ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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お待たせしまた。やっと書けたなぁ


第44話 遠征

時刻は早朝。朝靄が掛かった鐘楼の館の門前に、【ヘスティア・ファミリア】の面々と、今回の遠征に参加する他のファミリアの団員が集合していた。

 

「……と言うわけで。今回の遠征は、僕たち【ヘスティア・ファミリア】が到達していない41階層を目指すことになります。ここまでの説明で意見はありますか?」

 

普段の彼等からは考えられないほど静まり返った静寂が、白髪の少年が緊張した面持ちで始めた、少しだけ長いダンジョン探索の説明の終わりを告げる。

 

一息ついた少年は、武器や巨大なバックパックを持った冒険者達を高台から見渡した後、自分の隣で誇らしげに胸を張っている小さな神様に顔を向けた。

 

「行ってきます、神様」

 

「行ってらっしゃい、ベル君。皆も気を付けて」

 

「よし、それじゃあ行きますか!!」

 

掛け声と共に黒の少年が指を振ると、館の鐘の音が大きく鳴り響いた。その音を合図に、巨大な鎚とバックパックを器用に背負った小人族(パルゥム)やファミリアのエンブレムを楽しそうに掲げる竜女(ヴィーヴル)、黒と白の少年も先頭に立ちダンジョンに向けて足を進めていく。

 

【ヘスティア・ファミリア】の遠征が始まったのだ。

 

「行っちゃったか。少しの間寂しくなるね………」

 

「ドチビの癖に、なぁにしんみりしとんのや」

 

感慨に浸っているヘスティアの後ろから、赤髪の女神がひょっこりと現れる。

 

「うるさいなぁ。別に君は来なくても良かったんだぞ」

 

「なに言うとるんや。うちの大切なアイズたんとレフィーヤと色きゅんが遠征に行くんやから見送りに行かへんわけにはいかんやろ?」

 

「何が色きゅんだ!!言っておくけどあの子をボクの本拠(ホーム)に招いているのはベル君の興味が無くなるまでだからな?ベル君がボクにメロメロになった暁には誰がロキの子供なんて招くか!!」

 

「それはこっちのセリフやど阿呆。色君居ぃひんかったらうちのファミリアの子をドチビのファミリア何かに近づけるか!!」

 

「なんだと!!」

 

「なんや!!」

 

「「…………ケッ!!」」

 

向き合わせた顔を、お互いに勢いよく背けた。ヘスティアとロキの関係は、例え子供達に交流が出来ても、そう易々と変わりはしないらしい。

 

その筋金入りとも思える中の悪さだが。しかし、ロキは帰ろうとはせず、そっぽを向きながらヘスティアに不満を隠そうともせず質問した。

 

「おどれ、何時色君にあの《スキル》の話するんや?」

 

「…………」

 

その質問に対し、ロキがヘスティアの顔を見ることは叶わない。未だにお互いに反対を向いたままだからだ。

 

「ま、ドチビが言おうが言うまいが今のうちには関係ない事やけどな?」

 

糸目を開き、紅色の瞳で天を居抜きながらロキは続ける。

 

「もし、異端児(ゼノス)の一件があの《スキル》のせいやったとしたら。こっから先何が起こるんやろうなぁ」

 

その言葉は予告でも警告でもなく、感想に近かった。

 

異端児(ゼノス)との出会いも、そこからの一連の事件も、【幻想御手(レベルアッパー)】が全ての元凶なのだとしたら。

 

色が一回死んだのも、レベルアップまでの最適化、に含まれるとしたら。

 

【ロキ・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)で色のレベルが上がるまでの流れが、最初から決められていたのだとしたら。

 

次にあの子がレベルアップにはいったいどれ程の………

 

「わかってる」

 

意外にも速く、口を開いたヘスティアの口調には迷いが感じられない。予め決めてあった台本(セリフ)を音読するように、スラスラと言葉を繋いだ。

 

「この遠征が終わったら、【幻想御手(レベルアッパー)】の事を全部話すよ」

 

目を瞑り、自分と同じ色を持つ少年の事を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さんこんにちは、私はレフィーヤ・ウィリディスと言います。

