ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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三部作完。

本当はもっと短くして一話完結にするつもりだったのにどうしてこうなった


第18話 リリルカ・アーデ育成計画(後)

『リリルカ・アーデ育成計画』9日目

 

春姫ちゃんに、この前の一件で手を出すなと言われ、どうしようか悩んだ俺だったが、答えは簡単だった。あの言葉は俺だけに対して言われたのだから、遠征から帰って来たベルに頼んだらいいのだ。そうしてベルと一緒に【食蜂操祈(メンタルアウト)】で二人の認識から姿を消し、監視を始めて四日が経ったのだが。

 

目の前の光景に俺とベルは頬を引きつっていた。

 

『グォッ!?』

 

『プギャッ!?』

 

『プグッ!?』

 

「リリ様、後方より『オーク』が7頭、右側より『シルバーバック』が12頭向かって来ます!」

 

「わかりました。今相手をしている『ハードアーマード』を倒したら向かいます、それまで」

 

(わたくし)が囮になって時間を稼ぎます。次の詠唱まで1分53秒掛かりますから、それまでに戻って来て下されば助かります」

 

「・・・ふふっ、そうですね。それでは任しましたよ!!」

 

小人族(パルゥム)の少女が光を纏いながら大槌を振り回し、狐人(ルナール)の少女が隙を生み出すために、わざとモンスターの前に出ては攻撃を避け、入れ替わる。正に一心同体、ぴったりと息の合った共闘(コンビネーション)は四方八方から迫りくるモンスターを物ともせずに駆逐していった。

 

「ねぇ色、凄く成長してない?あの二人」

 

「あぁ、予想以上に強くなってて正直ビビってる」

 

見違えた二人に揃って舌を巻く。一昨日あたりからベルが一切仕事をしなくなったと言えば、その異常な成長スピードが解るだろうか?いや、俺達が言う事じゃないのかもしれないが。これがヘスティアの言う成長期なのかもしれない。

 

「でも、この特訓も明日で終わりって思うとなんだか寂しくなるね。ってその顔また何か良からぬ事考えてるでしょ、副団長様?」

 

「良からぬ事とは失礼な、俺は常に【ヘスティア・ファミリア】にプラスになる事を考えてますよ、団長様」

 

ジトッと見て来るベルに笑顔で返した俺は今だ霧の中で奮闘している二人に目を移した。

 

「いい加減にしないと、あの二人に本気で嫌われちゃうよ?」

 

「ウッ、確かにそれは困るけど。多分大丈夫、逆に感謝される筈だ」

 

「はぁ、程々にしときなよ?それとさっきからずっとソワソワしてるけど、どうしたの?」

 

「あ~・・・いや、なんでもない」

 

ベルに答えた俺は少しだけ背中を擦った、最近妙に熱いんだよなぁ、風邪か?

 

 

 

 

『リリルカ・アーデ育成計画』

 

9日目

 

モンスター討伐数 931体

 

春姫詠唱回数 40回

 

回復薬(ポーション) 151本使用

 

精神力回復薬(マジック・ポーション) 27本使用

 

高級回復薬(ハイ・ポーション) 2本使用

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ただいま帰りました」」

 

「おかえり、サポーター君、春姫君。ご飯か、お風呂どっちにする?」

 

「「ご飯で」」

 

「了解した、そこで少し待っててくれ。すぐに用意するぜ」

 

「「いつもありがとうございます!!」」

 

ダンジョンから帰って来た二人はパタパタと台所へ駆けて行くエプロン姿のヘスティアに礼を言い、向かい通しに腰かけた。

 

「リリ様、今日はD地点とC地点で高級回復薬(ハイ・ポーション)を2本使用しましたが、明日は進むルートを変えてみますか?」

 

「いえ、あの怪我はリリが油断していただけです。今回、春姫様が考えられたルートは比較的戦いやすかったですよ?」

 

「そうですか。しかし、今回のルートの他にも後二つ程戦いやすくなるようなルートを考えてみたのですが、見ていただけますか?」

 

「そうなのですか?どれどれ」

 

そう言いながら春姫が広げた、いくつもの付箋が張られている12階層の地図をリリは机に乗り出しながら、興味深そうに見つめる

 

