負を持ってくるし、私と話が合うような変人だって初めてだった。本当に濃い数日だよ」

 

このわずかな数日のことをまるで何十年も前のことを語るように話すにとり。確かに、これほどまでに緊迫感のある数日間も珍しい。私は振り返ってみるが、酒に振り回された記憶しかなく、それ程濃厚でもない気がした。でも、やはり萃香と初めての友達になれたことで何十年分もの体験を出来た気がしてならない。

だから、今日のことをにとりに話す。誰かに話したくて仕方がないのだ。

 

「今日は萃香といろいろ話したよ」

「萃香って伊吹萃香?」

「ああ。あいつは本当にかっこよくて凛々しくて可憐だよ。初めての友達が萃香なのは一生の自慢だね」

「・・・」

「どうしたんだい?にとり?」

 

やはり人の自慢なんかつまらなかっただろうか。内心おろおろとして、すぐにでもにとりの機嫌を取ろうと考えるがそれより先ににとりが私の跨り、顔を息がかかるぐらいまで近くに寄った。

 

「白蛇!」

「な、なんだい……」

「私たちは盟友!」

「ん、んん?」

「だーかーら!初めての友達は萃香じゃなくて私でしょ!それに盟友なんだから友達より凄いし!ずっと上の関係だし!」

 

大声で叫ぶにとりを見て自分の失言に気がついた。

そうか、にとりの盟友って言うのはその場の雰囲気ではなく本気でそう思ってくれていたのか。天魔の件が記憶に新しくて警戒が強すぎていた。

 

にとりは顔を真っ赤にして怒り、どこか目からは雫がこぼれそうにもなっている。

 

「すまなかったね。にとりが初めての友達で盟友だよ」

「ふ、ふん!わかれば良いのさ」

 

目元を拭いそっぽを向くにとりを見て私は胸が暖かくなった気がした。この山に来て何度か味わうこの感覚。これが嬉しいということなんだろうか。にとりと言い、萃香といい、本当に私には過ぎた友人を持ってしまったものだ。

 

「にとり、近い」

「あ、ごめん」

 

にははーと笑いさっきと同じく二人で大の字になる。

にとりがいなくなった場所を見ると大きな空が覗く。今日は星空が綺麗だ。大きな空に煌めく星々。届きそうだと手を伸ばしても、当然ながら触れられない。思わず、ふと微笑んでしまう。

 

「獅子座」

「ん?あの星がそういうの?」

「いや、知らないよ。ただそう見えただけさ」

 

本当に思いつきにすぎない。そんな深く考えた訳ではないのだ。

星々を見ていると、懐にあるアレを思い出す。最初から河童に見てもらおうと考えていたのに、色んなことがあってすっかり忘れていた。

 

「にとり、これをやるよ」

「なにこれ?」

「盟友の証」

 

今考えたけどね。と続く。

にとりは手渡されたそれを見ると首を傾げたと思えば食い気味それを見つめた。目を見開き信じられないように。

 

「白蛇、これ、一体どこで手に入れたの?」

「ん、拾ったのさ。以前とある神社に住んでいてね、その村の中で見つけたのさ」

 

荒れに荒れたあの場所でポツンと落ちていたそれ。

小さなカプセルのようで、真っ白な雪景色の中に居る三人の妖精。上には雪の結晶が浮かんでいる。そう、これはスノードームだった。

 

「凄いよ……これ。一体なんの素材で出来ているか分からないけど、この現代にある物質じゃない。遠い未来の道具。この下の膨らみはなにかな?押せるみたいだ」

「おや、そうだったのかい?」

 

よく気づいたものだ。

私にはまるで分からなかった。にとりは好奇心にそのボタンを押すと、スノードームの中が光始め、上から雪が降っている。その中にいる三人の妖精は周りを楽しそうに飛び始めた。

 

「凄い、凄い、凄い!!」

 

その光景に思わず私も目を奪われた。

これほどまでに神秘的な道具があったなんて。

 

「白蛇、絶対に絶っっっ対に大切にするからね!」

「ああ、そうしてやってくれ」

 

にとりのその笑顔はスノードームの輝き以上に美しく見えた。

 

 

 

「ねぇ、白蛇」

「なんだい?」

「一体なにを悩んで、なにを考えて、不安に思っているかは知らないけどさ。いつかちゃんと話してね」

「・・・」

「私はどんなことがあってもずっと白蛇の盟友で居続けるからさ」

「・・・」

 

ありがとね。そんな簡単な言葉をいつかちゃんとにとりに伝えたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回妖怪の山完結、予定。

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