ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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やっぱりうちのパルゥムはおかしい






第36話 怪物進撃と勇者一行

鐘楼の館の一角、開けられた工房のドアから熱風が吹き抜ける。真っ赤に放熱する炉の前には、赤い頭髪のヒューマンが真剣な表情で金槌を振り下ろしていた。

 

「―――リリスケか」

 

「おや、バレていましたか」

 

掛けられた声におどけて返事したのは小人族(パルゥム)の少女、リリルカ・アーデだ。

 

「春姫を横に付けてずっと打ち続けてたからな。アイツほどじゃないが、ファミリア内の人間だったら足音だけで誰か分かるようになっちまった」

 

「春姫さんですか。あの人も凄いですよね、育成計画の事覚えてます?音だけで周りにどのモンスターがいるかを判断しだした時はビックリしたものですよ。狐人(ルナール)って皆ああなんでしょうか?」

 

「さぁな、それより何しに来たんだ?お前が工房(ここ)に来るなんて珍しいじゃねえか」

 

「あ~、ちょっとお話を聴いて貰おうかと。これ、差し入れです」

 

そう言いながら近づいたリリは、手に持っている大きめのコップをヴェルフの前で軽く降った。液体の音が聞こえ、恐らく中身は水か何かだろうと見当を付けたヴェルフは持っている金槌を置いて受け取る。

 

「あれ?手を止めて良かったのですか?」

 

「あぁ、これは何回か休憩を挟んで打つ代物だからな。そうしねぇと俺の神経が持たねぇ」

 

「なに作ってるんですか………」

 

呆れた声を呟いたリリを連れてヴェルフは熱された工房の外に出た。火照った身体が外気で冷やされ、空を見上げると満天の星が広がっている。

 

「それで、話ってなんだ?」

 

コップの中身は水ではなかった。少しだけ芳ばしい香りに、たしか烏龍茶だったか、と思いながら一気に半分ほど飲んだあと、身体を伸ばして未だに話すのを渋っているリリに振り向く

 

「どうした?言い辛い事なら無理に話さなくても良いんだぞ?」

 

「あ、いえ。そうですね、少し言いづらいです」

 

歯切れ悪く口をもごもごさせたリリは暫く下を向いて、ヴェルフはその前でジッと待った。

 

「ヴェルフさん最初に謝っておきます、ごめんなさい。それと、今から話すことは全部推測ですので、聞き流してもらっても構いません」

 

「おう」

 

時間を掛けて顔を上げたリリの視線をヴェルフは真剣に見つめる。二人の間に少しだけ重い空気が流れ、トーンを低くしたリリの声が小さく響いた。

 

「………あの地獄を生き抜けた事を疑問に思いませんか?」

 

「…………」

 

押し黙ったヴェルフの表情が少しだけ強張る。

 

「確かに、リリ達は『デスマーチ』と言う地獄を生き抜き、そのお陰であり得ないぐらい【ステイタス】が伸びました。しかしですね、根本的にどう考えても色さんが抜けている状態で、あれを生き残れたのは奇跡と偶然が重なり過ぎてるんですよ」

 

「どういう意味だ?」

 

それは疑問と言うよりかは確認に近かった。ヴェルフも薄々気づいていたのだ、『デスマーチ』をやり遂げた自分達の異質さに。

 

「『モス・ヒュージ』の強化種に襲われた時の事を覚えてますか?」

 

「あぁ、覚えてるぞ。リリスケに殴り殺された可哀想な奴だったよな、振り下ろしたメイスごとぐちゃぐちゃになって………」

 

「いや、あれは『魔石』が大量に詰まった重いバックパックを背負っていたリリを、攻撃して来たあのモンスターが悪いんですよ……って違います!リリが言いたいのは『種子』を飛ばしてきた攻撃についてです!!」

 

「『種子』って最初にして来たあの攻撃か?蔦が絡まって少し動き辛かったな、でもそれだけだろ?」

 

「ええ、そうですね。”リリ達は”それだけで済んでました」

 

「どういう意味だ」

 

先ほどと同じ問いかけ、しかし今回は言っている意味が分からないと眉を潜めた

 