「ここと、ここの岩場を利用して・・・」

 

「成程。でしたら、此処も使ってみたら・・・」

 

二人は次々と言葉を交わしながら一枚の地図の中に付箋や文字を書き足していく、それはヘスティアが頭の鐘を鳴らしながら料理を持って来た後でも止まらない

 

「モグモグ、ですから。春姫様は前線に、ごくん、出過ぎなのでは?」

 

「今日は春姫君達の故郷の料理に挑戦してみたんだ」

 

「ムシャムシャ、そうですか?(わたくし)的にはもっと前に出てもいいと考えているのですが。パクパク」

 

「命君からも色々教わって、ボクの料理スキルも中々のもんになって来ていると思うんだけど」

 

「駄目ですよ春姫様、ダンジョンでは油断が、モグモグ、命とりですからムシャムシャ、それに前に出過ぎて、ング、ング、プファ、詠唱が出来なくなってしまっては困ります」

 

「どうだい?美味しいかい?」

 

「「美味しいですよ」」

 

「君達全然ボクの話聞いてないだろッ!?」

 

ウガー!!と怒るヘスティアを「まぁまぁ」と宥めてから数秒後、すぐにダンジョンの話に戻る二人をロリ巨乳の女神は溜息と共に頬杖を突きながら見つめていた

 

「はぁ、魔石の換金と道具の補充に行ったベル君達はまだ帰って来ないし、この二人の話には着いて行けないし、ていうか二人とも、明日で最終日なんだろ?そこまで作戦を煮詰める必要があるのかい?」

 

その発言に今まで止めなかった食事をピクッと止めた二人は、いい笑顔でヘスティアに答える

 

「「そんなの、予め作戦を決めとかないと簡単に死ぬからに決まってるじゃないですか」」

 

「そ、そうなのか」

 

ヘスティアはその異様な迫力に、冷や汗を掻きながら仰け反った。そんな二人の作戦会議は他の【ヘスティア・ファミリア】の団員たちが帰って来るまで続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も深くなってきた頃、鐘楼の館の裏庭で月に照らされた少女二人が向かい合っていた

 

「それでは命様、今日もよろしくお願いします」

 

礼儀正しくお辞儀をしてから構えて来る狐人(ルナール)に命は少し困惑しながら答える。

 

「わかりました。しかし春姫殿、今日は本当にその重力魔剣を付けながらするのですか?」

 

「はい、明日は最終日ですから、それまでに少しでも経験値(エクセリア)を稼いで置きたいので」

 

キッパリと告げられた言葉に命は苦笑いする。

 

これは色との一件以来、春姫が命に頼み、密かに続けている稽古だ。動きに支障が出ない様に露出が多めで青を基調とした和装を纏い、黒い棒状の魔剣を腰に装備した春姫は腰を深く落とし構える。

 

「それでは始めます、ねッ!!」

 

「・・・・・」

 

不意打ち、唐突に始まった木刀の先制攻撃を春姫は難なく見切り、自分の毛先も触れさせないまま無言で躱した

 

「はッ!!せやッ!!!」

 

上段、下段、横薙ぎ、突き、命が繰り出す攻撃に春姫は一切動じず、時にはしゃがみ、時には身をずらし、最小限の動きで淡々と躱していく

 

「流石ですね、春姫殿!!」

 

「いえ、(わたくし)にはこれしか出来ませんので!!」

 

攻撃を続ける命は、そう言いながら掠りすらしなくなった春姫に嫌な汗を流した。

 

春姫が此処まで急成長した原因は3つある。

 

1つ目は【イシュタル・ファミリア】での経験。

 

【イシュタル・ファミリア】で魔法を唱え続け、自分より遥かな高みに居る人物達が更に高みに上り、戦闘していく姿をずっと見て来た彼女は例え相手が格上(Lv.2)であったとしても、その動きに冷静に対応できるだけの経験値が蓄えられていた。

 

2つ目は責任感。

 

