ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか 作:しろちゃん
すみません予想以上に長くなりそうだったので3分割にしました。ごめんなさい
ダンジョン5階層の薄緑色の壁面に上層とは思えない程の鋭い剣戟が反響した
双剣と大刀、計三つの刀をぶつけ合わせ、手狭になっていくダンジョンの通路の中、片方の冒険者は詠唱しながら駆けていく
「【今ここに、我が命(な)において招来する。天より降(いた)り、地を統(す)べよ――神武闘征(しんぶとうせい】!!」
「【燃えつきろ、外法の業】!!」
膨れ上がっていく魔力を感じた大刀の持ち主はそれに合わせ自身も詠唱、その詠唱を完成させまいと、双剣の持ち主の剣速が加速していき、二人の間には剣戟の音と莫大な魔力が膨れ上がっていく。
「・・・・・・」
「・・・チッ【 ウィル・オ・ウィスプ】」
大刀の持ち主、ヴェルフ・クロッゾは自身の制御の限界を感じ
「【フツノミタマ 】!!」
「グッ、クソッやっぱりアイツの方が魔力制御は一枚上手か」
「ヴェルフ殿には悪いですが、お先に行きます!!」
「ごめんください、何時ものお願いします」
ダンジョンから出た命が小走りで向かった先は【ミアハ・ファミリア】のホーム『青の
「ふぁ~もう来たの?」
「早いのよ・・・zzz」
「おぉ、命か、今出来たばかりだ。こらダフネ起きないか」
「あ、あはは」
命がクマを作っている3人ミアハ、ダフネ、ナァーザに苦笑いしながら、『青の
「な、何奴!?」
「あ、カザンドラ、アンタもそんな所で寝てないで、手代なさい」
「うぅ、もうやだぁ」
命の足を掴んでいたのは【ミアハ・ファミリア】最後の団員カザンドラだったらしい。彼女は店の奥の方に両足をズルズル引きずられ、泣きながら引っ込んでいき。入れ替わりにナァーザとミアハが大量の
「いつもありがとうございます。ミアハ様、ナァーザ殿」
「いいのだよ命、これは私自ら進んで申しだした事だ、お前が気に病む事ではない」
「それに【ヘスティア・ファミリア】のお陰で何時も儲けさせて貰ってるんだから、これぐらい大丈夫~」
「そう言っていただけるとありがたいです」
口ではこう言っているが『リリルカ・アーデ育成計画』に掛かる回復系アイテムと団員の体のケアを全て担っているのは実際大変なのだろう。眠たそうに言ってくる二人にもう一度深いお辞儀をする
「そうかしこまるな、何時も注文して来る数よりも多少増えただけだ、少し立ったまま寝てしまうだけで何の問題も無い」
それは問題ないのだろうか?
「そんな事より命よ、そろそろヴェルフに勝てそうか?」
「ウッ・・・それは」
命はしばらく目を逸らした後、ガクリと首を落した。『リリルカ・アーデ育成計画』におけるヴェルフと命の役割は魔石と回復系アイテムの運搬だが、そこに現代日本人の勿体ない精神が加わり。言い渡されたのが、ダンジョンに出るまでの何でもありの競争、だった。負けた方が遠くの【ミアハ・ファミリア】のホームまで行って、重い回復アイテムを持ってくるという物なのだが、命はまだヴェルフに一回も勝てていない。
「今日こそはと思ったのですが、多種多様な魔剣にどうしても対応しきれず、完敗してしまいました」
「ふーん、でも敏捷は命の方が高いのよね?だったら一歩でもリードしたら負けないんじゃないの?」
カザンドラを運び、帰って来たダフネの言葉に、命は膝を抱えて不満を口にしていく