「あの『種子』に当たったのはリリとヴェルフさんと命さんですよね。そこから『怪物の宴(モンスター・パーティー)』が起きて乱戦になったので他の方は分からなかったと思いますが、実はもう一体あの『種子』に当たってたんですよ」

 

「一体って、モンスターか?」

 

「………はい、それでそのモンスターは『種子』を受け、身体中から蔦が生やしながら明らかに衰弱していました。つまりあの蔦には、何かしらの異常事態を起こす効果があったと思うんです」

 

「なるほどな、でも」

 

偶々人間には害の無い攻撃だったんじゃねぇのか?、そう言おうとしたヴェルフの口が止まる。何故なら、目の前の小さな小人族(パルゥム)の表情が、今にも泣きそうなほど悲痛に歪んでいたからだ

 

「リリスケ、お前……」

 

「確かに、人体には影響の無い攻撃だったのかもしれません。少し前ならリリもそう結論付けていたでしょう。しかし今のリリはそうは思えません」

 

声を掛けたヴェルフを無視して、リリはどこか言い訳をしているみたいに早口で捲し立てた

 

「似てるんですよ、ベル様が暴走した時と。あそこで春姫さんは暴走したベルさんがリリ達を殺すことはないって断言してました。実際、リリに軽い攻撃をして来ても致命傷になるような攻撃はしてきてません。『モス・ヒュージ』の時もそうです、『種子』を受けてもリリ達には対して致命傷になるような効力が出なかった。そう考えると、こう思いませんか?まるで何かに『祝福』されている様だと」

 

「クロのアビリティか……」

 

合点がいった訳ではない。ヴェルフも薄々気づいていたのだ、黒鐘 色の用途の分からないアビリティの正体に。それは他者に加護のようなものを与える物なのだろう、そして恐らくそれだけでない

 

「俺達の急激な成長の原因もそれにありそうだな」

 

「ヴェルフさんも感じていたんですね――――背中の熱を」

 

それはヴェルフ・クロッゾが常日頃から感じていた物だ。魔剣を打つとき、己の《スキル》【魔剣血統(クロッゾ・ブラッド)】の効果が発動され背中に熱が籠る、それと同じ感覚()を訓練時にもずっと感じていた。

 

「つまりクロの祝福(アビリティ)は、仲間(ファミリア)の成長補正と耐性補正を同時に行っているって訳か。凄まじいな」

 

「そうですね、どこまでリリ達に影響を与えているか分かりませんが、凄いアビリティに変わりありません。ですが、ベル様は色さんに致命傷になるような攻撃をしてました」

 

「それって………」

 

リリの目尻に溜められていた涙が堰を切ったように溢れた意味を、ヴェルフは漸く理解した。

 

「つまり………あの『発展アビリティ』は色さんに何の効果も与えてないんですよ!!!」

 

リリルカ・アーデの哀哭が、夜空の星に届きそうな勢いで大きく響く。

 

「本当の本当の本当にあの人は大馬鹿者です!!どれだけお人好しになったらこんな技能(アビリティ)が発現するんですかッ!!!」

 

『発展アビリティ』が発現する条件は、どれだけそのアビリティを発現させる経験値(エクセリア)を貯めているか否かだ。つまり、黒鐘 色という少年は『祝福』という自分以外の者しか効果がでないアビリティを発現させるほど、他者を思いやっていたという事では無いのだろうか?

 

しかしそれは

 

「こんなものは呪いです。いえ、呪いより質が悪い。自分には一切効果が無くてリリ達だけに有効なアビリティなんて、そんなの――――そんなの、抱えきれる訳無いじゃないですかッ!!!」

 

リリルカ・アーデにとって、決して喜べるような事ではなかった。

 

「何でですか!?何であそこまで平然とリリ達のために自分を削れるんですかッ!!!重いんです!!持ちきれないんです!!!いっぱいいっぱいなんですッ!!!あの人の優しさが怖いんですッ!!貰ってばかりいたら今にも潰れてしまいそうでッ!!だから何時か絶対にッ………このご恩を返すんだって!!それなのに!!!死んだんですよ色さんは!!!あっさりと、簡単にッ!!わかりますかリリの気持ちがッ!!!いえ、わかるでしょう貴方なら!!!あなただって色さんから沢山の物を貰っているのですから!!!」

 

