ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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メモリア・フレーゼまでに間に合って良かった。


第39話 敗北者の末路

「うわぁぁあああああッッ!!ぁぁああああああ…………アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

ベルの拳が石畳を砕いた。いや、砕けたのだ――

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も、石畳を殴り続けた拳が、砕けた

 

「やめるんだ」

 

指が変形してまともに握れなくなった拳で、尚も石畳を殴ろうとするベルの腕を、黄金色の小人族(パルゥム)が止めるために掴む。

 

「うっ………ふぐっ……がっ!!」

 

「……………」

 

その腕は予想以上に力が入っていなかった。振り払おうとしても、弱々しく動くだけだ。腕を捕まれた状態で、ベルは泣きながら頭を石畳に打ち付けた。

 

ガツッガツッガツッ………

 

「止めんのか」

 

「止まらないよ」

 

後悔、無念、そこにはありとあらゆる負の感情が浮かんでおり、フィンは腕を掴んだままベルの嗚咽が止まるのを待ち続ける。

 

やがて気絶でもしたのだろう。頭から血を流しながら糸が切れたように動かなくなったベルをリヴェリアに任せ一息吐くと、何もない天井を見つめた。

 

「…………さて、これで終わりにしよう」

 

瞬間、何処からともなく浮游して来た水晶がフィンの目の前で停止する。

 

「聞け!!!オラリオの住民達!!!この戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝者は僕達【ロキ・ファミリア】だ!!!!!」

 

その終戦宣言の声は水晶を通してオラリオ中に響き渡り

 

「よって!!異端児(ゼノス)達と一連の事件の首謀者、黒鐘 色の命は僕達の手に委ねられた!!」!

 

間近で聞いていたヴェルフは、顔を手で覆いながらへたりこみ、(こうべ)を垂れた。

 

「しかし命までは取ろうとは思わない。何故なら、僕は彼らの勇気を見たからだ!!!!」

 

そして、フィン・ディムナの演説が始まる。

 

「よって、黒鐘 色は【ステイタス】を封印して【ヘスティア・ファミリア】を追放、異端児(ゼノス)達は厳重な管理下に置き、労働力として働かせる事にする!!!」

 

唖然とする異端児(ゼノス)達、騒然とするオラリオの住人達を置き去りにして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒鐘 色の思惑通りに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は数日前、色がアイズ・ヴァレンシュタインから、逃げ切った所から始まる。

 

彼が向かった先は人の居ない古びた一軒家、その地下室だった。

 

「遅かったじゃないか、色君」

 

「ちょっと野暮用が出来てな。ヘスティアも無事に到着していてよかったぜ」

 

「そりゃあ護衛にアステリオス君が………ってボロボロじゃないか!?」

 

小さな魔灯の明かりの下には、ツインテールを逆立ててビックリするヘスティアの他に、複数の人影が見え隠れしており、唐突にその中の一人がヘスティアを押し退け色に抱きついた。

 

「しっきく~ん!!!生きとったんかぁ!!!!」」

 

「わぶっ!?お、おいロキぃいいい!!!!」

 

「実は生きてたんですよ、心配掛けてすいません」

 

「ええんやええんや!!うちは色くんが生きとったらそれでええ!!!」

 

「ボクの話聞けぇ!!!と言うか、色君からはぁなぁれぇろぉ!!!」

 

色の胸に顔を埋めるロキを引き剥がそうとするヘスティア、その三人を苦笑いをしながら見ていた小さな人影に気づいた色は、片手を上げながら挨拶した。

 

「お久しぶりです、フィンさん。お待たせしてしまってすいません」

 

「やぁ黒鐘君、元気そう……ではないみたいだね」

 

そう言いながら、【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナは、ズタズタに切り裂かれた制服を困り顔で見つめる。

 

「すまなかった。その傷はアイズに付けられた物だろう?」

 

「いや、悪いんはあの金髪なんでフィンさんが謝ること無いっすよ。それより、早速始めましょうか」

 

「その前に、色君は回復が先だよ~?」

 