 

今日は訳あって【ヘスティア・ファミリア】の遠征に同行させて貰っているのですが、実は今、非常に大きな問題に直面しています。

 

「ほらほら、キリキリ働けサポータァ!!」

 

「コーンコンコン!!ぶざまですねぇ剣姫さまぁ?」

 

その問題とは、経験値(エクセリア)を考慮してアイズさんをサポーターにすると言い出した色さんが、素直に従いサポーターとして一生懸命働いているアイズさんをあの狐人(ルナール)と一緒になじってる…………事ではなく

 

「ウィーネ、防具の方はどんな感じだ?一応邪魔にならないように作ってみたんだが」

 

「凄い動きやすいよ!!ヴェルフ、ありがと!!」

 

「そりゃ、何よりだ。よし、それじゃあ向こうを殲滅するぞ!!」

 

「うん!!」

 

いきなり翼を生やしたウィーネちゃんと剣に乗ったヴェルフさんが当然のように空を飛んで行き、この階層で普段は現れない飛行するモンスターと戦い始めた事………でもなく

 

「じ……ぬ………もぅ……むり」

 

非常に大きな問題、それは私の精神力(マインド)が度重なる連戦により枯渇して死にかけているという事です。さっきから誰かの叫び声が聴こえてきますが、意識が朦朧としている私の耳には入りません。

 

あぁ、どうせ死ぬなら、アイズさんの膝の上で………

 

「レフィーヤ殿、精神力(マインド)が枯渇なされたのなら何時でも言って下さいね」

 

「もがっ!?」

 

命さんに無理矢理口内に突っ込まれた試験管から、遠征を始めて何度もか分からないほど飲まされた液体が流し込まれ、喉元を通り過ぎます。失われた精神力(マインド)が強制的に回復する感覚が体中を駆け巡り、試験管の中身が無くなった頃には、魔法が何発か打てるほどには回復してしまいました。

 

「あ、あの……もうそろそろ休k」

 

「それではレフィーヤ殿、そっちの方面から『オブシディアン・ソルジャー』の群れが向かって来てるようです。広域攻撃魔法での殲滅、お願いします」

 

「で、でも『オブシディアン・ソルジャー』は魔法が効きにくいんですけど」

 

「大丈夫ですよ!!レフィーヤ殿の魔法なら2、3発撃てば殲滅できる筈ですから!!」

 

広域攻撃魔法(ヒュゼレイド・ファラーリカ)を2,3発ですか……は、ははは」

 

サムズアップして答えた命さんに思わず乾いた笑いを浮かべてしまいました

 

まぁ、撃てることには撃てますね

 

でも撃ち終わった後に精神疲弊(マインドダウン)が起こって気絶しちゃいますけどね

 

そして、意識が飛ぶ前に精神力回復薬(マインド・ポーション)を口の中に無理矢理突っ込まれて、休む間もなくまた魔法を撃てって言われるんでしょうね

 

「ガボガボっ」

 

詠唱を行いながら隣を見ると、リリルカさんが気絶して白目を向いているフィルヴィスさんの口に二属性回復薬(デュアル・ポーション)を何本も流し込んでいました。

 

フィルヴィスさんも頑張っていたみたいですけど、流石に慣れない階層で限界が来たんですかね?

 

でもあれは溺死とかしないんでしょうか?

 

まぁ、この人達は回復薬(ポーション)を使うのが手馴れて居るので恐らく大丈夫なんでしょうね。

 

回復薬(ポーション)を他人の口に流し込むのが手馴れてるって意味が分からないですね

 

「春姫さん!!前方からかなりの数のモンスターが生まれたみたいです!!!」

 

「分かりました、ベル様はそのまま左を押さえといてください。色様、恐らく『怪物の宴(モンスター・パーティー)』です。(わたくし)と一気に殲滅しましょう」

 

「オッケ―、任された」

 

「あの、私も」

 

「【剣姫】様は手を出さないで下さいね?貴方は()()()()()なのですから」

 

「………はい」

 

あぁ、聞きたくもない情報が聞こえた気がしました。

 

怪物の宴(モンスター・パーティー)』?気のせいですよね、気のせいに決まってます、もう何回起こったと思ってるんですか。

 

10を越えた辺りからもう馬鹿らしくて数えてませんけど、私が【ロキ・ファミリア】に入団してから起こった回数越えそうな勢い何ですけど?