リリの言う通り、ヴェルフも色から貰ったものは大きい。それは『祝福』の効果などという目に見えない様な物では無く、魔弾を作るための切っ掛け、『炎刀』の製造方法の提案、何より、クロッゾの魔剣への固執(今までの常識)を完膚なきまでに撃ち壊し、更なる高みへの道標を示してくれたのだ。

 

そして、リリと同じ様に自分も何時か色に借りを返すため、最高の武器を持たせてやろうと思っていたからこそ、黒鐘 色が死んだ時の『喪失感』は、まるで自分の身体が幾つも切り離されたかの様な凄まじい物だった。

 

ヴェルフに掴み掛かったリリの瞳から大量の涙が零れ落ちる。

 

「あんな思いはもう二度としたくないんです!!!もうしたくないのにッ!!今回あの人は勝手に自分の生命(いのち)を賭けるって言い出したんですよッ!?そんなのッ………耐えられません!!二度も同じ様な事があれば、リリはきっと色さんの生命(いのち)の重さに押し潰されますッ!!!!何一つ返せないまま、貰ってばかりのリリは……きっと………うぅ」

 

そこから先はただ嗚咽が続くばかりだ。泣き続けるリリの肩にそっと手を置いたヴェルフは、暫くそうしている内に泣き止んだリリに「ちょっとまってろ」と言い残し、工房の中から何かを取ってきた。

 

スンスンと鼻を鳴らすリリの前に、見知ったものが突き付けられる

 

「これは………お酒ですか?」

 

「おうそうだ。たまに色と二人で飲んでたりしてな、味は保証するぞ」

 

「そうでは無くて………何故今お酒を?」

 

ヴェルフはドカッと庭の芝生の上に胡座を掻き、リリの質問にドヤ顔で答える。

 

「悲しい事があれば酒を飲んで忘れろ」

 

「…………」

 

「おい、その蔑んだ目は止めろ!?」

 

「…………はぁ、今回はヴェルフさんの提案に乗って上げます。しかし、その一本では少々足りませんので、厨房に行ってお摘まみと一緒に幾つか見繕ってきますね」

 

そう言ってそそくさと館の中に入っていこうとするリリを見送ろうとしたヴェルフは、ふと疑問に思った事を聞いてみる。

 

「なぁリリスケ、ベルにはこの事を話さないのか?」

 

その言葉に少しだけ顔を向けたリリは

 

「――――――ベル様にはこれ以上背負って欲しく無いんです」

 

と、悲しそうな声色で呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんと【ヘスティア・ファミリア】の助っ人アマゾネスが【ロキ・ファミリア】の【怒蛇(ヨルムガンド)】と【大切断(アマゾン)】の姉妹を相手に圧倒している!!!あの銀髪の美少女は一体何者なんだぁ!?』

 

大空の鏡には、圧倒的な美しさを誇る銀髪のアマゾネスが、舞いを踊るように双子のアマゾネスをあしらっている姿が映されている

 

「面白くないわね……」

 

バベル最上階からその光景を見ていた美神は、心底機嫌が悪そうにその一言を呟いた。目に分かるほど機嫌を崩した己の主神を前に、控えている眷族(ファミリア)の間にピリピリとした空気が流れる。

 

「フレイヤ様、どうか気をお諌め下さい」

 

「オッタル、私に命令?」

 

ひたすら冷えきった言葉がオッタルの心を震わせた。しかし、オラリオの人々から【猛者(おうじゃ)】と謡われる彼は、一切揺るがず、怒気を発するフレイヤに忠言する。

 

「お手を……」

 

その一言で、フレイヤは初めて自分の掌がキツく握りしめられている事に気づいた。

 

「…………はぁ、私とした事が少し取り乱してしまったわ」

 

握りしめていた拳をほどき、その手を額に持っていく。己の主神が落ち着いたのを感じ取ったオッタルは、一歩だけ身を引き、大空の大鏡を眺めた

 

「まぁ、今はいいわ…………けど。この借りは近い内に返してもらう事にしましょう」

 

大鏡には既に先ほどとは違う光景が映し出されている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼らが来たようだ、行ってくる」

 

旗が置かれている部屋の扉の前の大部屋で、親指を一舐めしたフィンはその言葉を残し、ガレスとリヴェリアの二人を置いて、薄暗い人工の通路の先に姿を眩ました。

 

