ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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すみません、リアルで色々あって長いこと書けませんでした。

これからボチボチ続き書いていきます。


第45話 ドラゴンズ・ヘル

落ちる、落ちる、落ちる

 

何層もの階層をぶち抜かれて作られた縦長の大穴の中、間一髪で『砲撃』からの防御が間に合った俺は、そのまま重力に逆らうように風を展開、空中で体制を整え下を見下ろした。

 

そこには正しくSFの象徴とも言える伝説的なモンスター、『ドラゴン』が上層にいる俺達に無数の牙を向けている。

 

その信じられないような光景に、こう叫ばずにはいられない。

 

「何だよこれ無茶苦茶過ぎんだろ!!階層の下から攻撃してくるとか反則かよ!!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「おいおい!?」

 

打ち上げられる竜の雄叫びと共に、数発の大火球(フレア)が再び上空に打ち出された。

 

迫りくる『砲撃』の規模を見て理解する、()()()()()()

 

一度目を防げたのは階層のお陰で威力が減少していたからだ。

 

Lv.が上がった事により向上した【一方通行(アクセラレータ)】の能力を持ってしても、二撃目を受けたら間違いなく反射を突破され………死ぬ

 

「これ、かなりやべぇな」

 

下から迫ってくる『砲撃』に冷や汗をかきながらも、風を操り10メートルほど落とされた距離を全力で昇っていく。何とか昇りきった俺は、その『砲撃』が更に上の層をぶち抜いている光景を見て、流石に頬をひきつらせた。

 

「な、何でこんな所に砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)が居るんですか!?」

 

「あ…………あぁ……」

 

37階層に戻った俺を出迎えたのは、顔面蒼白なフィルさんと、なにやら叫んでいるレフィーヤだ。

 

お前はあのモンスターの情報を知ってるんだな?

 

「すまんレフィーヤ、許せ」

 

俺は、直ぐにポケットに手を突っ込み、リモコンのボタンを押した

 

「ふぇ?」

 

食蜂操祈(メンタルアウト)】を発動し、レフィーヤの頭の中からこの現象についての記憶を抜き出していく。

 

ふむふむ、でっかくて紅い竜は58階層に生息していて、6階層ぐらい貫通させる砲弾を撃ってくるモンスター、『ヴァルガング・ドラゴン』

 

それと、砲撃で空いた縦穴を飛んでくるのは飛竜の『イル・ワイバーン』か。

 

「流石に20階層も下のモンスターが攻撃してくるなんて想定してねぇぞ。て言うか何でこんな上層にあんなモンスターが居るんだよ」

 

穴に電波を飛ばすと縦穴はきっちり6階層分空いている、つまりあのドラゴン達は43階層で産まれたか、それとも…………

 

『何故か上の階層まで上ってきたか、ですか』

 

頭の中に聞こえたのは【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使ってレフィーヤの記憶を共有した春ちゃんの声だ。

 

『そう言うことになるよな、それでどうする?春ちゃん』

 

『そうですね、相手はかなり強力なモンスターですので、対処法は限られます』

 

ふむふむ、対処法は()()()()、ね。

 

春ちゃんの返答を聞いた俺は今一度ズボンのポケットに手を突っ込みリモコンのボタンを押した。

 

チャンネルはうちの頼れる団長様、質問するのは簡単な二択だ。まぁこれはただの確認事項だけどな、うちの団長様なら答えは一択だろう

 

『ベル、逃げるか戦うかどっちにする?』

 

そして、予想道理の返答を聞いた俺は三日月の笑みを浮かべながら、ファミリア全員に【食蜂操祈(メンタルアウト)】でチャンネルを繋げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レフィーヤ、フィルさん、捕まれ」

 

「「!?」」

 

その言葉を聞いた二人は、色の声を疑問に思う間もなく、直ぐさま肩に捕まった。

 

ドォォォオオオオオオン!!!!

