テキはトモダチ   作:おかぴ1129

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8. 夜の密会 ~電~

「……ごちそうさまでした」

 

 満足気に手を合わせて今日の食事に感謝の意を述べた赤城さんの傍らには、6杯のからっぽのお櫃が並べられていた。

 

「……」

 

 そしてその傍らでは、死んだ魚の目をした司令官さんが、口から自分の魂を漏らしていた。

 

「……さて、お腹もいっぱいになったことですし、午後からはまた演習しましょうか天龍さん」

「マジか姐さん……午前中に散々対空演習したじゃねーか!」

「ええ。そしておかげさまで天龍さんの対空戦闘に関しては練度もバリバリ上がっていますよね」

「だったら今日ぐらいは対空演習は休ませてくれてもいいんじゃねーか? 俺もたまには砲雷撃の演習もしとかねーと……ここ最近、対空機銃しか撃ってねぇ」

「なるほど。では青葉さんと球磨さんも交えて、軽巡と重巡のコンビで私と鳳翔さんに挑んでもらいましょうか」

「な……」

「私も演習だと思わず、沈めるつもりで攻めますよ。その代わり、普通の演習では体験出来ないハイレベルな演習が出来ます」

「うーん……」

「私達を攻撃するわけですから、砲雷撃の練習にもなりますし」

 

 集積地さんが資材集めに協力してくれるようになって出撃が無くなった結果、私たちの演習の時間が増えた。最近では私たちは遠征で資材を確保してくる時以外は、もっぱら演習で練度を上げる日々が続いている。

 

 特に赤城さんと天龍さんが演習に燃えていた。話に聞くとどうやらあの中将さんが来た日、赤城さんは最新鋭の海外の艦娘さんに会い、その人に挑発されたらしい。同じ艦娘だから本気の潰し合いになることはないだろうが……それでもなぜか赤城さんは危機感を覚えたらしく、その人との戦いに備えて自身の練度を上げているという話だった。

 

 そして、その赤城さんが演習相手として選んでいるのが、同じく自身の練度を上げたい天龍さんだった。こうして二人は利害が一致し、毎日毎日お互いを潰し合う演習をしている。おかげで二人の練度はうなぎのぼりだと司令官さんは言っていた。

 

「……わかった! んじゃ青葉と球磨には俺の方から誘っとく! 姐さんは鳳翔さんと話をつけてくれ」

「わかりました。ではチーム戦ですね」

「おおよ。こうやって少しずつでも練度を上げてきゃ……いつか俺も……!!」

 

 両肩からやる気をメラメラと燃え立たせつつ、二人はお昼ごはんのあとの食器をお盆に乗せて、食堂をあとにした。

 

「……」

「あのー……司令官さん?」

「ん? どうしたの?」

「気のせいか……最近、司令官さんの元気がない気がするのです」

「ああ……」

 

 そしてそんな赤城さん天龍さんの、満ち溢れたやる気や力への渇望・そして練度に反比例して……なんだか司令官さんが、日を追うごとに元気がなくなってきている気がしていた。今日も今日で司令官さんは、赤城さんが片付けている空のお櫃六杯を眺めながら、現在進行形で口から魂がはみ出ている。

 

「司令官さん? 何かあったのです?」

「ぁあ、いや。何もないから安心していいよ」

 

 私の心配に対し、司令官さんは疲れた笑顔でそう言った。……いや、正確には私の言葉に返事をしたのは司令官さんではなく、司令官さんの口から漏れ出ている魂の方だったけど……司令官さんはどうやら、自分が今まさに幽体離脱しそうな状況であることに気がついてないらしい。

 

「……ホントに大丈夫なのです?」

「あぁ、大丈夫。それよりもほら。早くご飯食べちゃいなさいよ」

「はいなのです」

 

 司令官さんの魂は無理矢理に作った笑顔を私に向けると、再び虚ろな眼差しでふわふわと中空を漂い続けた。私では司令官さんの力になれないのだろうか……なんだかもどかしい。司令官さんにはいつも迷惑をかけてばかりだ。私だって司令官さんの力になりたいのに。せめて口から出ている魂を元に戻してあげたい。元に戻すお手伝いをしたい。

 

「もっきゅもっきゅ……提督」

「ん?」

 

 私の横でお昼ごはんを頬張っている集積地さんが司令官さんの魂に声をかけた。最近は集積地さんも何食わぬ顔で食堂でお昼ごはんを食べ、他の艦娘のみんなも特に集積地さんを気にしなくなっていた。彼女はもはや、名実ともにこの鎮守府の一員と呼んでもいいようだ。

 

「お前の辛さは分かっているつもりだ」

 

 んん? 集積地さんは司令官さんが元気がない理由を知っているのかな?