「リヴェリア、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)どう思う?」

 

「どう……とは?お前にしてはやけに具体性に欠ける質問だな?」

 

「ふんっ、ハッキリ言えば何者かの掌の上で踊らされている感覚をずっと感じておるんじゃ。気に食わん」

 

リヴェリアの翡翠色の瞳に映るガレスは、少しだけ鼻息を荒くし、前方にある何もない通路を睨んだ。

 

「まぁ、確かに何もかもがトントン拍子に進められている気もするが…………む、どうやら始まった見たいだ」

 

膨大な魔力の流れを感じ取ったリヴェリアは、ガレスと同じように前方を静かに見つめた。二人が居る大部屋は広さこそ有るものの出口は一つしか無く、もし何者かが来たとしても、そこから入ってきた敵をリヴェリアの『魔法』で一方的に殲滅する作戦が立てられていたのだ。

 

「ガレス、警戒しろよ?相手は確かに格下のファミリアだが、前回の戦争遊戯(ウォーゲーム)で見せた『魔法』や魔剣は強力だ。それに向こうにはあの漆黒の猛牛がいる。あの通路の先から力業で来られたら、例え私たちでも一溜まりもない」

 

「分かっておる。例えフィンであってもあの突破力は驚異じゃ。例え僅かな可能性だとしても最終防衛線(ここ)まで来られる警戒は怠らんよ」

 

そう言いながら、どっしりとした大戦斧(だいせんぶ)を軽々と肩に担いだ老兵の背中を、ハイエルフの彼女は頼もしそうに見つめた。

 

その時――――

 

リヴェリアの首筋に漆黒の短刀(ナイフ)が翔る

 

「ッ!?」

 

咄嗟に杖で防げたのは今まで培ってきた経験が生きたからだ。そして、武器(魔杖)を構えた彼女は驚愕に目を見開いた

 

(敵が、見えない!?)

 

敵の姿が見えないだけではない、気配すら感じ取れない。恐らく、並大抵ではない暗殺者(アサシン)が、姿を隠す魔道具の類を着けているのだろう。最初の一撃を防いだリヴェリエは瞬時にそう結論付けて『魔法』の詠唱に移った。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ】」

 

「………ッ!?」

 

平行詠唱、その韻律(せんりつ)を聞いた途端に暗殺者が加速した。

 

(速い…………しかし)

 

「【黄昏を前に風(うず)を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

(……若い)

 

両手で振り抜いてくる無数の斬激を浴びせられながらも、第一級冒険者(リヴェリア)は冷静に防御しつつ、平行詠唱を紡いでいく。暗殺者と彼女の間にそれだけ力の差が開いていると言うことだ

 

「【吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】!!」

 

そして、遂に『魔法』が完成し

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!――――ッ!?」

 

当たり前のように魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こした。

 

自身の膨大な魔力が暴走し、自爆した彼女は。朦朧とする意識の中、この後【ヘスティア・ファミリア】の本当の恐ろしさを身を持って体験することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リヴェリアが襲撃されるのと同時に、ガレス・ランドロックの元にも姿を隠した襲撃者が襲い掛かっていた

 

(なんじゃ………)

 

しかし、それは襲いかかる等という生易しい攻撃では無い

 

(なんじゃッ!!)

 

何か、巨大な壁の様なものが迫ってきている感覚を感じたガレスは、咄嗟に両腕を頭上に持っていく

 

(何が来る!?)

 

そして、上から叩き落とされた壁はLv.6のガレス・ランドロックを――――

 

「ぬぅぅぅぅぅぅうううううううううううッ!?」

 

押し潰した

 

全身の筋肉が内側から張り裂けそうになるほどの衝撃が駆け巡る。

 

体が地面(迷宮)にめり込んだ勢いで、幾つものひび割れを大部屋に作り出したドワーフは、振り下ろされた一撃で起きた風圧により吹き飛ばされた『リバースヴェール』の中身を目視して、漸く自分を押し潰さんとする壁の正体をその瞳に焼き付けた

 

(これは…………槌か!?)