 

もしかしたら、別世界のダンジョンに迷い込んじゃったんじゃないんですか?

 

「レフィーヤ殿、後ろからも『怪物の宴(モンスター・パーティー)』が発生したようです。この数は不味いですね。自分も手が塞がると思うので、幾つか精神力回復薬(マインド・ポーション)を渡して置きます」

 

「………はい」

 

この時、私の中の何かが音を立てて壊れて行く気がしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、危なかったな。『怪物の宴(モンスター・パーティー)』が()()()()()に発生した時は死ぬかと思った」

 

「死ぬかと思ったじゃ無いですよ。色さんが大人しく【剣姫】様に応戦を頼んだら、ここまで苦戦すること無かったんじゃないですか」

 

「は?俺がアイツに頼る何て死んでも嫌なんですけど」

 

「はぁ、色さんがここまで強情だったとは………本拠(ホーム)に帰ったらヘスティア様と計画を練り直した方が良いかもしれませんね」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもないです」

 

リリと色の二人は、せかせかと両手を動かしながら、そんな他愛の無い会話を白亜の壁に響き渡らしている。暫くすると、食欲をそそる匂いが辺りに漂い始めた。

 

「さて、出来ましたよ。お皿とスプーンお願いしますね」

 

「オッケー。おーい!!出来たぞ!!」

 

色の一声で、分担して大掛かりな休息(レスト)の準備をしていた遠征メンバーは一旦手を休め、慣れた手つきでダンジョンの壁を加工して作った即席の机や椅子を並べ始める。

 

そんな中、一人の女性が悲痛な声を上げた。

 

「お、おいお前達、本当にこんな所で休息を取るつもりか!?」

 

声の中心は赤緋の瞳を持つ長髪のエルフ、フィルヴィスだ。

 

ここまで来るまでに余程堪えたのだろう。何かにすがるように周囲を見渡し、不安そうに瞳を揺らす彼女は、誰でも一目で分かるぐらいビクついていた。

 

「んんッ!!」

 

普段の凛とした彼女からは想像できないほど、あまりにもかけ離れた弱々しい姿を見たベルが、その原因に向かって大きく咳払いをする。

 

「うっ………」

 

半眼のベルの視線の先、ピクリと手を止めた色は、バツが悪そうに視線を反らした後、怯えきっているフィルヴィスに足取り重く近づいていった。

 

「あ、あのねフィルヴィスさん?ここは37階層の外壁を破壊して作った休息地(セーフポイント)だから他の所と比べると比較的安全って言うか、まぁ何か有っても俺達が居るから安心して欲しいって言うか……」

 

「わ、わかってる。私みたいなどうしょうもない女と違ってお前達は強い。こ、この不安は私の中の弱さであって、決してお前達を信頼してない訳では無い事を信じて欲し…ぃ」

 

(この人どうしちゃったの!?)

 

語尾がしりすぼみになり、今にも泣き出しそうな彼女に、色は本気で混乱しるが、実は問題は初めから起きていた。

 

「ふん、その程度か。言うほどではないな、やはり噂は噂か」

 

この台詞は中層に入った頃の彼女が色に言い放った物だ。

 

彼女は知らなかった。【ヘスティア・ファミリア】が中層に行くまでにも頻繁に起きていた『怪物の宴(モンスター・パーティー)』が何故か起こらなくなっていた事を

 

「貴様、何だその動きは?本当にLv.4なのか?情けない」

 

彼女は知らなかった。防御値の上がり方が著しくない色か自ら攻撃を喰らいに行ってた事を

 

「な、何だこの地響きは。まさか『アンフェス・バエナ』か!?ばかな、周期は外れている筈だぞ!?」

 