 

「集積地……ありがと」

「こう毎日続くとな……だが私も少々眠い」

 

 集積地さん、最近眠れないのかな……言われてみれば、キレイな顔の目の下には、少々クマが出来ている気がする。

 

 ……あ、司令官さんの魂が口の中によっこいしょって感じで元に戻った。安心したけどなんだか悔しいなぁ。

 

「そうなの? 全然そんな風には見えないけど」

「お前が寝かせてくれんからな」

 

 ? どういうこと?

 

「まったく……毎晩毎晩……こっちの身にもなってくれ」

「その割には昨夜も元気だったじゃないの。少なくとも精根尽き果ててる俺よりはマシでしょ」

「私は基本的に寝転がってお前を受け入れるだけだからな。毎晩続くとうんざりするが」

 

 はわわわわわわわわ。なんだか話の内容がふしだらになってきた気がするのです。

 

「お前さんだって俺のこと受け入れてくれてるじゃないの」

「お前は気付いてないかもしれないが、帰る時のお前の顔はスッキリして清々しい。そういう顔をされると私も役に立てたと思えて嬉しいんだ」

「そういうもんなの?」

「そういうものだ。それが私の部屋に入ってくる時は色々と溜まった顔だったらなおさらだ」

「そんなつもりはさらさらないんだけどなぁ……」

「あれだけ私に吐き出しといて溜まってる自覚がないのか……」

「いや、まぁストレスは溜まってるだろうけど、顔に出してるつもりはなかった」

「そもそも毎晩だぞ? あれだけ付き合ってやったのに次の日にはもうあんなに溜まってるってどういうことだ?」

「……あのー」

「ん? どうしたイナズマ?」

「……」

 

 ダメだ……聞けば聞くほどふしだらに聞こえてくる……。

 

「そういう話は、夜になってから電がいないところでやって欲しいのです……」

「なぜ?」

「なぜって……」

 

 気付いて欲しいのです集積地さん……人間や艦娘には人情の機微とか相応しい時間帯とかTPOとかがあるのです。こういう時にハッキリと口に出せる天龍さんがうらやましい……でもハッキリ言ったら言ったで、それはまたTPOをわきまえてないような……。

 

「えーと……」

「?」

「司令官さんと集積地さんがお付き合いしてるなら、別にいいと思うのですけどー……」

「私と提督がか? ないない。こんなオッサンは好みじゃないよ。私はそんなに変じゃない」

「うわー……全国の親父フェチを敵に回したぞ今の発言」

「そんな私に身を委ねざるをえないのが、今のお前の惨状だ」

「う……まぁ、たしかに……」

 

 はわわわわわわわわわ……二人は付き合ってるわけではなくて……つまりあのテのドライなフレンド関係なのです? しかも二人とも、臆面もなく真っ昼間からこんなところでハッキリ言わなくても……

 

「だいたい、提督の加齢臭はけっこうキツいしな。将来のお前の伴侶はきっと大変だろう。私に相手してもらえるだけありがたいと思え」

「勘弁してよー……これでも毎日フローラルな石鹸で丹念に身体洗ってるんだよ?」

「末期だな。毎晩お前と会ってる私が言うんだ。間違いない」

 

 ダメだ。普通の会話すらなんだか不埒な内容に聞こえてしまう。司令官さんの体臭をキツいと思う機会って他にどんな機会があるんだ? やはりこれは……

 

「ご、ごちそうさまなのです!!」

「あれ? 電もういいの?」

「お、お腹いっぱいなのです!」

「そうか。んじゃまたあとでな。資材貯蔵庫で待ってるぞ」

「はいなのです!」

 

 もう二人の会話について行けない……これ以上いたら私の頭の中が完全にショッキングピンク一色に染まってしまう……いたたまれなくなった私はまだご飯が残っている食器を片付け、早々に食堂を出た。おかげで全然お昼ごはんを食べた気がしない。おかずのハンバーグ、とっても美味しかったのに……

 

