シロツメクサの恋   作:ライジング

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 バレー部以外のキャラも出さないといけないかな、と思う今日この頃。


⑥姉弟の絆取り戻す作戦です!

 入浴を済ました妙子は夕飯の準備に取りかかった。

 

 その間も彼女の頭の中にあるのは、ツンケンになった弟とどう和解するか。そればかりだった。

 

 キャプテンの典子が提案したアタック作戦は失敗に終わったので、次はあけびのアドバイスを実行することにした。

 

『自分のことあまり話さない子なんだったら、よく観察して何がイヤで嬉しいのか見抜いたらどうかな?』

 

 なるほど、一理ある。

 口で言ってくれないのなら、普段の生活態度から弟の望んでいることを探ればいいのだ。

 

 バレーだって相手の目や動作を観察して次の行動を予測する。

 洞察眼ならば多少の自信はある。

 

 調理をしつつ、妙子はチラチラとキッチン越しから愛弟の様子を伺った。

 

 奨真は今ソファに座ってテレビを見ている。

 番組の内容はこんなものだった。

 

 

 

 親子がカレーライスを前に食卓を囲んでいる。

 両親は箸で食べているが、子どもは食べる様子がない。

 

『どうしたの? ちゃんと食べなさい』

 

『だって箸なんかじゃ食べられないよ!』

 

『どうして箸じゃ食べられないの? お父さんもお母さんもちゃんと食べてるわよ』

 

『箸なんかじゃ食べられないよ!』

 

 子どもが叫んで近くの机の下に隠れる。

 

『どうしてそんなわがまま言うの! みんなお箸で食べてるでしょ!』

 

 父親も怒り出す。

 

『そうだぞ、わがまま言わないでちゃんと食え!』

 

『(泣きながら)お箸なんかじゃ食べられないもん!』

 

 そこでナレーターが深刻な顔をして現れる。

 

『親の言うことに理由なく反発する……これが、反抗期です』

 

 

「いやいや、箸でカレーライス食えとか強要する親いたら誰だって反抗するわ」

 

 番組の内容に奨真が呆れ顔で突っ込みを入れる。

 

 妙子は思う。

 さすが我が弟。テレビの内容を盲目に信じず冷静な刃を突き入れるその姿勢。

 かっこいい。

 

 そして番組を見て妙子も考える。

 

 反抗すること。そこにはやはり相応の理由があり、何かしら不満をいだいているということ。

 ならば奨真も自分に対して何か不満をいだいているのだろうか。

 もしあるのならば、改善せねばなるまい。

 カレーライスを箸で食えと強要するような愚かな(というかおかしい)人間にならないためにも。

 

「ショウちゃん、うちではカレーライス、スプーンで食べていいんだからね?」

 

「許可するまでもなくそれが普通じゃないかな」

 

 素っ気なくもちゃんと返事をしてくれる愛弟。

 ちょっとだけホッコリした。

 

 その後も観察を続ける。

 

「ごちそうさま」

 

「お粗末様♪」

 

 食事を終えて手を合わす弟に妙子は機嫌良く笑みを返す。

 どんな献立でも妙子が作ったものなら奨真はいつも残さず食べてくれる。

 好き嫌いせず何でも食べようとする弟の頭を、妙子は「えらいえらい」と撫でようとした。

 

「……ハッ!」

 

 しかし無意識に伸びた手を妙子は瞬時に止める。

 男の子は子ども扱いされるのを嫌う。忍に言われたことを思い出したのだ。

 

 つい習慣で未だに小さな頃のように弟をかわいがってしまうが、それが反抗の原因かもしれないではないか。

 これまでの妙子なら「えーそんなことないよー」と不満を口にするところだ。

 しかし忍の客観的意見から行き過ぎた愛情表現も時には重みになってしまうのかもしれないということを、妙子はようやく学習しつつあった。

 しかし、それでも……

 

(撫でてあげたい!)