 

「「ヒッ!?」」

 

一瞬の浮遊感の後の爆音。色の肩に捕まりなが空を飛んだ二人は、先程いた場所が砲撃により跡形もなく吹き飛んだことに肝を冷やし

 

「フィルさん盾!!レフィーヤは範囲攻撃!!」

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ】!!」

 

「【盾となれ、破邪の聖杯】!!」

 

次の声により、息つく暇もなく詠唱を始める。

 

何故違うファミリアの二人がここまで素早く対応できるのか?

 

それは、この数日間で嫌と言うほど司令塔の指示に従う事の大切さが身体に染み付いていたからだ。

 

特に黒鐘色とサンジョウノ春姫の指示だけは何がなんでも守らなければ自分の、ひいてはパーティー全体の命に直結するのをエルフの二人は既に体験していた。

 

「『雷爪(エッジ)』!!」

 

二人の詠唱が完成する前より速く、色の両腕にはめられた漆黒の籠手に雷が集まり、巨大な鉤爪が形作られていく。色の新しく手にした防具、『雷霆(ライテイ)』は雷に質量を与えるものだが、その形は色の『空想(イメージ)』に依存している。

 

そのため、普段使用している【一方通行(アクセラレータ)】と明確にイメージを分ける為に、固定させる雷の形を『魔法』の詠唱の様に声に出すことにしているのだ。

 

『『『『『ガギャアアアアア!!!』』』』』

 

瞬く間に死神の鎌にも似た刃が両手に三本ずつ生成され、空中を飛び交う飛竜(ワイヴァーン)の両翼を切り裂いた。

 

「【ディオ・グレイル】!!」

 

『ギッ!?』

 

前方で潰された仲間を見た飛竜の一体が、前方からの突撃を諦め後方から攻撃を仕掛けようとして、円形の障壁に阻まれる。

 

それを見た飛竜達はうなり声を上げ、自分達に成り代わり、空を支配しようとする不届き者の更なる死角、下方からの攻撃に移り

 

『アアアアアアアッ!?』

 

落下してきた狐人(ルナール)の右手に握られた単身の銃から発砲された散弾によってその翼を撃ち抜かれ、飛竜は真っ逆さまに墜落した。

 

ポンプアクションによって弾薬を排出され、新しい弾薬が薬室に装填される前に、もう一つの銃を片手に持ち向かってきた竜に向ける。

 

『オッ!?』

 

ボウガンのような銃身から打ち出されたのは、『イグアスの羽』を元に作られた薄い刃だ。精確に放たれた薄刃は飛竜の目玉を撃ち抜き、空の支配者は痛みに悶えながら墜落する。

 

「ヴェルフ様、《砕羽(さいは)》の調子は良好でございますが、《(なだれ)》は少々反動が強うございます」

 

「了解、もう少し銃身を厚くしてみるか」

 

落下する春姫を受け止めたのは、仮名として《全刀(ぜんとう)不滅(ふめつ)》と名付けられた魔剣の腹に乗ったヴェルフだった。

 

「飛べ!!」

 

ヴェルフがそう叫ぶと、黒い刀身に散りばめられた赤い幾何学模様がまるで血管のようにドクンと脈打ち、刀身の腹から魔力が混じった風が噴出され、ヴェルフは空中起動を開始する。

 

春姫を抱えながら飛竜の猛追を落ち葉の如くヒラヒラト躱してくその動きは、まるで空中でスケートボードに乗っているかのようだ。

 

『ギャオォォォオオオオオオオオオ!!!』

 

しかし、その動きを正確に捉える、負けじと逸脱した動きをする飛竜が二人に牙を剥ける。

 

「クソッ、強化種か」

 

「ヴェルフ様、私が撃ち抜きます。少しだけ静止できますか?」

 

「すまん、無理だ。まだ空中で静止はできねぇ」

 

「それは………困りましたね」

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】」

 

『ギャ!?』

 

生物を逸脱した動きを空中でするヴェルフに追いついた飛竜は、風を纏った少女の銀閃により切り伏せられ、墜落した。

 