軽い挨拶を済ませながら、ロキから解放された色がそのまま席に着こうとすると、肩に手を置かれる。声の主は、後ろに『バーバリアン』を控えさせたミィシャだ。

 

「いや、でも………あ、はい。よろしくお願いします」

 

「素直でよろしい。それではフェルズさん、頼みました~」

 

「大丈夫、魔法は完成しているよ」

 

時間がないから、という言葉を笑顔の威圧感だけで黙らせた彼女は、『魔法』を完成させているフェルズの元まで色を引っ張って行き、ロキとフィンが高位の回復魔法に驚嘆の声を上げる。

 

「凄い治癒魔法だね。回復力だけならうちの魔導師(リヴェリア)を凌ぐんじゃないかな?」

 

「おぉ、ほんまやな。色君の傷がすっかり治っとる。なんやドチビ、こんな隠し玉もっとったんかいな」

 

「私は【ヘスティア・ファミリア】の一員じゃないよ。ただの協力者だ」

 

「へー、協力者……ね」

 

含んだ物言いをするフィンに、黒衣の賢者はそれ以上は何も話さないと口を閉じた。

 

数秒で体の隅々まで回復した色が、ヘスティア、ロキ、フィン、ミィシャが座っている丸テーブルの椅子に腰かけ。その周りには座っているメンバーを三角形に取り囲むように、黒衣の賢者、バーバリアン、漆黒のミノタウロスが佇んでいる。

 

「さて、それじゃあ―――――オラリオを攻略しましょうか」

 

そして、怪物達の作戦会議が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その作戦会議で真っ先に口を開いたのはフィンだった。

 

「まず最初に、聞きたい事がある」

 

「なんすか?」

 

「君はレフィーヤに何をした?」

 

この質問は疑問ではない、攻撃だ。彼の目は鋭く色を居抜き、色もまたその視線の意味を深く理解している。

 

「そうですね、始めに俺の『呪詛(カース)』について話しましょうか」

 

「いいのかい、色君?」

 

少しだけ不安げに聞いてくるヘスティアに、色は「大丈夫大丈夫」と軽い声色で答えたあと

 

「その代わり、これ以上腹の探り合いは無しだ」

 

と、フィンとロキに『呪詛(カース)』の情報と釣り合う対価を要求した。

 

「なるほど…………いいだろう、女神フィアナに誓って嘘はつかないと」

 

「フィンさん、それじゃあダメだ」

 

言葉を遮った色は、真っ直ぐな瞳でフィン・ディムナと視線を合わせた。そして、漆黒の瞳に映った自分を確認した瞬間、急激な痛みが親指に走り、咄嗟に握りしめる

 

(なんだ、この痛みは!?いままで感じたことが――)

 

「”嘘をつかない”じゃ甘いです。聞かれなかったから言わなかった、嘘は言ってないけど本当のことも言っていない。そういうのも全部無しにして下さい」

 

「………………わかった、誓うよ。腹の探り合いは無しにしよう」

 

顔をしかめながら言ったフィンを面白そうに眺めたていたロキが、色に話の続きを催促する

 

「うちもそう言うの無しにするから、さっそく教えてくれへん?レフィーヤに何をしたのか」

 

糸目が少しだけ開けられ、薄い暗がりの中、深紅に光るる神の目が色に向けられた

 

「わかりました。まず、俺の『呪詛(カース)』は自分のLv.以下の人間の精神を自在に操れます」

 

「「…………」」

 

二人は特に驚かず、なるほど、と予め解っていた事を聞かされたように頷く。いきなりレフィーヤが自分達に、この場所と集合時間、細かな取り決めを無表情で淡々と話し出した時はひっくり返りそうになったが。よくよく考えてみれば、希少呪詛(レア・カース)にでも操られているという結論に至ったからだ――――まぁ

 

「因みに、その『呪詛(カース)』を使って情報機関とギルドの人間と一般市民と俺のLv.以下の冒険者と………そうですね、大体オラリオの八割の人間を支配下に置いてるんで」

 

「「ブッッ!!?」」

 

その規模までは予測出来ないでいたのだが。

 

「あぁ、勘違いしないで下さいね。完全同時に操れるのは精々三十人ぐらいですので。他の人間は認識をすり替えれる程度です」

 