 

 やってはいけないと警告する理性。

 一方で「弟を全力で愛でたい」という姉としての激情の間で妙子は葛藤した。

 

 ああ、愛しい弟を撫でられないなんて、こんなに辛いことはあるまい。

 

「……さっきから何してんだ?」

 

 腕を伸ばしたままプルプルと硬直する不審な姉に奨真が話しかける。

 

「お姉ちゃんは今、必死に自分と闘っているんだよショウちゃん」

 

 目をバッテンのようにして「うぐにゅう~」と唸る妙子。

 

「よくわからないけど……がんばって?」

 

「ありがとうショウちゃん」

 

 理解せずともエールを送ってくれる優しき弟。

 思い切り抱きしめてあげたい。

 しかし我慢である。

 

「そ、そうだ。何か飲み物淹れようかショウちゃん」

 

「うん。頂こうかな」

 

 気を紛らわすため、妙子はキッチンに向かう。

 

 奨真は食後に温かい飲み物を飲むことを好む。

 暑い夏でも関係なく、おいしそうに飲む。

 

 ここで奨真の喜ぶ飲み物を淹れてあげれば、和やかな空気を作ることができるかもしれない。

 問題は奨真が何を飲みたいかだ。

 その日の気分によって、奨真は飲みたいものが変わる。

 コーヒーは苦手のはずだったので除外。

 なので緑茶か紅茶のどちらかだ。

 

 奨真の表情をジッと観察し、飲みたいものが何か推測する。

 今こそ姉としての本領を発揮するとき。

 夫が「あれ」と言ったときに欲しいものを瞬時に察することのできる良妻賢母のように、弟の望むものを見事当ててみせようではないか。

 

(……うん、きっと紅茶だ!)

 

 直感でそう妙子は判断。

 さっそくお湯を沸かし、紅茶の茶葉を用意する。

 ティーパックではなく、しっかりとしたブランドのものである。

 しかも聖グロリアーナからお裾分けで頂いた超がつく高級品だ。

 戦車道全国大会優勝以降、よく送ってくれるのである。

 

(ふふん。紅茶淹れることに関しては少し自信があるのですよ~)

 

 宴会でダージリンの物真似を披露する際、妙子は演技に迫真性を持たせるため紅茶の淹れ方も密かに習得していた。

 やってみるとこれがなかなか奥深くおもしろい。

 いつのまにか紅茶を愛飲するほどに嵌まっていた。

 彼女の淹れる紅茶は女子寮に住む生徒たちの間でわりと好評だ。

 

「……うん、上出来!」

 

 納得のいく出来になったところでティーカップに注ぐ。

 芳醇な香りと美しい紅色がなんとも上品である。

 

「はいショウちゃん、紅茶だよ」

 

「うん、サンキュ」

 

 受け取った紅茶を奨真はひと口。

 ドキドキしながら反応を伺う妙子。

 

「お、うまいなこの紅茶」

 

「でしょ~!」

 

 味を褒められたことで妙子は上機嫌になる。

 

「すごいな。いつのまにこんなに紅茶淹れるのうまくなったんだ?」

 

「えっへん! お姉ちゃんね、学園にいる間『じょせいとしてのさほう』をしっかり覚えてきたんだよ!」

 

 立派な胸を()()()と張って姉としての威厳を誇示する。

 姉の意外な一面を見たことで奨真は素直に感心しているようだった。

 これはなかなか好感触。

 そのまま奨真が「へえ~お姉ちゃんすごい! 大好き(唐突)!」と言ってくれるんじゃないかと期待し、妙子は今にも空に羽ばたけそうな気持ちになった。

 

「へえ~すごいじゃん。……でも淹れてもらって悪いけど正直コーヒーが飲みたい気分だったんだよね」

 

「ずこ~っ!」

 

 弾んだ心は一気に墜落した。

 

「ショウちゃんコーヒー飲めなかったんじゃないの!?」

 

「まあそうだったんだけどさ。友達と入った喫茶店で試しに飲んだのが思いのほかおいしくてさ。それで嵌まっちゃった」

 

「どんなコーヒー!?」

 

「トールモカチョコレートソースココアパウダーカプチーノとかショートアイスチョコレートオランジュモカエクストラホイップエクストラソースとか。あれは絶品だった」

 

「……」

 

 弟が未知の呪文を唱え始めた。

 会わない間に弟が遠い存在になっている。

 

「というか……」

 

 それ以前に妙子にとって驚くことが一点あった。

 

「ショウちゃん友達いたの!?」

 

「驚くところそこかよ! いるよ普通に!」

 

「だってあの人見知りのショウちゃんが……あっ! もしかして『ケーンージーくん』ってハットリくんのお面を被ったあの……」

 

「その『ともだち』じゃねーよ! 弟をなんだと思ってるんだよ!」

 

「うぅ……」

 