「大丈夫、ですか?」

 

その光景を見たのがレフィーヤなら深く感謝しただろうしベルなら感涙したかも知れない、色ですら渋々ながら感謝の言葉をぽつりと漏らすタイミングだ。

 

しかし、ヴェルフの腕の中で頬を引く突かせている狐だけは違った

 

「あ…あ……」

 

「あ?」

 

まるで何事も無かったように聞いて来る金髪の金眼の少女、アイズ・ヴァレンシュタインに、春姫は怒鳴る。

 

「貴方は手を出さないで下さいッ!!そういう契約です!!!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「おい、助けてもらったのにそんな言い草ないんじゃないか?」

 

縮こまるように謝ったアイズを見かねたヴェルフが、諭すように春姫に語り掛けるが……

 

「知りません、契約は契約です」

 

そう言った彼女はフンッといいソッポを向いてしまった。

 

たしかに、アイズが【ヘスティア・ファミリア】の遠征に同行する条件は、『サポーターに徹し、出来るだけモンスターを倒さない』だったが、ここまでの緊急事態でそんな条件を持ってくる方が異常だ。

 

しかし、ヴェルフはそれ以上言葉が出せずに

 

(こりゃあ、相当『重症』だな)

 

とだけ思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おし、到着」

 

「し、死ぬかと思った」

 

「生きてる、私生きてる……」

 

俺達は飛竜と砲竜の攻撃を掻い潜りながら、ようやくダンジョンの修復が終ったらしい穴の開いていないまっさらな地面に降り立った。ざっと6、7階層は降りて来たか、つーか何であのドラゴンたちはこんな所まで登って来たんだ?

 

「おい黒鐘、なんだあれは」

 

「おぉ、バーチェじゃん。生きてたんだ」

 

「私があれぐらいで死ぬか!!それより、あれは何だと聞いている!」

 

叫ぶバーチェに思考を遮られ、渋々ながら彼女が指を刺す方向に目を向ける。そこには牙を剥けて威嚇してくる大量の砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)……では無く、リンリンリンという鐘の音と眩い白光を放つ謎の物体が、巨大なドラゴンたちを蹴飛ばしている光景があった

 

「あれはベルだよ」

 

「あれが、ベルだと!?いやしかし、ベルはLv.4なんだろ、あんな動き出来る訳が……」

 

「別に吹っ飛ばしてるだけで倒せてる訳じゃねぇけどな。てか、リリに腕折られたお前がいまさら何言ってんの?」

 

「ぐ………」

 

ぐうの音も出ないとはこの事か。それにしても【ウチデノコヅチ】を掛けられた状態といっても、あれだけ動けるんだから、やっぱアイツは化物だよな。もしかして新しい《スキル》も発動してんのかねぇ

 

「よし、春ちゃん達も無事に到着したみたいだし、そろそろ動くか。バーチェ、そこの二人連れて出来るだけ離れてくれ」

 

凄まじい緊張感から解き放たれた反動で、へたり込んでいるエルフ二人をバーチェに任すことにする。まぁ、あれだけの規模の攻撃を初見にかかわらず、メイド服に汚れ一つ付けていないバーチェも相当な化物だからな。安心して任せられるだろう。

 

「それはいいが、何をするつもりだ?」

 

「決まってんだろ。アイツらを殲滅する」

 

当然の如く言い切った俺にバーチェは複雑な顔をした後、無言でエルフの二人を抱え、俺に背を向けて走っていく。彼女の背中が見えなくなるまで見送り、ポケットの中のリモコンに手を触れた。

 

(命ちゃん、準備できてる?)

 

(大丈夫です。いつでも行けますよ)

 

(オッケー。ベルの方はどうだ?)