春姫は『リリルカ・アーデ育成計画』を続けて、『段位昇華(レベル・ブースト)』が出来る自分にどれだけの責任が掛かっているのかを正確に理解した。しかも色にあれだけの事を言ったのだから、せめて少ない回復薬(ポーション)を自分が使わず、詠唱出来る様に攻撃だけはしっかり躱そうという、強い責任感が彼女をより正確な回避方法を取らせるようになっていた

 

そして3つ目、それは・・・

 

「【――大きくなれ。其(そ)の力に其(そ)の器】」

 

「は、ははは」

 

攻撃を舞う様に躱しながら朗々と歌う春姫に、命は乾いた笑いを漏らした

 

自分が色殿に補助されながら必死に習得した平行詠唱をもう此処まで昇華させますか、そうですかそうですか。

 

そして3つ目は天賦の才能。

 

戦う事を殆どして来なかったから気付く者は皆無だったが、こうして一から動き方を教え、鍛えた命には自分と春姫の才能の違いを嫌と言う程に理解させられた。一度教えた動きは一回で習得し、動けば動くほど、その動きは自分が教えた動きよりも洗練されて行く。平行詠唱等も例外ではなく、教えた直後の一発で成功した時は「ふざけるな」と叫び出しそうになった程だ。

 

その経験と責任感と天賦の才能が強く強く彼女を高みに押し上げ、身体能力が優れた獣人というのも拍車を駆け、回避だけならLv.2の命が練習相手にならなくなるぐらい、かなりふざけた存在に化けて来ている。

 

「【ウチデノコヅチ】!!」

 

「ふ、ふふふ、自分に【ウチデノコヅチ】を発動させたのですか?流石に舐め過ぎでは?」

 

「いえ、こちらの方が経験値(エクセリア)を稼げると思いまして。ど、どうしたのですか?そんなに怖い顔をして、(わたくし)なにか気に障るような事をしたのでしょうか?」

 

因みに本人は全くと言っていい程、自分に才能があるなんて思っていなかった。主にベルと色のせいで。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、今日は最終日だから二人とも気合を入れて頑張ってね~」

 

そう言いながら霧の中に潜って行った色を見送った二人は作戦道理に12階層を進んでいき、既に半日が経とうとしていた

 

フォン、グシャッ!!

 

『プギョッ!?』

 

フォン、グシャッ!!

 

『キキィ!?』

 

フォン、グシャッ!!

 

『グォッ!?』

 

次々とモンスターを大槌でミンチにしていく小人族(パルゥム)の少女は額に汗を掻きながら、綺麗になった12階層の一角を見渡した。

 

「リリ様、そろそろ昼食にしましすか?」

 

「そうしましょうか。今日のお弁当はヘスティア様の新作のホットドックらしいので少し楽しみです」

 

後ろから声を掛けて来た狐人(ルナール)の少女に返事をし、周囲を警戒しながら食事をしていく小人族(パルゥム)の二人は傍から見ればピクニックに来ている可愛らしい少女二人に見えるかもしれない。

 

しかし周囲を見渡す為、足元の台替わりに積まれているのは夥しい数の魔石である。

 

「ハムハム、春姫様一応言っておきますけど、油断は禁物ですよ?」

 

「解っております。全く、あの方のせいで何度煮え湯を飲まされた事やら」

 

春姫は今までした事の無いような表情を浮かべ、深い霧を睨みつけている。思い出すのは苦々しい過去の記憶、ここには居ない筈の『キラーアント』や『ウォーシャドウ』等のもっと上のモンスターが100単位で追加されたり、出現する全てのモンスターが『天然武器(ネイチャーウエポン)』を装備してたり、果てには中層の『ヘルハウンド』や『アルミラージ』が襲ってきたリ、その他両手で数えても足りないぐらいの異常事態が、この四日間絶え間なく起きていた。

 

「昨日だって、インファント・ドラゴンが鎧を着てましたし。本当に馬鹿なんですかあの人は!!そうは思いませんか、リリ様?」

 

「あ、あはは、そう、ですね」

 

その全てが色のせいだと春姫は思っている様だが、怪物進撃(デス・パレード)と呼ばれているパーティで活動していたリリは目を逸らした

 

言えない、これがリリ達の日常でしたなんて言えない

 

