ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか 作:しろちゃん
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時は昼頃、石造りの二階建て。小奇麗な宿屋を彷彿とさせる奥行きのある酒場『豊穣の女主人』は今日も多数の冒険者の喧騒に包まれていた。そんな店に一人の少年が入店すると、途端に喧騒がざわつきに変わる
「お、おいあれ、
「馬鹿、あんまりジロジロ見てんじゃねぇよ。あの噂知らねぇのか」
「このオラリオで知らねぇ奴なんていねぇよ」
「いいか、【ヘスティア・ファミリア】にちょっかいだけは掛けるなよ。潰されたアポロンや飲み込まれたイシュタルみたいになりたくなかったらな」
「最近またLv.2が増えたって聞くぜ、こぇこぇ」
様々な噂が囁かれる中、何事も無いかの様に黒髪黒目黒の制服という格好の少年はカウンターに腰かけた
「なんだい色坊、今日も来たのかい?」
「当たり前っすよミアさん、休息日の昼ご飯はここの上手い飯って決めてるんですから」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか!!よし、今日は一杯つけといてやるよ」
「マジっすか!?」
黒の少年、黒鐘 色は女ドワーフの店主ミアに喜色満面の笑顔を見せた後、上機嫌にメニューを見ていく
「すみませーん!!これとこれとこれとこれとこれとこれを下さい」
「少年、いっつも思うんだけどその体にニャンでそこまで入るニャ?」
「実は少年はモンスターだったりするニャ?」
「こらっ!うちのお得意様に失礼なこと言うんじゃないよ馬鹿猫共!!」
「「ギャン!!」」
色は拳骨を落された二人の
「ごめんね色君、後で馬鹿猫二人には私がきつーく言っとくから」
「「あ゛?」」
「いいからさっさと仕事に戻りな!!馬鹿娘どもぉー!!」
「「「はい!!」」
「まったく、悪いね色坊」
「いいっすよ、何時もの事ですし」
気にして無いといった風に手を振り、暫くして置かれた料理の数々に目を輝かしながら食いついた。そうして色が食事を楽しんでると、興味深そうな話が耳に届いて来る
「売ったんじゃねぇ・・・・取られたんだ」
「同じ事じゃないか!!このっ、駄目男!!」
声の主は男女二人だ、会話はヒートアップしていき、遂には店主に摘み出されてしまった。そうした一騒動の後、店員は気絶した男を回収し、店の隅で話を聞いている。
「実の娘を担保に、賭博を・・・」
その会話を聞ていた色は静かに笑みを浮かべた。
「あんな可愛い娘、きっと今に歓楽街に売られちゃう。あぁ、あの娘が何をしたって言うんだ!!」
「よかったら俺が助けてやろうか?」
「「「「「!?」」」」」
突然掛けられた言葉にその場にいる全員が驚いた表情を浮かべた。そう言う反応するとは思ってはいたけど、これも人助けの一環だ、文句は言われまい。ポケットに手を突っ込んだまま、俺は話を続けていく
「もう一度言うぞ、俺がその娘を助けてやる」
「あ、あんたもしかして、
男の言葉に俺はにっこりと笑顔で返した。その笑顔を見た二人は藁にも縋る思いで俺に頭を下げて来る
「た、頼む、娘をアンナを助けてくれ」
「アタシからもお願いします」
「応、任せとけ」
頭を下げて来る二人の肩をポンッと叩きミアさんに食事代を払いすぐに店を出て、とある裏路地の酒場に足を向けた、すると後ろから聞き馴れた声が掛けられる
「ま、待って下さい!!」
「あれ?、リオンさん、どうしたんですか?」
振り向くとそこには覆面のエルフ、リオンさんが肩で息をしながら立っていた。何か用事だろうか?