 

(こっちも大体集まって来たかな)

 

(よし、それじゃあ始めるぞ)

 

((了解))

 

二人の返事を聞いた後、それまで【食蜂操祈(メンタルアウト)】でファミリア全員に繋いでいたチャンネルを切った。これをしておかないと、後で大変な事になるからな

 

「ふぅ………よし、気合入れるか」

 

パンっ、と両手で軽く頬を叩き、【御坂美琴(エレクトロマスター)】で電波を飛ばす。レーダーで捉えるのは穴の開いた階層内にはびこる、数百を軽える竜たちだ。その全てを把握しきり、がばっと両手を開く。

 

カッと熱くなる背中

 

その力が発動したのを肌で感じ取った俺はがばっと両手を広げ、目の前に現れた『説明のできない力』をグッと掴んだ。それと同時に空間が歪み、さっき把握した竜たちの所と繋がったのを感覚的に理解し、広げた腕を抱き込むように動かしながらこう叫ぶ。

 

「こんじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

『『『『『『『『『『『『『グオオオオオオオオオオオ!???』』』』』』』』』』』』』』』

 

ドラゴンたちの悲鳴が、階層内に響き渡る。それはまるで無数の隕石がブラックホールにでも吸い込よせられている様な光景だ。翼を懸命に動かす『イル・ワイバーン』も、体勢が崩れ砲撃が撃てない『ヴァルガング・ドラゴン』も、等しくよく分からない力に体を掴まれ、一か所に引き寄せられていく。

 

(すげぇな、削板軍覇(そぎいたぐんは)の力は)

 

そうこれは、新しく発現した『発展アビリティ』、『原石』の能力だ。

 

まぁ原石と言っても、原作の学園都市のような人工的な手段に依らず超能力を発現させた天然の異能者の『異能(ちから)』では無く、『削板軍覇(そぎいたぐんは)』限定で同じ超能力を扱えるらしい。

 

ここまでは、今までの《スキル》や《魔法》の流れから、自然と言ってもいいだろう。しかし、【原石】には【一方通行(アクセラレータ)】や【御坂美琴(エレクトロマスター)】とは違う例外が含まれている

 

(やっぱり、Bもあるのが原因だよなぁ、これ)

 

そう、『原石』は《発展アビリティ》だ。《発展アビリティ》は力値など他の基本アビリティとは違い専門的な能力に特化しており、『耐異常』ならばG評価もあれば殆どの異常状態を無効化出来る程強力らしい。

 

その《発展アビリティ》が、俺のLv.アップ時に何か一つのアビリティが凄く上がるっていうヘスティアの言う所の特異体質のせいでBまで爆上りし、数百いるドラゴンを一か所に纏められるほどの力を発揮できていた

 

(まぁ、倒せるわけじゃねぇけどな)

 

そう、これでもまだこの竜たちを倒すには足りない。今はベルが地上の、俺が空中のドラゴンを纏めただけだ。作戦の最後には強力な一撃が必要であり、ここまではその為の前段階

 

(後は頼んだぜ、二人とも)

 

穴の上を見上げた俺の耳に、ほぼ毎日聞いている詠唱が入って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膨大な竜たちが自ら開けた一つの巨大な縦穴に集められていた。

 

「【掛けまくも畏(かしこ)き――いかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ】」

 

そのドラゴン達も数秒もすれば散り散りになるだろう。

 

「【尊き天よりの導きよ。卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力(しんりょく)を】」

 

それは必然とも言える。そもそもたかが人間二人が強大な力を持つドラゴンを押さえつけておける訳が無いのだ。

 

「【救え浄化の光、破邪の刃。払え平定の太刀、征伐の霊剣(れいおう)。今ここに、我が命(な)において招来する。天より降(いた)り、地を統(す)べよ】」

 

しかし

 

「【神武闘征(しんぶとうせい)】!!」

 

ベルと色の二人が作り上げたこの好機を、この少女達が見逃す訳がなかった。

 

「【フツノミタマ】!!」

 

『『『『『『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』』』』』』』』』』』

 

太極の魔法円(マジックサークル)の元、完璧なタイミングで詠唱された強力な重圧魔法はドラゴン達を飲み込み、更に一か所に凝縮される。

 