 食堂を出た私は、そのまま執務室に向かう。執務室には、恐らく司令官さんといつも代わりばんこにご飯を食べている大淀さんがいるはずだ。私は事の真相を探るため、執務室の大淀さんを訪れることにした。

 

 ヒビが入ったドアを軽くノックする。大淀さんは……

 

「とんとん。電なのです」

「あら電さん。提督ならお昼ですよ?」

 

 よかった。大淀さんはやはり執務室で待機中だ。今なら司令官さんもいない。大淀さんを問いただすことが可能だ。

 

「いや、大淀さんに聞きたいことがあるのです」

「私ですか? 構いませんが……」

「失礼するのです」

 

 ドアを開こうとドアノブに手をかけた瞬間、天龍さんの『ふふ……怖いか?』という声が聞こえたが、それに対して心の中で『今は邪魔しないで欲しいのですッ!』と声を荒げて叱責しておいた。後で聞いた話によると、この時天龍さんはすでに演習をはじめており、ちょうどタイミング良く赤城さんに轟沈判定をくらっていたらしい。

 

 ドアを静かに開くと、大淀さんが執務室の提督の机で書類整理に勤しんでいた。テキパキと書類をさばく大淀さんの姿は、凛々しく頼もしい。きっとこの場に暁ちゃんがいたら、『暁も大淀さんのような一人前のレディーに……!!』と鼻の穴を広げていたに違いない。

 

「大淀さん、忙しそうなのです……」

「そうでもないですよ? あとは提督からはんこを貰えれば大丈夫ですから。……聞きたいことって、深刻な話ですか?」

 

 書類を読みながら、大淀さんは私に対してこう問いかけた。真剣で至極真面目なその声は、私に勇気をくれる。彼女なら、私の相談に乗ってくれるはずだ。

 

「深刻というほどではないのですが……司令官さんには内緒で……」

 

 書類を机の上に置いた大淀さんは、そのまま腕を組んで『うーん……』とうなったあと……

 

「わかりました。私ももうすぐお昼ですし、ここじゃなくて間宮さんで話しましょう。ここだといつ提督が戻ってくるか分かりませんしね」

 

 と言ってくれた。少し待たなければならなくなったが、私の話を後顧の憂いを無くしてから聞いてくれるようだ。大淀さんの気配りがとてもうれしい。

 

「ありがとうなのです!

「じゃあ先に間宮さんに行って待っててください。私はこの書類全部片付けてからお昼に行きます」

 

 宣言どおり大淀さんは、その場に積まれた書類の束をシュババババッという擬音を立てながら片付けていった。最後に司令官さんの机の引き出しを勝手に開け、そこから司令官さんのはんこを取り出し、各書類の捺印欄にぽんぽんと勝手に押していた。いいのかな……。

 

「あのー……大淀さん……?」

「はい?」

「司令官さんのはんこ、勝手に押していいのです?」

「いいんです。どうせあの人なら『いいんじゃない? 知らんけど』って言いながら承認しますから」

 

 大淀さんはそう言ってニッコリと笑うと、自身が持っていた書類のすべての捺印欄に、司令官さんの印鑑で捺印をしていた。確かにあの司令官さんならそう言う姿を容易に想像出来るけど、鎮守府の運営ってこんなアバウトで大丈夫なのかな……。

 

 その後私は先に間宮さんに赴き、クリームあんみつとお茶を注文して大淀さんを待った。大淀さんが話を通しておいてくれたのか、私が間宮さんに到着すると奥の個室のようなところに通された。よかった。ここなら内緒話が周囲に漏れることはない。

 

 10分ほどしてやってきた大淀さんは天ぷらそばとお茶を頼んでいた。この前みたいなどら焼きはないけれど、お茶は苦味も控えめでとても美味しいお茶だった。お茶の熱さは、ショッキングピンク気味の私の頭にホッと一息つかせてくれる。

 

「……さて電さん」

「はいなのです」

「何かあったんですか? ひょっとして提督がらみのことですか?」

 

 優しい微笑みを浮かべながら、大淀さんが優しくこう質問してくれた。私は今しがた食堂で起こった一部始終を大淀さんに伝える。出来るだけ詳細に……でも誤解のないように……大淀さんは茶化すでもなく、かといって照れる風でも恥ずかしがる風でもなく……至極真剣に私の話に耳を傾けてくれた。

 

「そうですねー……」

「大淀さんはどう思うのです?」

「うーん……ずずっ」

「……」

「……提督の魂が抜けやすいのはなんとかしなければならない問題だと思います」

 

 大淀さん……なんでこんな時に限って頼りなさそうなのです……?