「はぁ・・・はぁ、いえ、貴方がギャンブルで売られた娘を助けようとしてると聞いたので手助けに」
「え?でもその話したのついさっきですよ。もしかして『豊穣の女主人』に居たんですか?」
俺の言葉にビクッ!と肩を震わしたリオンさんは何故か誤魔化すように答えた
「じ、実は今から食事の予定だったんですよ、それでたまたま」
「はぁ、それじゃ先に食事にしますか?」
「いえ大丈夫です、そんな事より早く行きましょう。そうしましょう」
「え、ちょっ!?」
リオンさんはそのままズンズンと俺の手を引いて歩いていく、まるで何かから逃げるみたいに
「リューの奴どこ行ったニャ!?」
「少年の事となると見境なさすぎニャ!!」
「リューのあの癖本当に何とかならないかなぁ。あ、そうだシル、どうして何時も色君が来ると隠れるのさ?」
「いえ、あの人ちょっと苦手で」
リオンは色の手を引きながら思う、またやってしまった
彼女が勝手に店を抜け出したのはこれが2度目である。一度目は色が歓楽街に入り浸ってるという噂を聞いた時、居ても立っても居られず、飛び出して近くを通りがかったミィシャを捕まえたのだが。帰った後に待っていた散々な
「はぁ」
「どうしたんですか、リオンさん?」
「い、いえ、それより。どうして色さんはあの夫婦を助けようと思ったのですか」
話を逸らしたリオンだが、あの夫婦とは何の関係も無い色がどうして助けようと思ったのか、これは実際に聞きたかった事だ。
目的地に着いた二人の間に少しの間沈黙が走る
「・・・・・何と無く、ですかね」
「・・・」
その言葉を聞いて、今も背中に刻まれている女神の『恩恵』が、疼いたような気がした。
空色の瞳が静かに瞼を閉じる
「リオンさん?」
「色さん、私は貴方に出会えて良かった」
再び瞳を開けた彼女は晴れ晴れとした表情で酒場の扉を開けた
二人の視界に広がるのは、場末の酒場特有の光景だった。品の無い笑い声を上げる
「色さんはこういう所に馴れているのですか?」
「まぁ、歓楽街にしょっちゅう寄ってますからね、耐性は在りますよ」
「そう、ですか」
苦笑いしながら歩く色に少しだけ複雑な気持ちになった。確かに修行として歓楽街に言っているのは理解しているのだが、もしかしたらそう言う事もしているのかもしれない。いや、でも、まさか、色さんに限って、などリオンが葛藤していると、いつの間にか見知らぬ男と話している色の姿があった。
「あの、そちらの男性は?」
「今知り合った親切なおじさんですよ。それより交易所に用が出来たんですけどついて来ますか?」
「交易所?それは、いいですけど。もしかしてアンナ・クレースは商会に引き取られたのですか?」
「そうみたいですね、それじゃ、行きましょうか」
「は、はい」
あっさりと言う色にリオンは疑問覚えたが、少し考えれば納得した。おそらくあの男は情報屋か何かだろう、【イシュタル・ファミリア】と深い関わりがある彼なら、独自の情報ルートを持っていてもなんら不思議な事ではない。
ポケットに手を入れながら前を歩く色の背中を信頼の眼差しで見つめているリオンは気付かない、酒場の人間が、最近有名になったなヒューマンとフードを被ったエルフという目立ちそうな二人に、誰一人目を向けていない事を
「リオンさん、アンナさんの居場所がわかりました」
「・・・は?」
交易所に着いて割と時間が経っていないのに、色が持って来た情報は流石のリオンも絶句するものだった。あまりにも早すぎる
「あの、色さん、お言葉ですが裏は取っているのでしょうか?」
もしかして騙されているのではないか、心配そうに声を掛けるリオンが思い出すのは嘗て嵌められた仲間たちの事だ。しかしそんな事はお構いなしに色は言葉を続ける
「多分大丈夫ッす。それより、リオンさん、アンナさんの居場所は『
「え、色さん?私もついて行きます」
「駄目ですよ、リオンさんは正体バレちゃ不味いんでしょ?」
ウッとリオンは言葉に詰まった。しかし『