そうですよ、思い返して見れば今まではかなり温い方なんですよ。そもそも5日間、殆ど囲まれずに戦えていたこと自体が奇跡みたいな物ですし、厄介な『バットバット』等の飛行するモンスターも何故か出て来なかったですし、何よりも春姫様の話ではギリギリで助けてくれたんですよね色様。あの人、ああ見えてかなり家族(ファミリア)に甘いですし、もしかすると・・・

 

「・・・様・・・リリ様!!」

 

「は、はい!なんでしょう!?」

 

「もう、あまりボーとしないで下さい。前方に複数のインファント・ドラゴンの足音が聞こえました。距離は恐らく100Mも無いかと」

 

「かなり近いですね、少し離れましょうか」

 

「【――大きくなれ】」

 

何も言わず、下がりながら詠唱を始める春姫に、彼女を守るように前方に立ち大槌を構えるリリ、二人の間に合図は無く、詠唱の声と足音だけが辺り一面を覆いつくした。息のピッタリあった二人の前に、一匹の怪物が現れる。

 

『グルルルルルルルルル』

 

その鱗は普段とは違いどす黒く変色し、口元には無数の血痕が付いている。足に付着している見知った鱗に、そして何よりも、春姫の言った複数の足音とは矛盾して一匹で来ている事。リリは一発でアイツが何なのかを理解した

 

「インファント・ドラゴンの強化種ですか。しかも、あれは同族を共食いしてますね」

 

『グァアアアアアアアアアア!!!!』

 

冷静に言っているが足は震えている。当たり前だ、あんな化け物例えLv.2であろうとも勝てるか怪しいだろう。

 

「【ウチデノコヅチ】!!リリ様、一応全力で精神力(マインド)をつぎ込みましたので18分は行けるはずです。それで、どうしますか?何やらえらく強そうですが、毛並みがピリピリしてきます」

 

「そうですね、正直『段位昇華(レベル・ブースト)』してても勝てるかどうか怪しいのですが・・・」

 

「ですが?」

 

恐らく、今のリリは世界で一番馬鹿だと思います。この前吹き飛ばされたモンスターと同じ姿のモンスターを、しかもその強化種を目の前にして・・・

 

「春姫様、リリのわがままを聞いてくれますか?」

 

「何なりと」

 

「怪物退治を手伝ってください」

 

「勿論です」

 

勝ちたいと思っているのですから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「だぁああああああああああああ!!!」

 

光を纏いながら大槌を振りかざす小人族(パルゥム)が黒い小竜に全力で立ち向かう

 

『ガァッ!!』

 

「ぐッ!!」

 

リリは振り下ろされる前足に対して大槌を受け止めるように盾代わりにした。

 

この10日間ずっと戦い続けて解ってきたことがある、それは【縁下力持(アーテル・アシスト)】の有効活用だ、この《スキル》自分が思っていたよりもずっと優秀だったらしく、例え格上の相手であろうと、攻撃が装備の上なら補正が掛かり、持ち上げることが可能だった。それに気づいてからは小さな体を生かし、常に攻撃を武器の上から受けれるように動いているのだ。

 

「だっしゃぁああああああ!!!」

 

『グオッ!?』

 

その巨体を勢いよく持ち上げられたインファント・ドラゴンは踏ん張りきれずに背中から転倒、畳みかけるようにリリはむき出しの腹部に狙いを定めた

 

『ガァァアア!!!!』

 

「くっ!?」

 

咆哮と共に飛んできたのは長い尻尾だった。薙ぎ払う様に勢いよく襲ってくる巨大な鞭にリリは咄嗟に大槌を前方に構え、小さな体をすっぽりと隠し、盾代わりにする。しかし横からの攻撃には【縁下力持(アーテル・アシスト)】の補正が掛からず、大槌を握る腕が軋み、遂には宙に飛ばされた。

 

浮遊感を味わいながらもリリはインファント・ドラゴンから目を逸らさない、何故なら転倒した怪物に攻撃を加えようとしたのは自分だけでは無いからだ

 

「はぁああああああ!!」

 

リリが見据える先には春姫が何かを振り上げながら近づいていく、何の武器も持てない制限を掛けられている彼女だが、たった一つだけその制限から外れているもの(武器)があった。