 

「えーと……司令官さんのオカルト的虚弱体質に関しては特に問題ではないかと〜……」

「でも作戦行動中に急に口から魂が漏れはじめたら……」

 

 いやもっともですけど。大淀さんの心配ももっともですけど、なんか違うのです……。

 

「えと……」

「?」

「司令官さんと集積地さんて、仲よかったのです?」

「私はあまり聞いたことないですねその辺は。元々そんなに悪くはなかったとは思いますけど」

「確かにそうだったのです……」

「集積地さん絡みだと、私より電さんの方が詳しいと思いますよ?」

「うーん……たしかにお二人の仲は悪くはないとは思うのですけど……」

 

 そう。決して悪くはない。悪くはないのだが、良いというわけでもない。仲が良ければもっとこう……

 

『集積地……俺はお前を愛している(イケメンボイス)』

『私もだ……提督、お前を愛している(色っぽい声)』

 

 という会話が食堂で繰り広げられてもいいはずだ。もっと二人がベタベタイチャイチャしててもいいはずだ。

 

 でも実際はどうかと言うと……

 

『お前だって俺のこと受け入れたじゃないのー(死んだ声)』

『毎晩毎晩相手をする私の身にもなれー(可愛くない声)』

 

 こんな感じだ。お互いがお互いに対する愛情の一欠片もないやりとりしか私は見ていない。

 

「司令官さんの様子、最近少しおかしくないですか?」

「うーん……言われてみると最近は毎日、夜の業務を終わらせるのが二時間ほど早くなりましたね。どこか行くところがあるみたいで……」

「どこ行ってるか大淀さんは知ってるのです?」

「聞いてないので分かりませんね。でもだいたい、次の日はすごくスッキリした顔になってますよ?」

 

 次の日すごくスッキリした顔になっている……!! いけない……私にはすべての言葉がショッキングピンクに色付けされて聞こえてしまう……この『スッキリ』という大淀さんの言葉にしても……

 

『ぐへへへへへ……集積地はたまらんのぅ……スッキリしたぜ……(ゲスい声)』

 

 という、ドクズの代表格みたいなセリフに聞こえてきてしまう……。

 

「提督、どこで何やってるんでしょうか……」

「さっきも言ったのですけど、司令官さんはどうやら集積地さんのところに行ってるみたいなのです」

「ああそういえば……」

「集積地さんの話によると、毎晩毎晩色々なものを溜めた司令官さんが、集積地さんにそれを出していくらしいのです」

「……?」

「それを集積地さんは、司令官さんの加齢臭を我慢しながら寝っ転がって受け入れているらしいのです。でも毎晩毎晩続くから寝不足で大変らしいのです」

 

 私は間違ったことは言ってないはずだ。二人の会話をそのまま要約したはずだ。

 

「……」

「んー……」

「……」

「……え!? それって……ぇえッ!?」

 

 大淀さんはしばらく考えた後、突然ハッとした表情を浮かべ、そのまま顔を真っ赤っかに染め、目に見えて焦り始めた。汗をだらだらとかき、急に両手をおたおたと振り始める大淀さんのメガネの向こう側の両目が、なんだかぐるぐる回っているように見える。

 

「つ、つまり提督は……集積地さんと……!? ぇえッ!?」

「かもしれないのです……」

 

 新鮮だ……こんなにうろたえた大淀さんは初めて見る。任務娘として私たちと一緒にこの鎮守府に赴任してきてからこっち、大淀さんはいつも冷静で落ち着いた様子だったのだが……

 

「え……そんな……提督が!? やだ……ウソ……ぇえ!?」

 

 この人、こんなにうろたえる人だったんだ。

 

「ホントのところはよく分からないですけど、二人はそんな感じの会話をしていたのです」

「そ、それが本当だとしたら……ああああ……提督……なんてふしだらな……」

「とりあえずちょっとお茶を飲んで落ち着いて欲しいのです」

「あ、あぁ、すみません電さん。で、ではちょっと失礼して……」

 

 両目をぐるぐると回したまま、大淀さんは震える両手で湯のみを持ち、静かに熱いお茶を口まで運んで……

 

「あちッ!?」

 

 と舌を火傷していた。なんだかこの大淀さんが可愛く見えてきた。

 