「それに今まで散々助けてくれたのに、これ以上迷惑かけられませんよ。じゃ」
「待って下さい!!」
手を振り、帰ろうとする色の手首をリオンは咄嗟に掴んだ
「えっと、リオンさん?」
「色さんの気持はよく分かりました。が、それでは私の気が収まらない」
リオンは色の漆黒の瞳を真っ直ぐ見つめながら、言った
「だから、明日私の代わりの者を向かわせます。集合場所は『繁華街』の最近出来た
「あの」
「いいですね!!」
「・・・はい」
たじろぐ色に了承を得たリオンはそのまま踵を返しすっかり日が沈んだ夜道に紛れて行った
「はぁ、どうしよ」
夕日が沈み、夜が深くなってきた時間帯、繁華街の一角で黒髪黒目黒のスーツ姿の少年は一人で頭を抱えていた
「なんで今日に限って皆に用事があるかねぇ。最低一人でも良かったのに。リオンさんの代わりの人がLv.3以上でない事を願うか」
悩みの種はリオンさんの代行がLv.3以上か以下かだ。
昨日は情報を聞き出すだけなので【
「一番手っ取り早いのが店員を全員操ってアンナさん解放させればいいんだけど、流石にバレるよなぁ」
「あ、あの」
「本来の目的がバレない為にも工夫が必要か・・・」
「あの!!」
「うん?」
凄く綺麗なソプラノの声が話しかけて来たので振り向くと、えらい美人がそこに居た。青い髪は膝丈まで長く綺麗な髪飾で括られて両端に靡いている、瞳もその色と同じ澄んだ青色、長い耳は彼女がエルフという証だろう、あまり派手な装飾がなされていない
「ミクかよ」
「えっと?」
「あぁ、いやごめんごめん、君は?」
慌てて取り繕い、名前を聞く、勿論その際ポケットに手を突っ込み小型のリモコンを押すのは忘れない
「リンっていいます、リオンの代行できました」
「あぁ、鏡音の方ね」
「?」
「こっちの話、知ってると思うけど俺は黒鐘 色、よろしくね、リンさん」
そう言ってもう片方の手を青髪のエルフの女性に差し出した
「あ・・・は、はい。よろしくお願いします」
「それじゃあ行こっか」
結果はLv.4以上、めんどくさい事になったなぁと思いながら、青髪の女性を引き連れて、
「あの、し、黒鐘さん」
「なに、リンちゃん」
上目遣いで見て来るエルフに俺は気軽に受け応えした。ただ歩いて行くのも暇なので話を聞いた所、この子リオンさんの妹らしい、しかも俺と同い年なんだとか、女性は見た目で判断できないと聞くが、割りと大人びた彼女が同年代とは驚きである。そして今度はリンちゃんから俺に質問してて来てるのだが
「『
「禁則事項です」
「ウッ、はい、そうですよね、すみません」
このように大体の事は秘密で押し通している。可哀そうだがこれはしょうがない、【
「確認しました、それでは素敵な夜をお過ごしください」
問題無く、『エメラルド・リゾート』に入った俺は眼下に映るダイスや、トランプ、煌びやかな衣装を纏った貴族たち、その中に見知った白髪を見つけてそっと呟いた
「さぁ、
賭博場で、はぐれないようにと繋がれた手のぬくもりに頬を染めながら、リンと名乗った青髪のエルフは見知った人影を見つけ、思わず声を上げてしまった
「クラネルさん!?」
「え?、あ、やっと来たんだ、遅いよ色!!」
名前を呼ばれた白の燕尾服を纏った少年は自分の前を歩いている黒スーツの少年を見つけると、安堵したような、怒ったような声を上げて此方に向けて足を進めて来くる
「おっすベル。あれ、リンちゃんベルと知り合いだった?」
「い、いえ。この前の
「なるほど、そういうアイタッ!?」
「色さん!?誰ですかッ!!」
リンは後ろからいきなり色を蹴った人物に振り向き、言葉を失った。
そこに居たのは見た者全てが絶句するような美少女が一人、思わず目を奪われるような美しい褐色の肌と、どこかの美の女神を思い出させる艶やかな銀髪、その身に纏うのは燃えるような真っ赤なドレス。女の自分も見惚れる程の世界全ての美と愛らしさを引き詰めたような一つの芸術がそこに存在した
「あたいを待たせて挨拶も無しとはいい度胸だねぇ、馬鹿弟子ぃ」