「【八咫黒烏(ヤタノクロガラス)】で見た所、すべてのドラゴンを捕らえました。行ってください……リリ殿」

 

「了解です」

 

そして、まるで満員電車の様にギュウギュウになった結界の上、37階層の指定された場所から一歩も動かなかった小さな少女が身の丈に合わないハンマーを背負い、飛び降りた。

 

「さぁ、皆さんの力を(あつ)めますよおおおおおおおおおお!!!!」

 

叫びと共に少女は体から噴出された白、黒、赤、紫、金色が混ざった高密度の霧を身体に纏った。

 

それはリリルカ・アーデの新しい《スキル(ちから)》、【萃力夢想(ミッシング・パワー)】の能力、同恩恵を持つ者の『力』のアビリティ値を自身に上乗せ(レイズ)するというもの。

 

彼女は選択する、ベル・クラネルを黒鐘色をヴェルフ・クロッゾをヤマト・命をサンジョウノ・春姫を。すべての家族(ファミリア)の力値を上乗せされたリリの力は、更に【怪力乱神(スパイラル・パワー)】の倍率補正で跳ね上がる。

 

「るぅぅぅぅぅうううううううううううううううううあああああああああああああああああああああ!!!!」

 

凄まじい力で振りかぶられるのは『観醉屡爾鏤(ミョルニル)』と名付けられた、柄が短い巨大な魔槌。

 

《神秘》のアビリティが発現したヴェルフ・クロッゾの手によって製作されたそれは、とある迷宮から拝借した『最硬金属(オリハルコン)』を大量に使用する事によって不壊武器(デュランダル)の属性が付属されているだけではなく、色によって異世界の知識も取り入れられている。

 

それは磁場と星の引力を利用して、槌の重量を増加させるという仕掛けであり、その力が全開で発揮されれば魔槌の重さは『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を軽く越える程であった。

 

萃力夢想(ミッシング・パワー)

 

怪力乱神(スパイラル・パワー)

 

観醉屡爾鏤(ミョルニル)

 

雷《いかづち》を帯びた魔槌の重量は、更に命の重圧魔法で際限なく加算され、身体に鬼のような力を宿した小人族(パルゥム)一撃(必殺)が、纏められたドラゴンの群れを魔石すら残らない程に粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が起こったんですか……」

 

一度も聴いた事のない程の轟音と衝撃に見舞われ気絶していたレフィーヤは、眼を開けて始めに飛び込んできたクレーターを唖然と見ていた。

 

半径200M(メドル )もありそうなそのクレーターは底が見えず、まるで巨大な(うろ)の入り口のようだ

 

気絶からする前に詠唱のような声が聴こえてきた気がしますが、まさか【魔法】でこんな穴を作ったのでしょうか?

 

「レフィーヤ、こっち手伝って!」

 

「え?」

 

そんな事をぼーと考えている彼女に、駆け寄ってきた竜女(ヴィーヴル)のウィーネが声をかける。

 

その両手には大量の回復薬(ポーション)万能薬(エリクサー)が抱えられており、あの戦いの合間かレフィーヤが気絶していた間に、必要な物を持って下に降りていたらしい事が伺えた。

 

「速く、こっちこっち!!」

 

「ちょっと待ってください!?」

 

スンスンと鼻を鳴らしながら予想外に素早い動きで先導していくウィーネの後を、回復薬の半分を渡されたレフィーヤは訳も分からず必死に追いかける。

 

そうして、目的地らしいクレーター付近に到着した彼女は顔をしかめる事になった。

 

(何ですか、これ………)

 

そこにあったのはモンスターの魔石でもドロップアイテムでもなく、赤黒く変色した血塗れの肉塊だ。

 

「何をしてるんですか?」

 