 

その正体は、並みの冒険者が何人集まっても持ち上げる事すら叶わない巨大な槌だ。そして、それをガレスを更に押し潰す程の力を込めて振り抜いているのは、今だ公式に発表されていないLv.2になったばかりの小さな少女

 

(は、ははは………まさか、小人族(パルゥム)か?アレ)

 

ガレスは後に、この時心底こう思ったと言う。

 

ワシ、アイツラ、キライ

 

「るぅぅぅぅぅぅぅぁあああああああああああああああ!!!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

小人族(パルゥム)の少女とドワーフの老兵という前代未聞な力比べが始まった。最初は面食らって押し潰されようとしていたガレスだが、今では踏ん張りを効かせ徐々に押し返す

 

(なんじゃこの力!?こやつ、(オーガ)の強化種か何かか!?)

 

事は出来なかった。

 

ガレスは知るはずもない。目の前の少女()が使用している《スキル》の名前は【怪力乱神(スパイラル・パワー)

 

「怪」は尋常でないこと

 

「力」は力の強いこと

 

「乱」は道理に背いて秩序を乱すこと

 

「神」は神妙不可思議なこと

 

その怪力は道理を無くし、Lv.2のリリルカ・アーデとLv.6のガレス・ランドロックを拮抗させる

 

(やはり、「金剛」だけでは攻めきれませんか)

 

リリルカ・アーデは《右近婆娑羅(ウコンバサラ)》に備え付けられた黄金の剣、『勇剣・金剛』を見ながら苦々しい表情を浮かべた。その魔剣の効果は『鈍刀・重』と同じ重力魔剣、装着させた武器()の重さを何倍にも引き上げる、正しくリリ専用の心強い武器だ。

 

ヴェルフが、やっと完成に漕ぎ着けたと言い、オラリオ一有名な小人族(パルゥム)の二つ名から一文字貰った魔剣は『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を何処までも重くしていき、それに比例してリリの力値を何倍にも引き上げていく。

 

しかし、それでもガレス・ランドロックには届かないと悟った彼女は、奥の手を使用する覚悟を決めた

 

「ぐぅぉぉぉおおおおおお!!!!」

 

「ぐぎぎぎっぎいぎぎぎぎっっぎぎぎ!!!!」

 

段々と押し返えされていく大槌を強く握りしめ、握力で取っ手を変形させながら一つの呪文を唱える

 

「【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】!!!」

 

変身魔法により小人族(パルゥム)猫人(キャットピープル)に姿を変える。その光景にドワーフは何度目か分からない驚愕の表情を浮かべた。

 

その程度で驚いている暇は無いと言うのに

 

「行きますよぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!儀刀・螺旋!!!!!!」

 

もう一度言おう

 

怪力乱神(スパイラル・パワー)】つまり、その力は人の域を越え、鬼神の如くどこまでも強くなるという事

 

故に、ガレス()を潰しきれていない鬼の小人族(パルゥム)は、まだその本領を発揮してはいなかったのだ。

 

「ぬぁあああああああああああッ!?」

 

猫の尻尾で腰のポーチから器用に絡めとられた灰色の魔剣が金剛に当たった瞬間、今までの拮抗があっという間に崩れ落ち、今まで力強く支えていたドワーフの膝が轟音と共に地面に着いた

 

彼女が使用したのは『儀刀・螺旋』、それは叩いた魔剣の力を何倍にも引き上げるという、ヴェルフ・クロッゾの試作品の一つ

 

既に『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』の重量は元の100倍は優に超え、リリの力値は1000倍を軽く超えている。

 

―――――だからどうした!!!

 

「嘗めるな、小娘ッ!!!」

 

太い腕から血管が浮き出るほどの力を込めたガレスによって、ゆっくりと最重量の大槌は押し返され始めた

 

それはドワーフとしての意地だ。力自慢が多い彼等の一族の意地が、本来の力値を越え、《スキル》の限界を越え、小人族(パルゥム)に負けてなるものかと火事場の馬鹿力を発揮し、地に着いた膝を今一度、宙に浮かせる。

 

気づくべきだったのだ

 

経験値(ステイタス)だけでは計れない、ドワーフ(ガレス)頭の悪(脳筋)さを

 

そして

 

小人族(リリルカ)の狡賢さを

 