「アタタ、すみませんフリュネ師匠」
「はぁッむむむ」
大声を上げそうになった自分の口をベルに素早く塞がれる。「驚くのは解りますけど声を控えてください」と言われ、了承の意志を視線で飛ばし、口元から手を離してもらう
「お、驚いていたとはいえ私に気配を悟らせないとは流石ですねクラネルさん。それより本当にあの可愛らしい子がフリュネ・ジャミールなのですか?骨格からして全く似てませんが」
「シー、えっとリンさん、普段の姿は魔法で変身してるんですよ。後、駄目ですよあの姿になった本人の前で可愛いなんて言ったら、それで何度殺されかけたか」
「魔法で変身ですか」
今一度色と何やら話しているフリュネと呼ばれた少女を見るが、本当にあのヒキガエルとは似ても似つかない
「マジですか」
「マジです」
間髪入れずに返答したベルを見てリンは思った。
この世界は不思議なことだらけですね
「それで、首尾はどうなんだい、馬鹿弟子?」
「上々っすよ」
「そうかい、それじゃあたい達はその時まで好きなようにやっとくよ」
フリュネ師匠は俺の言葉を聞くと、さっさと自分がやりたい
「それじゃ手筈道理に行くぞ」
「うん、でも本当にいいのかなぁ?」
「大丈夫だって、裏はしっかり取れてある、むしろ俺達は正義の味方だ、そうだろ?」
「・・・はぁ、気が進まないなぁ」
「どうかしたのですか?」
近づいて来るリンちゃんにすぐ行くという意を伝える為に手を振り、俺は今だ乗り気じゃないベルに向き直る。
「まさか俺に負けた時の言い訳か、団長様?」
「・・・あんまり吠えると弱く思われるよ?」
俺の挑発にあっさりと乗ったベルに内心苦笑いしながら言葉を続ける
「単純にチップを多く稼いだ方の勝ちだな」
「負けた方が勝った方の言う事を何でも一つ聞くを追加で」
「言うじゃねぇか、知ってると思うが俺はこの手のゲームはかなり強いぜ?」
「僕の幸運を舐めないでね?」
「それじゃあ始めるか」
「そうだね始めよう」
「「『
ベルが自分のアビリティを100パーセント行かせるルーレットに向かったのを確認した後、色が向かった先はカードが置かれている机、種目はポーカーだ。
「ストレートフラッシュ」
「凄い」
捲られた絵柄に青髪のエルフの口から思わず声が漏れる。周りの客も色の41連勝という数字に、あり得ない、という声を漏らすが、リンが凄いと思うのはそんな事ではない。
「
「すげぇ、これで勝ったら42連勝かよ」
「おい馬鹿、勝負しようとするな」
「あいつは鴉だ、機嫌を損ねたら不幸になるぞ」
反対側のルーレットとは対照的に口数が少なくなっていく観客たち。
そして、恐らく一番この席から降りたいのは必然的に一対一になった
何故なら、パーム・ボトムディール・セカンドディール・フォールスシャッフル等の様々なイカサマをカードを変え、果てにはルールまで変えて、しているのにも関わらず、一回も勝てていないのだから。
「あ、あの、もう」
「どうしたの?カード捲ってよ」
「は、はい」
少女は断れない。自身から削り取られた山の様に積まれているチップを見た後、顔を青くしてカードを捲った
「ス、ストレー」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「!?」
圧倒的な手役に観客のざわつきが止まる、顔を青くした少女は涙目になりながらカードを落し、手を震わしていた。その目の前にはニタリと笑う邪な鴉が一羽
「色さん、そろそろ」
「うん、呼ばれてるから行こうか。楽しかったよ、ごめんねフロースちゃん」
黒服に身を包んだ年配のヒューマンに二人が連れられて行くのを見た
俺とリンちゃんが黒服に連れて来られたのは
「おお、これはこれは【
芝居がかった仕草で両手を上げ、俺の二つ名を声高らかに上げながら近づいて来るドワーフのおっさんに、少しイラッと来たが我慢する
「ああ、俺がその黒鐘 色様ですよ」
「私はテリー・セルバンティス、この