 まさかの思わぬ弟の一面に妙子はたじろいだ。

 友達がいたことにも驚きだが、いつのまにかコーヒーが飲めるお年頃になっていたとは。

 

「知らない間に大人になっていたんだねショウちゃん……」

 

「コーヒーぐらいで大げさだな」

 

「お姉ちゃんを差し置いて一歩大人の階段を昇っちゃったんだね……」

 

「なんか誤解招きそうだからやめてその言い方」

 

 妙子は寂しい気持ちになった。

 そして悔しくなった。

 弟に関して知らないことなど、ひとつもないという自信があったからだ。

 最もお互い学園艦に通って一定期間離れる以上、さすがに知り得ない部分も発生するだろう。

 それは承知の上だ。

 だからといって、こうも露骨に既知の差が浮き彫りになってくるとやるせない気持ちになってくる。

 このままでは、どんどん弟との心の距離は離れていくばかりだ。

 

 言葉なしでも弟の望んでいることを見抜く?

 まことに悔しいがどうもできそうになかった。

 というよりも、辛抱たまらなかった。

 

「ショウちゃん……教えて」

 

「え?」

 

「学園艦でどんなことしてるのか全部教えて!」

 

「なんで!?」

 

「だってだって~!」

 

 まるで駄々っ子のように妙子は涙目でぶんぶんと腕を振る。立派な胸も盛大に揺れる。

 

「ショウちゃんのことで知らないことがあるのはイヤなんだも~ん!」

 

「なんだそりゃ……」

 

 最初の意気込みはどこへやら。

 洞察眼への自信などかなぐり捨てて、妙子は直球で奨真の明かされない一面を探ろうとする。

 

「いいから教えて! 全部包み隠さずだよ!? 朝何時に起きて朝ご飯は何を食べるのかとか登校する時間帯とかその際に会う友達はどんな子なのか昼休みはどう過ごすのか放課後は何してから帰るのかまさかとは思うけど女の子と会ったりしているなら一部始終その子のとの出来事を子細に懇切丁寧に一切合切聞かせなさい!!」

 

「こえーよ! 普段絶対に使わないような難しい言葉使ってるのが余計にこえーよ! なんでそんな細かいことまで話さなきゃなんないのさ!」

 

「お姉ちゃんには知る権利がある!」

 

「あるわけねーだろ!」

 

「お姉ちゃんの学園生活のことも教えてあげるから! それでおあいこでしょ! えーとね! 朝はまずバレーの練習に行って終わった後にシャワー浴びるの! 最初に洗う身体の場所はまずオ……」

 

「やめんか! 聞きたかないわそんな情報!」

 

「なんでさ!? お姉ちゃんのこと嫌いなの!?」

 

「ああもう! いちいち抱きつくなっ!」

 

 悲しさのあまり弟に思いきり抱きつく妙子。

 我慢していた分、ぎゅうっと強烈なハグをお見舞いする。

 

「ちょっ! ちから強っ……離せって!」

 

「いやあああ離さないいいい!」

 

 もはや号泣の勢いで妙子は奨真を抱きしめる。

 

 バレーで鍛えられた超人級の腕力が奨真の肉体を締め付け、その間で巨大な肉球が押し潰れる。

 物理的にも精神的にも危うい状況に奨真は激しく動揺した。

 

「お、おい。マジ苦しいから離してって……」

 

「ショウちゃあああん! お姉ちゃんのこと嫌いになっちゃイヤアアア! 昔みたいに『大好き』って言ってえええ!」

 

「いい加減にしろこの天然娘ェェェ!!」

 

 複雑な意味で顔を真っ赤にした奨真の叫びが夏の夜空に木霊した。

 

◇◆◇

 

「ってことがあってね、余計にショウちゃんが素っ気なくなっちゃったんだよ。どうすればいいと思う忍ちゃん?」

 

『むしろもう何もしないほうがいいんじゃない?』

 

「そんなー」

 

 妙子にとって頼りになる相談役、忍は電話越しでそんな冷静なアドバイスを送るのだった。

 

◇◆◇

 

 その夜、奨真の自室にて。

 

「……眠れねぇ」

 

 今日一日だけでも複数回と繰り返された妙子との刺激的な接触。

 豊満で蠱惑的な感触や甘い吐息と艶声は生々しい名残となって肉体に刻まれ、恋する青少年を一晩中悩ませるのだった。

 




 次回辺りで他の原作キャラも登場させてみたいと思います。
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