「ま、まってくれ。流石にそれは………ロキ、彼の言っていることは真実かい?」

 

「えッ!!色君が嘘ついてるかどうか分からへんねんけど!?どうなっとんねんヘスティア!?」

 

「ちょっ!?掴み掛かるな!!色君はそういう体質なんだ!!!」

 

肩を捕まれ激しく揺さぶられながら、ヘスティアは叫ぶように答えた。それを聞いたロキはピタッと止まり頬をヒクつかせる

 

「体質ぅ?それ本気で言っとんのか」

 

「ロキ様、時間が惜しいので色君の体質の事はこれぐらいにして、話を先に進めてよろしいでしょうか~」

 

遮ったのは、朗らかに笑うミィシャだ。当然ロキもフィンも納得は出来ていないが、二人の口が開かれる前にミィシャは釘を刺す

 

「色君の『呪詛(カース)』の情報の対価は貴方の誠実さです。それ以上の物を求めるなら、それ相応の対価を用意して下さい」

 

その言葉を聞いて、二人の時が一瞬だけ止まった。

 

「…………そういうことか、やられたわ」

 

「あぁ、まんまと一本取られた」

 

つまり、こちらも同じ様にして欲しいなら、それ相応の対価を用意しろ、それがなければ嘘も付くし、"そういうこと"もする、という事。

 

そして、『呪詛(カース)』の効力を教えられた事により、こちらは誤魔化しの効かない本物の情報を提供しなくてはいけない。

 

なぜなら、もし誓いを破って誠実さの欠ける行為をした場合、先程聞かされた『呪詛(カース)』により、【ロキ・ファミリア】の団員達や、フィンの一族までも根絶やしにされる危険があるのだから。

 

「たった一つの情報で、ここまで追い詰められるとは思わなかったよ。君は何者なんだい?」

 

ニコニコと、不気味なほど変わらない笑顔を向けるミィシャにフィンは質問した。動揺一つせず、ここに居るということは彼女も一般人じゃないのだろう

 

「私は色君のアドバイザーですよ~」

 

「アドバイザー、ね。ンー……もしかして、君が『情報の魔女(ピンク・レディ)』かい?」

 

「不本意ながら、そう呼ばれてるみたいですね~」

 

――――――やけに親指が疼くわけだ

 

相手が『情報の魔女(ピンク・レディ)』なら分が悪すぎる、最近台頭し始めた情報屋はあの闇派閥(イヴィルス)の一挙一動すら容易く手繰り寄せてしまうのだから

 

フィンの背中に、珍しく冷や汗が流れた

 

「今回は敵、てことでいいのかな?ヴァレッタの【ステイタス】や闇派閥(イヴィルス)の動向をこちらに渡してくれた時は君の事を女神か何かだと勘違いしたんだけどね?」

 

「前も言いましたけど、あれは”偶然”ですよ?それに私は貴女方の敵ではくて、色君と異端児(ゼノス)の味方です~」

 

「そうかそうか!!わかった!!だったらうちらも、色君と異端児(ゼノス)の味方になるわ、それでええんやろ?」

 

桃髪の女性と、小さな勇者が醸し出していた微妙な空気を壊したのは赤髪の女神、ロキだ

 

「ロキ――」

 

「フィン、うちらの負けや。色君の『呪詛(カース)』に『情報の魔女(ピンク・レディ)』、そこの『ミノタウロス』と『バーバリアン』も相当なもんちゃうんか?つまりあれや、詰みってやつや」

 

「…………はぁ、わかった認めよう。それで、そっちの用件はなんだい?『情報の魔女(ピンク・レディ)』がいるって事は、僕達の情報には大して興味ないんだろう?」

 

その言葉を聞いた色が――――三日月の笑みを浮かべる

 

「そうですね、取り合えず俺たちと『戦争遊戯(ウォーゲーム)』をして下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうですかね、この作戦」

 

「いや、良く出来ていると思うよ。戦争遊戯(ウォーゲーム)なら異端児(ゼノス)達の動向を堂々と一般人に公開出来るしね」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!?戦争遊戯(ウォーゲーム)にわざと負ける!?そんな事私は聞いてないぞ!?」