 

「これでも食らいなさい!!」

 

春姫がインファント・ドラゴンに向かって投擲したのはダンジョンのどこにでも落ちてる石だ。しかしただの石と侮るなかれ、その攻撃はあり得ない程の器用値(コントロール)により正確に投擲され、インファント・ドラゴンの片目を撃ち抜いた

 

『グッ、ゴォォォォオオオォォォオオ!?!?』

 

「うわぁ、まるでどこかの誰かさんを思い出しますね」

 

大槌を肩に背負ながら着地したリリは悶え苦しむ竜と追撃の石を拾いに行く春姫を見て、鴉を思わせる少年を思い出し

 

「本当に懐かしいです。全くあんな物を見せられたら、尚更引けないじゃないですか!!」

 

更に自身の炎を燃え上がらせた

 

少女たちの戦いは続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、何がどうなってんだありゃ」

 

「あれは、ただのインファント・ドラゴンではありませんね」

 

「お帰りヴェルフ、命さん」

 

「こっちに来て見てみろよ、すげぇぞあの二人」

 

視線の先に見えるリリと春姫ちゃんは、眼球を射抜かれて暴れ狂うドラゴンに果敢に立ち向かっていた、鋭い爪を避け、飛んでくる長い尾を大槌で弾き、石で牽制し、反撃する機会を虎視眈々と狙っている

 

「しかし、本当にあの二人でインファント・ドラゴンの強化種を倒せるのですか?見た所、決定打に欠けるような気がするのですが」

 

「安心しろ命ちゃん。ヴェルフ、今のきんに君の重量を教えてくれ」

 

「今使ってるあれは6号だから、大体ゴライオス2体分ぐらいか?」

 

「「はぁ!?」」

 

驚いたのはベルと命ちゃんだ、確か1号でも相当な重さだと聞いたが6号だとそれぐらいになっているのか、俺は【一方通行(アクセラレータ)】を使って手伝っていただけだからあんまり解らなかったんだが

 

「えっと、リリってレベル1だよね?何であんなの持ててるの?」

 

「【縁下力持(アーテル・アシスト)】の効果だよ。知ってるかベル、あの《スキル》上限が書かれていないんだぜ」

 

「「・・・え」」

 

その言葉を聞いて二人は目が点になった

 

「俺も最初に冗談であの大槌持たした時は驚いたぜ、何せ1号の時点でヴェルフが必死になって持っていた物を普通に背負ってたんだからな、その後はこっそり重くしていったんだよ」

 

「たく、作るだけでも一苦労だってのに、重さを少しずつ増やしてくれ、なんてクロが無茶苦茶言うから大変だったんだぞ?」

 

「悪い悪い、でもヴェルフもノリノリだったじゃん、今朝だって6号持ち上げたリリを見て笑い堪えてたじゃん」

 

「そりゃ、あんな馬鹿みたいな武器使ってくれるんだから笑いもするだろ?ていうより笑うしかねぇよあんなの見せられたらな」

 

ヴェルフの目線の先を見ると、リリがインファント・ドラゴンの尻尾を大槌で叩き潰していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グガゴガアアアアアアアア!!!!』

 

「リリ様、その、少しだけドラコンの雰囲気が変わった様な気がするのですが」

 

半歩後ろに下がり、明らかに速度が上がった突進をギリギリの所で避けた春姫は血走った隻眼をこちらに向けて来るドラコンから目を離さずに冷や汗を掻きながらリリに問いかけた

 

『グルルルルルル』

 

「不味いですね、あのまま暴れていてくれたら、まだ対処しやすかったのですが」

 

そう言いながらリリは両手に持った大槌を抱え、前屈みになり、受けの態勢に入った

 

『ガァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 

「ぐぅううううう」

 

突進してくる巨体、その重量を真正面から受けたリリは何とか体制を低くしてドラゴンの下に潜り、《スキル》の能力圏内に入れようとするが、下からの動きで力を出せる事を学習したのか、ドラゴンは頭を低く持って行き【縁下力持(アーテル・アシスト)】を発動させない様にしていた