「た、大丈夫なのです?」

「つつ……だ、大丈夫です。それより……」

「?」

「……これは鎮守府の風紀上、看過できない問題なのではないでしょうか」

 

 涙目で口を押さえた大淀さんがくぐもった声でそう言った。どうやら事態は私が思っていたよりも大事らしい。少なくとも大淀さんの中では。

 

「え……でも、司令官さんと集積地さんがドライで大人な関係ってだけの話ではないのです……?」

「キッカケが問題なんです。そもそもなぜ二人がそのような関係になったのか……」

「?」

「お互い相手のことを想っての結果なら別にいいと私も思うのですが……たとえば……」

 

 ここで大淀さんは、大げさな身振り手振りを交え司令官さんと集積地さんのモノマネを交えながら、二人の仲のキッカケを推理してくれた。

 

『あぁ……周囲は可愛い女の子だらけ……ヤル気は溜まる一方……』

「……」

『どうすんだー……まさか艦娘たちに手を出すわけにはいかんしなー……』

「……」

『……そうだ! 集積地に手を出せばいいのか! アイツは深海棲艦だし、PT子鬼を人質に取れば好きに手を出せるぞー!!』

 

 大淀さん……司令官さんの声真似がとってもお上手なのです……でも似過ぎてて逆に笑えない……なんだか表情までそっくりに見える。でもあの死んだ魚の眼までは再現出来てなくて、それが違和感があって見ているこっちとしては逆に気持ち悪い。

 

『というわけで集積地……』

『な、なんだ……ガクガクブルブル……』

『お前、誰のおかげでこの鎮守府にいられると思ってるの?』

『い、電のおかげだ! 私は電に助けられたんだ!!』

 

 どうでもいいですけど大淀さん……集積地さんの声真似はビックリするぐらいクオリティが低いのです……司令官さんの声真似が気持ち悪いくらい似ているだけに、残念クオリティのせいで笑いよりも悲しみが胸いっぱいに広がるのです……

 

『おいおい。お前を鎮守府にかくまってるのは俺なのよ?』

『なんだとッ!?』

『この前、中将からお前をかばったのも俺』

『く、くそッ!』

『つまりお前は、俺のおかげでこの鎮守府にいられるんだ! そのPT子鬼の奴らもな!!』

 

 なんだか大淀さんの演技に迫力がこもってきた。段々ノッてきたようだ。まさかこういうシュミが大淀さんにあるというわけではなかろうな……個人のシュミに関してどうこう言うつもりはないけれど、なんだか妙な心配までしてしまう。大丈夫なのか大淀さん。

 

『お前だけじゃない……PT子鬼たちも、ここに置いてやらにゃあいかんよなぁ? 』

『キショワァァアアアア!! キショワァアアアアアア!!!』

 

 子鬼さんたちのつもりなのだろうか。大淀さんは今まで見たことないようなブサイクな表情でケッタイな叫び声を上げていた。大淀さん、子鬼さんたちはそんなに気持ち悪い声は出さないのです……いや確かに顔はキモいですけど。

 

『お、お前たち……!』

『俺のおかげでお前たちは命が助かったんだ』

『わ、私に何をしろというんだ……!』

『分かっているはずだよなぁあ? しゅうせきちぃいい?』

『け、ケダモノめッ』

『んっん〜? いいのかなぁあ〜? 俺にそんな口のきき方をしても……?』

『クッ……』

『ほれほれ。どうすればいいのか……そのえっちぃ口で言ってみろぉおお』

『クッ……私が……お、お前の……な……なぐさみ……ものに……』

『んっん~? おれは全然違うことを考えていたのだが……お前は俺にそんなことを期待していたのかぁあ?』

『くッ……ち、ちが……』

『その割には顔が赤いぞぉオ? お前が望んだのなら仕方ないなぁ~? ほれぇええ!!』

『ああッ……い、イナズマ……イナズマぁああ!?』

『奴は今遠征中よ!! いくら叫んでも電は来ぬわぁぁああ!!』

 

 大淀劇場が長くなってきたので要約すると……要は、嫌がる集積地さんを司令官さんが無理矢理……という流れを危惧しているようだ。でもあの司令官さんは、そういうことはしない人だと思うのですが……

 

「ノリノリなところ恐縮ですけど、そんな感じではないと思うのですがー……」

「あ、し、失礼……確かに……あの提督ですからね……」

 