 

「そりゃあ言ってなかったからな。サプライズっやつだ」

 

「色君、あとで説教」

 

「ウィッス」

 

ミィシャさんからボソッと言われた言葉に背筋を伸ばす、怖えぇ

 

「色君、作戦を変えることは何も言わないけどさ。ロキ達とボク達の陣営を戦争遊戯(ウォーゲーム)でわざと拮抗させるってのは出来る事なのかい?」

 

「「可能だ」」

 

ヘスティアに返答した俺とフィンさんの言葉が重なる。うん、やっぱこの人頭いいわ

 

「『人造迷宮(クノッソス)』にまつわる全ての情報、黒鐘君の『呪詛(カース)』、両陣営の作戦立案者、ここまで揃っていたら寧ろ出来ないことを探す方が難しい」

 

「それにミィシャさん(情報の魔女)フェルズ(賢者)が居るんだから文字通り不可能なんて無いんだよな。まぁ、問題があるとするのなら――――――【フレイヤ・ファミリア】(もう一つの都市最強)だけだな」

 

そう、これはカジノの時と一緒だ

 

無意識の内に、すべて俺の有利になるように場面を整わせ、勝てるように仕向ける。ここで重要なのはいかに高レベル冒険者に何もさせないか。前回はリンちゃん一人だけだったから何とか誤魔化せたけど、今回はどうしても【ロキ・ファミリア】の協力が必要になってくる。そして、その事は自前に『呪詛(カース)』の効果を話したフィンさんも理解してくれていて

 

「そうだね、【フレイヤ・ファミリア】には、なにもさせるわけにはいかない。ンー、でもだからこそ、僕達にわざと異端児(ゼノス)達を発見させたって事かな?」

 

「勿論、【フレイヤ・ファミリア】には異端児(ゼノス)達の尻尾すら掴ませてねぇよ。これでアイツらは、今回の件で常に成果を上げている【ロキ・ファミリア】に強くでれねぇ」

 

「くっくっくっ、いいね君。あの【フレイヤ・ファミリア】を手玉に取る人間なんてそうそう居ないよ?」

 

「あっはっはっ、フィンさんの鋭い読みで異端児(ゼノス)を捕捉してくれるから、ここまで出来たんですよ」

 

「くっくっくっ」

 

「あっはっはっ」

 

「な、なぁロキ、この二人実は邪神とかじゃないのかな?」

 

「わからん、でもあんな楽しそうなフィン久しぶりに見たわ」

 

ボソボソ話してる二神に気付かず、笑い合う俺とフィンさん。なんか、この人とは旨い酒が飲めそうな気がする

 

「さて、先ずは僕の報酬の話をしようか。都市の住民全員を騙すんだ、いくら道化師(ピエロ)のエンブレムを背負っていると言っても、流石にタダではそんな危険を犯すことは出来ない」

 

「な、報酬だと!?【勇者(ブレイバー)】、君は自分の立場が分かっているのか?それに、先程負けたと言ったばかりではないか」

 

「フェルズうっさい、空気読め」

 

「またそれか!?」

 

声を荒げるフェルズに説明しようとして、ミィシャさんの笑顔が増したのを視界に捕らえ、発言を止める。最近この人笑顔が凄く怖くなってきたんだけど………

 

「フェルズさん、私達がフィンさんに『呪詛(カース)』の情報を渡したのは誠実さを求める為であって脅して無理矢理従わせる為では無いんですよ~。だからこの場合――――」

 

「報酬を求めない方が不誠実、か」

 

「はい、そういうことですー」

 

ミィシャさんの簡単な説明が終わり、フェルズが黙りこんだ。その様子をフィンさんとロキさんは面白そうに眺めている

 

「それじゃあ報酬の話をしますね。俺達がアンタ達に払う報酬は名誉だ」

 

「ンー、それは、【ロキ・ファミリア】に対して払う報酬だろ?僕は、”僕の報酬”の話をしてたんだよ?」

 

「分かってるよフィンさん」

 