モンスターを呼び寄せるアイテムにも似たそれに、突如万能薬(エリクサー)を掛け始める。一本、二本と疑問の声も聴かずに万能薬(エリクサー)をバケツをひっくり返す勢いで肉塊に浴びせ続けるウィーネは、遂にレフィーヤが持っていた高等回復薬(ハイ・ポーション)まで使い始めた

 

「これって………」

 

そろそろ静止の声を掛けようと思ったレフィーヤだが、肉塊だったものが僅かに動いたことで、その声は止められた。

 

「………人?」

 

レフィーヤが持っていた万能薬(エリクサー)高等回復薬(ハイ・ポーション)の殆どが浴びせられて数秒、足、腹部、腕とようやく効果が出始めたのか徐々にその原型を取り戻し始める。傍から見れば子供の様に非常に小さなパーツたちは、この肉塊だった者が【ヘスティア・ファミリア】唯一の小人族(パルゥム)だという事を主張していた。

 

「リリルカさん……ですか?」

 

彼女の言う通り、肉塊の正体はリリルカ・アーデだ。

 

まるで体内から爆発したようなスプラッタな光景に、レフィーヤは思わず自分の口元に手を当てた。

 

どうして彼女がここまで悲惨な状態になっているのか?それを簡単に説明すると、自分の器量を遥かに超えた力を振るったからだ。

 

萃力夢想(ミッシング・パワー)

 

そのスキルの能力は確かに強大かつ最強だが、それ故に普段は黒霧(黒鐘 色)の力までしか加算しないように制限をしていた。

 

白霧(ベル一人)の力さえ、今のリリが振るえば腕の骨に罅が入るほどの負荷があり、今回のような全力の使用など普通は絶対にさせないのだが、状況がそれを許さなかった。

 

そして、【ヘスティア・ファミリア】には自分の限界を超えた力を振るった者がもう一人………

 

「色君!!気をしっかり持って!!!」

 

レフィーヤが声をした方に目を向けるとそこには、唇は真っ青、目は虚ろ、まるで前身から生気が………いや、魂が抜け落ちたような黒鐘色の姿があった。

 

そして、縋るような悲痛な声で衰弱しきった色の体を揺すっているのはフィルヴェスだ。

 

家族を失った少女の様に取り乱す彼女に、気付いたらレフィーヤは駆け寄っていた。

 

「フィルヴェスさん、大丈夫ですか!?その……色さんの容態は?」

 

彼の状態を一目見れば、誰でも深刻な状態だとわかるだろう。それでもレフィーヤが声を掛けたのは、取り乱したフィルヴィスを落ち着かせるためだ。

 

しかし、それで彼女が落ち着く訳もなく、レフィーヤの腕を掴んで

 

「レフィーヤか!!頼む、色君に回復魔法をかけてくれ!!!」

 

と、懇願した。

 

「は、はい!」

 

レフィーヤは勢いに押され、リヴェリアの回復魔法を詠唱する。あの【魔法】ならば多少なりとも色の体を回復することが出来るだろうと咄嗟に判断したのだが……

 

「何をしているのですか貴方は!!」

 

黒の少年を助けるであろうその詠唱を咄嗟に止めたのは、いつの間にか近くに来ていた狐人(ルナール)の少女だ。

 

「な、なにって、色さんの回復を……」

 

「いりません、精神力(マインド)の無駄です」

 

春姫にぴしゃりと言い切られたレフィーヤは信じられないような物見た顔になり、口から出た言葉に音を乗せられなくなるほど混乱する。

 

口をパクパクする彼女の代わりに、純白の衣を纏ったエルフが、無慈悲な宣告をした春姫に食って掛かった。

 

「き………さま……色君の容態を見てよくそんな事が言えるな!?見損なったぞ狐人(ルナール)!!」

 

着物を捕まれ憤怒の形相で睨み付けてくるフィルヴィスに、春姫は真剣な顔をでこう返した

 

「いいですか、今の色様は調整の出来ない力を使用したせいで動けなくなっているだけで、二、三時間もすれば意識が戻ります。ですから、別に色様を見捨てるわけではございません」