 

『グゥゥオオオオオオオオ!!!』

 

「う、ぐぐぐぐ」

 

「やらせません!!」

 

押されているリリの横合いから春姫が投擲を仕掛ける、潰れていない方の目に向けられた石は真っ直ぐに飛んでいき、当たる寸前、ドラゴンが笑みを浮かべる

 

『ギャァアアアアアアアアア!!!!』

 

「え?」

 

「なッ!?」

 

目を見開く春姫の眼前に迫ったのは先ほどリリが潰した血まみれの尻尾だ、僅かに反応が遅れた春姫は吹き飛ばされ、無理矢理振り回した勢いで千切れた巨大な尻尾の下敷きになってしまう。

 

「リ、リリ様!!早くこちらに来てください、もうすぐ【ウチデノコヅチ】の効果が切れます!!」

 

不味いと思いながらも、尻尾から抜け出せない春姫は必死になってリリに叫ぶが

 

『ガァァァァ』

 

「まさかこれが狙いですか?嘘でしょう」

 

まるで狙いすましたように【ウチデノコヅチ】のタイムリミット18分が切れた。途端に重くなる全身に、尾を失い夥しい量のどす黒い血液を垂れ流しているインファント・ドラゴンの濃厚な殺気が突き刺さる

 

『オオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

好機と見たインファント・ドラゴンは迷い無く輝きを失った小人族(パルゥム)の少女を叩き潰そうと駆けだした。死ぬ、間違いなく死ぬ、頭を駆け巡る死の宣告に脳が拒絶反応を起こし思考が真っ白になっていく

 

でも、この感覚どこかで

 

リリはこの真っ白になる感覚を知っていた。それはソーマの神酒を飲んだ時と酷似している、ドロドロとした白濁色に濁っていく思考の中、あの時の自分はどうして正気に戻れたのか

 

そんなもの、決まっています

 

思い出すのは二人の背中

 

「これはリリの戦いです、手を出さないで下さい」

 

ソーマ酒を飲んだ時、正気に戻してくれた白と黒の幻想の背中にリリはそっと呟いた。だってもう一度その手を借りると今度は抜け出せなくなりそうだから

 

「掛かって来なさい、木端微塵にしてあげます」

 

突進してくるドラゴンの勢いは止まらない、それどころか更に加速していく程だ。しかし、両手で持っている大槌を眼前に構えるリリには先ほどの恐怖は既に無く、背中に燃えるような熱を感じながら、迫りくるドラゴンに向けて駆けだした。

 

自分の体重より遥かに重い大槌を構え、背中から蒸気を揺らめかしながら駆けて行く小人族(パルゥム)は、小さな(オーガ)を幻想させる。

 

『オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

竜と鬼の激突、しかしそれは激突と言うには生温すぎた。カウンターの要領で振り回された大槌は竜の横っ面を莫大な大質量を伴い吹き飛ばし、その巨体を実に10M(メドル)程浮かせる

 

『グガッ!?ァァアアァア!!!ゴオオオオオオ!!!!』

 

「ぜぇええええええい!!!!」

 

ドラゴンは浮いた体を空中で反転させ、眼下で大槌を振り上げようとする小人族(パルゥム)を叩き潰すために、全体重を乗せて右前脚の尖爪を叩きつけた。

 

2度目の激突。

 

爆音と共に舞い上がる土煙の中、大槌を振り上げた鬼に地面に降り立った竜の爪は届いていない。

 

インファント・ドラゴンは血まみれになった自身の前足を気にする様子も無く今度は黒い体を前面に使い、タックルを仕掛けた

 

『グォォオオオオオオオオ!!!!!』

 

「だぁああああああああああ!!!」

 

迫り来る巨体に小人族(パルゥム)は大槌を上段に持ち上げ振り落とす。

 

三度目の激突。

 

鬼が振り下ろした大槌はその重量を如何なく発揮し、ドラゴンの固い鱗を叩き潰し、肉が潰れる音と竜の叫び声が12階層に鳴り響き渡った。

 

『ゴ、ゴギャアララギャガガガガガガ!!!』

 

「いい加減、潰れなさいッ!!!!」

 