片目を瞑って向けられた碧眼に答えるように、俺は親指で後ろに佇む最強の異端児(ゼノス)指した

 

「―――――アンタにはアステリオスをくれてやる」

 

「………乗った、でもそれじゃあ今度は僕が貰い過ぎている。その差を何で埋めようか?」

 

「自分は、ベル・クラネルとの再戦を望む」

 

初めて重々しい声で発言したアステリオスに、フィンさんは何かを感じ取ったらしく瞳を閉じて「わかった」とだけ言った

 

「それで色君、うちは?うちには何くれんの?」

 

「え?」

 

あ、それは考えてなかった。フィンさんが協力してくれるのなら、ロキさんも自動的に協力してくれる物だと思ってたわ。うーん、そうだなぁ

 

「俺の出来る範囲で何でも一つ言うことを聞くってのはどうですか?」

 

「おぉマジで!?よっしゃあ!!うちなんでもしたる!!」

 

「ちょっ、色君!?」

 

ロキさんの歓喜とヘスティアの困惑の声が重なった。まぁ、いいじゃん、ロキさんの事だし無茶は言わないと思うよ?

 

「さて、それじゃあ、作戦の詳細を決めていこうか」

 

と言うフィンさんの声を皮切りに、俺達は明け方まで作戦を練るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、こんなもんかな。ミィシャ、一応聞いておくけど、これからの事を都市外には流しているのかい?」

 

「はい~、もう情報の拡散は済ませておりま~す」

 

「流石は『情報の魔女(ピンク・レディ)』だ、仕事が早いね。それじゃあ僕達は帰らせてもらうよ、小さな神様も寝てしまったみたいだしね」

 

フィンの言う通り、ヘスティアは机に突っ伏し眠っていた。普通の人間の身体能力と変わらない身体では、徹夜に耐えられなかったらしい。

 

「全く根性のないドチビや。色君、はいこれ『誓いの書』、にしても便利な体質やな、こんな適当に書いた嘘っぱち言っても神々にばれへんねんから」

 

紙を渡してから席を立ったロキにそんな事を言われた色は苦笑いする。今は余計な混乱は避けるために、異世界の事は黙っていることにしていたからだ。

 

「まてまてまて!?ほ、本当にそんな事をするのか?私が水晶に写された戦争遊戯(ウォーゲーム)を編集して、都市の住民を騙すなんて無茶では!?」

 

作戦の内容を上手く飲み込めていなかったフェルズが困惑の声を荒げた。そんな賢者に、色の眉が少しだけ寄せられる

 

「騙すって人聞き悪いな。良い感じに異端児(ゼノス)達が映えるように、ちょっとアレンジするだけだろ?それにロキさんやヘスティアにも手伝ってもらうからビビんなって」

 

「怖がっている訳ではないのだが…………そ、それに色君の『呪詛(カース)』が届かないLv.の冒険者は騙せないんじゃ」

 

「フェルズ、大多数の意見が真実になるのは何処でも同じなんだよ。例え一人の高Lv.冒険者が黒だと騒いでも、残り99人の一般人が白だと言えば白になるようにね。そこにLv.なんて物は意味がないんだ」

 

フェルズに肉体があれば、フィンの暴論に頬を引きつらせていただろう。しかし、これを可能とする人物が目の前にいるのだから、諦めて「わかったよ」と頷くしかなかった

 

「さて、帰る前に一つだけ確認しておこうか」

 

フィン・ディムナの相貌が、漆黒の瞳を覗き込む

 

「色、君は自分のしようとしている事の意味を理解しているんだね?」

 

小人族(パルゥム)の勇者は問い

 

「アイツらと約束したんですよ、地上で生活させてやるって。その為には、出来ることは何でもするつもりです。俺、約束は守る男なんで」

 

異端児(ゼノス)の救世主は答えた

 

「なるほど。例え世界中の人類が君を魔王だと非難しても、僕だけは君の英断を賛称するよ」

 

「そりゃ、有りがたいですね」

 

素っ気なく返した色にフィンは見た、彼の圧倒的な善の気配を。何回も闇派閥(イヴィルズ)と戦ってきたフィンは、この世界にどうしようもない極悪人が居ることを知っている、恐らく彼はそれとは真逆の存在、どうしょうもない善人。