リリルカ・アーデは別に、力比べに固執してはいない。ただ、ガレス・ランドロックを足止めするのに力比べ(それ)が最適だっただけだ。なので、ガレスが僅かに膝を着いたのを確認した彼女はあっさりと大槌から手を離し、猫人(キャットピープル)になったその身軽さで『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を足場に安全圏まで登り切った。

 

そして彼等の作戦は完了する。

 

「魔砲【アブソリュート・ゼロ】!!」

 

叫びと共に打ち込まれた青色の魔弾は、魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こし、ふらついている所を攻撃され、後退させられたリヴェリアと、今だ大槌を押し返しきれていないガレスの中心で弾け

 

そこにいる二人を青白い円環()で包み込む。

 

その数秒後、人造迷宮(クノッソス)の大部屋の一つには場違いなほど精巧な、ハイエルフとドワーフの氷像が出来上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦の内容はこうだ

 

命が『魔法』を発動し、その魔力に釣られて出てきたフィン・ディムナを足止め

 

そして、命が『魔法』を全力で行使できる三分間の間に、フェルズが作った『リバースヴェール』を被り透明化したベル、リリ、ヴェルフの三人で、残った二人を無効化、奥の部屋にある旗を奪取

 

単純に分ければこの二つだけだが、細部を分ければ馬鹿みたいに綿密な計算と無数の細かな作戦の上で彼等は戦っていた

 

「終わったね」

 

「はい、終わりました」

 

「これで、俺達の勝ちだな」

 

そして作戦が見事成功し、氷像見た彼等の感想は酷く淡白な物だった。

 

「それじゃあ行ってくる」

 

「はい、いってらっしゃい。ベル様」

 

「おう、行ってこい。………それでリリスケ、腕は大丈夫か?」

 

奥の扉に走っていくベルを見送ったヴェルフは、隣のリリに心配そうな視線を向け、だらんと下げられている腕に装着されている鉄籠手をゆっくりと外した

 

その瞬間、バシャッという音と共に大量の血液が地面に広がる

 

「金剛と螺旋を同時に使ったら、こうなるって分かっていただろ?」

 

「しょうがないじゃないですか。この人を止めるにはこれしか無かったんですから」

 

ドワーフの氷像を見ながらそう言ったリリの両腕に、慣れた手つきでヴェルフは万能薬(エリクサー)を浴びせていく

 

『勇剣・金剛』と『儀刀・螺旋』の二つは『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を装備したリリの力値を確かに、何処までも強化させていった。しかし、その莫大な力を支える為の耐久値が【縁下力持(アーテル・アシスト)】を持ってしても圧倒的に足りてなかったのだ。その結果、膨れ上がった力値に耐えられなかった両腕が鉄籠手の中で風船のように弾け、ミンチの様になっている。

 

「あんま無茶すんなよ、リリスケ?」

 

「リリだって無茶はしたくないんですけどね。まぁ、それでもあの時の痛みと比べたら遥かにマシです」

 

それは色が死んだ時の事を指しているのだろう。痛みに顔を歪めながらも決して口に出さない少女を、ヴェルフは頼もしそうに見て――――

 

「全くこれは………悪夢か何かかな?」

 

ベルがこちらに吹き飛ばされて来た事に戦慄した

 

「ふざけろ………何でアイツがここに居やがる」

 

「命さんの魔力は…………今だに感知できます。あの人は何を足止めしてるんですか?」

 

「ごめん二人とも、攻めきれなかった」

 

三者三様の感想。三人の前に佇むのは、小柄な少年、小人族(パルゥム)の勇者、本来ここには居る筈の無い人物

 

フィン・ディムナ

 

「さて、反撃と行こうか」

 

「「「ッ!?」」」

 

勝負は一瞬で着いた。リリが巨槌を拾い上げるよりも速く戦槍を振り抜き、ヴェルフが虚空を構えるよりも鋭く戦槍を撃ち付け、辛うじて防げたベルの身体は出口まで宙を踊らせる。

 

奇襲という大前提がなければ、いくら怪物進撃(デス・パレード)と言えど、反撃する事すら儘ならない。これが第一級冒険者の実力、真っ正面で戦えば三対一でも絶対に仰せない力の差

 

「【ファイアボルト】!!」

 