「ダフネ殿はヴェルフ殿の魔剣の恐ろしさを知らないからそんな事が言えるのです。今日だって重力結界の中から風の魔剣を使って無理矢理脱出し、その風を更に利用してこちらに急接近した後、雷の魔剣と炎の魔剣を同時に振りかざすとか、いくら訓練用で威力を調節してるからとはいえ鬼ですかあの人は」
因みに、棚に上げているが、命本人も
「ふむ、ならば命も魔剣を使えばいいのではないか?何でも、していいのだろ?」
「それが出来たら苦労しないんですけどね。色殿に新たな装備を買う事は禁じられてまして、それに適当な魔剣を使った所でヴェルフ殿の魔剣の前では紙くず同然、どうしたものやら。と、そろそろ自分は行きます、ありがとうございました」
頭を下げて大きなバックパックを背負って店を出ようとする命に手を振りながら見送ってくれる【ミアハ・ファミリア】の団員たち。しかし一人だけ命を引き留める者がいた、カザンドラだ
「ちょっと待って」
「はて?何か忘れものでもしてましたか?」
「ううん違うの、えっとさっき夢を見たの」
「夢ですか?」
「うん、こんな夢なんだけど・・・」
狭くなっていくダンジョン上層の壁に激しい剣戟の音と詠唱の声が響いて行く
「【今ここに、我が命(な)において招来する。天より降(いた)り、地を統(す)べよ――神武闘征(しんぶとうせい】!!」
「【燃えつきろ、外法の業】!!」
膨れ上がる魔力を全力で制御しながら双剣を振りかざす命は、覚悟を決め、魔法を発動させる。
「【フツノミタマ 】!!」
「ッ!?・・・【 ウィル・オ・ウィスプ】!!」
作り上げられた魔法に対して唱えられた、超短文呪文が初めて成功し、ヴェルフの右腕から迸る陽炎が命の体を包み込んだ。
「ぐあっ!?」
「成功・・・したのか?」
そして爆発。
「なっにぃ!?」
地を這うような動きで素早くヴェルフに接近し、流れるような動作で片手に持っている魔剣と装備品の魔剣を数本奪い取り、その矛先をヴェルフ本人に突き付けた
「おいおい何で
驚くヴェルフに命は魔剣をゆっくりと振り上げながら答えた。
「残念でしたねヴェルフ殿、自分は魔力をあまり練って無かったので、この程度のダメージで済んだのです・・・それでは御免!!」
「そんなんありかよ!?」
二振りの魔剣の炎で包まれるヴェルフを置き去りにして駆けていく命は
「こんな夢なんだけど・・・影が沢山の宝石を奪いながら走り去っていくの」
全く、このファミリアに常識は通用しないと痛い程、理解していた筈なのに、自分はまだ常識に囚われていたようですね。
そして、この日命はダンジョンの入り口で、初めてボロボロのヴェルフを迎える事が出来たのだった。
『リリルカ・アーデ育成計画』5日目、リリと春姫は以前とは違う異常事態に見舞われていた
「春姫様、速く呪文を!!!」
「は、はい・・・【――大きくなれ】」
『ブギッ!!』
「其(そ)の力に其(そ)の器、ヒッ!?」
「またですか!?クッ、離れて下さい!!」
『プギャ!?』
それは春姫が詠唱をする余裕が無くなってきたことだ。昨日までは【ウチデノコヅチ】の次の発動までの
「すみませんリリ様!!す、すぐに詠唱に移ります!!」
「いえ、少し体制を整えましょう、道を開けるので離れていてください!!」
その言葉と共に道を開ける為、大槌で『オーク』を蹴散らしながら、出来た道を走り抜ける。
なぜこんな事になっているのか?その原因は今まさに、体制を整える為に二人が飲んでいる
「春姫様、
「はぁ・・はぁ・・・はぁ、す、すみません。しかしよろしいのですか?これは最後の
「リリの計算ではもうすぐ、お二人が回復アイテムを届けてくる時間なので大丈夫です。それにしても・・・」
そこまでやりますか、色様!!
