ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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原作三巻使ってる異端児編突入!!かなーり原作解離します


第26話 竜女

ビキリ、ビキリ・・・

 

迷宮の一角で一体のモンスターが産み出された。

 

女性を彷彿とさせる滑らかな体躯、頭部から伸びる青銀の髪。人のようで、しかし全身を所々覆う鱗がそれを否定している。

 

額に美しい紅石を埋め込んだ一匹のモンスターは、虚ろな瞳で辺りを見渡し、樹木で塞がれた天井を見上げる。

 

「・・・ここ、どこ?」

 

細い喉が震えた。

 

その声はどこにも届かず、誰にも聞こえない。産まれたばかりの彼女は訳も分からないまま二本の脚で歩き、辺りをうろつき始めた。

 

『ガルルルルルルルルルル』

 

本能に従い、見つけたのは熊型のモンスターだ。自分と同じ匂いを発している存在に嬉しそうに近づいた彼女は声を発する。

 

「ここどこ?」

 

『グゥアアアアアアア!!!!!』

 

「え?」

 

返ってきたのは凶悪な咆哮だった。熊獣は少女を敵と定め鋭い爪を振り下ろしてくる。

 

「ひっ」

 

感じたのは潜在的な恐怖。尻餅をつき、動けなくった少女は、来るであろう痛みに震え目を閉じた。

 

「・・・・・・・?」

 

しかし痛みは来ない、むしろモンスターの悲鳴が聞こえた。何が起こったのだろうか?恐る恐る瞳を開けると、黒髪黒目黒の制服を纏った少年の背中が、琥珀色の双眸に写りこむ。

 

「大丈夫か?俺が来たからには、もう安心していいって裸じゃねぇか!?」

 

「はだか?」

 

それが、竜女と鴉の初めての出会いだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず情報を整理しよう。ここは19階層で俺は下層攻略作戦の第一段階を実行中だった。

 

内容は階層の偵察、37階層まで通った事がある俺は、この階層に反射を突破出来るモンスターが居ない事がわかっている。

 

そのためモンスターの動向を探る目的で、19階層内の予め決めておいたルートを駆け回っていた。そして粗方探り終え、第二段階に移行するため踵を返したところ、目の前の少女がモンスターに襲われている所に出くわしたのだ。

 

驚愕する俺に青白い肌を晒している少女はキョトンという顔で首を傾ける。なんだこの反応?いや、まずは着るもの・・・は持ってないから制服の上着を脱いで渡すことにした。

 

「とりあえず、これ着とけ」

 

「着る?」

 

服を受け取っても首を傾ける少女。うんやっぱりおかしい、もしかしてこれは記憶喪失というものだろうか?

 

「自分の名前わかるか?」

 

「名前?」

 

記憶喪失ですね、わかります。だが残念、俺にその手の障害は意味をなさないのだよ。素早くリモコンを取り出し、制服を着ることができずクシャクシャにしている少女に向けて【食蜂操祈(メンタルアウト)】発動・・・

 

「効かない・・・だと」

 

「どうしたの?」

 

「ちょっとまってね」

 

「まつの?わかった!」

 

少女は可愛らしく腕を上げ、その場にペタンと女の子座りをした。因みに俺の制服の上着は結局着方がわからなかったのか腰に巻き付けられている、どうしてそうなった。

 

それにしてもこの子【食蜂操祈(メンタルアウト)】が効かないって事は俺より高いLv.の冒険者だったのか、確かにパッと見た感じ爬虫類っぽい見た目だったから、もしかしたら強い種族の人間なのかもしれない。龍人とかありそうだしな

 

「さて、どうしたものか「おい、そいつ!?」うん?」

 

振り向くと、そこにはモルドのおっさんがいた。確か俺の後ろをコソコソ着いて来て、倒したモンスターの魔石やドロップアイテムをせしめようとしてたんだっけか。

 

このおっさんにはカジノの時に世話になったから好きにさせてたんだけど、一体どうした?