彼女は知らなかった。【ヘスティア・ファミリア】の本番は下層に進出してからだという事を

 

「何なんだこのモンスターの数は!?」

 

そして彼女は思い知った。【ヘスティア・ファミリア】とダンジョンに行くという事がどういう事なのか、命が幾つ有っても足りないという言葉の本当の意味を

 

「あはははははは、ざっこ!!エルフざっこ!!!あれあれあれ~?さっきまでの威勢はどこに行ったんですかぁ?まさかアレだけ大口叩いたフェルヴィスさんが、この程度のモンスターも対処出来ないなんて言わないですよねぇ?情けないのは俺とあんたのどっちなんですかねぇ?そんなんじゃ仲間一人守れませんよ?」

 

そして、一番の問題は色が彼女の過去を知らなかった事なのだろう。

 

度重なる『怪物の宴(モンスター・パーティー)』で心身共に摩耗していく彼女に対して色は、今まで煽られていた分や、最近変わった金髪の少女の自分に対する対応等のフラストレーションを爆発させてしまった。

 

普段の色ならこんなことにはならなかった筈だ。モンスターに囲まれる度に変わる、フェルヴィスの微妙な変化や仕草に気付き、いくら煽られても労いの言葉で返したかもしれない。

 

しかし、そうはならず、心の奥底で貯まっていたストレスが色の視野を狭め、的確にフェルヴィスのトラウマを抉ってしまい、結果彼女の心を叩き折ってしまった。

 

「と、とりあえずご飯食べようか。今日はヘスティア自作のルーを使ってカレーを作ってみたんだけど、フェルヴィスさんはカレー食べたことある?」

 

「…………無い。すまない、私のような無知な者が貴方達の遠征に同行してしまって本当にすまない」

 

「ただのカレーで、それ以上自分を卑下しないで!?」

 

「あの、色殿はどうして【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使わないんですか?《呪詛(カース)》を使えば直ぐに解決すると思うのですが?」

 

「使わないんじゃなくて、あのエルフ相手に何故か使えないらしいぞ?まぁ、何でもかんでも【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使って解決するのもどうかと思うがな」

 

「強すぎる力は何とやらってやつですか。確かに、あの《呪詛(カース)》は便利な反面、人道的にちょっと思うところがありますね」

 

冷や汗をダラダラ流しながら必死にフェルヴィスとの会話を続ける色に代わり、武器の整備をしていたヴェルフと、その手伝いをしていた命が食事の準備を進めていく。

 

「アイズ凄かったね!!ビュンって風が吹いたらぶわってモンスターを倒しちゃうんだもん!!」

 

「ありがとう。ウィーネも凄かったよ」

 

「本当!!」

 

「ちょっと【剣姫】様、あまりウィーネちゃんに近付かないで貰えます?それに弾が勿体無かっただけで、(わたくし)だって炎刀を使えばアレぐらい倒せるのでございますからね!!」

 

「えっと、春姫も凄いね」

 

「別に、誉めて欲しかった訳では御座いません。さ、ウィーネちゃんも食事の用意を手伝いましょう」

 

「はーい!!」

 

そこに、見張りから戻ってきたアイズ、春姫、ウィーネの三人が加わり、一気に全員分の食事が巨大な机の上に行き渡たった。

 

「ふぁ、すみません今起きました………え、何ですかこれ?」

 

今までの連戦で疲れはて一人だけ寝ていたレフィーヤは、深層では普段お目にかかれないであろう、本格的な休息地(セーフポイント)に目をぱちくりとさせる。

 

そこにあるのは正しく、家の中の風景だ。

 

机の上に揃えられた食事、寒さを凌ぐ暖炉、大きな人数分のベッド、入浴場と書かれた扉にしっかりとした出入口

 

寝ている間に地上に戻った、と言われたら直ぐに信じてしまいそうになるが、この階層特有の白濁色の壁が嫌と言うほどここをダンジョンだと認識させられた。

 

「おぉ、よく起きてくれたレフィーヤ!!お願い助けて!!」

 

「え、えぇ!?」

 