叫びたい気持ちをリリはグッと堪えた。当たり前だが例の一件以来【ミアハ・ファミリア】がこのような粗悪品を渡して来た事など一度も無い、という事は色が楽をさせない為にあそこに注文したのだろう、鬼か。
幸い、
リリは長年培ってきた冒険者の知識を生かし考える。
リリはそこで考えるのを止めた、何かおかしい
「春姫様、速く詠唱を」
「え?」
「速くしてくださいッ!!死にたいんですかッ!?」
「ひっ!?わ、わかりました!!」
こんなにも考える時間そのものがあるのが、おかしい。
あぁもう何が長年培ってきた冒険者としての知識ですか!!馬鹿ですかリリは、そんなもの何の役にも立たない事など解っていたでしょうに。
朗々と後ろから唱えられる詠唱を聞きながら
『『『『『オオオオオオオオオオ!!!!』』』』』
「ッ!?」
「春姫様、今詠唱が途切れたらその時点で死ぬので絶対に途切れささないでください」
そのたった一言で深く理解した春姫は青い顔に冷や汗を浮かべながら、文字道理死ぬ気で詠唱を続ける
「全く、ヴェルフ様風にいうと、ふざけろって感じですかね」
『『『『『グッオオオオオオオオ!!!!』』』』』
迫りくるのは11、12階層に出現する絶対数の少ない
対するは、ひ弱な
「リリ様!!リリ様!!大丈夫ですか!?」
必死に体を揺らす春姫に頭から血を流し倒れているリリは答えない
「すみません
そう言いながら、迫りくる脅威に春姫は気絶しているリリの小さな体を抱き抱え、駆けだした。
インファント・ドラゴンとの激闘は最初、リリルカ・アーデの方が優勢だった、攻撃はせずに、上手くドラゴンの間を潜り抜け同士討ちを誘発させたり、大槌を盾代わりにして攻撃を防いだり、その小さな体と今までベル達との冒険で培ってきた並外れた度胸を最大限まで生かし、【ウチデノコヅチ】の発動までの時間を何とか稼いだのだ。そして春姫の妖術により『
しかし、5頭すべてを倒しきる前に、行き成り出現した他のモンスターに春姫が襲われ出したのだ
インファント・ドラゴンの相手をしていたリリは堪らず反転し、春姫を襲っているモンスターの殲滅に向かった。そうこうしている内に【ウチデノコヅチ】の効果が切れ。もう一度詠唱するのもままならないまま、リリは残っていたモンスターとインファント・ドラゴンに奮闘空しく吹き飛ばされ、気絶した。
「し、色様!!見ているのでしょう!?助けてください!!後生です、後生ですから!?」
『『『『『ガァァアアアアアアアアアアアア!!!』』』』』
「ッ!?今までの行いは謝ります!!早朝訓練に関しても何も言いません!!ですから、せめてリリ様だけでも助けてください!!!」
リリを抱きかかえ、必死に走りながら叫ぶ春姫の懇願に、霧により視界が塞がれ何処にいるかも分からない色は答えない。
どうしてこんな、酷すぎる、もう止めよう。
春姫の中でそんな感情がグルグル渦巻いていたが、手に掛かる重さが、今まで自分を守ってくれていた小さな少女が、自分一人では諦めていたかもしれないこの絶体絶命の場面で諦めるという選択肢をかき消していた
「クッ!!ぁぁぁあああああああ!!!!」
春姫は叫んだ、初めて出すであろう喉が張り裂けそうな程の声を出し、力の限り走り抜ける。後方から迫って来る『インプ』や『オーク』から自分が抱きかかえている小さな勇者を守り抜くために。
『『『グァァアアアアアアアア!!!!』』』
「うっ!?ぐぅううう!!!」
いつの間にか目の前まで迫って来ていたインファント・ドラゴン2頭の振るった長い尾をなんとか潜り抜け、腕に傷を負いながらそのまま2頭の間を駆け抜けた。
とっくに何時も帰ってくる時間は過ぎているのに、どうして命様とヴェルフ様は帰って来ないのですか!?