 

「離れろ鴉!そいつはヴィーヴル、モンスターだ!!」

 

え、モンスター?いやいやいや、流石にそれはないだろ

 

「おっさん頭大丈夫か?この子モンスターに襲われてたんだぞ?それにな」

 

そう言いつつ少女に手を伸ばすと意図がわかったのか握り返してきた。そのまま立ち上がらせ、出来るだけ身体を見ないようにして手早く制服の上着を着せることに成功する。

 

「こんなに可愛い子がモンスターなわけねぇだろ?」

 

「可愛い?」

 

聞き返してきた少女をおっさんの前に出してやった。下の部分が絶妙に隠れてなんかエロい、【イシュタル・ファミリア】のお陰で耐性が出来てて良かったぜ

 

「なッ、モンスターが喋っただと!?」

 

「だからモンスターじゃねえって」

 

狼狽するおっさんに呆れた視線を送る。モンスターが喋ったって、12階層で出てきたアイツだって片言の呪文しか発声してなかったのに無理やり過ぎるだろ、どう見たって人じゃん。

 

「いや、でもその額の宝石は・・・」

 

「「宝石?」」

 

俺と少女の声が重なる。額の宝石ってこれか?ただの髪飾り・・・じゃねぇな、嵌め込まれてる感じだし。そう言えば爪もやたら長いし、本当にモンスター?

 

「おぉー」

 

やっぱりモンスターじゃねぇわ、だって額の宝石を今気付いたみたいにペタペタ触ってるし。これあれじゃね?無理やりモンスターの宝石嵌められて記憶喪失になった改造人間的なやつじゃね?

 

「まぁ何でもいいけど、取り敢えずモルドのおっさん」

 

「な、なんだ」

 

「ここでは何も見なかった。いいね」

 

ピッ

 

「さて、これからどうしようかね」

 

「これからどうしようかね!」

 

食蜂操祈(メンタルアウト)】でおっさんの記憶を弄った俺は、真似をしてくる少女の手を引き18階層の入り口まで目指すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず着る物と頭の宝石を隠す物が必要だな」

 

「隠す?」

 

少女を連れてリヴェラの町まで来た俺が真っ先に向かった先は服屋だった。これは18階層に帰って分かった事なのだが、どうにも他の冒険者は、この子の額の宝石と身体の鱗を見てモンスターと判断しているらしい。なのでそれを隠せば町の人間に一々【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使わなくても大丈夫だろうという算段だ。

 

因みに爪の方は【一方通行(アクセラレータ)】を使って、いい感じに整えてある。こんな所でヴェルフに教えて貰った鍛冶の技術が役に立つとは思わなかったぜ。

 

「お邪魔します」

 

「いらっしゃい」

 

「わぁー」

 

店の中に入いると、少女は何でもない武器や盾に感嘆の声を上げた、19階層まで来てたのに見たことが無いのだろうか?やっぱり記憶喪失なのかね

 

「えっ!!あんたそれ!?」

 

「はいはい、【食蜂操祈(メンタルアウト)】しますねー」

 

女性の店員に【食蜂操祈(メンタルアウト)】を発動し、武器屋の奥に入っていく。そう、このリヴェラの町には表面上、服屋というものは存在しない。当たり前だ、ここまで来た冒険者はそんなもの(ファッション)に拘るはずが無いのだから。

 

それなら何故こんな店の奥に隠すように様々な服が売られているのか・・・情報元が【イシュタル・ファミリア】だということで察してくれ。

 

「シキ、これ服?」

 

「そうだぞ、好きな物選んでくれ」

 

「選ぶの?わかった!」

 

元気よく手を上げた少女は、そのままハンガーにかけられている大量の服に突貫していく。

 

俺の名前も直ぐに覚えたし、やっぱりモンスターに見えねぇよな。今だってどの服を選ぼうか、ウンウン唸ってるし。

 

「おーい、そんなもん適当に決めちまえ」

 

「えー、だってシキと同じがいい」

 

それだけ言うと少女はまた、あれでもない、これでもない、と服を漁り始める。俺と同じ服ねぇ、確か俺の学校の制服はギルド局員の男性用制服と酷似しているから・・・あったこれだ。