しかし、兎は吠えた。

 

「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルト!」「ファイアボルトォォオオオオオオオオ!!!」

 

遮二無二(しゃにむに)に放たれた緋色の閃光は、全て黄金色の槍に弾き返されたいく。しかし、兎は止まれない、止まらない、止まることが出来ない

 

「ファイアボルト!!」

 

「無駄だ」

 

「!?」

 

炎雷を横凪ぎで引き裂いたフィンは、息つく暇もない程の速さでベルに急接近し、更に通路の奥の方まで叩き飛ばし

 

「………ぅぁ」

 

追撃を加えようとして、その呻き声に足を止めた。

 

「すまない、注意していたつもりだったんだが、ベル・クラネルの流れ弾(魔法)が当たったんだね」

 

フィンが向かった先には小人族(パルゥム)の少女が。露出した肌を火傷で染め上げながら蹲っていたリリに近づいたフィンは、当然の如く自前の高等回復薬(ハイ・ポーション)をかけ流していく。

 

「いいん………ですか?リリは敵ですよ」

 

「僕は小人族(パルゥム)に希望を与えるために冒険者になったからね。こんなに可愛い小人族(パルゥム)が傷ついた姿を見かけたらほっとけないよ」

 

「ふふ、またまたお上手ですね。大勢の観客(小人族)が見ているから仕方なく助けたって正直に言えばいいじゃないですか」

 

「…………なるほど、君は随分頭が切れるようだ。でもさっき言った事は本心だし、仕方ない何て思っていないよ。最も、信じるかどうかは君次第だけどね」

 

「………わかりました。それじゃあ一つだけ願いを聞いてください」

 

「悪いが、負ける事は出来ないよ」

 

「今さらそんな事言いませんよ――――抱き締めてもいいですか?」

 

「なっ!?」

 

その抱擁はフィンですら予想外な事だった。小さな少女の暖かい温もりに包まれ、発展途中の柔らかな胸部が、鍛え上げられた胸板に押し付けられる。僅かに緊張した【勇者】の耳元で、シンデレラはポツリと呟く

 

「しっかり守ってくださいね。小人族(リリ)の勇者様」

 

リリルカ・アーデはベルの『魔法』に当たってはいない

 

リリルカ・アーデは自前の『魔法』で自身の姿を変身させている

 

リリルカ・アーデは魔剣を複数所持していた

 

そして

 

リリルカ・アーデの本来の戦い方は、相手を騙し罠に嵌めること。

 

「死ぬ気かい?」

 

フィンは気付いた。『リバースヴェール』により隠された、周囲にばら蒔かれている大量の魔剣の存在に。

 

「死にませんよ、だってリリ達は」

 

リリは理解していた。大鏡に映されている戦いの中で、目の前の小人族(勇者)が、この状況で自分を突き放せない事を。

 

「あの人に勇気を頂いたので」

 

――――大爆発

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

削れた床、剥がされた壁、破壊された階段

 

その部屋は既に、言い表せないほどの破壊の傷跡を残していた。

 

そして、その部屋の上段、数々の魔剣と呪道具(カースウェポン)の成れの果てが、まるで墓標のように血塗れの黒の少年の回りを囲っている。

 

この部屋で起こった事を語るなら

 

【ロキ・ファミリア】の団員達は、たった一人の少女に気絶させられ、部屋の外まで運ばれ

 

黒鐘 色はアイズ・ヴァレンシュタインに敗北した。

 

「「……………」」

 

見上げるアイズの金の瞳と、見下ろす色の漆黒の瞳が、視線を絡ませる

 

――――そして

 

黒の少年は自分の頭にリモコンを押し当てた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルフ・クロッゾ

 

 Lv.2

 

 力:A874

 

 耐久:A889

 

 器用:A812

 

 敏捷:B781

 

 魔力:H160

 

 鍛冶:G

 

《魔法》

 

【 ウィル・オ・ウィスプ】

 

対魔魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)

 

《スキル》

 

魔剣血統(クロッゾ・ブラッド)

 

・魔剣作成可能。

 

・作成時における魔剣能力強化

 

 

 

 

 




何回でもボロボロになる主人公

次回、アイズの罵倒や行動の真意、二人の関係。全て書きましょう
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