痛む腕を誤魔化すように心の中で泣き叫ぶが、それでも事態は好転しない。それどころか徐々にモンスターに囲まれて来ているのを肌で感じ取り、焦って足を滑らしてしまう。
「きゃっ!?」
盛大にこけた春姫は、しかしリリだけは手放さず、腕の中で抱えたまま蹲る。そして遂にモンスターの大群に追いつかれた。
「あ・・あ、あ」
『『『『『グオォォオオオオオオオおオオオ!!!』』』』』
声に成らない声を上げ、迫りくるモンスターの牙に目を瞑ったその時
「今日の訓練はここまでだな」
「・・・え?」
目の前に行き成り現れた黒髪の少年が指をパチンッ!と打ち鳴らすと、凄まじい量の雷と暴風が駆け巡り、少女二人に迫っていた、インファント・ドラゴンを含めたモンスター達を声を出す暇さえ与えず一撃の元粉砕した
「なっ!?」
「遅れて申し訳ありません春姫殿」
「悪い、それにしても何だったんだあのモンスター、新種か?」
「中々強かったですね。まぁヴェルフ殿の前で呪文を唱えたのが運の尽きでしたが」
「おいおい、雑談はそこまでにして
目を見開く自分を他所に、遅れて来たヴェルフと命が雑談交じりに色に
「な、な、な」
「春姫ちゃんも
心配そうにこちらを覗き込んでいる色は一本の
「・・・です」
「春姫ちゃんはよく頑張ったよ、今日はゆっくり休んでくれ」
その一言に、春姫は自分の中の何かが切れた気がした
「余計なお世話ですッ!!!!!」
「・・・は?いや、でも腕の傷」
「ほっといてくださいッ!!腕の傷なら家に帰った後に自分で治します」
「でも」
声を掛けてくる色に春姫は止まらない、止まれない
「今まで
「・・・・」
それは思いの丈、自分でもよくわからない感情の渦、その全てを目の前の少年に吐き出していく
「特訓はリリ様が続ける限り
黒い感情の炎を吐き出した春姫は、踵を返し、腕の傷も治さないまま、12階層の出口に向かった。
「本当にこれで良かったの?」
「いや、今回は俺が悪い」
返事をした俺は支えてくれるベルから受け取った
「ングッングッングッ」
「それにしても色ってさ」
「ングッングッん?」
「かなり過保護だよね」
「ブッフォッ!!げほっげほっ」
咽る俺に「汚いなぁ」と言いながら背中を擦って来るベルを、お前に言われたくないという意味を込めて睨みつける
「あのね?、わざわざ【
その言葉にウッと言葉を詰まらせた。そう『リリルカ・アーデ育成計画』の俺の役割はベルが言ったようにモンスターの調整だった。いくら春姫ちゃんの【ウチデノコヅチ】があると言っても100を超えるモンスター相手にリリ一人では流石に対処しきれないので、【
「でも色がそこまで手こずるモンスターが出て来るなんてびっくりしたよ」
「面目ない」
ベルに頭を掻きながら答えた俺は今日一番手こずらされた人型のモンスターの事を思い出した。そいつはリリ達がインファント・ドラゴンの相手をしている時に行き成り現れ、触手みたいなもので攻撃してきたのだ、2人を混乱させない為に他のモンスター同様『
「まさか12階層で反射を突破されるとは思わなかったぜ。体はボロボロにされるは、リリ達の所にモンスターが行くはで踏んだり蹴ったりだ」
「全く、【イシュタル・ファミリア】の遠征に着いて行った僕が早めに帰って来なかったらどうなっていた事やら。でもヴェルフと命さんも丁度来てくれて思ったより簡単に倒すことが出来てよかったね」
「ゲゲゲゲゲゲッ何がよかったんだいィ」
「「ッ!?」」
後ろから掛けられた言葉に二人そろって肩を跳ねさせた。後ろを振り向くと、全身鎧姿の巨大な
「いいいいいいえいえ、何でもありませんよフリュネ師匠」
「本当かいィ?」
ブンブンブンブン!!
俺とフリュネ師匠の会話を聞いたベルは全力で頭を縦に振っている。『リリルカ・アーデ育成計画』中はやる事が無くなるベルの経験を積ますために【イシュタル・ファミリア】の遠征に同行させたのだが、そのせいで余計に変身姿のフリュネ師匠のが苦手になってしまったらしい。変身解いたら髪色も似ていて兄妹みたいなのに今は熊と兎である。
「まぁいいか、それにしても【リトル・ルーキー】、勝手に先行するなって何度言やァ解るんだァい?」
「すすすすいません!!でもアイシャさん達が僕の事を」
「あぁん成程ねェ、アイシャより先にアタイに食べて欲しいのかい」
「ち、ちがっ、ヒィ!?」
追いかけられてるベルを見送った俺は【
「それにしても、明日からどうすっかな」
腕を組んだ俺は、春姫ちゃんの言葉を思い出し、
『リリルカ・アーデ育成計画』
5日目
モンスター討伐数 544体
春姫詠唱回数 101回
to be continue・・・
ヴェルフが居ればデミ・スピリットを楽々突破で来ると思うの。