声に成らない声を上げ、攻撃してくるインファント・ドラゴンと鬼のような小人族(パルゥム)の戦いは4回、5回と衝突を繰り返す度に、鬼の大槌が竜の体を跳ねさせ、吹き飛ばし、叩き潰す、一方的な戦いになっていた。

 

しかし、それも遂に限界が訪れる

 

「はぁ・・・はぁ、う、腕が・・・」

 

戦いの中、始めて膝を着いたリリは大槌を落し、力が入らなくなり震えている両腕を見つめた。

 

【ウチデノコヅチ】のお陰で今まで幾ら超重量の大槌を振り回しても感じた事の無かったLv.1の【ステイタス】の限界が来たのだ、歯を食いしばり、何とか大槌を持ち上げようとするが、力が入らない両腕では持ち上げる事すら敵わない。

 

そして、血まみれになった隻眼の竜が動けなくなったリリを眼前に見据える

 

『ガァアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

「ッ!?」

 

竜は潰された二つの前足を使わずに後ろ脚だけで突進して来た、頭を地に着け、大顎を最大まで開き、膝を着いたリリを噛み殺そうとしてくる。体を捻って避けようとするが間に合わない、地面ごと食らう勢いで迫る無数の牙に、必死になって大槌を構えようとするが、持ち上がらない

 

「あ、ああああああああああああああああああああ!!!!」

 

リリは叫んだ、諦めるなんて論外だ、あの二人なら諦めない、諦めた事など見たことも無い、だから自分も諦めない、絶対に諦めない、だから持ち上げる、何としてでもこの大槌を持ち上げて倒す、あのドラゴンを倒す、自分が倒す、こんな事で死んで堪るか、あんな奴に殺されて堪るか、絶対に勝ってやる、勝ってあの二人に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追いつきたい

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

牙が小さな少女に突き刺さる瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【大きくなぁれ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き馴れた詠唱が耳に届いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【ウチデノコヅチ】!!」

 

「ぁ・・ォ・・オオオオオオオオおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」

 

『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

光り輝く体に湯水の様に沸いて来る力、リリは今一度大槌を振りかぶり、眼前に迫った無数の牙に、自身の全てを乗せて、その鉄槌を叩きつける

 

最後の激突

 

響き渡る無数の音は歯が砕ける音と、肉が千切れ飛んだ音だ、幾度もの鬼と竜の激突により、地形が変わり果てた12階層の一角に一瞬だけ

 

完全な静寂が訪れた

 

『・・・・ゴゥ・・ゴ・・・ガ・・・』

 

「・・・・はぁ・・・はぁ・・はぁ」

 

インファント・ドラゴンが遂に倒れ、巨体を魔石と大量の灰に変える

 

 

その目の前には

 

 

 

巨大な大槌を両手に携えた、小さな灰被の少女(シンデレラ)が立っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル様、見て下さい!!Lv.2になってから【ステイタス】の伸びが一気に上がるようになりました!!ベル様にだって負けませんよ!!」

 

「あ、あはは、凄いねリリ、でももう何度も見せに来なくてもいいよ?」

 

「うふふふ、新しい《スキル》もかなり優秀ですし、これからは前衛としてバリバリ働かさせていただきます!!」

 

「リリスケ、一応言っておくけどな、その《スキル》は優秀じゃなくて凶悪って言うんだ」

 

「うるさいですよ、ヴェルフさん。貴方はもっと重たい武器を作ってください」

 

「お前なぁ」

 

「サポーター君、手が空いてるんだったら食器並べるの手伝ってくれ」

 

「ヘスティア様、リリはもうサポーターじゃないんですから、その呼び方は止めて下さい。リリも皆様をさん付けで呼ぶよう心掛けているんですよ?ベル様は別ですけど」

 

下から聞こえてくる喧騒に耳を傾けながら『リリルカ・アーデ育成計画』と書かれた紙に文章を付き足していく、するとコンコンと自室の扉を叩く音が聞こえて来た

 

「はいはい、て春姫ちゃん、どうしたの?」

 

扉を開けると目の前には顔を赤くしてモジモジしている狐人(ルナール)の少女、春姫ちゃんが立っていた

 

「あの、中に入れて貰ってもよろしいですか?」

 

「え?うんいいけど」

 

オズオズと言った感じに入って来る彼女に困惑の視線を送りながらもベットの上に座らせた。

 

自分も椅子に座るが、はて、どうしたのだろうか?この前やった、俺主催のリリルカ・アーデLv.2おめでとうサプライズパーティーの時も顔すら合わせて貰え無くて、かなりショックを受けたのだが、もしかして闇討ちにでも来たのだろうか?