 

そう、色は春姫の言う通り『原石』の反動で動けなくなっているだけだ。

 

本来ならランクIから始まり徐々に上昇していく力をいきなりランクBから使用しているため、その強力な力を制御出来ずに、一度使えば体力が根こそぎ絞り取られる程の諸刃の剣と化している。

 

それでも何回か検証を重ねた結果、一時的に動けなくなるだけで死ぬほど体力を消耗するほどではない事が分かっていた。

 

むしろ死の危険を伴う攻撃をしたのはリリの方だったりするのだが………

 

「いま(わたくし)たちは非常に危険な状況に陥っています。現在、【剣姫】様とバーチェ様にも迎撃を頼んでおりますが―――ッ!?」

 

気付いたら消えていた女戦士(アマゾネス)やアイズ、他の団員達の事を二人に説明しようとした春姫が唐突に尻尾をピンと立てた。

 

いや、尻尾だけではない。全身の体毛が何かを知らせるように逆立っている。

 

「どう、したんですか……?」

 

ただならぬ気配を感じたレフィーヤは、リリによって出来た巨大なクレーターや砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の砲撃によって元の原型が全くと言っていいほど留められていない階層の暗闇、そのどこか遠くの一点を緊張した面持ちで見つめている春姫に聞き返す。

 

その瞬間

 

遠くで何かがカッと光り

 

超硬金属(アダマンタイト)』すら焼き付くす程の熱線(ブレス)がこの場に居る全ての者に喰いついた。

 

「!?」

 

もし、それが春姫の放った魔砲に迎撃されなかったら、レフィーヤは声を上げる間もなく消し炭になっていただろう。

 

「二人とも、今すぐここから離れる準備を!!」

 

一瞬で命を刈り取られていたかも知れない事実に思考が真っ白になりかけたエルフの少女は、それでも冒険者として培ってきた経験からか、歯を食い縛りその声に従うべく無言で足を動かす。

 

その際、馬鹿げた威力を叩き出す魔砲と拮抗する程の威力を超長距離から放った何かの正体をせめて一目見て確かめておこうと、眼を凝らした。

 

「あれは………ドラゴン?」

 

激しい爆炎に見舞われた攻撃が終わり、元の薄暗い階層に戻ったことで、暗闇に慣れてきたレフィーヤの瞳にその異形が飛び込んできた。

 

遠目で見えるその巨躯は、あの砲竜すら子供扱いに出来そうな程巨大であり、優に100M(メドル)を軽く越えているかもしれない。

 

その全身を覆う漆黒の鱗はあの場に居る冒険者の攻撃をものともせず、あの風を纏ったアイズの剣撃すら弾いているらしく、傷一つ負った様子もない。

 

そして特徴的なのは、その頭だ。

 

信じられないことに、そのドラゴンは八つの首を振り回し、立ち向かう冒険者を苦しめていた。

 

「う………そ」

 

しかし、そんな事はレフィーヤにとって問題ではない

 

もっと重要な部分がそのドラゴンには存在していた

 

それは存在してはいけない者の筈なのに

 

「どうして……」

 

レフィーヤはカチカチと自分の奥歯が鳴っているのに気付かない、それはレフィーヤにとって絶望の権現とも言える存在だった。

 

「だって………」

 

もし、【ヘスティア・ファミリア】と深い関わりがなければ、この遠征に慣れて居なければレフィーヤの膝はきっと屈していただろう

 

「だってっ!!」

 

そのドラゴンの八本の首の付け根、そこには【ロキ・ファミリア】が死力を尽くして倒した筈のモンスターが狂笑を浮かべていた

 

「あの精霊(モンスター)は倒したのに!?」

 

復活を果たした『穢れた精霊』は真っ直ぐレフィーヤ達の方に視線を向け、八首のドラゴンの砲撃と共に絶望の呪文(うた)を紡ぎだした。

 

 




後で色々手直しするかもです
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