 

「ほれ、これにしな」

 

少女に渡したのはギルド局員の女性用の制服だ。こんなものまで取り揃えてるとか、いい趣味してますな。

 

「わぁ、これにする!!」

 

「よし、じゃあこの子に着せてやってくれ、店員さん」

 

「はい、わかりました」

 

似通った服を渡すと少女はあっさり承諾した。そのまま【食蜂操祈(メンタルアウト)】で操った店員に任せ、着せている内に店の中を少しだけ物色する。

 

「みてみて、シキと同じ!!」

 

「おう、同じだな。ついでにコレとコレもそうちゃ~く」

 

「わっ!?シキこれなぁに?」

 

驚いている少女に装着させたのは、つば広帽とサングラスだ。これで爬虫類のような瞳と額の宝石も隠すことが出来た、完璧である。

 

「それじゃ行くか」

 

「どこに行くの?」

 

店員にお金を渡した俺は、少女の手を握りリヴェラの町の一角を指差しながらこう答えた。

 

「俺の家族(ファミリア)の所だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、色ってダンジョンに出会いを求めて入ってるの?真面目に攻略する気あるの?」

 

「何か知らんが、お前にだけは言われたくねぇよ」

 

少女を連れていった第一声がこれである。他の皆も、何してんだコイツ?見たいな視線を投げ掛けてくるが、俺が何か言う前に少女が皆の元に向かって行った。

 

「白いフサフサの髪に赤い目!あなたがベル!!」

 

「え、うん。僕がベル・クラネルだけど」

 

勢いよく指を突き付けられ困惑するベル。少女は他の団員にも次々と指を差していき

 

「赤い髪に大きな身体!あなたがヴェルフ!!」

 

「お、おう」

 

「色と同じ黒い髪!あなたが命」

 

「そうですが」

 

「モフモフの尻尾に耳!あなたが春姫!!」

 

「はい、(わたくし)が春姫です」

 

「ちっちゃいリリ!!」

 

「なんかリリだけ雑じゃないですか?」

 

道中教えた特徴通りに全員の名前を言い当てた少女は、俺の元に走りよって嬉しそうに手を握り

 

「シキの家族!」

 

と言ってきた。

 

得意気にしてるので、良くできました、と帽子の上から頭を撫でると「えへへー」と頬を綻ばす少女。皆の様子を見るに、あの服装で上手いことカモフラージュ出来ているみたいだな。

 

「それで、そのモンスターは何処で拾ってきたのですか?色さん」

 

バレてーら

 

「あー、なんだ。お前らもやっぱりモンスターだと思う?」

 

「思うも何もさっきから自分の《スキル》にビンビン反応してますし」

 

「雰囲気で何となく、な?」

 

あぁそうだった、確か命ちゃんは俺に習ってダンジョンに入る時は常にスキルを発動し続けているんだっけか。後ヴェルフよ、雰囲気ってなんだよ、お前そんなに直感良かったっけ?

 

「だったらモルドのおっさんが正解だったわけか。てかあんまり驚かねぇのな、おっさんなんかひっくり返りそうになってたぞ?」

 

「なってたぞ!」

 

俺の真似をすることを気に入ったのかオウム返ししてくる少女をまた撫でてやると「えへへー」と抱き付いてきた。可愛いなコイツ

 

「驚くって。色さん、今更モンスターが喋ったぐらいでリリ達が驚くと思っているのですか?むしろ想像よりマシな厄介事に命さん何かはホッとしてましたよ」

 

「え、そうなの?」

 

「はい、自分は最悪、黒いゴライアスの群れを引き連れて来るものと思ってました」

 

「流石の俺もそこまでのトラブルは持って来ねぇよ・・・多分」

 

ち、ちげぇし。目を反らしたのは俺から離れてリリに絡みに行ったあの子を見ていただけだし。ていうか別に俺がトラブルを持って来てる訳じゃねぇし、向こうから来ているだけだし

 

「それで、色はあの子をどうしたいの?」

 