 

きっと、その向き(ベクトル)が違うだけで根元的には快楽を求める為に都市を破壊していたヴァレッタ達とそう変わらない、ただ目的の為に自分の全てを犠牲にしてでも人を助けようとする――――冒険者

 

「それじゃあとりあえず解散しますか、また今日の夜行きますねフィンさん」

 

「あぁ、待っているよ、色」

 

二人の冒険者は少しだけ視線を交差させた後、別れ

 

 

そして――――――世界最大規模の八百長(パフォーマンス)が始まったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在の状況を説明しよう

 

両手には手錠が掛けられ、【ステイタス】も封印されている

 

そして目の前には、【ロキ・ファミリア】の黄昏の館(ホーム)

 

なんでやねん

 

「やられた、ロキさんの何でも言うことを聞く権利をこんな所で使われるなんて予想してなかった」

 

うん、予定道理に行けば、自分のホームで数日間謹慎する筈だったのに、まさかの【ロキ・ファミリア】で監禁、にしてしまうとは。

 

やべぇよこれ、金髪との戦いは『呪詛(カース)』の効力を隠すために、俺が下位団員を倒して回って、たまたま金髪と遭遇したって記憶に改竄してるんだよ。もしかして袋叩きにされるんじゃね?

 

なんて考えていても目的の建物に到着してしまったのだからしょうがない。護送の為の【ガネーシャ・ファミリア】は途中で帰ったし…………いや本当、なんで帰ったの?不確定要素の塊みたいな不審神物をこっそり閉じ込めておいたのがいけなかったの?

 

「はぁ、ここでグダグダ考えてても仕方がないか。よし、行こう!!」

 

そして、やたら大きな門を潜り

 

「「「「「「「「「ようこそ!!【ロキ・ファミリア】へ!!!!!!」」」」」」」」」」

 

なんか、めっちゃ歓迎された。

 

と、いうのが数時間前に起きたことだ。今はロキさん主催の俺の歓迎会の真っ最中である、て言うか、記憶改竄してた皆から「次は負けません」みたいなこと言われたのだが、凄い向上心だね。

 

「…………」

 

「…………」

 

うん、現実逃避は止めようか。そうだよね、ここ【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)だもんね、そりゃいるよね、何がだって?勿論―――――天敵(金髪)

 

「…………ぁ」

 

やばいやばいやばい、殺される!?

 

「助けてぇぇぇぇええええええええ!!!!!べぇぇぇぇぇとくぅぅぅぅぅぅん!!!!!」

 

目の前の金髪が動く前に、全力で叫んだ。

 

聞こえる遠吠え

 

近づく足音

 

「ルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

持ち上げられる体

 

「バーカバーカ!!お前になんか捕まらねぇんだよォ、金髪ゥ!!」

 

「馬鹿はてめぇだ、挑発すんな糞鴉!!!」

 

「え!?ちょっと、ま――」

 

小脇に抱えられた俺は、大人しく挑発を止めることにした。だって【ステイタス】封印中だし、撫でられただけで殺されちゃうぜ。ちなみに、追って来ようとしていた金髪は、ティオナさんとティオネさんに止められている。ざまぁww

 

「アイズ!!大人しくしててって言ったでしょ!!」

 

「そうだよ!!カラス君本当に死んじゃうよ!?」

 

「二人とも、通してッ!!!」

 

「「強ッ!?」」

 

え?あの二人突破されたんだけど…………これヤバくね?