あまり調子に乗るなよ冒険者風情が、か。成程、面白れぇじゃねぇか
「こちらこそ、貴方のような有名人にお会いできて光栄です」
そう言っておっさんと握手をした俺はいかにも高級そうなソファーにドカッと腰を下ろした。礼節のなって無い態度におっさんは額に青筋を浮かべる、まぁそれも無視して困惑するリンちゃんを隣に座らせるのだが
「えっと、色さん?」
「リンちゃん、これからちょっと失礼なことするけどいい?」
「失礼な事ですか?まぁ、色さんなら」
小声で言葉を交わした俺は怒りを顔に張り付けたドワーフに笑顔で足を組みながら向き直った
「それじゃ、ゲームを始めよう」
「がははは、流石は冒険者様、豪胆ですな。しかし何事にも順序と言うものがあるのを忘れてはなりませんよ?」
「と、いうと?」
「そうですね、例えばそちらの美しい女性の紹介とか」
卑しい視線をリンちゃんに向けたおっさんに、ほら来た、と心の中で思う。まぁコイツの心情は解っているからこそさっき了承を得たのだが
「あぁ、リンちゃんの事ですが」
「!?」
そう言いながら、いきなり肩に腕を回した俺にリンちゃんはビクッと反応した。顔を真っ赤にしながら俯いているリンちゃんには悪いが先に断っていたので遠慮なく行かせてもらう
「可愛いでしょ、この子。
「ほ、ほう、言いますね」
テリーは声を震わしながら言った。その表情は愛人を馬鹿にされた怒りなどではなく、これからどうやってこの美しい女をクソ生意気な冒険者から奪い取ってやろかと言うものだ
「実は俺の秘蔵っ子でね、この子の他にも色々な子と関係を持って来ましたが、彼女が一番美しい。可愛がり過ぎてまだ手が出せないんですよ」
そう言いながら目を細める色を見てテリーは確信した。こいつは自分と同族だと。そして生娘の内にこの娘を奪い、蹂躙したいという欲望が沸々と湧き出て来る
「成程、どうやら私たちの間に順序と言うものは要らなかったらしい。皆さん席につい下さい」
テリーが声を掛けると4人の
黒の少年はニヤリと笑いながら、何時もの様に片手をポケットの中に入れた
「では、手始めに
「じゃあ俺はその倍で」
勝負の内容はフロップポーカー。自分のみの手札以外に、すべての
不正は、今のところは無い
テリーは勿論の事。カードを配る男性
そして何事も無く、カードを捲る音と
なんてことはあり得ない
「はい、また俺の勝ち、
「・・・」
もう何度目になるだろうか、悠々と
「あ、ありえない」
呟いたのはテリーだ、始めの方は偶然もあるだろうと余裕の態度を崩さなかった彼だが、今では頭に血が上っているのか、真っ赤になっている。そんなドワーフの視線の先には、ほんのりと頬を赤く染めたリンの太ももに頭を預けながら、彼女にカードを握らせ、先ほどから指示を飛ばしているだけの色の姿があった
「おい冒険者、貴様ふざけているのか!!」
遂に本音を口を出してしまうドワーフに、色は冷めた視線を送りながらこう言った
「何言ってるんですか。これは貴方がさんざんやって来た事でしょう?まさか自分がやり返されて怒っているんですか?」
「う、グッ、いいだろう、今に吠え面かかせてやる」
その言葉にリンを含めた全員が思った、まだやるのかと。既に色が奪って行った
「リンちゃんカード見せて」
「は、はい。あの色さん、そろそろこの格好どうにかなりませんか?その、人目があるのは少し恥ずかしいのですが」
「ごめんねリンちゃん、嫌だと思うけど、もう少しだけ耐えて」
「い、いえ、嫌という訳では」
しどろもどろになりながら答えるリンの頭の中には最早テリーの事など、どうでもよくなっていた。確信したのだ、色に喧嘩を売ったこの男の末路を。
そして
「フルハウス」
「ストレートフラッシュ」
「スリーカード」
「フォーカード」
「ストレートフラッシュ」
「ファイブカード」
「あ・・の、
「うるさい黙れ!!次は、次は勝てる!!」