冷や汗を流しながら、リリの次に春ちゃんに絡みに行った少女を見ているとベルから声を掛けられる。どうしたいって、そりゃあ

 

「うちで引き取ったらいいじゃん」

 

「クロならそう言うだろうな」

 

「ヴェルフに同感だね」

 

「どういう意味?」

 

聞き返すと二人揃って肩を竦められる。馬鹿にされてる訳じゃなさそうだけど、なんか納得いかねぇ

 

「それで、どうするのですかベル様。あの子を引き取るんですか?」

 

少女から解放されたリリがベルに訪ねる。頭がクシャクシャになっているはご愛嬌

 

「まぁいいんじゃない。喋るモンスターの一体や二体、僕もこの前見たし、多分珍しいけど全く無いことじゃないんだよ」

 

「ほぅ、流石はベル殿ですね。自分は初めて見ました」

 

「リリも初めてです。因みに何処で見掛けられたのですか?」

 

「確か、オラリオの」

 

会話をする三人を他所に、少女に揉みくちゃにされて目を回している春ちゃんの代わりに相手をしているヴェルフの方に足を進めた。

 

「あ、シキ!!ヴェルフがスゴいんだよ!!!」

 

取り敢えず今回の19階層進出は見送りになりそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通りの片隅、商店の前に止められた一台の荷馬車。馬が嘶いたかと思うと、ぐらり、と。高く積まれた荷物が、まるで積み木のように崩れようしていた。更にその下には、何も気付かない幼い犬人(シアンスロープ)

 

このままでは幼い子供は大怪我をするだろう、もしかするとその小さな命が失われるかもしれない。

 

しかし悲劇は起こらない。

 

そこに一陣の風が吹いたからだ。青銀の髪を靡かせ、落ちた帽子も気にせず犬人(シアンスロープ)を抱き抱えたギルド局員の服装の少女は、積み荷が崩れ落ちる前に離脱。助けた犬人(シアンスロープ)を爬虫類を思わせる瞳で見つめ

 

「大丈夫?」

 

と声を発っした。

 

「「「「「わあああああああああああああ!!!

!!!!」」」」」

 

沸き上がる

 

「ウィーネお姉ちゃん、ありがとう!」

 

歓声

 

「流石ウィーネちゃんだ!!」

 

「良くやった!!じゃが丸君奢るよ!」

 

「お姉ちゃんすごーい!!」

 

「この子を助けてくれてありがとうございます!!」

 

「お、おいあれって」

 

「馬鹿!!あのファミリアだ、関わんな」

 

エルフの女性に、ドワーフの男性に、ヒューマンの子供に、町行く人々から喝采を浴びた蒼の少女は、整った相貌を朱に染めながら「えへへー」と笑い、犬人(シアンスロープ)の親子に手を振り駆けていく。

 

じゃが丸君が入った袋を握り締めながら、帰り道を走る少女の服の背中には、とあるファミリアのエンブレムが刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!!」

 

鐘楼の館に先程の少女の声が響き渡る。すると奥の方から怪物が起き上がった。黒い怪物は少女に狙いを定め、常識はずれの動きで接近し、勢いよく抱きつく。

 

「おっかえり!ウィーネ!!!」

 

「えへへー、色あったかい」

 

そのまま黒い怪物、黒鐘 色はウィーネに頬擦りを始めた。しかしそれを許さんと鋭い声が投げ掛けられる。

 

「色様ッ!!真っ先に抱き付く(ハグ)するのは止めてくださいって言ったではありませんか!!!今日は(わたくし)がウィーネ様に抱き付く(ハグ)する番です!!!」

 

「馬鹿だな春ちゃんは、こういうのは早い者勝ちなんだよ。それにウィーネだって春ちゃんより俺の方がいいもんなー」

 

「貴方はまたそうやって!!何時も何時もッ!!」

 

二人の口論を、また始まったか、と頬杖を付きながら見ていたヘスティアの元にウィーネと呼ばれた少女が駆け寄る。二人の間から上手いこと逃れたようだ

 

「神様!じゃが丸君皆の分買って来た!!」

 