 

「ベート君急いで!!来てる!?金髪が迫って来てるぅ!!!!」

 

「喋んな!!舌噛むぞ!!!」

 

「待って!!!」

 

そこから激しい競争(デットヒート)が始まった。獣の動きで、館内を疾走するベート君、それを追いかける金髪、そして――――――あの、まずトイレに行かせて貰えませんかね?そもそも、そこに向かってたからアイツと鉢合わせになってしまった訳で…………

 

「ベート君おしっこぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」

 

「ふざけんなよてめぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!」

 

「いや、ふざけてないから!?全力だから!?速くトイレ!!!漏れちゃう!?」

 

「くそがぁぁぁあああああああ!!足止めしといてやるから速く済ませやがれ!!!」

 

そう言いながら、殆ど投げ込む形でトイレの前に転がされた。よし、今のうちに手早く済ませてしまおう――――――大の方

 

激しく揺さぶられたから仕方ないね

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「ああああああああああああああああっ!!」

 

【剣姫】と【凶狼(ヴァナルガンド)】の壮絶な戦いが、トイレの前で繰り広げられる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、何だかんだあって、結局俺は金髪に捕まってしまった。場所はどっかの倉庫の中だ、何て言うかこう、ひょいって感じでベート君から掠め取られて、ここまで連行された。

 

黄昏の館は半壊した

 

「それで、なんの用だよ。言っとくが戦えねぇからな?【ステイタス】封印してる状態だから、死ぬから」

 

「ち、ちが………そうじゃなくて、その」

 

暗い倉庫の中でもハッキリ解るくらいに揺れる金色の眼差し。

 

なんじゃこりゃ、今までとは明らかに違う金髪の対応に俺は困惑した。まぁ、いきなり殴られて、首から上が吹き飛ばなくて安心したって感情の方が大きいが

 

「用事が無いなら早く解放してもらっていいですかねぇ。俺も暇じゃないん………で?」

 

え?あれ?ちょっとまって………これって

 

「お前………………泣いてんの?」

 

「っ!?」

 

ビクッと肩が揺れた。その姿に、何か見てはいけないものを見てしまったような、やってはいけない事をしてしまったような、そんな感覚に心が締め付けられた。

 

いや、おかしいだろ。こいつに何度殴られたと思ってるんだ、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)だって殺されかけたんだぞ?それをちょっと泣き顔見せられたぐらいで――――

 

「…………なさい」

 

「…………………………………………………………………………………………はぁ?」

 

聞き間違いかと思った

 

「ごめんな……さい」

 

聞き間違いではなかった

 

「ごめんなさいっ!!!ごめんなさい、ごめんなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き間違いであって欲しかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさ「謝んなッ!!!!」―――え?」

 

―――この時、俺は人生で一番キレていた

 

「謝んなっつってんだよボケが!!!俺の、全てを賭けた戦いを馬鹿にすんなッッ!!!!」

 

―――それはちっぽけな誇りを傷つけられたからだろうか?

 

「《スキル》も《魔法》も《呪詛(カース)》も!!!卑怯な手も!!!全部使った俺に勝ったのはお前だろ!?それを、ごめんなさい、だと!?ふざけんなよ!!ふざけんじゃねぇ!!!!!」

 

―――もしくは、殺されかけたからだろうか?

 

「俺はあの時お前に謝って欲しくて戦った訳じゃねぇんだよ!!!お前に勝ちたくて、戦かったんだ!!!!」

 

―――多分、どっちも違うのだろう

 

「その気持ちは、お前だって同じだったろぉが!!!!だったら勝者が敗者に謝んな!!!」

 

―――恐らく俺は

 

「お前が俺に掛ける言葉は一つだけだ!!違うか!!!!」

 

―――こいつを泣かした俺自身にキレていたのだ

 

「………………」

 

合わさった視線から、俺が何を言って欲しいのか分かったのだろう。暫くした後、彼女は震える声で、これから先使わなくなった俺の蔑称を口にした。

 

「わたしの………かち、だね…………もっと……強くなってから…………出直してくると…………………いい……………よ…………………………………ごみむし」

 

「ハッ!!上等!!次に勝つのは俺だ、その時まで首を洗って待っときな、金髪ゥ」

 

――――まぁでも、この時の俺は負け犬の遠吠えをする事ぐらいしか思い付かなかった訳で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんなことになるなんて、思いも付かなかったんだよなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と、言うわけで、33話から全てが色とフィン達の思惑通りだったと言う訳です。一応ヒントは出してたけど気づいてた人いるかな?少なくても33話でフィンと色が裏で繋がってるって気づいてた人はいないと思うけど・・・




次話はアイズと色を中心とした閑話、やります
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