休息地(セーフポイント)とは思えない場所に驚いている間もなく、レフィーヤは色によってフェルヴィスの隣に座らされる。隣を見ると、瞳が完全に死んでる変わり果てたエルフの姿が………

 

「レフィーヤ、私は自分がどれだけ矮小な存在か思い知ったんだ」

 

「どうしたんですか、フェルヴィスさん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し開けたダンジョンのルームで、一組の男女が睨み合っている。

 

ピリッとした空気の中、先に動いた異国の少女は鯉口を切った

 

「シッ」

 

水を纏った神速の居合いは、少年の頭上を切り裂く。見切られたのだ、それを自身が理解するより速く、少女は再び刀を鞘に納めた

 

キンッ

 

二度目の居合い、少年に対する遠慮等なく、もう一度鯉口が切られる。しかし結果は同じ、下から放たれた斬撃は少年の右頬スレスレを通りすぎ、その瞬間少女は(やいば)を自身の鞘に納めた。

 

キンッキンッキンッキンッ

 

それから何度も何度も行われる居合いを、少年は避け続けていく。二人の間合いには刀が鞘に収まる音と吐息しか聴こえず、その激しさは時が経つほどに増していき、

 

「そこまで!」

 

「ぷはぁ!!」

「ゴホッゴホッ!」

 

唐突に発せられた少年の一声で、異国の少女と異世界の少年はお互いに腰を下ろし、張り詰めた空気が霧散した。

 

「二人ともお疲れさま。はい、飲み物」

 

「サンキュー、ベル」

 

「ありがとう御座います、ベル殿」

 

差し出されたコップの水を色と命は一気に飲み干した。滴る汗から先ほどの攻防がどれ程神経を使っていたのかが窺える。

 

そのまま一息付こうかと色がダンジョンの壁を背もたれにしてたら、命が心底不思議そうにこう言った。

 

「色殿、反撃されても良かったんですよ?」

 

「避けることしか出来なかったんですぅ!!」

 

頬に流れる汗を拭った色は口を尖らせて叫び返した。

 

「色は《スキル》を使わないと本当にポンコツだよね」

 

「グフッ」

 

そんな二人を見ていたベルが発した遠慮の無い言葉に、思わず色は自分の胸を押さえる。

 

「自分の考えたように身体が動かないんだよ。

一方通行(アクセラレータ)】を使えば《スキル》で身体を動かして反応出来るんだけどな」

 

「それにしてもLv.4の色がLv.3の命さんとの戦闘で避けることしか出来ないのは問題じゃない?」

 

「面目無い」

 

項垂れた色は先ほどの訓練を振り返った。訓練内容は、《スキル》や《魔法》を使わずお互いの純粋な【ステイタス】だけで戦うという物だったのだが、色は特にこの手の訓練が苦手で、Lv.が一つ下の命に、しかも居合いしか使ってこない彼女に手も足も出ないほど弱かったのだ。

 

「大体この訓練は命さんの《魔法》を完成させる為に始めたんだよ?色がしっかりしないと訓練にならないじゃ無いか」

 

「そりゃそうなんだけど、俺は昔から運動音痴なんだよ。Lv.が上がったら多少はマシになると思ったんだけど、我ながら酷くて泣きそう」

 

「大丈夫ですよ色殿、《スキル》も自分の能力ですし。例え恩恵が無くなったら糞雑魚ナメクジでも、色殿なら何かしらファミリアのお役には立てる筈です!!」

 

「命ちゃん、それ慰めてるんだよね?」

 

ガッツポーズをしながら暴言とも取れる励ましの声を掛けてくる命を色は半眼で睨んだ。そんな色に向かってルーム外からやって来た新たな人物が駆け付けてくる。

 

「おにぃーちゃーん!!」

 

「おっと、お疲れウィーネ」

 

すかさず《スキル》を発動させた色は飛び付いてきたウィーネをコップの中の水を一滴も溢さず軽々と受け止め、青銀の長髪に手を添え撫で始める。

 

優しく頭を撫でられた竜の少女は気持ち良さそうに眼を瞑り。そんな竜女(ヴィーヴル)の後ろから、とある人物が笑顔で色にタオルを渡してきた。

 