テリーは頭を掻きながら必死にカードを受け取る、どうにか逆転しなければ、そしてあの美しい娘を自分の手で。それは執念だった、自分がどれほど負けているのか分からなくする程の執念、それがテリーに降りるという選択肢を消させていた
その執念が実を結んだのか、遂にテリーの手元に運命の神が微笑む
「!?・・・オイ冒険者、賭けをしないか?」
「いいぜ、何を賭ける?」
色の問いにテリーは迷わず答えた
「ここにある
何故ならこの手札で負ける事などあり得ないのだから
「オッケ―、じゃあ俺は」
そして、鴉はポケットの中のボタンを押しながら頬を三日月に歪める
「うちの団長様が勝った分のチップを賭けよう」
「は?何をいって」
「
「な、何だ一体!?」
飛び込んできたのは色達を
「う、兎が、兎に全て持って行かれました。ルーレットで全て!!」
「お、おいちゃんと事情を説明しろ!?」
「俺が説明してやろうか?昔、違法な賭博を繰り返していた胴元のテッドさん?」
「なッあぁぁああああああああああああああああああ!!!」
その瞬間テッドを支配していた何かの効力が消え、絶叫が木霊する。今まで自分は何をやっていたのか、そしてどうしてこんな事態になっているのかを正確に理解した彼は目を見開き、震えながら黒の少年を見上げた
「ななななな、何者なんだお前は、お、俺に何をしたァ!!」
唾を飛ばし、叫ぶテッドに色は冷ややかな目線を送り、リンの太ももから頭を離し起き上がる
「おおおおお前らもだ!!!どうして俺に協力しなかった!!」
テッドが次に唾を飛ばしたのは同じ席で
そして勿論協力をしていたのは『
「お、お前も、この俺にイカサマを!!でなければあんな手役作れるものか!!」
「すみませんテリー様」
「私共一同」
「既に色様の配下ですので」
「な・・・に・・」
テッドは言葉を失った、失うしかなかった。ブリキ人形の様に首を動かすと、自分の全てを飲み込もうとする黒い怪物が美しいエルフを携えて座っていた
「色さん、これは一体」
「後で説明するよリンちゃん。それより今はこのゴミ屑を何とかしないと。ねぇテッドさん?」
「ひっ」
エルフから向き直った色に思わず後ずさったが、しかし、テッドは逃げない。思い出したのだ、さっきの言葉を、さっきした賭けを
「色、終わった?僕は1億以上は稼いだと思うけど」
幸運の兎が持って来た情報に肥えたドワーフの顔に希望が宿った
「お、おいお前、言ったな、お前のとこの団長のチップを賭けると」
「え?なにそれ僕聞いてない」
「あぁ、言ったぜ、それだけあれば逃げることぐらいは出来るかもな?」
「おい、副団長、何無視してんだおい」
騒ぐ兎を無視して
「
「ふーん、いいよ、何を賭ける?」
「俺の全てを掛ける、地下にある宝物庫の全財産全てだ!!」
「で、俺は?」
「その娘と俺から奪った全部を賭けろ!!」
「なッ!?そんなもの」
あり得ない、明らかに天秤が釣り合ってないのだ。例え宝物庫にどれだけの金があろうと色の元には既に10億ヴァリス以上が転がり込んでいるのだから
「いいよ」
「色さん!?」
しかし色は何も不安がらずに了承する
「だ、駄目です!あの男の手札恐らく」
「リンちゃん」
不意に抱きしめられたリンは硬直した、そして耳元でささやかれる
「ごめんね、勝手に賭けに使って。でも大丈夫、俺を信じて」
「・・・・・はい、わかりました」
リンは長い沈黙の後、か細い声で了承した。色の胸に埋めた顔は長い耳まで真っ赤に染まっている
「お別れの言葉は済んだか?冒険者」
「愛の囁きだよ、おっさん」
「フン減らず口を。まあいい、それでは」
「ああ、それじゃあ」
「「勝負!!」」
二人の纏う雰囲気に誰一人声が出せない中、大勢の観客に見守られた、今日一番の大勝負はその幕を下ろそうとしていた
テッドは自らの勝利を確信する。何故なら自分の手役はこの勝負では負けるはずのない最強の手役、ロイヤルストレートフラッシュだからだ。
がははははは、散々俺の顔に泥を塗ってくれたな冒険者風情が!お前のその澄ました顔を今に歪めてやる!!