「ありがとうウィーネ君、あれ?一個多いよ?」

 

「あのね、これね!!」

 

さっき助けた犬人(シアンスロープ)の子供の件を一生懸命説明するウィーネ。それを微笑ましそうに見つめるヘスティアの横合いから、小人族(パルゥム)の少女が一言こぼした

 

「もう何でもありですね、あの人」

 

それは、未だに春姫と口論している色に向けられた言葉だ。

 

「【食蜂操祈(メンタルアウト)】で無理やりウィーネさんを認めさせるんじゃなくて、少しずつ認識をすり替えて行くって言ってたのに。たった5日でここら辺の住人の殆どが【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使わなくても、ウィーネさんをモンスターと似ている特殊な女の子って認識してますよ」

 

「ウィーネ君の人柄のお陰でもあるね。この前も、じゃが丸屋のおばあちゃんが、重い仕入れの荷物を運ぶのを手伝ってくれたって言ってたぜ。本当に、色君はいい娘を拾ってきたもんだ」

 

「ウィーネいい子?」

 

「はい、ウィーネさんは良い子ですよー」

 

「えへへー」

 

リリがそのままウィーネの頭を撫でていると、玄関の扉が開かれ、兎を連想させる少年が入ってきた。

 

「ウィーネ、そろそろ訓練しようか」

 

「はーい!」

 

ベルと共に外に向かうモンスターの少女を見送ったヘスティアとリリは、未だに口論を繰り返している二人を止める為にゆっくりと腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいですかウィーネ殿、(ランス)というのは突きに特化した武器です。故に単純に突くだけで相手を倒せるほどの威力が出せますが、その反面隙が大きくなるのが問題で」

 

「よく聞けよ。その大盾はアダマンタイトで出来てるから簡単には壊れねぇが、攻撃は真っ直ぐ受けんな。受け流して、上手いこと相手の隙を作るんだ」

 

ヴェルフと命、二人の説明(レクチャー)を受けているウィーネは右手に銀色に輝く(ランス)、左手に大盾を持ち、フンフンと頷いている。

 

「それじゃやろうか、ウィーネ」

 

「うん!!」

 

説明(レクチャー)を終えたウィーネの前に立つのは、ナイフを構えたベルだ。二人の間で緊迫感が高まり、ウィーネの足が動いた。

 

「やぁっ!!」

 

鋭い突きで放たれた銀閃は、真っ直ぐベルの胴体に吸い込まれ、ベルの身体がブレる。

 

ダッ!ダッ!ダッ!

 

聞こえた足音は三度だ。ヴェルフ、命、そして咄嗟に大盾を構えたウィーネの三人を置き去りにした敏捷値(スピード)で背後に回ったベルは、そのままナイフの切っ先を彼女の首元に突きつけた。

 

「僕の勝ちだね、ウィーネ」

 

「あぅ・・・」

 

その勝ち誇った様子にヴェルフと命は

 

「「やりすぎだ!!」」

 

と怒りを顕にした

 

「え、えと」

 

「お前は手加減がわかんねぇのか!!」

 

「そうですよベル殿!!これではダンジョンに向かう練習にならないじゃないですか!!!」

 

「ごめんなさい!!」

 

二人の声が大きくなる度にベルの体が縮んでいく。それを見ていたウィーネは次第にオロオロしていき

 

「ベ、ベルは悪くないよ!わたしが弱いから、だからベルを怒らないで!!」

 

ベルを庇うが、しかしそれは逆効果

 

「あぁ!!ウィーネ殿は何ていい子なのですか!!!」

 

「全くだ!!ベルも少しは反省しろ!!」

 

「ごめんなさいぃいいいい!!!!」

 

怒り狂う二人に、更に縮こまるベル。【ヘスティア・ファミリア(親バカ共)】の訓練はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、お前はまだ手加減がわからんのか?その手の訓練でもお前が一番下手だし、伸びしろが良いっていうのも考えものだな」

 

「あ、あはは。手加減しようと思ってるんだけど、ついやり過ぎちゃうんだよね。お陰でヴェルフと命さんに何回も怒られて」

 