「訓練は終わったみたいだな、お疲れ色君」

 

「フィルヴィスさんもウィーネと対人戦の訓練をしてくれてありがと。うちって経験豊富な冒険者少ないからスゲー助かるよ」

 

「なに、気にすることはない。今の私は君達の世話になっている身だからな、これぐらいやらせてくれ」

 

「そう言って貰える嬉しいっス。さぁて、訓練も終わったし飯の準備でもしようかねぇ」

 

「それなら私も手伝わしてもらおう」

 

黒髪のエルフはダンジョンに入った時からまるで別人の様な顔を浮かべて色と会話を続けていく。そんな仲良さげな二人を見ていたベルと命がポツリと一言。

 

「洗脳ですね」

 

「洗脳だね」

 

そう、この数日の間にフィルヴィスに行われたのは、まさしく洗脳。同じファミリアのベル達すらドン引く程の人心掌握術だった。

 

それは別に色の《呪詛(カース)》を使ったわけでもなく、怪しげな薬を使ったわけでもない。

 

基本的に誰にでも優しく接する色が、心がボロボロになったフィルヴィスを何とかする為に全力で気遣った結果と言えば理解できるだろうか?

 

ファミリアに向けるそれすら普通の範疇だと考えている色が、たった一人の為に自分が考える限りの優しさを向けた結果、完全にフィルヴィスは黒鐘色に依存してしまったのだ。

 

まぁ、もっとも……

 

「ちょっと色さん!!不用意にフィルヴィスさんに近付かないで下さいって何度も言っているのにどうして守ってくれないんですか!?」

 

「大丈夫安心しろって。俺達スゲー仲良くなったからこの前みたいな事は起こらねぇよ。それより、帰って来てそうそう大声だすなんて。最初は疲れて帰ってくるなり直ぐに寝てたのに、レフィーヤも成長したな」

 

「起きる度に闘技場(コロシアム)に放り込まれてたら慣れたくなくても慣れますよ!?って私の事はどうでもいいんです。それより、フィルヴィスさんの事をディオニュソス様にどう言い訳するんですか!?」

 

「言い訳?何を?」

 

「もおおおおおおおおお!!!!!」

 

色本人は全くと言っていいほど自覚がないのだが。

 

「ベルさん、一刻も早く帰りましょう!!ここはフィルヴィスさんに取って毒にしかなりません!!」

 

「すみません、もう少しここに留まる予定なので……」

 

「もうこの階層に留まって7日目ですよ!!何時になったら41階層を目指すんですか!?」

 

広いルームに大声が響き渡り、ベルがドウドウとレフィーヤを宥める。

 

そんな二人の間に小さな影が割って入っていく。

 

「レフィーヤさん、騒ぐのはそこまでにしてもらえますか?下手に音を立てるとモンスターが寄ってきて面倒くさい事になるので」

 

「うっ、すみませんリリさん」

 

栗色の瞳を向けられたエルフは先ほどの勢いはどこへやら、自分より遥かに小さな小人族(パルゥム)に縮こまるように謝罪した。

 

そんなレフィーヤを一瞥したリリは更に言葉を重ねる。

 

「いいですかレフィーヤさん。貴方がどのような経緯でベル様と知り合ったのかは知りませんが、くれぐれも間違いが無いようお願いしますね?」

 

「あ、あの……間違いって?」

 

「…………はぁ、まぁいいでしょう」

 

ジトッとレフィーヤを睨んだリリは暫くしてため息を吐いた後、パンパンッと両手を打ち注目を集めこう言った。

 

「ベル様。彼女が来られました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヘスティア・ファミリア】の休息場所(レスト・ポイント)の前に立っているその女性は、モンスター蠢くダンジョンにおいて実に不釣り合いな格好をしていた。

 

フリルの入ったスカートにエプロン状の前飾り、頭には白色と黒色を基準とした可愛らしいデザインのカチューシャが用いられており、彼女の砂色の髪と相待って何とも魅惑的な雰囲気を醸し出している。