 

「えーと、ですね」

 

「・・・」

 

「その・・・」

 

「・・・」

 

長い沈黙の後、彼女は意を決したように立ち上がり、口を開いた

 

「すみませんでした!!!」

 

「うん?」

 

そのまま綺麗なDOGEZAに移り、俺に謝罪を続ける

 

「数々のご無礼、許して貰おう等とは思っておりませぬ」

 

「え、いや」

 

「どんな処罰も受ける覚悟でございます」

 

「ちょっ、ま」

 

(わたくし)に出来る事なら何でも、この体を好きにしてもらっても構いません!!」

 

「ちょっと待てやエロ狐!!」

 

「コンッ!?」

 

訳解らんことを口走る暴走エロ狐にチョップを食らわし、説明を求める

 

「とりあえず、どういう心境の変化があったのか教えてくれない?春姫ちゃん」

 

「えっと、はい、その、皆様から色々聞きまして」

 

まぁ、そうだろうとは思っていた。だって今日のダンジョンで大量のモンスターが出る度に俺に隠れてコソコソ皆に話を聞きに行ってたもんな、大方『リリルカ・アーデ育成計画』で起きた数々の異常事態(アクシデント)が俺のせいじゃない事が解り、疑っていたのを謝罪しに来たという所か?

 

「リリ様が気絶した時、強力なモンスターと戦われていたと」

 

あぁ、そっちの事か。

 

「それで、実は(わたくし)達を身を挺して守ったお掛けで全身血まみれなのに、無理をして《呪詛(カース)》を使」

 

「ストープ!!まさかそこまで聞いてるとは思わなかったぜ。恥ずかしいからこれ以上言うの止めて!!」

 

「その後、強がって《魔法》を使われた反動で精神疲弊(マインドダウン)を起こし掛け」

 

「止めろっつってんのが聞こえねぇのか!!」

 

「ベル様に支えられてフラフラなのに見送るまで回復薬(ポーション)を飲まず」

 

「お前わざとやってんだろ!?口閉じろや駄狐!!」

 

俺は持っていた『リリルカ・アーデ育成計画』と書かれた紙を置き、そのまま喋り続けようとする駄狐を口封じするために全力で立ち上がるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

『リリルカ・アーデ育成計画』

 

最終日

 

モンスター討伐数 412体

 

春姫詠唱回数 21回

 

回復薬(ポーション) 73本使用

 

精神力回復薬(マジック・ポーション) 11本使用

 

高級回復薬(ハイ・ポーション) 0本使用

 

インファント・ドラゴン強化種 1体討伐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリルカ・アーデ

 

 Lv.1→Lv.2

 

 力:S999→I0

 

 耐久:A812→I0

 

 器用:D554→I0

 

 敏捷:D588→I0

 

 魔力:E471→I0

 

 狩人:I

 

《魔法》 

 

【シンダー・エラ】

 

・変身魔法

 

・変身後は詠唱時のイメージ依存。具体性欠如の際は失敗(ファンブル)

 

・模倣推奨

 

・詠唱式【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

 

・解呪式【響く十二時のお告げ】

 

《スキル》

 

縁下力持(アーテル・アシスト)

 

・一定以上の装備加重時における補正。

 

・能力補正は重量に比例。

 

怪力乱神(スパイラル・パワー)

 

・装備加重時における倍率補正。

 

・能力補正は重量に比例し上昇。

 

・力値限定。

 

 

 

 

これは、いずれ最強を欲しいままにする者達の【眷属の物語(ファミリアミィス)

 

 




次回からは軽い短編をいくつか織り交ぜます、多分。

早く9巻まで行きたい
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