「呼んだか?」

 

「いいいいやいや、なんでもないよ!?」

 

「?」

 

ホーム二階にある大浴場。脱衣所から続々と出てくる【ファミリア】の男性陣は、惜しみ無く晒すその筋肉質な身体を温かな湯けむりに撫でられる。

 

「それで、ウィーネは今何してんだ?」

 

「ヴェルフはあの後ずっと鍛冶場に籠ってたから知らねぇんだな。ウィーネは今、春ちゃんと一緒にリリ主催のダンジョン攻略講座を受けてるぜ」

 

「そうか、それにしてもウィーネもすっかり溶け込んだな。名前を決めるときなんか戦争に」

 

「ヴェルフ、それ以上はいけない」

 

男性陣は話ながらも身体の隅々まで洗い、湯船に向かった。女性陣に比べると烏の行水程度の時間だが

 

「はぁ~、気持ちいい。ねぇ色、いい加減ウィーネにベタベタするの止めたら?」

 

「なーに言ってんだお前は、妹にベタベタして何が悪い。ウィーネだって嫌がってねぇし」

 

「クロ、妹でもベタベタすんのは駄目だと思うぞ?」

 

ヴェルフの的確な突っ込みをスルーした色は、目を細め、何かを思い出しながら語った

 

「俺は昔から子供に好かれる体質だからな。近所の子供だって俺に懐ついて離してくれなかったんだぜ?」

 

「そう言えば色って弟も居たんだよね」

 

「そうなのか?どんな弟なんだよ?」

 

「あー、アイツは昔から無口な奴でな」

 

好奇心のまま聞いてくる二人に色が説明しようとすると、脱衣場からドタバタと激しい音と女性の焦った声が聞こえくる

 

「シキ!!一緒にお風呂入ろー!!!」

 

「ちょっ!?駄目ですよウィーネ殿!!」

 

「皆ッ、ウィーネ君を止めろぉ!!!」

 

「ウィーネ様!!お待ちになってください!!!」

 

「今日はやけに聞き分けが良いと思ったらこれが目的でしたか!!」

 

現れたのは裸の少女、判断は僅か0.01秒だった。

 

ガシッ!!

 

「おい!?」

 

「ウィ!?」

 

二人が何かを言う前に腕を掴み【一方通行(アクセラレータ)】を発動。リモコンが無い現状、最善の選択を行った色は生体電流を咄嗟に操り二人を気絶させた。

 

「いやー、一度もした事がなかったけど成功して良かったぜ。ウィーネ、男に気軽に裸を見せたらダメだぞ?」

 

「「「お前も気絶しろ!!!」」」

 

「プベラッ!?」

 

生体電流を操る事に集中し、反射を解除してしまった色も乙女達の鉄拳により気絶するのだった。

 

「ブクブクブク」

 

因みに男の裸を見たエロ狐も気絶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこれは」

 

使い魔である梟を回収しながら、屋上にたたずむ黒衣の人物は、フードの奥から呟いた。全身を余すところなく包んだ黒一色のローブが、嘆息するように揺れる。

 

「ミィシャ・フロットから聞いていたが、ここまでとは。常識外れにも程がある」

 

黒衣の人物は鐘楼の館と呼ばれる、かの【ファミリア】の本拠(ホーム)を見下ろしながら呟く

 

「ウラノスよ、私が見たものは間違いではなかった。私達の希望は直ぐそこまで来ているぞ」

 

その瞳の奥にはなにもないが、ハッキリと光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネル  

 

 Lv.3

 

 力:C682

 

 耐久:B763

 

 器用:C660

 

 敏捷:S943

 

 魔力:D587

 

 幸運:H

 

 耐異常:I

 

 《魔法》

 

【ファイアボルト】

 

・速攻魔法

 

《スキル》

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 

・早熟する。

 

・懸想(おもい)が続く限り効果持続。

 

・懸想(おもい)の丈(たけ)により効果向上。

 

英雄願望(アルゴノゥト)

 

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 




次回、ウラノス動く
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