「ロイヤルストレートフラッシュ!!」
大声で捲られた手役、場と合わせての最強の
そして観客全員が息を呑む、それに重ねられるようにして置かれたカードに対して
「残念、俺の勝ちだ」
色が
この賭博場において無敵の役がそこに存在していた
「いやぁ、ギルドへの報告もスムーズに済みましたし。リンちゃんが居てくれて助かりましたよ、リオンさん」
「そうですか、それは良かった」
目を逸らされながら言われた言葉に俺は首を傾けた、はて、何か機嫌を損なう事でもしただろうか?
「あの、俺何かしました?」
「言え別に、ただリンが言っていましたよ。あまりにも手際が良すぎたって」
「えーと」
「勝負の後すぐにギルド職員が駆けつけたり、何故か近くにいた【イシュタル・ファミリア】がボランティアとして、大勢で従業員を拘束に向かったり、その騒ぎの間にクラネルさんとジャミールさんが勝金と共に居なくなってたり、いつの間にか宝物庫の中身が蛻の殻になっていたり。もしかしてわざと勘ぐらせる暇を与えない為に自分にギルド関係の報告を押し付けたんじゃないかと・・・妹が言ってました」
「あ、あはははは」
す、鋭い。ていうより殆ど正解である。
そう、俺は元々何と無くとかいう曖昧な理由であの夫婦を助けた訳じゃないのだ。すべては早急に必要になった金の為、ギャンブル絡みなら確実に大金が転がり込んで来るだろうと踏んで、ベルや【イシュタル・ファミリア】に協力して貰ったのである。
「まぁ、いいです。諸悪の根源は潰えましたので」
「いやぁ、そうですね。テッドは悪い奴でしたね」
良かった、この話は流してくれるみたいだ
「それはそうとして、あの時色さんの事を様付けで言っていた方たちの事なのですが」
「ブッ!?」
その事についてすっかり忘れていた俺は思わず飲んでいた飲み物を噴出してしまった。リオンさんの方向には向いていなかったのは不幸中の幸いだ
「ご、ごめんリオンさん。すみませーん飲み物追加で」
「はいお待ち、ニャ」
「え、はや、てナニコレ?」
どう答えようか考えていた俺の前に一つのコップが置かれた、その中にはストロー二本
「ごめん手が滑ったニャ!」
そしてワザとらしくリオンさんの飲み物が叩き落され、ルノアさんが床にぶちまけられた液体を何事も無かったかのようにサッと拭いて。極めつけにドヤ顔で親指をグッと突き出して来た
「・・・」
リオンさんは一連の出来事に全く反応できず、硬直している
「色さん、申し訳ないのですが少しだけ席を外します」
リオンさんは
「貴方達は何をしているのですか!?」
「それはこっちのセリフにゃ!!」
「いい加減正体を明かすニャ!!」
「ごめん、私もそろそろ言った方がいいと思うよ、て言うより変装はやり過ぎ」
「だ、黙りなさい!!」
一気に騒がしくなる『豊穣の女主人』に俺は
一切耳を傾けられなくなった
その目線の先には、空に打ち上げられた緋色の稲妻が浮かんでいたのだ
次回この話の裏側、一方そのころ他の怪物進撃達は、をします。
更新は遅くなるかもしれない