 確かに司令官さんは何を考えてるのか分かり辛いところがあるけれど、集積地さんと初対面の時にそういったことはしないって答えてたはず。

 

「でも提督も男性ですからね。この女の子だらけの職場で、ずっと悶々とした日々を過ごしていたとしたら……そしてそれを今までずっと我慢しつつ持て余していたとしたら……」

「うーん……だとしたらあんな死んだ魚みたいな目じゃなくて、もっとギラギラとしてると思うのですけど……」

「確かに……あの人、私たちの方から迫っても何のリアクションもなさそうですよね……」

「なのです……」

 

 大淀さんの言葉を受けて、私は反射的に自分が司令官さんに迫っているところを想像した。その私は顔を真っ赤にして司令官さんの大きくてゴツゴツした手をギュッと握りしめ、上目遣いのうるうるした瞳で司令官さんを見つめていた。なぜかセーラー服の裾の長さがちょっと短くて、おへそがチラチラ見えていた。

 

『司令官さん。電は……電は、司令官さんが、す……好きなのです……!』

『あらそお? ありがと。んじゃお礼に間宮のチケットあげるから、クリームあんみつでも食べてきなさい』

 

 自分が司令官さんに迫っているところではどうにも頭の中がまっピンクでむず痒く顔が真っ赤っ赤になってしまったのだが……司令官さんのリアクションを想像すると、その頭のむず痒さもサッと引き、妙にゲンナリした気分になった。

 

「「はぁ~……」」

 

 大淀さんもまったく同じで、一瞬ものすごく顔を真っ赤にした後、やっぱりその紅潮がサッと引いて妙にゲンナリした表情で残念そうにため息をついていた。私と同じ想像をして、同じ結論を導き出したに違いない。

 

「でもホント……どうして集積地さんなんでしょうか……」

 

 大淀さんがポツリとつぶやき、疑問がまた振り出しに戻る。私と大淀さんは、ジャージを着る前の集積地さんの全身を思い出した後……

 

「「……」」

 

 自然と自分の胸に視線を落として……

 

「「はぁ~……」」

 

 と再び2人そろって盛大なため息をついた。明日から牛乳飲む量増やそうかなぁ……

 

「いや電さんはこれからですよ……私なんて……フッ……」

 

 なんだか目に見えて大淀さんが元気を無くしてやさぐれ始めた。司令官さんに申し訳ない気がする……でも司令官さんと集積地さんの二人の関係、すごく気になる。

 

「……ちょっと探ってみましょっか」

 

 この大淀さんのポツリとしたつぶやきを、私は聞き逃さなかった。

 

「探ってみるって、どうするのです?」

「ええ。幸いにもこの鎮守府には一人、隠密行動に長けた艦娘がいます。彼女に協力を仰ぎましょう」

 

 そういえば……一人いた。常日頃スクープを追い求め、物陰や天井裏から私たちを観察している、この鎮守府きっての名ジャーナリストが……!!

 

――恐縮ですっ!!

 

「あ、青葉さんは今、どこにいるのです!?」

「今は赤城さんや天龍さんたちと演習中ですね。少なくとも夜には時間を作ってくれると思いますよ」

「電たちの力になってくれるでしょうか……」

「あの青葉さんが、提督と集積地さんのスキャンダラスなネタを前に、黙っていられると思いますか?」

「んー……」

 

 なぜだろう。資材貯蔵庫から身体を寄せあって出てくる司令官さんと集積地さんに向かって、100万ドルの笑顔でマイクとカメラを向けてる青葉さんしか想像出来ない。『ども! きょーしゅくです! 今のお気持ちは!?』『いつからこのようなご関係なんですか? ケッコンされるんですか? どちらからのお誘いですか? 一言お願いします!!』と二人にインタビューを迫る青葉さんは、想像するだけで煩わしそうだ……。

 

 でもここで引き下がるわけには行かない。事は(あくまで大淀さん的には)重大だ。私の友達である集積地さんが司令官さんに理不尽な行いを強要されているのだとしたら、私は、同じ鎮守府の仲間として……友達として、司令官さんの暴挙を止めなければならない。

 

 それには、まずは事の次第をしっかりと確認することだ。そしてそれには、青葉さんの協力が必要だ。

 

「大淀さん」

「……ええ(キラーン)」

「やりましょう!」「やるのです!」

 

 

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