 

褐色の肌によく映える真っ白なメイド服を着たアマゾネスは、背中に背負っていた自身を覆い隠すほどの大きなバックパックをゆっくりと下ろした。

 

「よぉ、遅かったなバーチェ。いや、初めてのダンジョンを地図だけ見てここまで来たんだから速い方か?」

 

「うるさい。頼まれた物を持って来てやっただけ感謝しろ」

 

「へいへい」

 

そう言いながら、睨みつけて来るバーチェを尻目にカバンの中を確認する。その中身にはしっかりと、出発前に頼んでいた物が入っていた。

 

「あの、何を持って来られたんですか?」

 

後ろからレフィーヤが不思議そうに覗いて来た。まぁ別に隠すものでもないし、教えてやることにする

 

「ちょっとした食料や調味料、後は予備のバックパックだな。水は上から持ってきたらいいし、これだけあればざっと五日分は行ける計算だ」

 

「………は?」

 

俺の言葉を聞いたレフィーヤが石の様に固まった。ふむ、やはりレフィーヤも女の子だからかダンジョンに何日も滞在するのは衝撃的だったらしいな。だけど、その辺りもばっちり対策済みだ

 

「安心しろよレフィーヤ、予備の着替えと洗剤も持ってきてるからな。風呂だって毎日入ってるんだからそこまで汚れる事も無いだろ」

 

「そんなことどうだっていいんですよぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

「うおっ!?」

 

鼓膜が千切れそうな大声に、思わず両手を耳に当てる。

 

あれ?最近帰りたがってたのは洗濯してるとはいえ何回も同じ服を着るのが嫌だったからと思ってたのに、違うのか?

 

「大体、こんなに長い事37階層に留まって何がしたいんですか!!」

 

「いやー、実は今【ヘスティア・ファミリア】って資金難なんだよね。だから無限にモンスターが沸いて来る闘技場(コロシアム)があるここで稼ぎまくろうかと」

 

「そんな俗物的な理由で留まってたんですか!?てっきり貴重な素材を手に入れる冒険依頼(クエスト)や『強制任務(ミッション)』があるんだって思ってたのに!!」

 

「いや、それ(クエスト)はもう終ったから」

 

「それなら余計に早く帰りましょうよ!?フィルヴィスさんはもう限界なんです!!」

 

「いや、だからなんでそこでフィルさんが出てくんだよ?」

 

「なんですかその愛称!?」

 

目をまんまるにして驚くレフィーヤ。ふふん凄いだろ、最初はどうなるかと思ったけど根気強く話しかけてようやく此処まで仲良くなったんだぜ

 

「色さん!!もう本当にあなたって人は!!あなたって人は!!!!何時、何処で、どうやってフィルヴェスさんとそんな愛称で呼ぶ仲になったんですか!?それに今確信しましたよ、その話術でアイズさんともあれだけ仲良くなれたんですよね!!この、人たらし!!!」

 

「ちょっとまて、俺は別にアイツと仲良くなろうなんて一瞬たりとも思った事ねぇからな!?」

 

「嘘ですね!!神様じゃなくても今の言葉は嘘だってわかりますよ!!どうせ、仲良くなった所でちょっと突き放して興味を抱かせるって言う作戦なんでしょう?私知ってるんですからね!?」

 

「なにが!?」

 

俺の言葉を無視して詰め寄って来るレフィーヤに、思わず目を背けると

 

「はいバーチェさん、これが上に持って行って欲しい魔石です。でも本当に休憩しなくてもいいんですか?」

 

「大丈夫だ、ベル。これでも私はLv.6だからな、これぐらいの距離は造作もない」

 

此処に来た時に背負っていたバックパックよりも一回りも二回り大きくパンパンに詰まったバックパックをベルから受け取っているバーチェが目に映った。なので、これ幸いとそっちの方に駆け寄る事にする

 

「まぁまぁ、そんなこと言わずに休憩して行けよバーチェ。そんな重たそうなバックいったん下ろしてさ」

 

「おい、いきなり何だ貴様。気持ち悪いぞ」

 

「ちょっと色さん、まだお話は終わってませんよ!!」

 

「落ち着けってレフィーヤ。そんな事よりも単身ここまで来たバーチェを労うのが先だろ?それともお前は37階層まで頑張って休まず来たバーチェを休憩もさせずに上まで帰らせるって言うのか?」

 

「え?流石にそれは休憩された方がいいと思いますけど」

 

「だよなぁ!だったらまず食事にしようそうしよう、準備手伝ってくれるよなレフィーヤ!!」

 

「は、はい」

 

「おい、私は別に休憩せずにここまで来た訳でも無いし、疲れてもいない」

 

ふぅ、何とかさっきの話はうやむやに出来そうだな。ちなみに、俺の邪魔をしてくるアマゾネスがいるみたいだが、音の向き(ベクトル)を操れる俺の前では無意味だぜ。

 

勝った、第三部完

 

「って誤魔化されませんからね!!」

 

ガシッ掴まれた肩に敗北を悟った。そうですよね、そんなにちょろくないですよね。でもですねレフィーヤちゃん、本当にあの女の態度が急変したことについては俺は関与してないんですよ。だからきっとあれはアイツなりの俺に対する新しい苛め方なんじゃないかなと最近思いまして………

 

そんな言い訳じみた事を頭の中で並べてから振り返ろうとした瞬間、足元でベクトルを感じた俺は咄嗟に叫んだ

 

「ベル!!」

 

「了解、僕はリリ達を呼んで来るから色は応戦。バーチェさんは大丈夫だと思うけど、レフィーヤさんとフィルヴィスさんは任せたよ!!」

 

「任された!!離れるなよレフィーヤ!!」

 

「ちょっといきなりなんなんですか!!話はまだ終わってな……い………」

 

押し黙ったレフィーヤは事態を理解したのか、すぐさま休息場所《レスト・ポイント》の中に入って行った。恐らくフィルさんを呼びに行ったのだろう。流石【ロキ・ファミリア】、判断が速い

 

「さてバーチェ、これからちょっと強いやつが出て来るんだけどお前はどうする?」

 

「ふん、ここまでのモンスターにはさほど手ごたえを感じなかったからな。いいだろう、私もお前らと一緒に戦ってやる」

 

「流石闘国(テルスキュラ)女戦士(アマゾネス)、そうこなくっちゃな。でも指示は守れよ?これは()()だ」

 

「………チッ、わかっている」

 

渋々了承したバーチェに満面の笑顔を送り、腰にぶら下げていた《雷霆(ライテイ)》をはめる。そうした後、直ぐに大きな地割れが起こった。

 

『―――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!』

 

過去二回、俺はコイツと戦ったことがある。一回目は【アポロン・ファミリア】との抗争の時、二回目はLv.上がった【ヘスティア・ファミリア】を試した時。そのどちらもコイツは黒い大剣を握っていた、金髪いわく一対一(さし)でしか出て来なかった大剣をだ。

 

「うーん、ベル達だけが行った時も大剣もってたらしいんだけど、やっぱりこれは異常事態(イレギュラー)だよなぁ」

 

目の前に現れた『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』、推定Lv.6、『ウダイオス』。

 

その両手には二本の黒剣

 

更に背部から生えた二本の腕の手にも同じように黒剣

 

計4本の黒剣を携えた異形の『ウダイオス(怪物)』が出現する。

 

うん、おかしいよね。なんか体が一回りも大きいっぽいし、鎧兜みたいなの装備してるし絶対おかしいよね

 

「まぁ、やるだけやってみますか!!!」

 

《スキル》を使い《雷霆(ライテイ)》に雷を集め、次の瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――地面が爆砕した

 

 

 

 

 

 

 

 

突き上がる轟炎

 

 

 

 

そして紅蓮の衝撃波

 

 

 

 

37階層に居た俺達は

 

 

 

 

燃え上がる『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』と共に

 

 

 

 

 

 

更に深層からの『砲撃』により焼き払われた

 




何か月も待たせたのに見て下さった皆様に感謝を。続きももっと早く書けるように頑張ります
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